Loading 81b424ebf5b28b6979c5bfbadb4fe3d86654abdce81e3c0259cc91c3ecd00497
特集!あの人の本棚
40.

ハマザキカク   (珍書プロデューサー)


vol.2 ハマザキカクの考える「珍書」とは

ハマザキカク
さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひもといていくインタビュー。前回からのゲストは珍書プロデューサーとして名高いハマザキカクこと編集者の濱崎誉史朗さんです。今回は特に印象深かった珍書やこれからの活動についてお伺いします。
vol.2 ハマザキカクの考える「珍書」とは

暗黒通信団ってなんだ!?

―― 未来の著者といえば、『ベスト珍書』でも暗黒通信団の本が何冊か出てきました。彼らとは本はつくらないんですか?

※暗黒通信団:主として評論を活動領域とする同人サークル。『円周率1000000桁表』などの珍本を企画・発行している。

ハマザキ 実は暗黒通信団といっしょに本を出そうという企画は、以前にありました。そのときは、「1ページしかない本」を出そうと提案しましたね。

―― え、どんな本なんですか?(笑)

ハマザキ 私が考えたのは球状の本です。これなら表しかないから1ページしかない。でも、暗黒通信団に理系の人がいて「いや、球には裏側があるから、厳密には1ページじゃない」と言われてしまいました(笑)。

―― あ、裏があると2ページになるから、ダメなんですね(笑)。

ハマザキ 彼らは議論するのがおもしろいみたいで、さらにそこから「メビウスの輪にすればどうか」という案も出ました。私はそれにはピンとこなかったんですけどね。ただ、彼らにはウケていました(笑)。

この感覚の違いは、私は編集者なので「売れるかどうか」ということを判断しなくちゃいけないからですね。暗黒通信団の彼らは「売れるかどうか」を考えないでやっているから、私では思いつかないようなことも思いつくし、それを実際に出版したりもできる。そこがすごく刺激的で尊敬しているところです。

私はとにかく、アイデアを出すのがおもしろい。彼らもそうなので、企画会議をずっとやっていてもおもしろいんです。

―― ハマザキさんと暗黒通信団の立場の違いですね。

ハマザキ 結局、私は編集者なので、著者がいないと本が出せないんですね。だから、実は人と会うことが好きじゃなかったんですが、いまは会うようにしています。世の中にどんな人がいてどんな関係があるのか。そういうソーシャルグラフを調べるようにしているんです。

―― そのソーシャルグラフ自体が、本になるかもしれないですね。ところで、ここからは珍書についてお伺いします。『ベスト珍書』ではたくさんの珍書をご紹介されていますが、ご自身の中でのベストオブベスト珍書はどれなのでしょうか? 私は『写真と童話で訪れる高尿酸血症と奇岩・奇石』が好きなのですが(笑)

ハマザキ その本は、私がツイートしてからすごくリツイートされているし、高橋源一郎さんや『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』の山田真哉さんもツボにはまったようですね。好きだという人が意外といます。現物を読んでみると、最初に岩の紹介、そのあとに高尿酸血症の医学、そのあとに童話と、くっつけただけの本ですよ(笑)。

私の個人的なベストオブベストは、『誰にでもできる職務質問』でしたね。『ベスト珍書』に載せきれなかった引用したい箇所がまだまだたくさんあるし、1巻は読めるけれど2巻は国会図書館ですら読めない、というのもいいですね。この本は、 「治安フォーラム」か何かの警察雑誌の内容をまとめただけなんですよね。だから、もし2巻も同じやり方でつくられたのだとしたら、過去の雑誌を見ることで内容は読めるかもしれません(笑)。

実は出版元の立花書房に行って入手しようかと思ったんですが、逮捕されるのも嫌だしあきらめました(笑)。

―― (笑)。

それと『ベスト珍書』を出した後、『ヘンな本大全』で暗黒通信団と対談したのですが、そのときに思いついた企画がありました。それは、「本のカバーしか載っていない本」です。国会図書館にはほぼすべての本が保管されているんですけど、カバーが保存されていないんですよね。『ベスト珍書』でもカバーに言及したかったのに、国会図書館になかったせいでインターネットでしか見られなかった本がたくさんありました。

だから、国会図書館はカバーも保管するべきだって思っていて、そのことを暗黒通信団に話したら、彼らが思いついた企画がこの「カバーしかない本」でした。彼らは実際に、「国会図書館はカバーも保存すべきであるということをハマザキカクと話した。これを納本したら国会図書館はどうするのか実験したい」といった内容の文章をカバーにぎっしり書いて、納本したんです(笑)。

そうしたら国会図書館のひとから「十分意見は検討しますがこれはちょっと…」って通知が来たそうです(笑)。それを暗黒通信団がブログにアップしたので、これがまたネット上で話題になっていました(笑)。この「カバーしかない本」が最近の究極の珍本かもしれません。

―― この一連の流れ自体が珍本になるかもしれないですね(笑)。

ハマザキ さらに、「カバーしかない本」をつくったんだから次は「帯しかない本」をつくって欲しいとお願いしました(笑)。実は帯にある著名人のコメントや文章などだけを集めているサイトがあるんですよ。それを本にしようかな、とも思ったこともあるのですが、著作権の関係などから難しいんですよね。 あと、あとがきだけ集めているサイトもあります。例えば、学術書では、なぜその研究をしたかとか 、あと妻子や両親に対するプライベートな謝辞とか。

―― いろいろなところに企画が転がっているのですね。

ハマザキ そういう意味では、営利目的でないことも含めて暗黒通信団は本当にセンスがすごいです。

―― 彼らの『円周率1000000桁表』という本を文学フリマで見たことがあります。本当に数字しか書いていないんですね(笑)。

ハマザキ 彼らのつくっている本は、内容というよりも持っていることそのものに意味があるんですよね。「俺、こんな本、持っているんだぜ」って自慢するためにあるような(笑)。

でも、これからの出版ってそういう方向が大事だと思うんです。ツイッターで紹介したり、自己顕示的な部分をくすぐったり、本棚に置いておきたいと思わせたり。そういうオブジェとしての本の部分も大事なんだと思います。本棚は有限ですから、知識を得るだけでなくてモノとしての価値があるほうが生き残ると思うんですね。だから、私のつくっている本は、内容はもちろんですけどビジュアル面もがんばっています。

―― ハマザキさんの編集された本は装幀も素敵ですよね。

ハマザキ 自分でカバーも全部やっているんです。フォントや写真、イラストなどの素材についてはtumblrやpinterest、Flickrなどのサイトで探して、気に入ったものの所有者に直接メールしますし、加工は自分でillustratorやphotoshopでします。やってみると自分でもできるものなんです。

ほかの出版社だとカバーの装丁は全部デザイナー任せだったり、写真素材も 画像素材会社から買ったりしています。けれどウチは小さい出版社なのでそんなに経費もかけられない。 だったら自分でやるしかないという中でこうなっていきました。

はじめはデザインするという意識もなかったんですけど、あるとき、自分でつくったラフを机の上に置いておいたら社長がそれを見てデザイナーが作った完成品のカバーと勘違いしていたんですよ。それでだったらこれをそのまま使えばいいじゃんという事になり、そのとき以降、自分の本に関しては自分でデザインするようになりましたね。

最初のころは失敗しましたけど、いまはもう大丈夫です。むしろ、ほかのデザイナーがタダでやらせてくれと言っても、やらせませんね。自分でやった方が本の内容とデザインに一貫性を持たせられるので。

―― 装幀と言えば、「造本装幀コンクール」、「日本ブックデザイン賞」などの賞がありますが、装幀のおもしろ大賞はないですよね。

ハマザキ 実はつくることを考えています。発表する場がないだけで、場さえ用意していただければやりたいです。ただ、装丁については、私はいつも新刊をRSSなどでチェックしているので現物を見ていないんです。これは弱点です。どうしても、書店員さんや取次の方には勝てないんですよね。

―― ハマザキさんが面白いと思った装幀の珍本はありますか?

ハマザキ トイレットペーパーの芯みたいになっていて、全方位的360度に向かってページがある本がありました。

―― すごいですね(笑)。どうやって読むんですか?

ハマザキ たぶん循環の話なんですけど、どうやって読むんでしょうかね? むしろ、カバーがない本ですね。これは。

―― 祖父江慎さんの手がけた装幀など、装幀も掘っていくと珍本がたくさんありそうです。

ハマザキ そうですね。ですが、装幀もただ変であることにこだわっていっちゃうとアート作品っぽくなっていっちゃう。それは避けたいんですよね。 例えば、グラフィック社から出ている『アーティストブック1000』には多数の手製本(アーティストブック)が載っているのですが、それはもう、本というかオブジェなんですよね。出版物ではない。そこまで行くと、わざとらしいという気がしてしまうんです。

―― 「狙っている」のは好きじゃないということですか?

ハマザキ そうですね。本人は本気でつくっているのだけれど、傍から見ると間抜けに見えるっていうのが好きなんですよね。『ベスト珍書』も同様の視点で本を選んでいます。おもしろさを狙った珍書は選んでいない。だから『ベスト珍書』を別名で、「イグノーベル書」(※) って言っているんですけど。

※1991年に創設されたもので「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられる「イグノーベル賞」がある。

―― ところで、『ベスト珍書』で取り上げたかったけれど取り上げきれなかった切り口はありましたか?

ハマザキ もちろん、ありますよ。「珍スポーツ書」もそうですし、特に迷ったのは「珍ダイエット書」ですね。本にするときにダイエット書だけで一章使うのも違うかと思ったので結局載せませんでした。けれどせっかくまとめたので、書評サイトのHONZに後で載せましたが(珍ダイエット書ベスト30冊)。HONZに載せきれなかったものもたくさんあります。『忍者ダイエット』や『おむすびダイエット』などですね。

―― ダイエット書にはそんなに珍書が多いんですか(笑)。

ハマザキ あと、私がこれからまとめたいのは「珍論文」ですね。普段から様々な論文をウォッチしていて、既に3000論文以上集めてます。ただ、お笑い芸人のサンキュータツオさんが珍論文をネタにしていて、今度本にするみたい(※)なので、先を越されてしまいました。残念(笑)。

※サンキュータツオ著の『ヘンな論文』は、インタビュー後の3/25に発売

―― 珍書プロデューサーとして一目置いている方はいますか?

ハマザキ 『世界珍本読本』を出されている「どどいつ書房」さんですね。洋書の珍書の知識では勝てません。それとマニタ書房さん。マニタ書房さんは日本全国のブックオフを回って独自の観点からおもしろい本を見つけてくる方で、あのひとが新刊を全部チェックしだしたら勝てないと思います。本人に話したら「ぼくにはできないよ」と言っていましたが(笑)。

―― ハマザキさんとは棲み分けができているんですね。

ハマザキ ちなみに、本のプロデュース側で一目置いているのは先程も出てきた暗黒通信団 です。

―― ハマザキさんは『ベスト珍書』を出した後、ラジオやテレビ、イベントなどでますます活躍されていますが、今後も珍書プロデューサーとして活動を続けていくのでしょうか。

ハマザキ 珍書のプロデュースはもちろん続けていこうと思います。それは珍書プロデューサーの「ハマザキカク」としても、いち編集者としても、です。音楽が好きなのですが、音楽の本はまだ出していないので出したいですね。マイナー国の音楽について出してみたい。あとは、ほかの出版社の本のカバーデザインをしてみたいです。

―― カバーデザインですか?

ハマザキ 私の強みのひとつとして、編集者にもかかわらずカバーデザインまで一貫して自分でやっていることがあります。ほかの編集者に話を聞いていると、カバーデザインに頭を悩ますことが多いみたいなんですね。デザイナーさんに外注するのが普通なのですが、デザイナーさんは本の内容について理解が深いわけではないので、どうしても意思疎通ができないときがある。その点、私は同じ編集者でもあるし、デザインもできるので、コミュニケーションが取りやすく頼みやすいのではと思っているんです。あと、タイトル付けもしてみたいですね。

―― タイトルは大事ですからね。

ハマザキ 内容はおもしろいのだけれど、学術専門書なので敬遠されてしまう本、そういった本のタイトルを変えるだけで売れる様にしてみたいです。

―― 珍書のプロデュース経験を生かして、他社のカバーデザインやタイトルなどにもノウハウを提供できればということですね。

本日は珍書プロデューサーの「これまで」と「いま」、そして「これから」ついてお聞きすることができました。「珍書」というと不真面目なイメージがありますがその背景には地道な調査があることが印象的でした。これからも世の中にない本=珍書をどんどんプロデュースしていただきたいです。本日はありがとうございました。

インタビューの一覧

プロフィール

ハマザキカク
ハマザキカク
珍書プロデューサー

「濱崎+企画」。社会評論社の珍書編集者・珍書評論家。『ベスト珍書 このヘンな本がすごい!』を中央公論新社から刊行!カバー・DTP・フェア等本作りの全てを手がける。『アイラブユーゴ3』『ココロピルブック』『絶対に解けない受験世界史』『超高層ビビル4』等。新刊全点チェック。辺境デスメタル・ヒップホップ愛好家。

ライターについて

Writer 2
東海林真之

honciergeを運営する会社の代表。出版社に勤める両親のもとで生まれ、本に囲まれて育つ。 本屋をうろつき衝動買いをするのが趣味だが、書店員に限らず「人のおすすめを通じた本との出会い」は出会いの体験を豊かにするはず!という思いからhonciergeを開始。より多くの幸せな本との出会いを、みなが感じられるように、試行錯誤中。

プロフィール

ハマザキカク
珍書プロデューサー

「濱崎+企画」。社会評論社の珍書編集者・珍書評論家。『ベスト珍書 このヘンな本がすごい!』を中央公論新社から刊行!カバー・DTP・フェア等本作りの全てを手がける。『アイラブユーゴ3』『ココロピルブック』『絶対に解けない受験世界史』『超高層ビビル4』等。新刊全点チェック。辺境デスメタル・ヒップホップ愛好家。

ハマザキカク さんの本棚

週間ランキング

月間ランキング