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特集!あの人の本棚
57.

下岡晃(Analogfish / m社)   (ミュージシャン)


「歌詞」が内包する可能性(下岡晃インタビュー)

下岡晃(Analogfish / m社)
さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人の読書遍歴や本に対する考え方などからひもといていくインタビュー。今回はホンシェルジュ連載企画「本と音楽」執筆陣の1人、下岡晃(Analogfish / m社)さんにご登場いただきました。
「歌詞」が内包する可能性(下岡晃インタビュー)

音楽を聴くより、本を読んでいる時間の方が長いし、心地良いんです

オルタナティヴなバンド・サウンドと、社会に鋭い眼差しを向けた歌詞で、アルバムを出すごとに大きな注目を集めるAnalogfish。前作『最近のぼくら』で「社会派三部作」に一区切りをつけ、開放感に満ちた新作『Almost A Rainbow』がリリースされるなか、ヴォーカル/ギターの下岡晃さんに新作に刺激を与えた本を紹介してもらいました。

―― 小さい頃から本はよく読んでました?

下岡晃(以下、下岡) 姉が活字中毒で、図書館の棚のここからここまで全部読む、みたいな人だったんです。僕は勉強が全然できなかったんですけど、母親が本を読むと勉強したことにしてくれたんで(笑)、それで読んでましたね。

―― お姉さんとお母さんの影響で。

下岡 そうですね。母も姉も本が好きだったから家には本がいっぱいあって。今考えると変なんですけど、家の玄関に本棚があったんですよ(笑)。靴を履きながら横を見ると『サラダ記念日』とか『ノルウェーの森』とかベストセラー本が並んでて、そういうところからつまんで読んでましたね。

―― 玄関で世の中のメインストリームを押さえていた(笑)。そういうものとは別に個人的に好きだった本は?

下岡 一番覚えてるのは、『ヒーロー大全集』みたいな、戦隊ものとかライダーとかの情報が一冊に集まった大百科みたいなのがあって。それを一日1ページずつ読んで必殺技とかを覚えていくっていうのをずっとやってましたね。

―― それは何の訓練ですか?(笑) 友達と競い合ってたとか。

下岡 いや、ひとりでやってました。古いやつから最新のものまで全部覚えてないと気持ち悪くて(笑)。本を読むのが面白いと意識するきかっけになったのは、姉のおさがりで読んだ『ロードス島戦記』です。あれを読んだ時、物語を読んでいくっていうのは、わりと面白いことなんだなって思った記憶があります。

―― じゃあ、小説とか物語があるものが好き?

下岡 いや、物語じゃないものの方がよく読みますね。エッセイとか旅行記とか。物語は入って行くまでが大変で。もちろん、小説も読みますけど……なんだろうな、僕の場合、本を読んだと言っても中身を覚えてたりはしないんですよね。一冊読み終わって、主人公の名前も覚えてないみたいなことが全然ある。頭に残ってるのは印象的な映像ひとつとか。それで読む意味があるのか?って思うんですけど、それでも読んでた方が習慣として心地良いというか。音楽を聴いているより、本を読んでいる時間の方が長いし、心地良いんですよ。

―― なるほど。それにしても今回選んでもらったものなかで、『Logic Pro 9 徹底操作ガイド』は読書というより、仕事道具って感じですね。

下岡 そうです。音楽ソフトの説明書で、これがないと作業が止まってしまう(笑)。音の録り方とかで困ったことがあったら、これを見てやってるんです。

―― 説明書はきっちり読みこむほう?

下岡 いや、苦手です。なんか最近気付いたんですけど、どうも飛ばして読んでるんですよね。説明書って絶対飛ばしちゃだめじゃないですか(笑)。でも、これだけ量があると、その時点で僕としてはもうイヤなわけですよ、読むのが。ポイントだけ読んで次に行くんですけど、そうすると思った通りにならないんですね。だから、ちゃんと時間かけて読まないとって思いました。

―― 説明書を読まないと音楽が作れない。大変ですね。

下岡 ほんと、読んでも全然面白くないんですけど、アルバム制作には欠かせない本ですね。

―― 『Logic Pro 9 徹底操作ガイド』が音楽制作のハードウェア対応だとしたら、『ギル・スコット=ヘロン自伝』はソフトウェアって感じですね。メッセージ色の強いヘロンの歌詞はアナログフィシュの世界に通じるものがあると思いますが、どういうきっかけでヘロンに興味を持ったんですか?

下岡 僕が30歳になる前ぐらいに出会ったんです。「革命はテレビで報道しない(Revolution Will Not Be Televised)」っていう曲を聴いて、カッコいいなと思ったんですよ。ポエトリー・リーディングみたいな、あのスタイルがすごい好きで。僕も言葉で音楽をするっていうのが好きなので、すごい憧れました。その後に、「アイム・ニュー・ヒア」の新しいヴァージョンが出たんです。打ち込みで、超カッコいいトラックのやつが。それも最高で。とにかくここ5、6年ぐらいは、ずっとギル・スコット・ヘロンの音楽がインスパイアの源になってるとういうか、いつも視界の隅にこの人がいるんです。

―― 音楽における言葉の重要性というのは、ヘロンに出会う前から考えてました?

下岡 僕、2000年ぐらいに田舎から東京に出て来たんですけど、その当時のシモキタの音楽シーンって、「バンドの音があれば歌とか言葉はそんなに必要じゃない」みたいな人が多くて。歌ってる感じがなくてもいいのが僕は不思議だったんですよね。だから、自分が詞先(歌詞を先に書く)だとか言いづらい空気があって。でも、前野健太くんとかが出て来てーー彼は古い知り合いなんですけどーー言葉が先にある音楽はやっぱ良いな、と素直に思えるようになったんです。

―― ヘロンの言葉の魅力はどんなところですか。

下岡 問題を何かに置き換えて言葉にしていく時って、どんな置き換え方をしたらメッセージが直接届いて、どこから先がイメージになってしまうのか、その境界って曖昧なんですよ。でも、彼の書くものって、僕には(直接さとイメージの)バランスがちょうどいいというか。そういうところにインテリジェンスを感じさせるところが好きですね。ただただパンクに自分の想いを投げつける人もカッコ良いんですけど、ヘロンにはそれとは違ったカッコ良さがある。

―― メッセージと詩的表現のバランスは難しいでしょうね。『詩のこころを読む』は詩についての本ですが、詩を読むのは好きですか?

下岡 僕、これまで詩には全然触れてこなかったんです。この中で紹介されている谷川俊太郎さんの『二十億光年の孤独』とかは読んだことあったんですけど。この本を去年ぐらいに人にもらって読んでみたら、やっぱり短くても言葉ってパワーあるというか、あんまり文字の量って関係ないんだっていうことに今更ながら気付かされて。やっぱ、少ない文字で(メッセージを)届けるのって綺麗だなって思ったんです。

―― そういう発見は作詞に影響しました?

下岡 そういうことを意識して書いてるかというと謎なんですけどね。アルバムを作っている時って、基本的に音楽も聴かないし本も読まないんです。でも、この本はそんななかで読んだ本の一冊ではあったんですけど。

―― 印象に残った詩を教えてもらっていいですか。

下岡 そうですね……浜口国雄さんの『便所掃除』とか。これ、最初の方はものすごい汚いんですよ。ほんとにうんこが便器についている様子とかがリアルに書かれてて。タワシで洗ってるとその汚水が顔についた、みたいなことがずっと書いてある。でも、掃除してる人は、その汚さにだんだん慣れてくるんですよ。で、便所を綺麗に洗って消毒とかしていく。それで最後に「便所を美しくする娘は、美しい子供を産む、と言った母の言葉を思い出します。ぼくは、男です。美しい妻に会えるかもしれません」で終わるんです。なんかこの美しさ、自分にはわかるな、と思ったんですよね。

―― 少しずつ気持ちが浄化されていくような詩ですね。小島なおさんの『乱反射』は短歌集ですが、短歌は詩以上にミニマルな言葉の世界ですね。

下岡 この本は小島さんからお借りして読んだんですけど、それまで短歌も全然読んだことがなくて。読んで情景が広がるまでに時間がかかるんですけど、たまにめくって読むと気持良いっていうか。こんだけ少ない文字量で全然違う景色が見れる。これも詩と一緒で、「簡素な言葉の使い方で奥行きを出す」みたいなところの勉強というか。

―― 詞を書くうえで参考になりそうですね。

下岡 小島さんは「このネタで(短歌を)書いてください」って頼むと、ささっとその場で書けちゃうんですよね。それもスゴいと思って。そんな風に歌詞は書けないから。

―― 「ここで恋をテーマに1曲書いてほしい」と言われても難しい?

下岡 それらしい言葉を並べて、それらしいものが書けるかもしれないですけど、そんなのは大した歌詞じゃないと思います。

―― 小島さんの短歌の良さってどんなところですか?

下岡 読んでて気持良いっていうか。でも、短歌をよく知らないから、小島さんの短歌が気持ち良いのか、短歌というもの自体が気持ち良いのかっていうのは僕にはよくわからないんですけど、読んでてグッときたりしますね。

(後編に続く)

Photogprahs by Motoki Adachi

Analogfish『Almost A Rainbow』とリンクする本 Vol.1

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プロフィール

下岡晃(Analogfish / m社)
下岡晃(Analogfish / m社)
ミュージシャン

Analogfishのヴォーカル、ギター、コンポーザー。アートレーベル「m社」を主宰し、音楽のみならず、日々、創作を繰り返すアーティスト。9月16日にAnalogfishの最新アルバム『Almost A Rainbow』がリリースされた。11月からはツアー「Alomost A Rainbow」がスタートする。http://www.analogfish.com/

ライターについて

Writer 6
村尾泰郎

ロックと映画の評論家。子供の頃から本好きで、小学生の頃に読んだH・G・ウェルズ『宇宙戦争』に衝撃を受けてSFに夢中になり、コミック、アニメ、ホラー、パンク/ニュー・ウェイヴなどに囲まれて思春期を送る。

プロフィール

下岡晃(Analogfish / m社)
ミュージシャン

Analogfishのヴォーカル、ギター、コンポーザー。アートレーベル「m社」を主宰し、音楽のみならず、日々、創作を繰り返すアーティスト。9月16日にAnalogfishの最新アルバム『Almost A Rainbow』がリリースされた。11月からはツアー「Alomost A Rainbow」がスタートする。http://www.analogfish.com/

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