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特集!あの人の本棚
79.

三船雅也   (バンド「ROTH BART BARON」Vo/Gt)


現実とファンタジーの境界線(ROTH BART BARONインタビュー)

三船雅也
さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回は東京出身の2人組フォークロックバンド、ROTH BART BARONの三船雅也さんに登場して頂きました。
現実とファンタジーの境界線(ROTH BART BARONインタビュー)

多彩な楽器を織り込んだオーケストラルなサウンドと深遠な歌声。その幻想的な歌の世界が海外のメディアからも高い評価を受ける東京出身の2人組、ROTH BART BARON(ロット・バルト・バロン)。カナダでレコーディングした新作『ATOM』が話題を呼ぶなか、ヴォーカルで歌詞を担当する三船雅也さんに影響を受けた本を紹介してもらいました。ROTH BART BARONは文学的な歌詞も高く評価されていますが、実は本嫌いだったという意外な過去が。そして、あのアニメ界の巨匠との共通点も明らかに!?

―― ROTH BART BARONの音楽には文学の匂いを感じるのですが、やっぱり子供の頃から本好きでした?

三船雅也(以下、三船) いや、小学校の時は大嫌いでした。文字だけっていうのはあり得なくて。だから、読書の時間とか感想文とかは、ばっくれてたんです。

―― それは意外ですね。じゃあ、もっぱらマンガ?

三船 マンガは読んでました。字が少ないじゃないですか。これならいけると思って(笑)。図書館で手塚治虫のマンガとか、『はだしのゲン』とか、歴史のマンガ・シリーズとか。そういうのばっか読んでました。あとは図鑑とか。

―― ビジュアルがないとダメだったんですね。

三船 文字を読んで想像するっていうのが面倒だったんですよ。母親が本好きで家にはいっぱい本があったんですけど、ぜんぜん手を付けませんでしたね。ただ、母は『ゴジラ』とか特撮ものも好きで、そういう映画はよく見てました。それで映画に出てくる兵器とかが好きになって、飛行機とか戦艦とかの図鑑をよく見てたんです。父親が船の修理の仕事だったからか、そういう影響もあったのかもしれないですね。

―― そんななかで読書に目覚めたきっかけは?

三船 高校の時に国語のテストで吉本ばななさんの『つぐみ』が引用されてたんです。テストに使われる小説って、たいてい面白くないんですけど、『つぐみ』はちょっとテイストが違ってて面白そうだと思ったんですよね。それで読んでみようと思って母親に「家にある?」って訊いたら、もうないって言われて、渋谷の紀伊國屋に買いに行ったんです。

―― 最後まで読めました?

三船 読めました。子供の頃に読み聞かせで児童文学みたいなものは読んでたんですけど、自分の意志で読んだのは『つぐみ』が初めてで。「読めるんだ!」と思って、そこから有名どころを読んでいったんです。村上龍とか村上春樹とか。村上龍は読めたんですけど、村上春樹はダメでしたね。『ノルウェイの森』、最初の数ページで読めなくなっちゃった。失礼な話ですけど。あと、自分が好きな図鑑の参考文献とかに載ってる本とかも気になりだして……。

―― 音楽の聴き方に近いですね。好きなアルバムのクレジットを見て、そのプロデューサーが手掛けている他の作品を探す、みたいな。

三船 同じですね(笑)。そういう探求心は子供の頃からあったんです。それで飛行機の図鑑の参考文献にのってたロバート・ウェストールの『ブラッカムの爆撃機』っていうイギリスの児童文学を読んだんです。第二次世界大戦の時の話で、いわくつきの戦闘機に乗るイギリスの少年が出てくるんですけど、敵側のドイツの戦闘機が撃ち落とされて墜落していく時に、ドイツ兵の「助けて!」っていう無線の声が偶然聞こえたりするんです。その場面が図鑑で引用されていたのを覚えてたんですよ。そんな風に、過去に出会っていたけど、ちゃんと読んでなかった本を読んだりしてました。

―― 子供の頃の記憶を再確認する、みたいな。

三船 そうです。ヘルマン・ヘッセの『少年の日の思い出』も小学校の教科書に載ってたんですよ。主人公が蝶の標本を集めてる子から、いちばん美しい蝶の標本を盗んでしまう。それを返しに行こうと思ったら、ポケットに入れていたので蝶がバラバラになってたっていう短編なんです。子供の頃に読んだ時、友達から借りてたものを壊しちゃうとか、自分に思い当たる経験があったんで、すごくリアリティを感じて記憶に残ってたんですよね。

―― そういえば、ROTH BART BARONの新作に「電気の花嫁/デミアン」という曲が収録されていますが、「デミアン」といえばヘッセの小説のタイトルですね。小説からインスパイアされたとか?

三船 あのタイトルは最初の仮イメージというか、無理矢理、曲にテーマを乗せたって感じですね。いつも、最初につけたタイトルのイメージをどう壊すか、っていうのを考えながら曲を仕上げていくんです。

―― タイトルがひとつの足掛かりになるわけですね。ウェストールの『禁じられた約束』も子供の頃に読んだ本ですか?

三船 いや、これは19、20歳の頃に本屋でバイトしてて、その時にこの新装版が出たんですよ。「あ、ウェストールだ」と思って買って読んでみたら面白くて。ヴァレリーっていう女の子が死んで、その幽霊にずっと主人公が悩まされるっていう話なんですけど、クライマックスのシーンがものすごくよく出来ていて。この世の世界とあの世の世界の境界で揺れ動く感じとか圧巻でした。

―― ウェストールは2冊挙げてますが好きな作家なんですね。

三船 『ブラッカムの爆撃機』を気に入ってから出会うことは多いですね。で、読むと宮崎駿さんの足跡が残ってるんですよ(笑)。解説を書かれてたり。

―― 宮崎さんも古い戦闘機とか好きだし。

三船 『紅の豚』とか、ジブリ好きには人気ないですけど、僕は結構好きなんです。飛行機の裏側の感じとか、ハンドルがどうなってるとか、ジャッキがどんな形だとか、すごくしっかり描き込まれているじゃないですか。ボート屋の息子としては、そういうところに親近感を感じるというか。ウェストールの小説も、第二次世界大戦当時の生活とか小道具を丁寧に描写していて。そういうのって、その世界に入り込むための重要な要素だと思うんですよね。

子供の頃、読んだ時に感じたことが、頭の中のどこかに引っかかっている

―― ウェストールも宮崎さんも世界観をしっかり作り上げてますよね。ROTH BART BARONの音楽も曲ごとに世界観を感じさせますが、曲の主人公の背景とか考えたりします?

三船 しますね。主人公がどういう日常で生きてるのか、どういう部屋に住んでるのかみたいなところは、やっぱり想像します。ル・グィンは小説を書く前に地図を作るって言いますが、僕も同じ感覚があって。そういうことって歌詞では語り尽くせないですけど、その代わり音があるし楽器があるから表現できる。言葉で説明する以上に聴いた人の想像を刺激するサウンドスケープみたいなものが作れるんで、そのへんは言葉より音楽の方が自由に表現できるかもしれないですね。

―― いま、話に出たアーシュラ・K・ル・グィンの『ゲド戦記』も宮崎さんの足跡が残っているというか、ジブリでアニメ化されましたね。

三船 そうですね。でも、これはアニメになる前から知ってたんです。僕、高校生の時にインディアンが好きで、『イシ』っていう本に出会ったんです。この本はインディアンと白人の闘いが終って、インディアンが居留地に移動させられた頃、イシっていう野生のインディアンが、カリフォルニアで身を潜めて生きてたのが見つかるところから始まる本なんです。そのイシと出会った人類学者のアルフレッド・クローバーの奥さん、シオドラ・クローバーさんが、ものすごく丁寧にイシがどういう風に白人から逃げて暮らしてきたかっていうのを事細かに書いているんです。イシは家族も、仲良かった女の子も失って、最終的に自分が一歩歩くごとに足跡を消して生きてきた。なかなか壮絶な本なんですけど、そのアルフレッドとシオドラの娘がアーシュラ・K・ル・グィンなんです。

―― 人類学の本を経由してル・グィンに辿り着いた。

三船 はい。ル・グィンの本を読むと両親からの影響を感じさせるんですよ。『ゲド戦記』は有色人種の魔法使いの話で、言ってみれば黒人が主人公。ル・グィンはアメリカ人でありながらも、キリスト教とはまたちょっと違う哲学で物語を書いているんです。この本は1968年に書かれていて、人種のぶつかり合いみたいなのもちゃんとファンタジーの中に入ってるし、ジェンダーの問題も入ってて面白いんですよね。

―― 同じくル・グィンの『闇の左手』は、ジェンダーをテーマにしたSFですね。

三船 こっちは男女両性で季節によって性が変わる異星人のお話で、ジェンダーとSFが混ざっていて「男女の違いってなんなんだろう?」とか、そういうことをすごく考えさせられるんです。で、性別を超えた友情みたいなものがストーリーの中心にあって、その奇妙な人間関係を丁寧に書いてる。『ゲド戦記』もそうですけど、家族とか男女とか、そういう枠組みに左右されない人間関係をル・グィンは描いていて、その価値観がすごく面白いんですよね。

―― そういう価値観の揺らぎみたいなものは影響を受けてます? というのも、ROTH BART BARONの歌は現実とファンタジーの境界線にあるような気がするんですよ。ファンタジックな歌詞だけど、そこに現実が透けて見えるような。

三船 現実とファンタジーの境界みたいなものをヒョイと超えられる瞬間、きっかけみたいなものは、日常の至るところに潜んでいると思っていて。今はどっちかっていうと、現実の方がファンタジー並みにとんでもなかったりするじゃないですか。恐ろしいことが多いから、ファンタジーを逃避のために使う人もいれば、現実と向き合うために必要としている人もいて。僕は境界線上をバランスをとって生きていく感覚が好きなのかもしれないですね。

―― なるほど。最後のレイモンド・ブリッグズ『エセルとアーネスト』は絵本ですね。

三船 レイモンド・ブリッグズって『スノーマン』を描いてた人なんですけど、これはご両親の話なんですよ。お父さんが牛乳屋さんで働いてて、奥さんメイドさんをやってて、夫婦に起きてる日常をただただ描いてるだけなんですけど、ドイツから飛んで来たロケット爆弾の背中が青だとか、そういう記憶を頼りに描いてるんです。これもやっぱり世界観がしっかりしてますね。

―― 記憶っていうのは、三船さんの読書のキーワードかもしれないですね。記憶に残っているものを再確認したり。

三船 今日話しててビックリしましたけど、意外とそういう体験が多かったですね。子供の頃に読んだ時に感じたことが頭の中のどこかに引っかかっているんでしょうね。本の内容というより、それって感覚みたいなものだと思うんですけど。

―― ちなみに小説を書いてみようと思ったことはあります?

三船 それはないです。長い文章はちょっと……。たぶん、メンバーでいちばん漢字も知らないと思うし。作家の人達はスゴいというか、自分のおよびもしない世界にいると思います。

―― 歌詞は全部、三船さんが手掛けてますが、やはり小説とは違うものなんですね。

三船 ぜんぜん違いますね。僕の場合、まずものすごい長い文をバーッと書いて、そこから言葉を削っていくんです。メロディにどう乗せるのか?とか、いろいろ考えながら。最初にミニ文章みたいなの書くので、それは若干、小説を書くのと近いっちゃあ近いかもしれないですけど、文章だけで物語を完結させて音を入れないっていう世界になってくると、話は別になるだろうなって思いますね。

―― 面白い歌詞の書き方ですね。良いフレーズが見つからない時に本をパラパラめくったりとか、そういうのは?

三船 もともと本を読むのがおっくうなほうなので、そういうやり方だと本に集中できないんですよ。だから、音楽とまったく関係ない時に「そう言えばあれ、買ってたな」と思ってパラパラって読んでいくと、すっと入れて楽しいですね。気分転換というか、「今日は音楽はしない!」って決めて本を読むことの方が多いです。

―― そうやって自然に自分の中に本を取り込んで、それが無意識に創作に反映されていくわけですね。子供の頃の読書体験が記憶に引っかかっているみたいに。

三船 そうですね。僕、英語の文章はぜんぜん読めないんですけど、とりあえず読み進めてみる、という坂本龍馬が漢文を読んでた時の方式を採用してて。自分が読める単語だけを読んで、それを想像でつなぎ合わせるんです。だからヒットするとものすごいホームランが打てるんですけど、外れるととんでもないことになるっていう。その傾向は音楽にもあって、ギターもFのコードが難しくて弾けないけど、そのままやってれば、そのうち出来るようになるんじゃないかと思ってやり続ける。フィーリング人間すぎて、ちょっと困ってるんですけど(笑)。

―― 龍馬方式の読書(笑)。じゃあ、読書も音楽も文明開化中って感じですね。

三船 僕は文明人になりきれない未開の人間なんですよ。これからも野蛮に生きたいと思ってます。

Photographs by Motoki Adachi

ROTH BART BARON・三船雅也が影響を受けた本

ブラッカムの爆撃機

ブラッカムの爆撃機

少年の日の思い出

少年の日の思い出 ヘッセ青春小説集

禁じられた約束

禁じられた約束

ゲド戦記

影との戦い―ゲド戦記

イシ

イシ―北米最後の野生インディアン

闇の左手

闇の左手

エセルとアーネスト

エセルとアーネスト
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プロフィール

三船雅也
三船雅也
バンド「ROTH BART BARON」Vo/Gt

ROTH BART BARONは、東京出身の三船雅也(Vo./Gt)、中原鉄也(Ds)によるフォークロックバンド。2008年に結成。真冬の米国フィラデルフィアで制作され、2014年にリリースされたデビューアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』が音楽メディアから注目を集め、高い音楽性と圧倒的なライブ・パフォーマンスが評判を呼ぶ。再び米国に戻り7都市をまわるUSツアーも敢行。帰国後に渋谷WWWで開催されたワンマンも大成功させる。2015年は大型ロックフェスにも出演、無名の新人ながら強烈なインパクトを残した。三船がSF映画から着想を得て、カナダ、モントリオールのスタジオにて現地のミュージシャンとセッションを重ね作り上げられた1年半ぶりのセカンド・アルバム『ATOM』を2015年10月21日にリリース。現在は全国ツアー“ROTH BART BARON TOUR 2015-2016「ATOM」”を行っている。http://rothbartbaron.com/

ライターについて

Writer 6
村尾泰郎

ロックと映画の評論家。子供の頃から本好きで、小学生の頃に読んだH・G・ウェルズ『宇宙戦争』に衝撃を受けてSFに夢中になり、コミック、アニメ、ホラー、パンク/ニュー・ウェイヴなどに囲まれて思春期を送る。

プロフィール

三船雅也
バンド「ROTH BART BARON」Vo/Gt

ROTH BART BARONは、東京出身の三船雅也(Vo./Gt)、中原鉄也(Ds)によるフォークロックバンド。2008年に結成。真冬の米国フィラデルフィアで制作され、2014年にリリースされたデビューアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』が音楽メディアから注目を集め、高い音楽性と圧倒的なライブ・パフォーマンスが評判を呼ぶ。再び米国に戻り7都市をまわるUSツアーも敢行。帰国後に渋谷WWWで開催されたワンマンも大成功させる。2015年は大型ロックフェスにも出演、無名の新人ながら強烈なインパクトを残した。三船がSF映画から着想を得て、カナダ、モントリオールのスタジオにて現地のミュージシャンとセッションを重ね作り上げられた1年半ぶりのセカンド・アルバム『ATOM』を2015年10月21日にリリース。現在は全国ツアー“ROTH BART BARON TOUR 2015-2016「ATOM」”を行っている。http://rothbartbaron.com/

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