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特集!あの人の本棚
10.

出口治明   (ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO)


好きなものを腹落ちするまで徹底的に深堀りして、そこから少しずつ広げていけばいい vol.3

出口治明
前回はキケロの言葉を引用しながら、「大人になるということは、本を通じて過去を知ることで人間を理解すること」だと語った、ライフネット生命保険株式会社CEOの出口治明さん。それでは、本を読む人がもっと増えるためにはどうしたらよいのでしょうか。出口さんの見解をお伺いしました。
好きなものを腹落ちするまで徹底的に深堀りして、そこから少しずつ広げていけばいい vol.3

大人がもっと本を読めば、子供は勝手に本を読むようになる
学生が本を読むためには、採用活動が変わればいい

――余暇時間の奪い合いなどさまざまな要因で、いま、本を読まない人が増えているようです。この現状をブレイクするにはどうしたらいいとお考えでしょうか。

出口治明会長兼CEO(以下、敬称略にて):先ず大人が本を読まなければいけないでしょう。大人が本を読めば、それを見て子供が本を読むようになる。若者が本を読まないといいますが、それは、大人が本を読まないからです。経営者が、雑誌の取材などに答える「私の一冊」で、司馬遼太郎とか『論語』――しかも原本ではなくてエピゴーネンの学者が書いた解説書――を挙げているような状況では、まともな本を読む社会は作れませんよ。

――それでは、大人がもっと本を読むには、どうしたらよいのでしょうか。

出口:端的に言えば、採用から変えることです。要するに、極端に言えば、学校の成績だけで採用すればいいのです。あるいは、面談では一切、勉強以外のことを聞かない。世界の一流企業はすべてそうしています。

――なるほど。そうすれば、学生は勉強をがんばりますね。

出口:ほとんどの学生は、いい会社に入りたくて大学に行くわけです。崇高な目的で勉強している人もいますが、ほんの一握り。だから、会社が、即ち、大人の社会が、徹底的に勉強して本を読んだ学生を大事にする、ということになれば、学生は自ずと勉強するようになるわけです。世界中の企業の中で、学生を採用するときに、クラブ活動とかアルバイトの経験とか、そのなかでのリーダーシップとか、こんなことを聞いているのは日本だけだと思います。世界の企業が聞くのは、君はなんでこの大学へ行って、なんでこの学問を選んだのか。そこでなにを勉強してどんな成績をとったのか。

――たしかに。海外の大学・大学院を受けた友人を見ていると、その点を聞かれていますね。

出口:というか、それしか聞いてもらえませんよ。だから、採用を根底から変えて、勉強する学生をつくることが一番の早道だと思います。

――そうすれば、大人が本を読むようになり、必然的に子供も本を読むようになる、と。

出口:だってお父さんがサッカーみてビール飲んでいるのに、子供に勉強せいと言っても、それはありえないでしょう(笑)。

――たしかに(笑)。なんで私だけ、となりますよね。

出口:お父さんが一所懸命本を読んで、おもしろいなぁ、とか、なるほど、と言っていれば、子供はそれを見ていて自然に、なんだかおもしろそうだから私も読んでみよう、と思いますよね。

――私がこのサイト(ホンシェルジュ)をつくっているのも、おもしろい本は世の中にたくさんあるのに、それに出会えていなくて「本はつまらない」と思い込んでしまっている人がいるのは残念、という考えがあるんです。

出口:それは、すばらしいと思います。みんなが食べていないけど美味い食べ物って、山ほどあるんだから、それだったら知っている人が教えるべきだと思います。

――クチコミ、というか、知っている人が良い本を伝える手段があればいいと。

出口:そうですね。読書は何と言っても古典がいい。多くの人が長い年月の中で選んできたものに悪いものがあるはずがない。僕の知っている若者で、めちゃめちゃ賢いひとがいて、ほんとうにいろいろなことを知っていて賢かったので、「君は大学でどうやって勉強したのか」と聞いてみたんです。

――それは、気になります。

出口:そうしたら、「大学に入った時に、岩波文庫を4年間で500冊読もうという目標を自分で勝手につくって、結果640-650冊読みました」と言っていました。

――すごい。けれど、やろうと思えばできることですね。そして、出口さんが「賢い」というほどの人は、そういう方法でつくられていたのですね。岩波文庫かぁ。

出口:いや別に、違う出版社の本でもいいのでしょうけれど。岩波文庫は一番古典の数が多いですからね。

古典も語彙がたまれば読みやすくなる
語彙をためるには、好きな本を一冊一冊丁寧に読んでいくこと

――すこし本から離れますが、本以外にどのように情報を仕入れているのかを伺いたいです。独自の仮説を築くためには、いろいろな情報を紡ぎ合わせているように思われますので。

出口:ほかは、新聞が基本ですね。僕は、新聞を20歳(ハタチ)ごろからずっと3紙読んでいて、発行部数の多い順で読売・朝日・日経なのですが、朝に1時間は新聞を読むクセをつけています。

――1時間で全部読むのでしょうか?

出口:見出しは、原則全部読みますね。記事の中身は、おもしろそうだったら読むのですが。世の中でいま何が起こっているのかを知るには、新聞が一番分かりやすい。そして3紙を読めば、バイアスもとり払われる。ファクトはひとつですから。

――なるほど。新聞も読み方次第、ということなんですね。そして、時系列でずっと読み続けてきたことが、いまの知恵につながっていると。

出口:そうですね。あと前職で国際業務をやっていた6年間は、フィナンシャル・タイムズとエコノミストを読んでいました。僕は英語は下手ですが、タイトルだけは追っていました。それだけでも随分と違うので。

――新聞と本だけが情報源といっても過言ではないのですね。

出口:テレビは見ませんので。他に、原典というか、たとえば世界史の勉強であれば、岩波講座の世界歴史シリーズ(※1)をよく読んでいました。学生時代から30代にかけては、岩波の講座ものはテーマが何であれほとんど読みました。予約出版なのでそれなりにお金はかかるのですが。最近の世界史では、他には山川出版社の世界各国史シリーズや中国なら講談社の中国の歴史シリーズがいいですね。

※1 岩波講座世界歴史 岩波書店から刊行された「講座もの」の歴史学叢書(そうしょ)。多数の研究者が書き下ろした論文を時代別に分け編集しています

――古典を読むときなのですが、難解すぎて挫折するひともいると思います。どんなに時間がかかってもゆっくりと読み進むのがよいのでしょうか。

出口:はい、という答えと、いいえという答えの2つがあります。すべてはいと答えたいのですが、僕はその読み方(ゆっくりと読み進むこと)ができるけれども、たぶん普通の人はできないと思うのです。それはなぜかというと、語彙の量の問題があるからです。語彙というのは、そうですね。たとえば、僕は歴史ならおそらく今までに5-6千冊の本を読んできているから、王様の名前を見ただけで、どんな王様でどんな時代にどういうことをした人かということが、すぐにイメージが頭に浮かびます。そうすると、読みやすいですよね。

――たしかに。小説も、キャラクターの人物描写がつかめてきた後半のほうが読みやすいです。

出口:そういう語彙が少ない人は、たとえば、イングランドならエドワードⅠ世とⅡ世とⅢ世がでてきた時点で、分からなくなってしまうんじゃないかな。ヘンリーI世、II世、III世~VI世とか。これらの人、どう違うんだと思いますよね(笑)。だけど僕は、ヘンリーI世~VI世も、VII世もVIII世も、ぜんぶ肖像画が思い浮かびます。そしたらイングランドの歴史書はきっと読みやすいだろう、ということはわかりますよね。

――わかります。ぜんぜん違いますね。

出口:古典が読みやすいかどうかというのは、基本的には語彙の「蓄積」だと思います。たとえば、昔の和歌の世界には「本歌取り」というのがあったのは知っていますか。昔は、まず万葉集から勉強することがあたり前だったので、皆、(万葉集の)歌を覚えているんです。そうすると、お互いにその歌を知っているという前提のうえで、歌を詠むときに本歌のごく一部を取ってきて作歌を行う。それでお互いに了解しあえるんですね。そこから歌の世界のイメージが広がっていく。それと同じです。

――語彙、そしてコンテクストをいかに知っているか、ということですね。

出口:だから、古典を読んで難しく感じるというのは、知識の不足なんですよ。だから、その点を補うためには、例えば岩波の「書物誕生」シリーズのような定評のある古典の入門書を紐解くのもいいと思います。

――裏を返すと、まずその知識を保有すれば、古典でも読みやすくなるということなんですね。

出口:そうです。そしてそのためには、一冊ずつ丁寧に読み込んでいくしかないのです。どこから入るかはともかく。だから僕は、自分の好きなものから読めと言っています。これが2つめの答えです。自分の好きな対象だったら、(読むことが)難儀でもがんばってみようと思えるじゃないですか。好きな女性だったらどれだけ冷たくされてもがんばれる、というのと同じ。

――(笑)。

出口:好きなジャンルを腹落ちするまで徹底的に深堀りして、そこからちょっとずつ広げていけばいい。きらいなものを読んでも賢くはなりません。好きこそものの上手なれですよ。好きな分野をひたすら読むのがいいと思います。


(次回は、広辞苑の読み方!?続きます...)

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プロフィール

出口治明
出口治明
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO

でぐち・はるあき/1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。

主な著書に、「生命保険入門 新版」(岩波書店)、「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)、「仕事に効く教養としての『世界史』」(祥伝社)、「ビジネスに効く最強の『読書』」(日経BP社)「早く正しく決める技術」(日本実業出版社)、「部下をもったら必ず読む『任せ方』の教科書」(角川書店)、「『思考軸』をつくれ」(英治出版)、「百年たっても後悔しない仕事のやり方」(ダイヤモンド社)など。

ライターについて

Writer 2
東海林真之

honciergeを運営する会社の代表。出版社に勤める両親のもとで生まれ、本に囲まれて育つ。 本屋をうろつき衝動買いをするのが趣味だが、書店員に限らず「人のおすすめを通じた本との出会い」は出会いの体験を豊かにするはず!という思いからhonciergeを開始。より多くの幸せな本との出会いを、みなが感じられるように、試行錯誤中。

プロフィール

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ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO

でぐち・はるあき/1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。

主な著書に、「生命保険入門 新版」(岩波書店)、「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)、「仕事に効く教養としての『世界史』」(祥伝社)、「ビジネスに効く最強の『読書』」(日経BP社)「早く正しく決める技術」(日本実業出版社)、「部下をもったら必ず読む『任せ方』の教科書」(角川書店)、「『思考軸』をつくれ」(英治出版)、「百年たっても後悔しない仕事のやり方」(ダイヤモンド社)など。

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