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特集!あの人の本棚
39.

ハマザキカク   (珍書プロデューサー)


vol.1 珍書プロデューサー・ハマザキカクはいかにして生まれたか

ハマザキカク
さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひもといていくインタビュー。今回のゲストは数々の「珍書」を世に送り出し、珍書プロデューサーとして名高いハマザキカクこと編集者の濱崎誉史朗さんです。ご自身も『ベスト珍書』を2014年9月に上梓され、ますますご活躍されております。
濱崎さんはなぜ「珍書プロデューサー」になったのか。その経緯を中心に、企画力の秘密にも迫りました。
vol.1 珍書プロデューサー・ハマザキカクはいかにして生まれたか

ハマザキカクはなぜ珍書プロデューサーになったのか

――  『ベスト珍書』を拝読しましたが、こんなにおかしくておもしろい本があるのかと驚きました。珍書プロデューサーとして活動されていますが、なぜ今のようなポジションになっていったのでしょうか。まず、その経緯をお聞きしたいです。

濱崎誉史朗(以下、ハマザキ)  新卒でIT会社勤務をしていました。そこから転職して編集者になろうと思ったときに、どの出版社も経験者採用だったんですね。いま私のいる社会評論社も経験者採用だったのですが、自分が人文書を好きだったこともあり、一か八かで履歴書を送ってみたんです。そうしたら面接に進むことができました。そのときに面接していただいたのが社長で、ただただ好きなことだけを話していた僕 をおもしろいと思ったのか、経験者の応募をおしのけて合格の連絡が受け取ることができました。落ちたと思っていたので、あのときは驚きましたね 。

―― 社会評論社というと人文系の硬めの本が多いイメージなので、そこで珍書プロデューサーというのは面白いです。はじめから珍書がお好きだったんですか?

ハマザキ 実はそういうわけではないんです。本はよく読みましたけど珍書ばかりというわけでもなく、人文書を中心に読んでいました。ただ入社当時に困ったのが、本の企画です。まったくの未経験ということもあり、どのような企画を立てるのがよいのか、悩んでいたんです。そんな中で出会ったのが『世界飛び地大全』」でした。

世界飛び地大全

―― ハマザキさんがはじめて編集された本ですね。

ハマザキ 当時は、インターネットはあってもブログがなく、誰もが気軽にウェブサイトを立ち上げられた訳ではありません。ウェブ世界は今よりもずっとマニアックなものでした。だからこそ、おもしろいサイトも見つけやすかったですし、ウェブの書籍化も流行る前でした。これなら自分にもやれるかもしれないと思いました。

―― おもしろいウェブサイトの書籍化ですね。

ハマザキ 『コーラ白書』や『超高層ビビル』など 、しばらくはそうやって珍サイト路線で本を出していました。けれどそうして、技術も経験も貯まってくると、今度は自分の企画を通したくなってきました。インターネットにもないけれど自分の世界を持っている著者を見つけ出し、出版する。そういうことをしたくなってきたんです。

 そこで、出したのが「共産趣味インターナショナル」シリーズです。 はじめにやりたかったのは共産圏の車を集めた『共産主義車』という企画でしたが、なかなか難しく。頓挫してしまいました。結局、鎖国で知られるアルバニアと45ヵ国の間に起きた珍エピソードをひたすら集めた『アルバニアインターナショナル』という企画に行きつき、出版したのが第1弾です。 ただ、「共産主義車」企画もただでは転ばず、企画を進めていく中で仲の良くなった方と、『ニセドイツ』という本を出しました。

ニセドイツ

―― 『ニセドイツ』はサブタイトルに「共産趣味インターナショナル VOL 2」と書いてあるように、シリーズ第2弾ですよね。その後も『ニセドイツ〈2〉』、『ニセドイツ〈3〉』と続いた人気書籍。ところで、なぜシリーズ化したのですか?

ハマザキ もともと共産圏の文化に興味があったのですが、高度な専門書みたいな本ばかりで、ライトなひとたちに届くような本がなかったんですね。

―― 『ニセドイツ』など、このネーミングが絶妙ですよね。興味の薄い人でも「なんだこれ?」と思わず手に取ってしまいます。

ハマザキ そうなんです。いま言いました2冊もそうですが、ほかにも傀儡政府をあつめた『ニセチャイナ』という本も出しました。これも、何のヒネリのない書名にしてしまうとテーマが「傀儡政府」ということもあり手に取ってもらえないと思うのです。けれどこういったシャレっぽい名前にすることによって、本来届かない人にも届かせることができる。タイトルにはいつも気を使っています。

類書のない・先行書のない本を出す

―― ハマザキさんはこのほかにも多くの本に関わられていますが、どれもハマザキさんにしか作れないような独自の本ばかりです。その企画力はどこから来るのでしょうか?

ハマザキ 実は参考にしている本や人というのはないんです。あえて言うなら「一日一企画」を自分に課していたことがありました。妄想が好きなので思いつきならいくらでも出てきます(笑)。 ただ、これを実現するのが難しい。自分は編集者であって著者ではない。自分では書けないんです。だから、妄想した企画を書く人を探さなければいけない(笑)。 思いついた企画を実現するために、未来の著者になりそうなひとを常に探しています。

―― 必ずしも「珍書」を出そうと狙っている訳ではないようですが、「類書のない・先行書のない本を出す」というモットーをお持ちですよね。そのために工夫していることはあるのでしょうか?

ハマザキ 年間約8万冊発行されているという新刊書のすべてをチェックしています。その方法は『ベスト珍書』にも書いているので詳しくはそちらを読んでいただければと思いますが、RSSやツイッターなどを毎日チェックして情報収集しています。

―― すごい労力ですね。モットーとはいえそこまでするのはなぜですか?

ハマザキ 「類書のない・先行書のない本を出す」というポリシーを持っていることもありますが、なにより苦い経験をしたからです。珍書を出そうと声をかけた著者と出版をするべく企画を開始してから、似たような本が既に出ていたことに気がついたことがありました。誰も出していない本を出そうとしていたのに、です。当然、その本の出版は取りやめになりました。

―― それは残念ですね。

ハマザキ はい。それから、今のように全発行物のチェックをするようになりました。それまでも本屋に行って既刊本をチェックするなどの行動はよくしていましたが、それでもすべての本を知ることはできませんよね。他の企画の立て方でしたら問題ないのかもしれませんが、私のような「類書のない」企画を立てるというやり方の場合、もし似たような本があった場合には出版そのものが取りやめになってしまうんですね。あるいは、もし気づかないで出版してしまった場合はもっと大変です。著者の方の受けるダメージがとても大きいですし、編集者としてそれはやっちゃいけないなと思いました。

―― なるほど。珍書プロデューサーとしての責務というわけですね。珍書が生み出される背景に、こんなに地道な調査力と企画力があるとは想像していませんでした……。ところで、編集者がハマザキさんのように有名になることは珍しいですよね。

ハマザキ 実は、はじめはこんなに自分が表に出るつもりはありませんでした。ですが、こうやって毎日ほぼすべての新刊をチェックして、その中でもおもしろい本をツイートするということを継続的にやっていると、他の出版社の編集や書店員の方が気付いてくれるんですね。そして一緒に盛り上がっているうちに、ふと気がついたら「珍書プロデューサー」や「ハマザキカク」という名前が知られていました 。

―― はじめから「こうなりたい」と思って珍書プロデューサーになった訳ではないんですね。書店でのフェアもされていますが、この等身大パネルがすごい(笑)。

ハマザキ このフェアのときもここまで自分が出ていくつもりはなかったんです。編集者は黒子に徹するべきという意見もありますし、迷いがありました。ですが、今までそう思って籠っていても結局何かが起きた事は一切ありません。むしろ書店員や編集仲間からお呼びが掛かるのだったら、その期待に応えないといけないなと考え直したんです。それで、珍書プロデューサーである自分を前面に押し出して、自分の個性を前面に押し出そうと。そうすることで結果もついてきたし、書店からもさらにオファー が来るようになりました。実はけっこう重宝がられているんですよ(笑)。

―― 世界で通用する日本本を紹介した「Cool Ja本」、松岡正剛氏による松丸本舗のパロディーとして立ち上げた「松マルクス本舗」、女性×仕事の本を集めた「美人ネス本」など。 ハマザキさんのフェアはインパクトがあって、思わず寄りたくなります。

ハマザキ 編集者には、校正型編集者と企画型編集者がいると思っているんです。校正型編集者は、著者の原稿をきっちり編纂する種類の編集者。一方で企画型編集者は、ゼロから企画をつくりだす編集者です。

 さらに、企画型編集者の中にも発見型と発案型の二種類がいます。発見型は誰も気がついていないけど誰もが思っていることに気がつく編集者です。「マイルドヤンキー」や「地方消滅」などのキーワードを提唱したり、勝間和代などの著者を発掘するというタイプのことですね。

 そして、発案型が私です。まさにゼロから誰も思いつかないようなことを実現する編集者ですね。ただ先ほども言いましたが、思いつくことはできるけど自分は編集者なので書けないんです。だから、いつも未来の著者を探しています。


ベスト珍書
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プロフィール

ハマザキカク
ハマザキカク
珍書プロデューサー

「濱崎+企画」。社会評論社の珍書編集者・珍書評論家。『ベスト珍書 このヘンな本がすごい!』を中央公論新社から刊行!カバー・DTP・フェア等本作りの全てを手がける。『アイラブユーゴ3』『ココロピルブック』『絶対に解けない受験世界史』『超高層ビビル4』等。新刊全点チェック。辺境デスメタル・ヒップホップ愛好家。

ライターについて

Writer 2
東海林真之

honciergeを運営する会社の代表。出版社に勤める両親のもとで生まれ、本に囲まれて育つ。 本屋をうろつき衝動買いをするのが趣味だが、書店員に限らず「人のおすすめを通じた本との出会い」は出会いの体験を豊かにするはず!という思いからhonciergeを開始。より多くの幸せな本との出会いを、みなが感じられるように、試行錯誤中。

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ハマザキカク
珍書プロデューサー

「濱崎+企画」。社会評論社の珍書編集者・珍書評論家。『ベスト珍書 このヘンな本がすごい!』を中央公論新社から刊行!カバー・DTP・フェア等本作りの全てを手がける。『アイラブユーゴ3』『ココロピルブック』『絶対に解けない受験世界史』『超高層ビビル4』等。新刊全点チェック。辺境デスメタル・ヒップホップ愛好家。

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