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特集!あの人の本棚
65.

虔十書林   (神保町の古書店 映画関連書籍・グッズのスペシャリスト)


映画関連書籍・グッズのスペシャリスト 神保町・虔十書林では、驚きのあんなものも扱っている。 - シリーズ「本屋めぐり」

虔十書林
本棚のプロフェッショナルである「本屋さん」に、本棚をつくっていただこうというインタビュー企画。第二回目は映画をはじめ幅広い品揃えの「虔十書林」です。位置するのは古書店の街、神保町。

伺ってみると映画に関係するものはもちろん、こんなものも売っているのか、という品が多くありました。装丁が素敵な本や近現代文学、詩集などが置いてあり、品ぞろえは幅広い。デザインが美しい品が比較的多いのが、特徴です。 (今回のインタビューは、神保町に2015年4月にオープンしたばかり「HASSO CAFFÈ with PRONTO」で配布される「発想の窓」とのコラボ企画です。)
映画関連書籍・グッズのスペシャリスト 神保町・虔十書林では、驚きのあんなものも扱っている。 - シリーズ「本屋めぐり」

映画のフライヤーと……これは何だ?

―― まずは、「発想の窓」に載せるためお選びいただいた3冊の選書をお伺いしたいと思います。ですが早速、これは本ではないですよね? 何でしょうか。

多田店主(以下、多田と表記) 映画のフライヤーですね。今回は、「風の谷のナウシカ」と「時計じかけのオレンジ」のものを持ってきました。そしてもう1つ……

―― これは何ですか?

多田 これは「劇場宣伝心得帖」というものです。東宝が劇場さんに対して「こういうような感じで宣伝してくださいね」とプレゼンするものですね。

―― そんなものがあるんですね。知りませんでした。

多田 あるんですよ。東宝はこの劇場宣伝心得帖をずっと出していたんです。映画のパンフレットやフライヤー、ポスターは昔のものが多かれ少なかれあるのですが、これは珍しいので選びました。外部向けのプレスシートは発表されるんですけれど、これは竜津市内映画館の裏資料だったようですね。

さらに、ここに映っている三船敏郎が最近、ハリウッドで殿堂入り*したでしょ? ゴジラもしていますけどね(笑)。 そういうこともあって選びました。映画に関する紙ものを取り扱わせていただいている店としては、ぜひ宣伝しておきたいと思いまして。

*2015.6.22に、国際的な映画スターとしてハリウッドの殿堂入りメンバーに選出された

―― ほかの2点は、フライヤーですね。映画公開当時のものでしょうか?

多田 はい。フライヤーは、人気のある作品のものを選びました。ひとつはご存じ、ジブリ。国内外ともに人気のあるスタジオの作品ですね。

虔十書林の品揃えは、映画のポスターやフライヤーが中心

―― 虔十書林さんは開店されてから約5年後にBOOKTOWNじんぼう*で取り上げられていましたが、そこでは「映画のパンフレットを伸ばしていきたい」と書かれていました。その後10年弱経っておりますが、映画のパンフレットは増えているのでしょうか?

*神田神保町の古書店176店を紹介しているウェブサイト

多田 在庫は昔からたくさんありました。けれど近年は、ヤフオクやアマゾンなどインターネット化が進んでいく中で、パンフレットそれ自体が商材としてトーンダウンしてきている実感があります。一部商品で何百万何十万円するものは別としまして、それ以外のものはどうしても安売り競争に入ってきていますね。

―― 厳しい時代ですね。

多田 そんな中で、パンフレットだけでなく、ポスターやフライヤー、プレスシート、スチールブロマイド(など写真)。特にポスターやフライヤーを多く扱っています。これらはまだ購買されるお客様が頑張っていらっしゃるので、持ちこたえていますから。

それに数が市場に出てこないというのもあります。やっぱり劇場でお金出して買ってくるパンフレットは、みなさん大事に大事にとっているんですね。一方で、フライヤーとかは貰ったものだったり配られたものだったりするので、ヒョイっとどこかにやってしまうことってあるじゃないですか?

―― ありますね。ぼくも経験があります。

多田 そうですよね。パンフレットはいま見ても、表紙だけだと何の映画なのかが分からない。でもフライヤーはいま見ても、パッと見でどんな映画かすぐ分かる。もはやストーリーのほとんどが浮き彫りにされているようなデザインなんですね。だから、見て楽しめる。いまとなっては貴重なんです。それにコレクターさんが結構いて市場を支えてくれています。もちろん本当に貴重なものは市場にはなかなか出てきませんが。

―― いつの時代のフライヤーが人気なのでしょうか?

多田 1960年台の映画のフライヤーが一番人気です。作りもカラーでキレイですし。戦後すぐの1950年台ですと、どうしても紙と印刷がまだ地味で、見ていてイマイチなんです。けれど1960年台に入ると、スティーヴ・マックィーンやイーストウッドなどが登場して華やかですね。そういう時代のフライヤーが市場では一番価値があります。いまとなっては、なかなか市場にも出てきません。

もちろん、最近のものでもコレクションして楽しんでいらっしゃるお客さんがたくさんいます。

フライヤーもチケットの半券まで売れる!?

―― パンフレットだけでなく、フライヤーにも値段が付くんですね。意外でした。

多田 安いのもあれば高いのもあります。フライヤーは最高額で100万円程度まで行きますよ!

―― そんなに!

多田 ポスターもそれくらい行きますね。200円〜300円のものから100万円くらいまであります。先程も言いましたが、フライヤーとポスターは、いまでもコレクターさんが頑張っていらっしゃるのです。

ただ、どのジャンルでもそうですが、コレクターの年齢層がどんどん高くなってきているように思います。若い人がついてきてくれない。そこをどうにかしたい思いがあり、先ほどの『風の谷のナウシカ』のフライヤーを選びました。若い人が見ても「こんなものがあるんだ」「たのしいんだ」ということを知ってもらいたいんです。

―― なるほど。

多田 実際、おもしろい世界なんです。60年代だと、フライヤーをもらうために古本屋に並んだひとって、実はいっぱいいるんですよ。

―― そうなんですか?

多田 ウチではないですけど、『POPEYE』などの週刊誌でフライヤーを扱うお店が取り上げられたこともありますしね。子どもたちがそういう古本屋に並んで、数千円〜一万円クラスの高嶺の花(『猿の惑星』やスティーブ・マックィーンなど)を見ていたわけです。その頃の子どもたちがいま40代〜50代になっていて、会社員として稼いでいるので、それくらいの値段のものなら買えるわけですね。

―― フライヤーやパンフレットの収集も含めて、身近な娯楽だったんですね。

多田 切手コレクターやビックリマンチョコと同じですね。当時から好きで、映画も一生懸命見てパンフレットも買って、ファイリングして集めてきた方々。ウチで扱っているのはパンフレットとフライヤーとポスター。ポスターも頑張って集めていますが、こちらも市場になかなか出てこなくて大変です。また、他にもチケットの半券も扱っています。

―― チケットの半券まで!

多田 お金にならないものもありますし、100円〜200円のものが続きますが、中には数万円の値段が付いているものもありますよ。

―― !!

映画以外には何を扱っているのか

―― いままで映画関連の紙ものについて色々お伺いしてきましたが、映画専門店なのでしょうか?

多田 そんなことはありません。店としては近現代文学と映画・美術・趣味など幅広い品揃えをしています。店舗がちっちゃい割にはね。

―― イチオシが映画ということでしょうか?

多田 それも違います。ただ、神保町にいろんなお店がある中で、「こういうものも売られている」ということを知っていただくために、今回は映画のフライヤーなどを選びました。ウチは百貨店の古本市に出店するときも映画の紙ものを出すようにしているんです。このあとお見せしますが、それ以外の本もたくさんありますよ。

―― では、映画関連以外のおススメの本は、たとえばどんなものでしょうか。

多田 まずは、ヴァレリー・ラルボー『罰せられざる悪徳・読書』です。コーベ・ブックスという出版社から出されましたが、後にみすず書房からも出版されています。私の好きな本。オススメです。本の造りがカチッとしていて素敵ですよね。ぜひ学生さんくらいから読んでいただきたいです。

これのほかに特装版もあります。結構な価格なのですが購入されるお客さんがちゃんといます。これは普及版と違い、造りがとにかく好きなんですよ。カッコいいですよね。

―― カッコいいです!

多田 活字も素敵ですし。文字も大きいので読みやすい。本当にオススメです。あとは澁澤龍彦の『フローラ逍遥』。状態が良いものですね。こちらも装丁がキレイです。装丁が気に入って衝動買いをする方が多いですね。帯があればもっと良いのですが。

―― そうなんですか?

多田 まず帯はないです。帯がもしあるものですと価格がまったく違ってきて、10万円くらいします。もっとするかもしれないです。ほとんど幻の帯です。

―― 桁が違うんですね! 帯の有無で値段が変わるという話は知っていましたが、そんなに違うものなのですね。

ビジュアルや装丁が良い本をそろえている

多田 このように、店としては映画以外では、ビジュアルや装丁が良い本をそろえています。ほかにも近現代など……まあいろいろやっています。売れない本ばっかりですけどね(笑)。

―― それは「好きだから」ということですか?

多田 映画は「好き」というだけではないですが、それ以外は好きなジャンルのものを置いていますね。

―― ここまでお店の色をご説明いただきましたが、今後力を入れたい分野はどのような領域でしょうか?

多田 ウチは化石のような古本屋で、ネットに関しては一切やっていないんですね。日本の古本屋もアマゾンもヤフオクもeBayもまったくやったことがない。あくまで店が中心で、あとはデパートの古本市。渋谷東急東横や池袋リブロなどですね。50年代〜60年代の洋画のポスターを中心に貼って展示して、ガラスケースではフライヤーやスチール写真を展示販売させていただきました。

デパート展では映画の商品を出品して、古書会館での即売展では詩集や装丁が良いもの・戦前の雑誌や映画・近現代文学・署名本などを出品。ここ10年位はこういったことを続けています。

―― それはネットが好きではないからですか?

多田 それより、お客さんに直接手渡して売るということを、できることならまだやっていきたいのです。ネットには移行したくない。そもそもネットへの出品作業が一生懸命できるとも思えませんし、もしそれができるなら古本屋ではなく別の業種をやっていたんじゃないかと。なにも古本屋をネットでやる必要はないんじゃないか、と。ネットで見ることができる商品画像は綺麗ですが、実際に見た時とは違うと思うんです。

例えば、熊田千佳慕や武井武雄の戦前の作品などは、紙の質や色合いが現代と微妙に違う。この色合いが、写真では分からないと思うんです。そういうこともあり、できればお客さんと相対してやっていきたいんです。

―― お客さんとお話されたりすることは多いんですか?

多田 以前は多かったのですが、最近はそういうやり取りを煩わしいと感じるお客さんも多いように感じます。ネットの「おさんぽ神保町」を見て来店された方や、普段はAmazonで本を購入されている方は、質問の内容も違いますね。そうするとこちらもお話するのに腰が引けてしまいます。

―― それでは、今まで通りの対面販売を今後も大切に続けていきたいということですね。

多田 そうですね。お店もデパート、即売展への出品を続けていければと思います。ただ、商売なので、品物の流れ・出方やお客さんの欲しがるものによって変えていかなければいけないでしょうね。

古本屋はたのしい!

―― 最後に、若い方に伝えたいことなどはありますか?

多田 とにかく古本屋はたのしいです。ただ、丁寧に見ていただきたいです。物の扱いっていうのはちゃんと覚えていなきゃいけない。商品なのでそこはちゃんとして欲しい。コレクターさんですと、将来自分のものになるかもしれないので、極端に丁寧に扱いますが、そこまでではなくても「放ったりしない」とか。そういうことですね。

あとは、ひとりで来て欲しいです。やはり、本を楽しもうと思うなら話すためにではなくて、例えば、多人数で来ても店内では本と向き合って欲しいですね。それが一番楽しめると思いますので。

特に神保町はいろんなお店があるので、ウチが気に入らなくてもどこかでハマりますよ。

―― なるほど。本と向き合うことで、より楽しめるわけですね。本日はありがとうございました!


パンフレットだけでなく、まさかチケットの半券にまで値段が付くとは知りませんでした。ポスターやフライヤーもあり、もちろん映画の本もある。装丁が素敵な本もたくさんあって、ブックデザイン好きには最高に楽しめる空間でしょう。装丁を眺めているだけでも楽しいもの。神保町めぐりの際には、美しいデザインに囲まれに、ぜひ立ち寄ってみてはどうでしょうか……もちろんその際に、本の扱いにはご注意を。

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プロフィール

虔十書林
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神保町の古書店 映画関連書籍・グッズのスペシャリスト

駿河台下の交差点からほど近い、映画関連書籍・グッズのスペシャリスト。そのほか、近代文学、サブカルチャー、美術といった書籍も。映画のプログラムは年代別、監督別、出演者別など、さまざまな角度から探すことができるほど充実している。

ライターについて

Writer 7
和氣正幸

リアル本屋開業を目指す本屋好き。ブログ「BOOKSHOP LOVER」を中心に活動。同名のネット古本屋も営み、「Cannes Lions 2013 Book Project」ではプロデューサーを務める。本をキーワードに様々な分野で活躍中。

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駿河台下の交差点からほど近い、映画関連書籍・グッズのスペシャリスト。そのほか、近代文学、サブカルチャー、美術といった書籍も。映画のプログラムは年代別、監督別、出演者別など、さまざまな角度から探すことができるほど充実している。

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