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特集!あの人の本棚
48.

Alfred Beach Sandal   (ミュージシャン)


シュールなセンスの「素」を探る (Alfred Beach Sandalインタビュー)

Alfred Beach Sandal
さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人の読書遍歴や本に対する考え方などからひもといていくインタビュー。今回はホンシェルジュ連載企画「本と音楽」執筆陣の1人、Alfred Beach Sandalさんにご登場いただきました。
シュールなセンスの「素」を探る (Alfred Beach Sandalインタビュー)

無茶なところを「良いな」と思わせてくる人と、よくわかんないだけの人がいる

ロック、ラテン、R&Bなど、さまざまなジャンルの音を独自に消化したストレンジなサウンド。そして、魅力的な歌声で注目を集める北里彰久のソロ・ユニット、Alfred Beach Sandal(アルフレッド・ビーチ・サンダル)。最新アルバム『Unknown Moments』では、バンド・サウンドで新境地を開拓。今回は北里さんに、アルバム制作中に刺激を受けた本を中心に愛読書を紹介してもらいました。

―― 子供の頃から本は好きでした?

北里彰久(以下、北里) 好きでしたね。親の教育方針でオモチャとかあまり買ってもらえなかったんですよ。でも、親が「こどものとも」っていう読み物を毎月とっていて、ほかに娯楽もないし、そういうのを読んでましたね。あと絵本。長新太の『なんじゃもんじゃ博士』とか「なんかヘンだな、これ」って子供心に思ったりして。

―― そういうシュールなセンスはビーサン(アルフレッド・ビーチ・サンダル)にも受け継がれてますね。

北里 そうかもしれない。冒険している系も好きだった。『西遊記』とか。妖怪とか怪獣とか、そういうのが出てくるやつは大体好きでしたね。

―― そういうグロテスクで幻想的なイメージもビーサンの音に息づいている気が。

北里 そうなると、俺は子供の頃から成長してないってことですね(笑)。

―― いやいや(笑)、言葉を変えると子供心を忘れていないというか。レコーディング期間中も読書します?

北里 レコーディングの時というより、曲を作っている時は「なんかヒントないかな?」みたいな感じで適当に読んだりしますね。でも、ネタにしようという意識はあまりなくて。やっぱり、読書は単純に楽しみたい。

―― 気分転換に軽いものを読むとか。

北里 それはあんまりないかもしれないですね。気軽な感じだったら走ったりしてるほうがいい。本は基本的に集中系じゃないですか。

―― 没入感が良い?

北里 そう。ながら読みとかよりも、本は集中して読みたいですね。没頭したいというか。

―― では曲作りの時も含めて、今回のアルバム制作中に読んだ本で印象に残ったものはありますか?

北里 ホセ・ドノソの『別荘』かな。これは面白かったし、すげぇ好きだった。登場人物が50人くらいいて覚えるのが大変だったけど。大人達と子供達がいて、大人達がある日ピクニックにみんなで出掛けちゃうんですよね。理想郷みたいなのがあるって聞いて。それで子供だけがでっかい別荘に残されて好き勝手やる、みたいな話で。主人公っぽい男の子は大人達は二度と帰って来ないって思ってる。その一方で、「帰ってくるから、いつも通りにしていればいいじゃん」って言う子もいて。だけど、今まで館の中にあった秩序みたいなのがどんどん崩れていくんですよ。それで主人公の男の子の親父が、いろいろあってその館に幽閉されてていて、その親父が解放されることでまた一段とアナーキーな感じになっていく。結構、政治的なモチーフを感じさせる話なんですけど、なんかそれもただの要素でしかないというか。登場人物の内面を語るというよりは、カオティックな出来事がガンガン起こっていくみたいな……これの面白さを説明するの難しいな。

―― 面白そうな話ですね。ドノソに限らずラテンアメリカの小説は好きですか? ガルシア・マルケスとかボルヘスとか。

北里 どっちも好きです。ただ、ガルシア・マルケスは諦めたやつもあるんですよ、途中で。『族長の秋』とか早々にリタイアした。まあ、(ラテンアメリカの小説は)つまみ食いですけど好きですね。魔術的とか言われるじゃないですか?

―― 〈マジックリアリズム〉ですね。西洋の幻想小説にはない肉感的なところがありますよね。独特のグルーヴがあるというか。

北里 そうそう。めっちゃ筋肉が動いている感じ。それが良いなと思って。ラテン音楽とかも好きだし。

―― ビーサンの音もサイケデリックなムードと肉感的なグルーヴが絶妙に融合してますね。

北里 まあ、そういうのはやりたいと思っているところだから。

―― 三木成夫『胎児の世界』も、ある意味、カオティックなというか、強烈な本ですね。

北里 ほんとちょっとヤバいんですよ、これ。『内臓とこころ』とあわせて無茶苦茶面白い。(三木さんは)解剖学者だから理系のはずなんだけど、もっと情感的なことを言い続ける。簡単に言えば「人間には悠久の生命進化の記憶が様々なかたちで埋め込まれている」っていう話をしてて、それを胎児の発達の過程の中に見るんですけど、読む人によっては、頭おかしいみたいに思われちゃうかもしれないくらい、文章とかブッ飛び過ぎてるんですよ。だけど、その飛び方が面白いというか。半分アーティストみたいな感じで「ちょっと狂ってるな」って感じなんですよね。なんか最後のほうとか結構ヤバくて、「伊勢神宮の森がザワザワしてるのは内臓の動きと一緒」みたいなことを言ってる。基本的にこの人の考え方って「内臓の働きとか動きのリズムは天体の動きとリンクしているから、生物というのは星なんだ」みたいなことなんですよね。

―― 人間ひとりひとりが天体。

北里 ……だっていう話になるんだけど、そこまでいくとすごいじゃないですか。でも、三木さんの書き方だと別にイヤじゃないというか、素直にそう思って書いてるんだなみたいな。話のスケールがすごくデカいし、表現も独特で面白いんですよね。

―― 本の帯に「心とは内臓された宇宙のリズムである」という文章が抜き出してありますが、サン・ラのセリフだと言ってもおかしくないですね。独自の宇宙観があるというか。

北里 そうそう。それが解剖学から出発しているのが面白い。リズムという点では、三木さんは(ルートヴィッヒ・)クラーゲスっていう人に影響を受けてて。クラーゲスは哲学者なんですけど「拍子っていうのは反復するもので、リズムっていうのは更新するものだ」みたいな、そういう思想の人なんです。だからリズムっていうのはもっと有機的なもので、波というか周期性はあるけど別に一個一個は一緒じゃないみたいな。で、拍っていうのはもっと機械的にそこに打点を打っていく作業みたいなものっていう考え方なんです。それって音楽にも関係あるっていうか、自分がリズムとかグルーヴについて考える時、やっぱりそういう有機的なものをイメージしているから、そういうところで読んでて腑に落ちるというか、マッチするところが結構あるんですよね。

―― クラーゲスの『リズムの本質』は三木さんの本を経由して出会ったんですか?

北里 クラーゲスは昔ちょろっと読もうとしてた記憶があるんです。大学の時の専攻が哲学関係だったんですよ。美学なんですけど。(授業で)あまりこの人は登場しないですけど、何かで触れたことがあった記憶はあるんです。でも、ちゃんと読もうと思ったのはこれ(『胎児の世界』)を読んだからですね。それで読んでみて「ああ、なるほどな」みたいな。この本も結構、無茶なことを言ってるんですけど。

―― でも、その無茶なところが惹かれるんでしょ? 三木さんもクラーゲスも。

北里 そうですね。無茶なところを「良いな」と思わせてくる人と、よくわかんないだけの人がいる。クラーゲスも三木成夫も、無茶に感動できる感じですね。

(後編に続く)

Photogprahs by Motoki Adachi

Alfred Beach Sandal「Unknown Moments」とリンクする本 Vol.1

別荘 胎児の世界 ― 人類の生命記憶 内臓とこころ リズムの本質
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プロフィール

Alfred Beach Sandal
Alfred Beach Sandal
ミュージシャン

2009年に北里彰久(Vo, Gt)のフリーフォームなソロユニットとして活動開始。ロックやラテン、ブラックミュージックなど、雑多なジャンルをデタラメにコラージュした上に無理矢理ABS印のシールを貼りつけたような唯一無二の音楽性で、真面目に暮らしている。2013年のアルバム"Dead Montano”以降は、岩見継吾(Wb)、光永渉(Dr)とのトリオ編成を軸として、美学をつきつめ中。8月26日にニューアルバム『Unknown Moments』を発売。9月からは「Unknown Moments」リリースツアーを行う。http://alfredbeachsandal.com/

ライターについて

Writer 6
村尾泰郎

ロックと映画の評論家。子供の頃から本好きで、小学生の頃に読んだH・G・ウェルズ『宇宙戦争』に衝撃を受けてSFに夢中になり、コミック、アニメ、ホラー、パンク/ニュー・ウェイヴなどに囲まれて思春期を送る。

プロフィール

Alfred Beach Sandal
ミュージシャン

2009年に北里彰久(Vo, Gt)のフリーフォームなソロユニットとして活動開始。ロックやラテン、ブラックミュージックなど、雑多なジャンルをデタラメにコラージュした上に無理矢理ABS印のシールを貼りつけたような唯一無二の音楽性で、真面目に暮らしている。2013年のアルバム"Dead Montano”以降は、岩見継吾(Wb)、光永渉(Dr)とのトリオ編成を軸として、美学をつきつめ中。8月26日にニューアルバム『Unknown Moments』を発売。9月からは「Unknown Moments」リリースツアーを行う。http://alfredbeachsandal.com/

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