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特集!あの人の本棚
64.

誠心堂書店   (神保町にある和本・書道専門古書店)


「神田古本まつり」は本日から! 江戸時代の出版文化は豊かだった? 和本・書道専門の古書店 神保町・誠心堂書店に聴く - シリーズ「本屋めぐり」

誠心堂書店
本棚のプロフェッショナルである「本屋さん」に、本棚をつくっていただこうというインタビュー企画。第一回目は神保町にある、和本と書道の専門店「誠心堂書店」です。なかなか触れることの少ないクラシカルな古書の世界。果たしてどんな本を紹介してくださるのでしょうか。

(今回のインタビューは、神保町に2015年4月にオープンしたばかり「HASSO CAFFÈ with PRONTO」で配布される「発想の窓」とのコラボ企画です。)
「神田古本まつり」は本日から! 江戸時代の出版文化は豊かだった? 和本・書道専門の古書店 神保町・誠心堂書店に聴く - シリーズ「本屋めぐり」

江戸時代の暦ってどんなもの?

―― まずは、「発想の窓」に載せるためお選びいただいた3冊の選書をお伺いしたいと思います。誠心堂書店を表す本には、どのような本を選ばれたのでしょうか。

橋口店主(以下、橋口と表記) 当店は「和本」に力を入れている古書店です。今回、HASSO CAFFÈ with PRONTO*で配布するフリーペーパーに載せるということで、和本の魅力を知ってもらえる本を選びました。一冊目は『伊勢暦』(読み:いせごよみ)。江戸時代の暦(カレンダー)ですね。

*神保町駅から徒歩3分。テラススクエアにあるカフェ。来客者自身が考えたこともないような思考のきっかけと巡り合い「発想」が生まれる場

正しくは1862年。出版日は不明。

―― 見たことのない本ですね。

橋口 『伊勢暦』には、一日ごとに、しても良いことやしてはいけないこと、吉凶などが細かく書かれています。平安時代はもっと厳しかったとのことですが、江戸時代は緩やかになったようですね。

―― 具体的には、どのようなことが書かれているのですか?

橋口 分かりやすい例を挙げると、「土用の丑の日にウナギを食べること」とか、大安や仏滅などの六曜。いまでも結婚式は大安にする、と気にされる方はいますよね。そのような暦が書かれています。いまここで紹介しているのは江戸後期のもので、3年分。3冊セットです。

―― 六曜は最近のカレンダーでは見なくなりましたが、江戸時代から残っている記録の実物を見ると、感慨が湧きますね。

橋口 今回お見せした「伊勢暦」は、伊勢国の山田という場所にある本屋がつくったものです。毎年、出版する本屋が違うんですよ。

―― どういうことですか?

橋口 当時は『伊勢暦』を持ち回り制でつくっていたようなのです。実は、ここにある3冊もすべて違う本屋がつくっています。江戸時代には「暦をつくる」という行為は権威のあることで、限られたひとたちにしか許されていないものだったんですね。その限られたひとたちの間で、順番に作っていたのです。

―― 中に記されている「小」や「大」という文字は何でしょうか?

橋口 当時は小の月と大の月がありました。今でも30日の月と31日の月がありますよね? 江戸時代でも同じものがあったんです。まあ当時は月の満ち欠けでひと月を定めていたから(太陰暦)、29日の月と30日の月でしたけどね。月の周期が29日ともう少しなので、その調整のために30日の月をつくったんですね。いまの暦の元みたいなものですよ。当時は商人への支払日が晦日(月末)だったので、ひと月が29日なのか30日かがとても重要だったんです。だから、当時の人はこの月の「大小」にとても厳しかったんですよ。

―― 当時だけでなく、いまも支払日には悩まされます(笑)。

江戸時代にもあった! 絵のハウツー本

橋口 二冊目は、江戸時代の絵の書き方を指南した本です。名前は『運筆麁画』(うんぴつそが)といいます。

―― 江戸時代に、いまと変わらないような本が出版されていたんですか?

正しくは1749年。出版日は不明。

橋口 作者は橘守国(たちばなもりくに)というひとです。筆の運びをどうすればいいかということを、絵と共に解説しています。本当は上中下と揃うととても高価なのですが、今回は、上巻のみで少し状態の良くないものがちょうどありましたので、お出ししています。発行年数が寛延2年(1749年)なので江戸時代の中頃ですね。

―― こういう本が当時も売られていた、ということが驚きです。

橋口 でも、実は、このような本は当時よく作られていたんですよ。

―― いまの本と発想が変わらないのがおもしろいですね。ところで、状態の良くないというのは……?

橋口 小口に汚れが付いていることですね。これは、たくさんのひとが読んだ証拠です。

江戸時代の歳時記

橋口 三冊目は、『改正月令博物筌』(かいせいげつれいはくぶつせん)。当時の歳時記です。これも揃うと価値が高いのですが、いまは全部は揃っていませんね。

―― ここにあるのは……?

橋口 秋と冬の歳時記です。

―― 秋と冬だけでも、ずいぶんとたくさんあるんですね。

橋口 そうですね。秋冬だけで8巻あります。春夏秋冬4巻ずつなので全部で16巻です。どこでお祭りがあるだとか、9月1日から着るものは暖かくした方が良いだとか、そういったことが記されていますね。旧暦の9月1日はいまの暦だと10月後半。もう肌寒い季節というわけです。

正しくは1841年。出版日は不明。

明治時代のギーク本?

―― ここからは、「発想の窓」に載っていない、誠心堂書店さんを表す他の書物をご紹介いただきましょう。まず、こちらは何でしょうか?

正しくは1873年。出版日は不明。

橋口 これは『高瀬四郎抄訳 電信ばなし』。当時の機械を、見本付きで解説している本ですね。明治6年(1873年)に発行されたものです。

―― 見本の絵が分かりやすく、そして美しいですね。

橋口 次は、『新刻農家調宝記』(しんこくのうかちょうほうき)。農民のための入門書・実用書ですね。ものを書いたり書を書いたりすることは農民にとっても大事だと説いていたり、田植えの時期や暦など農民が知っておくとよい事がらも書かれています。

―― いまでいうハウツー本ですね。江戸時代から日本人の識字率は高かったと言いますが、こういった本を目にすると実感します。武家や商人だけでなく、農民でも字が読めたということですから。

正しくは1857年。出版日は不明。

江戸時代は現代よりも勉強家が多い?

橋口 勉強と言えば、こちらの『隅田川往来并八景詩歌』(すみだがわおうらいならびにはっけいしいか)は、寺子屋(江戸時代の学校)で使われていた教科書です。江戸時代は教科書のことを「往来物」と呼んでいました。往来物にはそれぞれテーマがあって、これは隅田川をテーマにした往来物ですね。ですが、この『隅田川往来并八景詩歌』は文章そのものよりも文字を学ぶためのものだったようです。昔の寺子屋は、7歳くらいからみんな通っていたので、このような文字の勉強をするための教科書もあるわけです。

―― 文字を学ぶ時期と勉強内容は、現代と似ているのですね。

橋口 そうですね。ちなみに、12歳くらいになると、商人の場合は丁稚小僧として働きに出るようになりますが、もう少し大きくなっても勉強する者はいたようです。江戸時代の人々は勉強家なんですよ。

正しくは1848年。出版日は不明。

誠心堂書店は和本と書道の店

―― ここまで紹介いただいた本で、お店のことが垣間見えましたが、もう少し誠心堂書店についてお聞かせください。BOOKTOWNじんぼう*の記事を拝読しました。初代が和本を取扱いはじめ、二代目が民俗学、三代目のいまは書道にも力を入れるようになったと書かれていますね。

*神田神保町の古書店176店を紹介しているウェブサイト

橋口 民俗学の本はいまは扱っていないですね。いまは和本と書道に特化した品揃えをしています。

―― 書道の本というと、どのようなものがあるのですか?

橋口 書道の本は和本だけでなく、比較的最近の洋装本(ふだん目にする本)も扱っています。書道を勉強するには、中国の昔のものだったり、日本だったら平安時代の書を見なくちゃいけない。でも、現物が簡単に見れるわけでもないから、写真に撮ったものを本にしたりする。近代以降の優れた印刷技術でつくられたお手本類が、いまの書道家の役に立つわけですよ。

―― なるほど。

―― 掛け軸みたいなものもあるんですね。

橋口 これはお手本を「掛け軸」という形にしているだけですね。洋装本にしたり和本にしたり。書道の本は、昔のお手本を写したものなので、いろいろなまとめ方があるんです。

―― 買取はどのようにされているのですか?

橋口 古書市場で行っています。市場では自店から売りに出すお店もありますが、ウチの場合は買うことがほとんどです。和本を扱えるのは市場のお陰ですね。中には珍しい本が出品されることもあります。

―― 書道の本を取り扱うお店って珍しいように思うのですが。

橋口 そうですね。神田神保町でも3店くらいしかありません。

―― 書道を研究する方が少ないのでしょうか?

橋口 いえ。学生や小さいお子さんなど書道をされる方は多いんですよ。だから、ウチでは入門書から研究者向けの本まで幅広く扱っています。

―― ということは、取り扱うことが難しいということでしょうか?

橋口 そういうことですね。今日勉強をはじめてすぐにできるようなものではない。中国の古典の文章など、そもそも勉強しないと何が書いてあるか分からないですよね。

―― 私にはまったく分かりません(苦笑)。

誠心堂書店のこれから

―― これからお店をどうしていきたいですか?

橋口 いまの方針を維持したままお店を充実させていきたいですね。

―― なるほど。

橋口 そうは言っても市場に出てくる品次第ですけれど。市場で品定めしているときは一番楽しいですね。古本屋にとって一番楽しい時だと思います。たとえ買えなくても勉強になりますし。

―― 和本に、書道の本。とても興味深い分野でした。この記事を見て、誠心堂書店さんに訪問される方が増えると嬉しいです。本日はありがとうございました。


和本と書道の本の世界。まったくの未知の世界で、驚きと感動に満ちた素晴らしいお話を伺えました。聴けば聴くほど、江戸時代や明治時代といまの庶民の求める本とは、そんなに変わっていないのかもしれないと思います。

ところで、ここまで読んでいて、分からないことが多かったのではないでしょうか。分からないけれども「和本」には興味が湧いた。そのような方には、橋口店主による著作『和本入門』をぜひオススメしたい(宣伝ではなく)。江戸時代の豊かな出版文化を知ってもらいたくて出したという本作。読んで、誠心堂書店に行ってみると、和本のおもしろさの一端に触れることができるはずです。

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プロフィール

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神保町にある和本・書道専門古書店

誠心堂書店は、昭和5年に先代・田中十蔵によって開業しました。専修大学前に近い山本書店から独立し、和本・書道・国漢系学術書を専門としてきました。わたしはその二代目。三代目になる息子とともに続けています。

ライターについて

Writer 7
和氣正幸

リアル本屋開業を目指す本屋好き。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営み、「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。本をキーワードに様々な分野で活躍中。

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