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特集!あの人の本棚
37.

クラリスブックス   (下北沢にある古本屋)


神保町から独立した三人は、下北沢でどんな古本屋を開いたのか - シリーズ「本屋さんの本棚」

クラリスブックス
本棚のプロフェッショナルである本屋さんに、自店をあらわす本棚をつくっていただこうというインタビュー企画。第一回目として伺った本屋さんは、下北沢にある古本屋「クラリスブックス」です。

神保町にある老舗書店から独立した三人は、いったいどんな店をつくっていきたいのか。お店にお邪魔して伺いました。
神保町から独立した三人は、下北沢でどんな古本屋を開いたのか - シリーズ「本屋さんの本棚」

「クラリスブックス」という店名は、あの有名映画から拝借したもの

高松店長(以下、高松) 本日は二人での対応となり、すいません。もうひとりの石鍋は外出しておりまして、今日はわたしと石村の二人でお話しいたします。

和氣(聞き手、以下は和氣と表記) まずは、お店について伺っていきたいと思います。「クラリスブックス」という店名がカッコいいですよね! 由来などはあるのでしょうか。

高松 店名ですが、クラリスは、映画『羊たちの沈黙』のヒロインであるクラリス・スターリングから拝借しました。名前を決めるのにはかなり考えたので、三人でいろいろなアイデアを出しましたね。『プラトン・ブックス』とか、中には『ナイス・ブックス』というのもありました(笑)。

和氣 ナイス・ブックス(笑)。

高松 『クラリスブックス』というのは実はけっこうはじめの段階で出てきていたので、話し合った挙句に戻ってきた感じでした。映画でのクラリスは、聡明な頭脳と勇敢さ、強い正義感を併せ持つ女性FBI捜査官なので、彼女みたいな聡明で綺麗でカッコいいイメージにできたらなと思っています。

老舗古書店を辞めて独立したのは、本を売って生きていくため

和氣 前職が神保町の古書店とのことですが、なぜ独立しようと思ったんですか?

高松 「本は読んで楽しむものだ」という考えがあるからです。神保町にいらっしゃるお客様は、高額な希少本を求められるコレクターの方が多いんですね。もちろん古書店として希少本を扱い、その知識を深めてゆく事は大事な仕事なので、それも続けてゆきたい。でもぼくたちは『本は読んで楽しむものだ』って思っているんです。たとえば、帯があってもなくても読めれば良いんですよ。(※)

※聞き手注:古書業界では帯の有無で値段がかなり変動することがある

本を読むということで、お客様と繋がっていきたい。そんな信念を持って本を売って生きていきたい。それに、大学時代からいずれ独立したいと思っていたということもあります。そう思って神保町を離れ、私の地元である下北沢で独立したんです。

本屋で読書会!?

和氣 お店では読書会やトークショーなど、イベントもされていますよね。本に囲まれながら読書会というのは素晴らしいと思うのですが、これはどうして始めたのでしょうか。

高松 ありがとうございます。読書会はもともと、本屋と言いながらも本をあまり読めていない自分のために開催しているイベントなんです。そのため、毎回、なるべく自分が読まないような本を選んでいます。

和氣 それ、わかります。なかなか読書の時間を取るのって難しいですよね。でも、本は読みたい。そんなときに読書の理由を多少強引にでもつくるというのは良さそうです。ぼくもやってみようかな(笑)。

高松 読書会を利用するのは解決策のひとつですよ。同じことを思われる方が多いのか分かりませんが、お陰様でお客さんも来ていただけています。

クラリスブックスをあらわす5冊はこれだ!

和氣 ところでクラリスブックスは、どんな本を取り扱っているのでしょうか?

高松 オールジャンルです。もちろん文学や哲学など、好きな傾向はありますが、それだけで店をやっていけるわけでもないので。

和氣 なるほど。それはもしかしたら今回選んでいただいたこの5冊にもあらわれているかもしれませんね。この5冊は、どういった基準で決められたんですか?

高松 お題が「クラリスブックスをあらわす5冊」でしたので、あまり偏りがないように気をつけました。ただ、そうはいってもお店として持っていたい強みもありますし、その上で、在庫の中から選びたかった。その兼ね合いが大変でしたね。

和氣 そう考えると、文学と哲学の本で3冊が占められているのは象徴的ですね。それでは、一冊ずつ紹介していただきたいと思います。まずはじめは、強みであるという文学・思想の3冊をお願いします。

ずっと読まれ続ける本

高松 それでは、クラリスブックスに置いている日本文学の代表選手として吉田健一『本が語ってくれること』から紹介します。こちらは石村が選びました。

『本が語ってくれること』

石村 タイトルからして本屋っぽいというのが選書した理由です(笑)。それは半分冗談ですが、この著者はすごいベストセラーを出す人ではないですけど、半世紀あまり、じっくりと読み継がれている人なんですね。実際、クラリスブックスでも若い人が買っていくひとが多いです。

高松 こういう本を置いていて、売れる本屋を目指しているんです。

和氣 ベストセラーではなく長い間読み続けられる本を売っていきたいということですか?

高松 その通りです。そしてそれは2冊目に『プラトン作品への案内』を選んだ理由でもあります。この本はウチでの哲学書の代表選手ですね。

『プラトン作品への案内』

和氣 哲学がお好きだと伺っていましたが、その中でもプラトンが好きだからという理由ではないんですか?

高松 違います。もちろんプラトンは好きなのですが、選書の理由は、プラトンが哲学の初期の礎を築いた人だからです。

この本を読んだだけでプラトンのことが全部わかるわけではないですし、哲学のことが分かるわけでもないです。ただ、哲学の歴史を考えたときにギリシャ哲学はすべての基本ですから、そこをまず勉強して進めていくことで現代思想に至るんですね。すなわち、哲学を知るなら、プラトンを知ることからはじめるとよい。

そういう意味で、現代にも通じる、基本となるような本を扱っていく古書店になりたいですね。

定番本だけでなく、マニアックな本まで届けたい

和氣 『バッハマン/ツェラン往復書簡 心の時』というのはどんな本なんですか? 「20世紀文学の奇跡的ドキュメント」と帯には書いてありますが。

『バッハマン/ツェラン往復書簡 心の時』

高松 これはマニアックな本ですね(笑)。 ツェランというのは、両親を強制収容所で失い、自らも労働収容所で過ごしたユダヤ人パウル・ツェラン。ドイツの詩人で、根強いファンがいる人です。
バッハマンは知られていませんが、オーストリア・ナチス党員の娘インゲボルク・バッハマンです。こちらも詩人なのですが、日本で彼女の本はほとんど出版されていません。昔の河出書房に少しあるくらいですね。

和氣 すると『バッハマン/ツェラン往復書簡 心の時』は、ほとんど知られていない本。知る人ぞ知る本というわけですね。

高松 よっぽど詳しくないと知らないでしょうね(笑)。でも、ドイツ文学や詩の専門の方なら知っていると思いますよ。
この本を選んだ理由は、往復書簡とありますが、詩人ふたりの文学的やりとりだけではなく、恋人同士のふたりが恋愛的要素について紡ぐ言葉をそのままに感じることができる点が、とても味わいがあるからです。なにより、手紙のやり取りなので読みやすいですし、良い本なんです。クラリスブックスの海外文学代表として取り上げました。

和氣 ここまでで、文学2冊と哲学1冊をご紹介いただきました。どちらもはじめに仰っていたとおり、「読んでたのしむ本」でしたね。一方、残り2冊は「読む」というよりは「観る」本であるように感じます。

「読んでたのしむ本」と「観てたのしむ本」

高松 本は大きく分けて「読んでたのしむ本」と「観てたのしむ本」の2つに分けられると思っています。先ほども言いましたが、クラリスブックスではオールジャンルを扱うので、「読んでたのしむ本」だけではく「観てたのしむ本」も取り扱っています。それを伝えたいと思い、この2冊は選びました。

和氣 では、野口里佳ほかによる『In-between 13 野口里佳 チェコ、キプロス』についての紹介をお願いします。

『In-between 13 野口里佳 チェコ、キプロス』

高松 これは……ぼくがこういう写真集を好きだってことですかね(笑)。

和氣 それはまたシンプルな(笑)。
この写真集は、13人の写真家がEU全25カ国を撮りおろすというコンセプトの写真集ですよね。クラリスブックスさんではほかにも荒木経惟や篠山紀信、ホンマタカシ、ウィリアム・エグルストン、マリオ・ジャコメッティなど、国内外問わず有名な写真家の作品があると思うのですが、その中でも野口里佳さんのこの本を選んだのはなぜですか。

高松 うーん、なかなか言語化するのは難しいのですが、簡単に言ってしまうとぼくはこういうカワイイ写真集が好きなんですよね。判型も写真集にしては小さいし、実はこれ、サイン入りなんです。本当にカワイイ(笑)。

和氣 読んでたのしむ本と違って、観てたのしむ本は、また違った切り口で好きになりますよね。そこがおもしろいと。

高松 そうなんです。でも、なかなか伝えるのが難しいんですよね。だからこそ来て手にとって観て欲しい(笑)。

SFと映画

和氣 最後の一冊となりましたが、『未来映画術「2001年宇宙の旅」』ですね。クラリスブックスさんでは、映画の本を多く置かれているように思いますが、そういった点でこれを選ばれたのでしょうか?

『未来映画術「2001年宇宙の旅」』

高松 半分当たりです。実は、ウチではSFも強くしようと思っていまして。そこで、SFと映画の両方にまたがっていて、かつ定番といえるこの本を紹介しました。

和氣 なるほど。確かに店舗の奥にSFのコーナーがありますね。

高松 実はもうひとつ、この本を選んだ理由があります。それはこの店はSFを扱っているという宣伝です(笑)。

SFも映画もあまり古書が売れないジャンルなんですよね。SFというテーマは、サブカルチャーの中でもかなり細分化されているので、専門店ならいざ知らず、そうでない店ではなかなか買取しにくい。また、映画は観るものなので、なかなか本を買って読もうという人が少ないみたい。だからこそ、映画のコーナーはかなり選書していますが、難しいですね。それでも、SFも映画も扱いたいんですね。好きだから。

和氣 やはり好きなモノは扱いたいですもんね(笑)。今までの5冊をまとめると「読んでたのしむ本」が文学・哲学で3冊。「観てたのしむ本」が写真集1冊。両方の中間に位置する本が、写真集でもありレポートでもある『未来映画術「2001年宇宙の旅」』の1冊となりますね。

高松 そうですね。はじめにも言いましたが、当店はオールジャンルを扱っています。ですが、その中にもグラデーションがあるわけで、今回選書した5冊を見ていただければ、当店が、どんなお店かということは分かって頂けると思います。もちろんこれが当店のすべてではありませんので、ぜひ一度、雰囲気を感じに来てみてください。

和氣 今日はありがとうございました。

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プロフィール

クラリスブックス
クラリスブックス
下北沢にある古本屋

東京都世田谷区、下北沢にある古本屋。神保町にある老舗書店から独立した三人により、2013年に設立。

主な取り扱いジャンルは、哲学思想・文学、キリスト教、オカルト、アート、ファッション、写真、デザイン、SF、サブカルチャー関係。古書の買取も随時受け付けている上、古本の探求も受けている。

ライターについて

Writer 2
東海林真之

honciergeを運営する会社の代表。出版社に勤める両親のもとで生まれ、本に囲まれて育つ。 本屋をうろつき衝動買いをするのが趣味だが、書店員に限らず「人のおすすめを通じた本との出会い」は出会いの体験を豊かにするはず!という思いからhonciergeを開始。より多くの幸せな本との出会いを、みなが感じられるように、試行錯誤中。

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東京都世田谷区、下北沢にある古本屋。神保町にある老舗書店から独立した三人により、2013年に設立。

主な取り扱いジャンルは、哲学思想・文学、キリスト教、オカルト、アート、ファッション、写真、デザイン、SF、サブカルチャー関係。古書の買取も随時受け付けている上、古本の探求も受けている。

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