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特集!あの人の本棚
42.

ロマン優光   (ミュージシャン)


寮生活での読書体験 (ロマン優光インタビュー)

ロマン優光
さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひもといていくインタビュー。ゲストは、ロマンポルシェのディレイ担当、ソロパンクユニット「プンクボイ」で活動中のミュージシャン、ロマン優光さん。今回は読書体験のルーツを伺いました。
寮生活での読書体験 (ロマン優光インタビュー)
Photo by Yoko Yamashita

「寮の部屋でカセットを聴きながら本を読んで過ごす。そんな休日の過ごし方でした」

―― 著書『日本人の99.9%はバカ』の中でもご自身の好きな本について触れていましたが、いろんなタイプの本を読んでらっしゃいますよね。その嗜好は子供の頃から育まれていったものなんでしょうか。

ロマン優光(以下、ロマン) 父が読書家、乱読家で大量に本を持っている人だったんです。小学4年生くらいから大人が読むような本を自分も読み始めて。星新一、江戸川乱歩が入口で、あとは太宰治、筒井康隆を好んで読んでました。小学校はそんな感じで、中学は他県の中高一貫の進学高で遠方の子は寮に入る感じのところだったんです。寮なので、外にも遊びに行けない。寮内でこなさなくちゃいけない規定の学習量はあるんですけど、自分はサボって本ばかり読んでました。だから、乱読ですよね。図書館から借りてきたり、古本屋で見つけてきたり。で、中学くらいになると、太宰よりも坂口安吾の方が良くなってきて。あとは、SF、怪奇小説、ミステリー、純文学、歴史小説、ノンフィクション、とりあえず図書館にあるものは大量に読んでいました。

―― じゃあ、読むのも速いんですか?

ロマン 自然と速くなりますね。速読はコツと反復練習みたいなものなので。だから、若い頃の方が速かったです。文庫本サイズの本だったら1時間かからない。1日3冊くらい読むわけじゃないですか。読書っていうのは体力勝負みたいなところがあって、量をこなすには体力がいるんですよね。若い頃のほうが体力もあるし、休日に寮生活でやることがないから、自然と読書にエネルギーが向かう。外に行って遊ぶにしても、本屋とレコード屋に行って終わりなので。外出したって夜には寮に帰っていなきゃいけないから、音楽が好きでもライブに行けないんですよ。となると音楽を聴くことと、本を読むこと、あとは寮に隠れて持ちこんだテレビでアイドルかお笑いを観ること。これくらいしかやることがないんです。学校が近所の子は自宅から通ってたので、その子に頼んでレコードの音源をカセットに落としてもらって、それを寮の部屋で聴きながら本を読んでる。そんな休日の過ごし方でしたね。

―― 大量の本を読んでいる中で、「この作品はヤバイ!」って感じる基準は何だったんでしょう?

ロマン 作品というより作家単位なんですよね。黄表紙(江戸時代の「草双紙」の一種)の山東京伝とか。滝沢馬琴って人の師匠にあたるような作家なんですけど、彼の『昔話稲妻表紙』っていう作品を寺山修司が翻訳したものがあって、それがすごく面白かったです。進学高の図書館なので、誰も読む人はいなかったんですけど、わりとたくさん蔵書があるところで。自分は図書委員もやってたから、申請すれば自分の好きな本とか取り寄せられるんですよ。だから、映画の研究本とか勝手に申請してましたね。映画を観に行くこともなかなかできないから、そういった評論本を読むのも好きで。レンタルビデオもあったんですけど、長期休暇で実家に帰っているときぐらいしか借りに行けない。でも、愛媛だから、いろんな作品が映画館で上映されているわけじゃない。だから、そういう本を通して「これはどんな映画なんだろう」ってチェックして、音楽に関してもそういう風に知識を得てました。その流れでブックガイドも読んでいて、ハヤカワ文庫の目録、角川文庫の目録とか。目録を読むこと自体も好きでした。

―― そういった読書体験っていうのは、ご自身の音楽活動にも何らかの形でフィードバックされているんでしょうか?

ロマン あるとは思います。筒井康隆と山田風太郎の影響は大きいかもしれない。あとは阿佐田哲也ですかね。世界観とか人間観的に。「対女性」ってところでいうと、坂口安吾や山田風太郎の影響は大きいと思います。恋愛観的なものとか。たぶん、意識して彼らの作品から引用しようとしなくても、物の考え方自体が影響されている。意図的にそこから持ってくるのではなく、生活そのものに入り込んじゃってるというか。でもまあ、結局のところ坂口安吾と山田風太郎なのかな。2人ともポジティブでニヒリストなんです。虚無的かつリリカルというか。多少暴力的でもあって。

(Vol.2に続く)

ロマン優光の「乱読家がお薦めする本 その1」

坂口安吾「風と光とハタチの私と」

風と光と二十の私と

ほぼ内容的に被っている「暗い青春」っていう作品もいいんですけど、この中でもこれはすごく好きな短編です。下世話なものと精神性の高いものが同居している感じで。だらしなさと高潔さ。両極端なものが生み出すダイナミズムというか、生命力の強さを感じます。三島由紀夫とか太宰治とは違うんですよね。坂口安吾にも弱いところはあるんですけど、俗にまみれることを恐れない。俗なものが好きな人って「高尚なものより、俗なものの方こそ素晴らしい」って言う人もいるじゃないですか。でも、坂口安吾は「俗は俗である」みたいな目線がある。あとは優しいですよね。彼が代用教員をやっていたときに、クラスに問題児がいたんですけど、その子は力が強くて乱暴で、野生児的な女の子なわけです。でも、安吾は思うんですよ。その子が大人になるにつれて、今は男子にも圧倒的な強さを見せつけている彼女が、いずれ負けることになるだろうと。そういうことを思って切なくなってる安吾とか好きですね。

山田風太郎「忍法八犬伝」

忍法八犬伝 山田風太郎忍法帖(4)

作品としてはそんなに評価は高くないんですけど、山田風太郎らしくて好きですね。八犬伝の舞台となる里見家が徳川家の陰謀でお取り潰しになる。でも、伝説の八犬士の子孫である登場人物たちは、みんなダメなヤツなんですよ。社会からドロップアウトして逃げているような連中で。八犬士を束ねるじいさんが、先祖のように頑張って我々の苦難を救ってくれって言うんですけど、なかなかその気にならない。でも、8人ともお姫様が大好きというか、女性がとにかく好きなんですよ。結局、そのお姫様のためだけにプロの忍者と戦う……っていうお話しなんです。でも、もともとは役者とかコソ泥とか、女たらしとか、戦闘経験がほとんどない連中で。最後も切なくて、絶対に結ばれない感じというか、山田風太郎の恋愛観みたいなのが出てるので好きです。

阿佐田哲也「ドサ健ばくち地獄」

ドサ健ばくち地獄

ギャンブルもの、マージャンものはいっぱいあるんですけど、自分のいちばん好きなのはこの本ですね。出てくる登場人物、1人もいい人はいない。それでもかっこいい。引き返せない博打の波に飲み込まれているというか、阿佐田哲也の作品はみんなそうですね。そこからギャンブルの色を抜いたものが色川武大(阿佐田の別名義)作品になるんでしょうけど。俺はどっちかというと阿佐田哲也名義の方が好きです。個人的にギャンブルはまったくやらないので、そこには興味がない。ただ、その中に出てくる人間の感情、せこさとか見栄の張り方。結局、人間というのは見栄を張らなくてはいけなくて、怖いから「怖い」と言って逃げていいものではないし……まあ、逃げるときはケツまくって逃げてもいいんですよ。見栄を張らなきゃいけないときは、張らなきゃいけない。でも、そこにある一定の美学がないと、やっていけないと思うんです。この本に出てくる人物たちは、どんなにせこくても、そういう美学がある。その美学があるかないかでブレる人は、やっぱりかっこ悪いんです。見栄を張る思考だったくせに、怖くて逃げちゃうとか。そういうのがいちばん信用されない。何がなんでも生き残ると宣言して生き残るタイプの人は、ある種尊敬できる。見えを張るか逃げるのかの選択ではなく、美学があるかないかの選択なんです。

フリッツ・ライバー「闇よ、つどえ!」

闇よ、つどえ!

SF作家なんですけど、ラブクラフトの弟子にあたる人です。ホラー的な世界観とSF的なサイバーな世界観が融合した傑作ですね。知名度は高くない作家さんです。作品の評価は高いけど、人気はどうなんだろうみたいな。ラブクラフトの系譜では、いちばんモダンだった作家です。ラブクラフトで思い出したんですけど、プンクボイの『蠅の王、ソドムの市、その他全て』の1曲目、「The Hound」っていう曲名はかラブクラフトの作品から引用しています。

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「老いたる霊長類の星への賛歌」

老いたる霊長類の星への賛歌

女性作家で、骨太なSFを書く人です。SFなので内容にあまり触れられないんですけど、フェミニズムとか入ってると思うんですよ。でも、作家名は男性。当時、女性はSFなんて書けないって思われてるときに、彼女は男性の名前で作品を発表してたんです。

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プロフィール

ロマン優光
ロマン優光
ミュージシャン

1972年高知県生まれ。早稲田大学第一文学部中退。ニューウェイヴ・バンド「ロマンポルシェ。」のディレイ担当。ソロのパンク・ユニット「プンクボイ」名義でも活動を行う。プンクボイの活動20周年を記念して、幻の非売品セカンド・アルバム『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)がボーナス・トラックを追加して8月に発売された。著書に『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)、『日本人の99.9%はバカ』(コアマガジン刊)。https://twitter.com/punkuboizz?lang=ja

ライターについて

Writer 5
ホンシェルジュ編集部・芸術/芸能班

音楽、映画、アイドル、その他の芸術/芸能に詳しいライターによる班。もちろん皆が本好きだが、そのレベルや守備範囲はさまざま。日本のエンタテイメントのトップランナーを通じて、本/読書の楽しみへの入り口をつくりたい。あるいは本/読書という切り口を通じて、トップランナーの新たな一面を引きだしたい。

プロフィール

ロマン優光
ミュージシャン

1972年高知県生まれ。早稲田大学第一文学部中退。ニューウェイヴ・バンド「ロマンポルシェ。」のディレイ担当。ソロのパンク・ユニット「プンクボイ」名義でも活動を行う。プンクボイの活動20周年を記念して、幻の非売品セカンド・アルバム『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)がボーナス・トラックを追加して8月に発売された。著書に『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)、『日本人の99.9%はバカ』(コアマガジン刊)。https://twitter.com/punkuboizz?lang=ja

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