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特集!あの人の本棚
83.

和嶋慎治   (バンド「人間椅子」Vo/Gt)


「怪談」と「エロス」を描いたアルバム。その背景を本から探る (人間椅子・和嶋慎治インタビュー前編)

和嶋慎治
さまざまなプロフェッショナルの考え方・作られ方を、その人の本棚、読書遍歴、本に対する考え方などから紐解いていくインタビュー。今回はホンシェルジュ「本と音楽」連載陣の一人、人間椅子の和嶋慎治さんに登場して頂きました。
「怪談」と「エロス」を描いたアルバム。その背景を本から探る (人間椅子・和嶋慎治インタビュー前編)

匂い立つエロスっていうのは、きっとある種の死も連想させる

人間椅子の最大の特徴であるホラーテイストを突き詰め、洗練さを増したエッジィなサウンド、そして文学的・哲学的な歌詞が有機的にミックスされた最新アルバム『怪談 そして死とエロス』が完成した。作詞・作曲の大半を担うギター・ヴォーカルの和嶋慎治は、ホンシェルジュ「本と音楽」連載陣の一人でもある。というわけで、今回のアルバムを語る際に関連性がありそうな本を何冊か持ってきてもらい、作品の背景にあるものをインタビューさせてもらった。

―― ホンシェルジュでの連載を毎回チェックしているので、日々のインプット=本が和嶋さんにはあるから、今回の『怪談 そして死とエロス』のようなアウトプット=音楽になるんだなということが、すごく実感できるアルバムでした。

和嶋慎治(以下、和嶋) 本を読む時は、本当にその本が必要だから読んでるわけですけど、そうやって自分の中に入ったものは咀嚼して外に出したくなるんだね、やっぱり。感銘を受けた部分とか、そういうものを自分なりのフィルターを通して世に出してみたくなりますよね。

―― 「怪談」がコンセプトですが、昨年8月に書いていただいた連載のテーマは「過ぎ行く夏に読みたい怪談」でしたね。

和嶋 連載を書いたのは去年だけど、その時から次のアルバムは怪談をやりたいと決めていて。伏線のつもりで書いたんだよ。あの連載の中で書いた怪談ってものの捉え方が、今回のアルバムで伝えたいことでもあるね。僕は思いついたことや自分にとって重要なことは紙に太字で書いてさ、部屋の壁とかに貼っとくんですけど、連載の原稿を書いてる時から「怪談」って貼ってましたよ(笑)。

―― (笑)。さらに「エロス」の要素もあります。

和嶋 まず、怪談っていうコンセプトでやりたいなって思った。連載にも書いたけど、小泉八雲に代表されるような日本の美しい心が描かれてる怪談を。死者との交流を通してさ、ただ漫然と生きるのではなく、「生」を生ききるってことが描かれてるもの。そういう立ち位置でアルバムを作りたいなと。でも、怪談だけだと、それこそ小泉八雲の作品をなぞっただけの作品だと受け取られるかもしれない。だから、もう一つ言葉が欲しいなと。それで「生」を生ききる上で表裏一体にあるものとして、「エロス」が出てきた。エロスっていうのは、それがあるから我々はこの世に存在できてるわけだし、ひとつの観念だと思ってるんです。行為ではなく、イメージというか。性行為って、生き物みんなするわけですけど、人間だけがそれを観念化してるわけですよ。だから、エロスに関係したアート作品も生まれるし、エロスと死という繋がりもある。そういう意味で、「生」を成り立たせてる重要な要素として、エロスがあると思いまして。

―― なるほど。そこまでの具体的なイメージが考えが先にあれば、サウンドの方も自然とそういうテイストになっていくんじゃないですか? 実際、ダークな要素もありつつ、どこか色気のようなものをサウンドから感じました。

和嶋 それを言うなら、まさにアートには色気が必要だと思うんだよね。ある種のキャッチーさと置き換えてもいいんだけど、そういうのがあることでハッと意識が呼び覚まされたりするわけ。そういうところに「生」のきらめきみたいなものがあるんじゃないかな。ぼんやり生きてる人って、色気ない人が多いからね。だから、エロスは「生」のキーワードだなと思うわけです。で、匂い立つエロスっていうのは、きっとある種の死も連想させるわけよね。エロスには、生の裏側にある死も垣間見えるというか……。まあ、言葉で書くと難しい。ジョルジュ・バタイユの『エロティシズム』を読んでみようと思ったら、非常に難しいのと一緒でね(笑)。でも、自分のアルバムならそういう感覚を抽出できるかなと思いまして。

―― じゃあ、最初に思い描いていたコンセプト通りのものができた?

和嶋 うん。バンドを20年以上やってきて思うのは、コンセプトとかイメージってすごく大事で。ただ漫然とした状態で作っていると、結局何が言いたいのかわからない作品になってしまう。つまりそれは、作品ではないわけだよね。作品っていうのは、それを通して何を表現したいかっていうのが、一番重要で。テクニックが伴わなくてもいいわけですよ。重要なのは、何を訴えたいかということ。表現が稚拙だとしても、「これを言いたいんだ! これを作品で訴えたいんだ!」っていうのが明確にあれば、人を惹きつけるんだなと思って。そのことに気づいてからは、イメージありきで作るようにしてます。

―― アルバム制作中に本を読んだりすることはあるんですか? それとも制作中は外部からの情報をシャットアウトするタイプですか?

和嶋 前はやってたんですよ。本を読みながら(曲を)作っていて、そこから何かを引っ張ってきたりとか。そうするとね、卒業論文みたいになっちゃう(笑)。引用に次ぐ引用というか、人の言葉になるの。他人の言葉を借りてくることで、自分がいなくなってしまう。やっぱり、50年くらい散々生きてきたんで、ある程度の言葉は自分の中から出さなきゃダメだろうし。それでいいものができなかったら、自分の努力が足りないだけなので。

―― では、本について話を聞いていきましょう。いずれもアルバムに関連したものということで、まずは『日月神示 神一厘のシナリオ』から。

和嶋 1曲目の「恐怖の大王」は、ダース・ベイダーの曲を作りたいと思ったのがきっかけでできた曲。ある日、ダース・ベイダーの有名なテーマ曲って大人も子供もみんな好きだなぁと思って……。彼は悪の象徴なのに、世界中で大人気なんですよ(笑)。なぜなんだろう?って。それは、悪をポップにやってるからなんだ。なおかつ、善の心があったのに悪に堕ちていった、アンチヒーロー的な存在でもある。たぶん、ルシファー的なもののSF的解釈だと思うんだけど……最終的に彼には善の心が蘇るんです。だから、ダークだけど救いのあるものに、みんな魅力を感じるんだなと。それで「ああ、俺もダース・ベイダーみたいな曲が作りてぇ」って作り始めたのが、この曲。だから、イントロがダース・ベイダーの曲に似てるんですよ。盗作ではなく、あの曲にインスパイアされて、いい具合にできあがった。ヘヴィ・メタルな感じもよく出てるし、ダークな香りのする、いい曲ができたなと思って。

―― はい。

和嶋 歌詞を書く時も「悪の帝国」っていうタイトルで書き出したんですけど、そしたらただのダークサイドの歌詞になってしまいまして。ダース・ベイダーの曲っていうよりは、そのバックにいるもっとダークサイドなもの、宇宙を破滅させてやる、みたいな意志の曲になってしまって(笑)。最初は「悪の帝国」で歌入れしたんだけど、「これはイカンな」と思いまして、最終的に全部書き直して、歌入れもやり直したんです。で、「恐怖の大王」だったら悪のキャッチーさを描けるし、ちょっとした懐かしさもある。それに割とシャレで済まされるタイトルだなと。単純に世界を破滅させるためにやってくるのではなく、世直しというか、現代の社会が病んでるとすれば……まあ、病んでると思うんですけど、それを一度正すために神様として訪れる「恐怖の大王」を歌詞で書こうと。

その時に参考になったのが、『日月神示 神一厘のシナリオー世界は神示に示されたように動く』。天理教とか金光教とか、新宗教ってあるじゃないですか。その中の一つに大本教っていうのがあって、その大本教にいた岡本天明っていう画家が書いたのが「日月神示」。いわゆる“おふでさき”と呼ばれるもので、神のお告げを書き記した文書のこと。江戸時代から“おふでさき”はあったんですけど、岡本天明が第二次世界対戦の終わり頃、神がかって書いた“おふでさき”が「日月神示」なんです。『日月神示 神一厘のシナリオ』は、ライターの中矢伸一さんが現代に「日月神示」を復活させて、執筆された本なんですよ。他にも関連書籍はいっぱいあるんですけど、手元にあった本を持ってきました。

「耳なし芳一」の話って怖い話みたいに思われてるけど、実は立身出世の話だなとも思うんですよ

―― どのへんが面白いんですか?

和嶋 まず、口調がいいんですよ。語尾に“~なのぞ”って出てきたりして……。今回、「恐怖の大王」の歌詞を書いていた時、自分でも無意識のうちに“やるのぞ”って出てきたから、そういう意味でも自分的には“おふでさき”で出来上がった曲なんです。そもそも、“おふでさき”にしろ「日月神示」にしろ、今の日本人は堕落していて、これからますます堕落していく。そして、何か世の中がひっくり返ることが起こるかもしれない……みたいなことが書いてある文書なんです。それを恐怖の大王と捉えて歌詞を書くと面白いなと思いまして。ただ、破壊とか破滅とか書くとシャレにならないし、みんなを不安にさせるだけだし、自分もそういうのは書きたくなかった。だから、ダース・ベイダーのように闇の中から善の心を蘇らせてほしいってことを書いたんです。

『ラー文書 「一なるものの法則」第1巻』は、オカルトの本です。宇宙とのチャネリングの本で、ダークサイドのことがよく書かれてるんですけど、これも少し参考になりました。ただ、宇宙人の話を始めると長くなるので、本の説明は省略しますね(笑)。

―― (笑)。あと、昨年の連載にも登場した小泉八雲絡みで、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の『怪談ー不思議なことの物語と研究』もありますね。

和嶋 この本はアルバムの指針にもなってますね。で、この中なら「耳なし芳一」と「雪女」をアルバムでやろうと思ったんです。誰でも知ってるお話だし、「ろくろ首」とは違って、日本情緒があるというか。アルバムの「芳一受難」って曲は、鈴木くん(鈴木研一/ベース・ヴォーカル)作曲なんですけど、お経が入った曲をやりたいっていう案が最初にあって。お経を入れるとすれば、今回のコンセプトを考えたら、これは芳一の歌しかないだろということで、自然と芳一の曲になりました。

でさ、「耳なし芳一」の話って怖い話みたいに思われてるけど、実は立身出世の話だなとも思うんですよ。芳一が非常な琵琶の使い手だってことで、平家の霊が集まってくる。いろいろあって耳を取られちゃうんですけど、最終的には幽霊が聴きにくるくらいの素晴らしい琵琶の使い手ということで、さらに売れるわけですよ、その後の芳一くんは。皆さんに愛されて名声を残すんです。そこがポイントだなと思うわけ。あの世にも魅力を振りまきつつ、それでも彼は皆さんにいい音楽を聴かせたいと願って、幽霊にも聴かせるし、耳を取られても活動を続ける。すごくいいい話だなと思って。

そういう感じを上手く取り入れたいなと思いつつ、「芳一受難」の歌詞は講談風にしたいと思ったんだよ。落語とか講談って、話のいいところを抽出してるわけだよね。物語の中で一番キャッチーなところ。忠臣蔵だったら、討ち入りのところだけやって終わるとか。 そういう感じで「耳なし芳一」をやると面白いと思って、あんまり説明口調にならずに、雰囲気が伝わるような歌詞を書いてみました。

―― 講談風だからこそ独特のグルーヴ感があって、曲中にお経のパートが突然出てきても違和感ないですよね。

和嶋 うん、そのためには芳一側ではなく、あちら側の声も歌詞の中に入れるとお経が生きるかなと思って。だから、サビの歌詞は敢えて平家の幽霊側の声にしたんです。平易な言葉なんですけど、それが怖くてですね、上手くいったかなと。あと、この曲は一つの救いになったところもあるんです。怪談というと、やっぱり死を扱うわけで。そういう意味で今回の作品は、タブーを扱ったアルバムでもある。だから、お経を入れることで、そういったことへのお祓い的な意味も持たせられるなと。だから良かったなと大変思っております。しかも、どの宗派でもやる般若心経なんですよ。形あるものに執着しすぎないように……ということをシンプルに教えてくれるお経が、般若心経なので。

(後編に続く)

Photographs by Motoki Adachi

人間椅子『怪談 そして死とエロス』とリンクする本 Vol.1

日月神示 神一厘のシナリオー世界は神示に示されたように動く

日月神示 神一厘のシナリオー世界は神示に示されたように動く(中矢伸一)

新抄大本神諭 三千世界一度に開く梅の花

新抄大本神諭 三千世界一度に開く梅の花(大本本部)

[天の叡智]日月神示 ミロクの道は悪を抱き参らせてこそ進む

[天の叡智]日月神示 ミロクの道は悪を抱き参らせてこそ進む(中矢伸一)

ラー文書 「一なるものの法則」第1巻

ラー文書 「一なるものの法則」第1巻(ドン・エルキンズ、カーラ・L・ルカート)

怪談ー不思議なことの物語と研究

怪談ー不思議なことの物語と研究(ラフカディオ・ハーン作・平井呈一訳・岩波文庫)
本と音楽の一覧 インタビューの一覧

プロフィール

和嶋慎治
和嶋慎治
バンド「人間椅子」Vo/Gt

1965年12月25日生まれ。青森県弘前市出身。大学時代、高校の同級生であった鈴木研一とハードロック・バンド「人間椅子」を結成。ギターとヴォーカルを担当。1990年、デビュー。ドラムのナカジマノブは2004年に加入。低迷期といっていい時代を経ながらも休止はせず、地道に活動を継続。近年は再ブレイクの兆しである。LIVE DVD&Blu-ray『現世は夢~バンド生活二十五年~』発売記念の全国ツアーの後、2015年11月には、OZZFEST JAPAN 2015に出演。2月3日には待望のニューアルバム『怪談 そして死とエロス』をリリース。また、2月19日からは全国ワンマンツアーが開催される。http://ningen-isu.com/

ライターについて

Writer 5
ホンシェルジュ編集部・芸術/芸能班

音楽、映画、アイドル、その他の芸術/芸能に詳しいライターによる班。もちろん皆が本好きだが、そのレベルや守備範囲はさまざま。日本のエンタテイメントのトップランナーを通じて、本/読書の楽しみへの入り口をつくりたい。あるいは本/読書という切り口を通じて、トップランナーの新たな一面を引きだしたい。

プロフィール

和嶋慎治
バンド「人間椅子」Vo/Gt

1965年12月25日生まれ。青森県弘前市出身。大学時代、高校の同級生であった鈴木研一とハードロック・バンド「人間椅子」を結成。ギターとヴォーカルを担当。1990年、デビュー。ドラムのナカジマノブは2004年に加入。低迷期といっていい時代を経ながらも休止はせず、地道に活動を継続。近年は再ブレイクの兆しである。LIVE DVD&Blu-ray『現世は夢~バンド生活二十五年~』発売記念の全国ツアーの後、2015年11月には、OZZFEST JAPAN 2015に出演。2月3日には待望のニューアルバム『怪談 そして死とエロス』をリリース。また、2月19日からは全国ワンマンツアーが開催される。http://ningen-isu.com/

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