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特集!あの人の本棚
15.

出口治明   (ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO)


なにかひとつを選ぶということは、他を捨てるということ vol.4

出口治明
ここまで、本に関する話をずっと続けてくださった、ライフネット生命保険株式会社CEOの出口治明さん。本以外の趣味、たとえば映画や音楽、美術鑑賞などについてお伺いしました。あわせてベンチャー経営に関する考えや人生論も伺えました。
なにかひとつを選ぶということは、他を捨てるということ vol.4

本だけは、空いた時間に読めるので残している

――この部屋には本だけが並んでいますが、映画や音楽もたしなむのでしょうか。

出口治明会長兼CEO(以下、敬称略にて):映画も音楽も、あと美術も大好きなんです。ただ、時間がないので全部捨ててしまった。僕は前の会社にいるときは、例えば東京国立博物館など、いつも年始に年間チケットを買っていました。また、国際ビジネスをやっているときは、ニューヨークに行くことも多かったので、メトロポリタン美術館の年間会員券も買っていた。いつでもタダで入れるし、サービスも受けられますから。

――ベンチャー経営は、時間がありませんよね。

出口:そう。ライフネット生命というベンチャーをはじめたら、時間が全部なくなってしまった。けれど惜しいとは思いません。そう思うようなら、ベンチャーをやらなければいいんです。いいとこ取りは、できません。なにかひとつを選ぶということは、他を捨てるということです。だから美術館を巡ることも、ほぼ毎月2~3本観ていた映画を観ることも、音楽を聴きにいくことも、オペラを見に行くことも、好きなことはぜんぶ捨ててしまった。本だけは、空いた時間に読めるので残している、という感じですね。

――自分のペースで、自分の読みたいように読めるので。

出口:そうです。あとは全部捨てて、本しか残っていない。

――本を読む時間は、毎日割いているのですか。

出口:先ほど(前回)の新聞と同様で、新聞3紙を朝1時間、本を寝る前に夜1時間、というのが生活のリズムになっています。1時間は眠る前に本を読まないと、何か気持ちがわるくて眠れないのです。もちろん時間があったらもっと読みたいのですが、たいてい時間がないので眠る前と後は移動の時間ですね。

――読むスピードは早いのですか?

出口:普通の人よりは早いと思うのですが、ゆっくりじっくり読みますからね。いま鞄に入れているこの本(『「音楽の捧げもの」が生まれた晩: バッハとフリードリヒ大王』)だと、500pくらいのハードカバーなので、集中して読んで4~5時間ぐらいかな。あまり早くないです。でも、バッハも、ホーエンツォレルン家も「音楽の捧げもの」も全部好きなので、もう少し早くなるかもしれません(笑)。予備知識なくすーっと読めるので。

――速読については、どう思われますか?

出口:速読は時間の無駄です。速読したければウィキペディアの方が早い。速読は害毒に近いと思っています。本は著者と話をすることです。人と話して速読されたいですか。僕はいやです。どの本もそれなりにロジックが組まれているはずなので、頭から読むのがいいのです。そしてじっくり吸収しつくす。

――読書スタイルに関連してお伺いしますが、電子書籍は読まれますか?

出口:試みてみたのですが、僕の目には、本のほうが読みやすい。それだけのことです。身体が慣れているというだけ。本のほうがいいという訳でもないし、電子書籍がいいという訳でもなく、僕には、昔から本を読んできたので本のほうが慣れているというに過ぎない。価値観の押しつけは大嫌いなので、紙のほうがいいに決まっていると主張する人の気持ちがわかりません。僕はこっち(紙)のほうが好きだ、ということぐらいしか、言えないと思います。

知らない言葉があるかな、と思って
広辞苑を手あたり次第に読んでいたこともある

――この棚にある『広辞苑』が気になります。

出口:今度、(岩波書店の)雑誌『図書』に「あなたが選ぶ古典の3冊」とかいうテーマで書いてくれと言われたので、はいと返事をしたのです。そうしたら、この広辞苑を原稿料としていただきました。

――(笑)。原稿料なんですね。

出口:1500字くらいの文章で『広辞苑』をもらえるなんて、すごく経済効率がいいなと思いましたよ(笑)。僕は昔から『広辞苑』や辞書が大好きで。サラリーマンをしていたときに、入社したての頃ですが、あるとき早く仕事が終わったので本を読んでいたんですね。そしたら上司が怒るんですよ。おまえ仕事中に本を読むな、と。

――ありそうですね。

出口:「仕事全部済んだのですが」と言ったんですが、「あほ、そういう問題じゃない」という答え。これを聞いて、この上司はアホやな、と思って、これ以上話してもしょうがないなと思ったんですね。そして、じゃあ何を読んだら怒られないか、と考えて、『広辞苑』や国語辞典を読んだり百科事典を読んだりしていた。

――(笑)。

出口:そうすると、その上司は怒らないんですよ。『広辞苑』や百科事典を読んでいたら、こいつ仕事のために調べものしてるんだな、と思うみたいで(笑)。まぁそんなわけで、辞典類を読んでいるのは好きでした。

――辞典を読む、というのは、気になった単語を読んでいくのですか?

出口:手当たり次第に読んでいきますね。そうだ。僕、カバが大好きなんですよ。

――カバ。動物のカバですよね。そういえば、本棚の上にもカバの置き物がありますね。

出口:僕がカバを好きになったのは、実は岩波の国語辞典がきっかけなんです。

――(笑)。なんでですか?

出口:大阪で20代のころ、仕事が早く終わってしまったので、例によって岩波の国語辞典を手当たり次第に読んでいったんですよ。知らない言葉があるかな、と思って。

――知らない言葉! そういう読み方をするんですね。

出口:そう。そしたら、たまたま「サイ」が目にとまったんで、「サイ」を読んでみたんです。そこには「陸上に住む動物で、ゾウの次に大きい」と書いてある。そのとき、ふと、カバも大きかったなと思って、カバもひいてみたんですよ。そしたら、「陸上と水上に住む動物でアフリカにすんでいて、ゾウに次いで大きい」と書いてあった。

――(笑)。

出口:それで、すぐに岩波の国語辞典の編集部に電話して「サイとカバ、どちらが大きいんですか」と聞いたらむこうが絶句したんですよ。

――それは困ったでしょうね(笑)。

出口:そして、そのあとの版から、「ゾウに次いで大きい」という言葉が、サイのところからもカバのところからもなくなっていました。

――ちゃんと反映されたんですね(笑)。それはそれで、すごい。

出口:それからしばらくして、動物園に子供を連れて行ったんです。その時に、「そういえばサイとカバをひいたな」と思って、サイとカバをじっとみていると、カバと目があいました。おもいのほか、目がかわいい。「カバって結構かわいいな」と思って、その時からカバを好きになってました。

――(笑)。偶然の重なりで、おもしろいですね。

出口:うん。けれど、実は人生ってすべてそうなんですよ。ダーウィンの運と適応。運とは偶然のことです。因みに、この広辞苑でも、もちろんサイとカバはひきました。そしたらサイには絵があるのにカバにはない。これは差別やな、また編集部に電話しようかと(笑)。

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プロフィール

出口治明
出口治明
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO

でぐち・はるあき/1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。

主な著書に、「生命保険入門 新版」(岩波書店)、「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)、「仕事に効く教養としての『世界史』」(祥伝社)、「ビジネスに効く最強の『読書』」(日経BP社)「早く正しく決める技術」(日本実業出版社)、「部下をもったら必ず読む『任せ方』の教科書」(角川書店)、「『思考軸』をつくれ」(英治出版)、「百年たっても後悔しない仕事のやり方」(ダイヤモンド社)など。

ライターについて

Writer 2
東海林真之

honciergeを運営する会社の代表。出版社に勤める両親のもとで生まれ、本に囲まれて育つ。 本屋をうろつき衝動買いをするのが趣味だが、書店員に限らず「人のおすすめを通じた本との出会い」は出会いの体験を豊かにするはず!という思いからhonciergeを開始。より多くの幸せな本との出会いを、みなが感じられるように、試行錯誤中。

プロフィール

出口治明
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役会長兼CEO

でぐち・はるあき/1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、1972年に日本生命保険相互会社に入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当するとともに、生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、同社を退職。2006年に生命保険準備会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年の生命保険業免許取得に伴い、ライフネット生命保険株式会社を開業。2013年6月より現職。

主な著書に、「生命保険入門 新版」(岩波書店)、「直球勝負の会社」(ダイヤモンド社)、「仕事に効く教養としての『世界史』」(祥伝社)、「ビジネスに効く最強の『読書』」(日経BP社)「早く正しく決める技術」(日本実業出版社)、「部下をもったら必ず読む『任せ方』の教科書」(角川書店)、「『思考軸』をつくれ」(英治出版)、「百年たっても後悔しない仕事のやり方」(ダイヤモンド社)など。

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