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特集!あの人の本棚
08.

出口治明   (ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO)


大人になるということは、過去(歴史)を勉強して人間を理解すること vol.2

出口治明
最も本を読んでいた頃は毎週10冊以上の書籍を読破し、多忙を極める今も週に4-5冊は読んでいるという、ライフネット生命保険株式会社CEOの出口治明さん。いったい、どんな本から影響を受けてきたのか。そして経営者に読んでほしい本は? 今回は、出口さんのお薦めする本、そして読書論に焦点をあててみます。
大人になるということは、過去(歴史)を勉強して人間を理解すること vol.2

歴史を語るのであれば、この本は押さえておいてほしい

――今までに影響を受けた本、特に影響を受けた本を挙げるとすると、どのようなものがありますか? 他のインタビューなどでは『ハドリアヌス帝の回想』を一番に取りあげていましたが。

出口治明会長兼CEO(以下、敬称略にて):たくさんありすぎて選べないのだけれど。歴史の分野で言えば、I. ウォーラーステインの『近代世界システム』を読んだ時のショックは大きかったですね。

――その本は、いつ頃に出会ったのでしょうか。

出口:1980年代の初めに読んだんじゃないかな。僕は1948年生まれだから、30代の前半ですね。これは(この本棚に置いてあるものは)「岩波モダンクラシックス」で2006年に再版されているのだけれど、この初期のバージョンが(ページをめくり確認すると)ほら、1981年に出ている。30代のはじめにこの本を読んだときは、歴史ってこういう風にみるんだなと思って、大きいショックを受けた。私見では、ウォーラーステインを読んでいない歴史学者は、全部ニセモノといってもいいと思うくらい。

――歴史のとらえ方が整理されたのですね。

出口:そう。そして同じころに、ベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』も出たんですよ。たしか1983年くらいに訳されていたから、上記の本とほぼ同時期。この2冊が、歴史の入門書としてはベストだと思っています。極論すれば、この2冊を知らないで「歴史が好き」と言っている人とは、議論しても仕方がないぐらい(笑)。あとは、それ以前にブローデル(※1)を読んでいました。

※1 フェルナン・ブローデル フランスの歴史学者、大作「地中海」で有名。

――出口さんの著書である『仕事に効く 教養としての「世界史」』 には、過去の膨大な読書による知識から出口さんが紡ぎあげた仮説がいくつも書かれています。この独自の世界観は30代の頃から抱いていたのですか?

出口:はい。あまり当時から基本的な考え方は変わっていないと思います。30代の後半ごろにはほぼ形作られていたんじゃないでしょうか。とはいえ、パーツパーツは常にアップデートしています。例えば、西ローマ滅亡の直接的な要因としてよくあげられるゲルマン民族の大移動ですが、そもそもゲルマン民族と呼べるような人々はいなかった。この部分は、ここ最近になってさまざまな学者が言い出したことです。昔は学問がそこまで進んでいなかったんですね。このように、部分部分はアップデートしています。

――いったん歴史書から離れますが、棚の上にあえて1冊だけ飾ってあるこの本は、なんでしょうか?

出口:『道しるべ』ですね。大好きな本です。ぜひとり上げてください。この本は、『ハドリアヌス帝の回想』と同じように、つかれた時に読み返す本の1冊です。どのページを読んでも、ほんとに美しい言葉と、すばらしい愛があるので、座右に置いておくのにこんなにいい本はありません。

――先ほど(前回)、本はほとんど読み返さないとおっしゃっていましたが、この本は例外なのですね。

出口:そうですね。一度読んだ本はあまり読み返さないのですが、つかれたときにふらっとページを開けてみる、というのは、この『道しるべ』と『ハドリアヌス帝の回想』、あとカリール ジブランの『預言者』です。この3冊は、ほんとうに言葉が美しい。

――いずれも訳書です。

出口:はい。『ハドリアヌス帝の回想』には有名なエピソードがあって、三島由紀夫がこの訳者の多田智満子さんを著名な男性作家のペンネーム(偽名)ではないかと疑っていたというのです。その硬質な文体があまりに美しいので、そのように思ったらしいのですね。多田智満子さんは詩人ですが、『ハドリアヌス帝の回想』は、本体の文章もすばらしいし、訳文も劣らずすばらしい作品です。

――美しい言葉は、つかれをとるのですね。

出口:(今回のインタビューは)読書というテーマなので、ぜひとり上げてほしい読書論があります。他の場所でもよく語っているのですが、私は、世界最高の読書論とは、皇后陛下のニューデリーでの基調講演(※2)だと思うのです。これは、ぜひ皆さんに読んでほしい。リンクをはっておいてください。

※2 第26回 国際児童図書評議会(IBBY)ニューデリー大会での基調講演(1998年)

――出口さんは「僕も、『美しいと思い、体が震え』ました」とTwitterで語っていました。

出口:あの皇后陛下の基調講演を超える読書論は、僕の66年の人生の中で読んだことがない。見たことも聞いたこともない。読書のすべてはあそこに書かれていると思います。過不足なく完璧に語られているので。完璧さという意味では、ミロのヴィーナスよりも美しいと思うのです。

経営者が読むべき本は、まず人間を知るための本である

――一経営者として伺いたいのですが、経営者に薦める本はありますでしょうか?

出口:この1-2年の間に出た本のなかで、経営者に読んでほしい本は、『社会心理学講義』に尽きます。経営は、というよりすべてのビジネスは、人間を相手にするものであり、人間がつくる社会を相手にするものです。なので、人間とはどういう動物で、人間とはなにを考えているのか、人間の社会はどうやってつくられているのか、そういうことが分からないでビジネスなんかできるはずがない、と思います。

――出口さんの言葉が、本の帯になっていますね。

出口:いまお話した内容をHONZに書いたら、出版社がそのコピーを(帯に)使わせてくれと言ってきたので、「公開したものは自由にどうぞ」と。生保は免許事業で専業義務があるので、(公開したものの転用以外は)本の推薦などはすべてお断りしています。

――(笑)。そういうことなのですね。ところで経営には「ビジョン」も必要だと言われますが…

出口:ビジョンを示すためにも、まず人間という動物をよく知らなければ。人間がどれほどアホで、どれほどしようもない生き物なのかを分からずして、ビジョンなんか作りようがない。だからこの本をまず薦めます。あとビジョンに関して敢えて話すとするならば、将来のことをある程度予測しなければならないので『2052』がいいんじゃないでしょうか。真っ赤な装丁の本です。

――未来を見通すためによい本、ということですね。

出口:そうです。まず『社会心理学講義』を読んで、人間や人間の社会に対する洞察力をきちんとつけるそして基本がわかったうえで、さて先の世界はどうなるのだろうかという見通しをたてるときに、『2052』を参考に読むといいと思います。

――御社の若い社員などにも、読むべき本を示したりされるのでしょうか?

出口:価値観の押しつけは大嫌いなので、社員にこれを読めと言ったことはありません。もちろん、聞かれたら答えます。本が嫌いなひともいますし、強制はしません。常々、「たくさん人に会い、たくさん本を読み、たくさん旅をして、いろいろな事象を知ること」と言っているのですが、勉強は本がすべてではありません。人に会って学んでもいいし、旅をしてもいい。もちろん本を読んでもいい、ということです。ただ、岩瀬(※3)には、社長にした時、『社会心理学講義』は読め、と言いましたけどね(笑)。

※3 岩瀬大輔 ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長兼COO

――(笑)。ところで、本を読む意味は、なんでしょうか。

出口:おろしろいことが全てでいいと思うのですが、あえて意味づけするとすれば、基本は、「自分が生まれる前に起きたことを知らないでいること、ずっと子どものままでいることだ――。」というキケロ(※4)の言葉がすべてを物語っていると思います。子供は、自分が生まれ育ってきた以前(昔)のことを知りませんよね。それは子供だから許されることで、大人になるということは、自分が生まれる前のことを色々と勉強して、人間とはこういうものだということを勉強しなければいけない。

※4 マルクス・トゥッリウス・キケロ(紀元前106年 - 紀元前43年) 共和政ローマ末期の政治家、文筆家、哲学者

――はい。

出口:唐の太宗 李世民(りせいみん)が『貞観政要』という本の中で言っているのですが、リーダーは3つの鏡をもたなければいけない。有名な3鏡(さんきょう)という話があります。まず1つめは「普通の鏡」。鏡をいつも見て、元気で明るく楽しい顔をしているかチェックしないといけません。大将がため息ついていて部下が元気になるはずはありませんよね。だから、まずは鏡をもたなければいけない。

――なるほど。

出口:2つめが「歴史」です。将来何が起こるかは分かりません。今の時代は特に、です。戦後の20世紀後半の時代はキャッチアップ型モデルで、アメリカに追いつき追い越せで良かった、アメリカに何年で追いつくかという視点で先が読めるんですね。けれど今は、モデルがないから先が読めない。読めないときには、過去以外に参考になるものは何もないんです。人間の脳味噌はこの1万3000年進化していないから、過去起こったことを勉強することでしか将来何かが起こった時に参考になる情報や対処する術を得ることができないのです。

――だから歴史は必須なのですね。

出口:はい。過去を勉強しない限り、将来を見越せません。そして3つめは「人間」です。王様は裸ですよ、といってくれる人間を近くにおけ、ということですね。これが3つの鏡の要点です。だからとにかく、先が読めないときには、過去起こったことを勉強するしかないわけです。唐の太宗の時代というのは620年ですから、それぐらいの昔から、ずっと語られている。この、過去のことを一生懸命勉強するしかないという言葉は「真理」なわけです。


(次回は、本を読む人が増えるために必要なブレイクスルーとはどんなことか。続きます...)

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プロフィール

出口治明
出口治明
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO

でぐち・はるあき/1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。

主な著書に、「生命保険入門 新版」(岩波書店)、「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)、「仕事に効く教養としての『世界史』」(祥伝社)、「ビジネスに効く最強の『読書』」(日経BP社)「早く正しく決める技術」(日本実業出版社)、「部下をもったら必ず読む『任せ方』の教科書」(角川書店)、「『思考軸』をつくれ」(英治出版)、「百年たっても後悔しない仕事のやり方」(ダイヤモンド社)など。

ライターについて

Writer 2
東海林真之

honciergeを運営する会社の代表。出版社に勤める両親のもとで生まれ、本に囲まれて育つ。 本屋をうろつき衝動買いをするのが趣味だが、書店員に限らず「人のおすすめを通じた本との出会い」は出会いの体験を豊かにするはず!という思いからhonciergeを開始。より多くの幸せな本との出会いを、みなが感じられるように、試行錯誤中。

プロフィール

出口治明
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO

でぐち・はるあき/1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。

主な著書に、「生命保険入門 新版」(岩波書店)、「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)、「仕事に効く教養としての『世界史』」(祥伝社)、「ビジネスに効く最強の『読書』」(日経BP社)「早く正しく決める技術」(日本実業出版社)、「部下をもったら必ず読む『任せ方』の教科書」(角川書店)、「『思考軸』をつくれ」(英治出版)、「百年たっても後悔しない仕事のやり方」(ダイヤモンド社)など。

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