【連載小説】「CROSS ROAD」第2話【毎週土曜更新】

更新:2017.11.11 作成:2017.11.11

遊びの誘いを断られたトオルは、ハルカに会えないなぁ、と思いながら秋休みを過ごす。

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連載第1回はこちら

 

秋休みは見事に暇になったわけで、そのありあまる時間を俺はライトバーガーでのバイトに使うことにした。思えば、バイトも始めてから半年が過ぎた。今ではカウンターでの接客からバーガー作りまで、大抵のことは出来るようになっている。

秋休みの期間は結構混むらしい。近くの大学で文化祭をする影響とのこと。そして、その大学の人がライトバーガーのアルバイトには大勢いるから、その人たちは文化祭に参加してバイトに入れない。すると、混むのにバイトの人数が少ないという奇跡の現象が発生することになる。まぁ、そのおかげで、ハルカと遊ぶためにバイトのスケジュールを提出していなかった俺みたいなやつが入れるわけだけど。ってか、1日くらい遊んでくれたって別にいいじゃんと思う。秋休みは1週間もあるんだから。

そんな感じで、俺は結構気合いを入れてバイトに入った。昼のピークは、ヒロタカとバーガー作りで並ぶことになった。

バーガー作りというのは流れ作業で、チームワークが重要になってくる。パンを焼き、ラップを出し、ソースを打ち、野菜やら肉やらを載せ、ラップする。こんな感じの流れなのだが、いかにスピードを速く、かつ丁寧に作るかが重要で、ようは単純作業なんだけど、それゆえに奥が深いというか。正直、まだ入り口くらいのレベルだから、どれだけ奥が深いかはわからないのだけれど、マネージャーの静司さんとかのバーガー作りを見ていると、スピードとか以前に次元が違う。

ヒロタカはやっぱり頭がいいから、俺が何をして欲しいかとか、どうしたいかとか、どうやったら速くできるかっていうのをわかっていて、ヒロタカと組むと、かなりやりやすい。やりやすいっていうのは、単純にスキルの問題もあるし、相性の問題もあると思う。

文化祭効果で、昼から夕方にかけて混んでいた店も、7時を過ぎる頃には落ち着いた。そして、それは昼前からバイトをしていた俺がアップする時間でもあった。

スタッフルームに戻り、先輩たちに挨拶をし、貴重品ロッカーのカギをあけ、スマートフォンを取り出す。新着メール問い合わせ……新着メールはありませんの文字。いつものことだ。

ハルカはSNSをやってないから、連絡手段はメールか電話ということになる。ハルカとメールをすることはほとんどない。今までに20通したかも怪しい。たぶん、10通はしていると思う。それも遊びの日程確認とかで、メール自体が目的のメールみたいなのはしたことがない。そういうレベルだ。ハルカは、一応携帯は持っているけれど、ほとんど使っていないんだと思う。

もしかしたら学校でも電源を切っているかもしれない。ハルカが誰かとメールをしているのとかは想像できないし、していたとしても事務的なメールだろう。それとも、澄香ちゃんあたりとはしているのだろうか。

会えなくても、メールとか、電話とかできれば、まだなんとかなったりするけど、学校で会う以外に、コミュニケーションを取る手段がほとんどなくて、メールくらい別にいいじゃんと切実に思う。

何でもいいからさ。演劇部の練習大変だったとか、眠い~とか、疲れた~とかさ。てか、ハルカが、眠い~とか言ってるのは想像できない。眠い~とかメールしてくるようになったら、ヤバいでしょ。

まぁ、とかなんとかいっても、ハルカとは秋休みの間音信不通みたいな感じなわけで、眠い~とかそんなんは遥か彼方の話であって、そしてこのタイミングで、はからずも遥か。いや、ハルカは春花なんだけど、やっぱ遥かだよな~とか。そんなことを考えながら、家→バイト→家→バイト→家みたいな秋休みを送った。

バイトは11時から始まって、夜の7時か8時に終わる。土曜日は夜の7時アップで、ヒロタカと静司さんとアップが一緒だった。静司さんが飯でも行くかと誘ってくれたので、俺とヒロタカはついて行くことにした。

© Patryk Kosmider – Fotolia

静司さんが連れて行ってくれたのは「水平線」という店で、レストランと飲み屋を足して2で割ったような感じだった。

駅から歩いて10分くらい。人通りが少ない道に面していて、知る人ぞ知るって感じがして、なんかいいなと思う。

静司さんがドアを開け、中に入る。俺とヒロタカも後に続いた。

照明が暗めの店内。といっても、アングラな雰囲気じゃなくて、なんかいい感じに、センス良く照明が当たっている。

「いらっしゃいませ」

一番近くにいた店員が、ドアが開く音に反応して言う。落ち着いた声で、違う世界に来たような雰囲気が増す。

「静司か」

いらっしゃいませと言った店員が静司さんに声をかけた。おそらく、静司さんより年上。浅黒い肌で体育会系のにおいがする人だ。ジンベイみたいな感じの服を着ていて、手ぬぐいを頭に巻いている。

「お久しぶりです」

静司さんが頭を下げる。身長の高い静司さんが頭を下げると、なんか迫力があって、おぉ、って感じになる。

「後輩?」

「はい。ライトのっす」

「高校生?」

今度はおれたちの方を見て聞く。

「はい」

ヒロタカが答える。

「じゃあ、酒はだめだな」

「すいません」

「ははっ、謝ることじゃないよ」

4人掛けの席に案内される。俺とヒロタカは手前に座り、静司さんが奥に座った。

ってか、今思い出したけど、ヒロタカと澄香ちゃんって付き合ってるんだよね。ってことは、この2人義理の兄弟? 俺、この場にいていいのかな。静司さん的には2人で腹割って話したかったりするんじゃないか。俺の妹泣かせたら殺すぞ、とか。いや、それはまずいよね、うん。俺が止めておくべきだろう。

「静司さん、ヒロタカを殺さないでください」

「はぁ?」

整った顔の静司さんが、目と口を大きく開いている。リアルに意味がわからないようだ。少し言葉が足りなかったか。

「すいません、こいつバカなんです」

ヒロタカが義兄さんに頭を下げる。

「確かに俺はハルカのことになるとバカになったりすることもあるけどさ」

「今の話に里中さん関係してんのか?」

「全然」

ヒロタカは何を言っているのだろう?

「わけわかんねぇ」

「ヒロタカにもわかんないことがあるのか」

「そのハルカっていう子は、演劇部の里中ハルカ?」

静司さんが、俺とヒロタカのどちらにというわけでもなく質問してくる。

「そうです」

俺が答える前にヒロタカが答える。

「えっと、その子と榎本が付き合ってるってことでいいのか?」

「違います」

ヒロタカが間をあけずに答える。

「それは俺のセリフだろ」

「トオルに喋らせると、話がめんどくさくなる」

「いや、でも実際、俺とハルカの関係とか複雑じゃん?」

「そうなのか?」

静司さんが今度は俺に聞いてくる。

「一晩で語りきれるかどうか……」

「花村、まとめてくれ」

「トオルが1年以上アタックを続けている関係です」

「なるほど」

「まとめすぎだろっ!」

「でも、間違ってはないんだよな?」

静司さんはヒロタカに聞く。

「はい」

「はい、じゃねぇだろっ!」

もっと色々あるだろ、エピソード的なあれが。

「でもまぁ、1年あれば色々あるだろうな」

さすが静司さん、わかってらっしゃる。

これは俺が話すタイミングだな? よしっ、いくしかねぇ。

「去年、僕とヒロタカとハルカは同じクラスだったわけです」

「とりあえず、ここまでは正しいのか?」

静司さんがヒロタカに確認を取る。

「大丈夫です」

うなずくヒロタカ。

「静司さん、どんだけ僕は信用されてないんすか!」

「なんというか、榎本が嘘つきとかいうんじゃなくて、話を聞いてると、ちょっと思い込みが激しい気がするというか」

ショック。

「澄香ちゃん、そんな話をしてるんですか?」

「澄香じゃなくて、ここ5分くらいの話だよ」

「トオル、おまえ5分で見破られてるぞ」

「僕は常に冷静ですよ」

……沈黙。

静司さんとヒロタカは視線を合わせて固まっている。

「……とりあえず、飯頼むか」

そう言って、静司さんはメニュー表をテーブルの端から取った。

「何か食いたいもんあるか?」

「何でもいいっす」

俺がそう言うと、隣でヒロタカもうなずく。

「じゃあ、適当に頼むぞ。飲み物は何がいい?」

「コーラでお願いします」

メニューを見ずに言う。コーラならば絶対にあるだろう。

「僕はアイスティーで」

「了解。すいません、注文お願いします」

静司さんが店員を呼ぶ。

メニュー表を横から覗いた感じだと、チャーハンやらサラダやらが載っている。パスタ類があるわけじゃないからイタリアンではないとして、中華料理って感じでもないし、和食とも違うし、何料理屋なんだろう? まぁ、それは別にいいか。

「じゃあ、変なところあったら、僕が訂正入れてくんで」

静司さんが注文し終わったのを見て、ヒロタカが言う。

「おぅ、クラスが一緒になってからの話だっけか」

「出席番号順で、榎本と里中で、一番後ろの窓際と窓際から2列目で、席が隣だったんですよ。で、隣の席で同じ班で、まぁ、なんかいっつもひとりでいるんで、気になったんですよ」

当時のことを思い出す。とりあえず、隣の席にかわいい女の子が座ってれば意識するというか、まぁ、そんな感じで、もちろん、最初っから付き合おうとか思ったわけではないし、一目ぼれってわけでもない。

「すいません、自分から言っといてあれなんですけど、上手く話せそうにないです。なんか、これっていうきっかけがあるとかじゃなくて、気がついたら好きになってたパターンなんで」

少しうつむき気味になる俺。

「どういうところが好きなんだ?」

「好きなところとか言われても。ハルカ、完璧なんで」

「これは重症だな」

静司さんがヒロタカを見ながら言う。

「はい」

このままだと重症ということにされてしまう。どういうところが完璧か言えばいいってことか? よし、じゃあ言ってやる。

「ハルカ、結構バシバシ言うところあるじゃん? それってきついみたいに感じるかもしれないけど、裏表がないっていうか、誠実っていうか、人によって好き嫌いはあるだろうけど、俺はその方が好きだし、一緒にいて楽」

「トオル、実は結構気つかうもんな」

ヒロタカは俺のことをよくわかってくれているみたいだ。でも、気をつかっていることがわかるような気のつかい方は、あまりいい気のつかい方ではないと思う。

「静司さん、こんな感じで大丈夫ですか?」

静司さんはハルカのことを直接知らない。知らない人間の話をしていて大丈夫なのだろうか?

「いや、俺は大丈夫だよ。恋バナっての? いいじゃん」

静司さんは口の端をニヤリとさせて言う。わざと恋バナなんていう言葉を使って場を和ませてくれる。

飲み物とサラダが運ばれて来た。

サラダを3つの小皿にヒロタカが取り分けてくれる。

「学校祭の時の劇の役柄と近い感じってことか?」

学校祭の女王役のことを言っているようだ。

「いや、ただバシバシ言うだけなら好きにならないですよ。言いたいことは、はっきり言うけど、優しいっていうか。なんていうか、実際に話してみないとわからない部分はあると思います。はたから見てたら、ただ冷たいだけに見えるかも知れません」

「なるほど、まぁ、あれだな、頑張れ」

静司さんはバカにするでもなく、醒めた目をするでもなく、笑いながら言う。応援はするけど、余計な干渉はしないというか、心地よい距離感の頑張れだった。

「はい」

俺がうなずいて、ターンエンド。次はヒロタカのターンかな?

とりあえず、ヒロタカが取り分けてくれたサラダに手をつける。シーザードレッシングがかかっている。普通にうまい。つまらない感想でごめんなさいだけど、レポーターとかになる気はないから許して欲しい。

「大学ってどうなんですか?」

ヒロタカが聞くと、静司さんは口の中のサラダを飲み込んで答える。

「俺に聞くのは間違ってると思うぞ。俺、大学にいる時間より、ライトにいる時間の方が長いし」

静司さんは社員かと思うくらいバイトに入っている。

「何学部なんでしたっけ?」

「社会学部。うちの大学の社学は、授業でなくても単位取れる楽勝学部だから」

「そんなのあるんですか?」

「大学によるし学部によるけど、授業の選択間違いなきゃ、毎日夏休みみたいなもんだよ」

そう言って、静司さんは笑う。

「まぁ、間違いなく言えるのは、高校よりは楽だし、時間が出来るってことかな。あと、文系は楽だけど、理系は大変かな。遊びたいなら、文系にしといた方がいいぞ」 

俺は文系に行くと思う。問題はハルカが理系に行くらしいことだ。ハルカは英語も国語もできるけれど、数学の成績がずば抜けている。へたしたら学年トップだ。

「大丈夫です。僕もトオルも文系なので」

「そういえば、澄香も文系って言ってたな」

「ハルカ、理系だからな~。来年クラス離れちゃうか~」

「クラス離れたらどうするの?」

「もちろん、毎日遊びに行く」

静司さんを見ると、俺とヒロタカのノリがわかってきたみたいで、楽しんでくれているように見える。楽しんでくれているってのは、ちょっとおかしいか。まぁ、なんか、そんな感じ。

「里中さんがいればな」

ヒロタカがつぶやくように言う。

「どういう意味だ?」

静司さんがヒロタカに聞く。

「無茶苦茶ツッコミ上手いんですよ。里中さん」

「ほぅ、それは見てみたいな」

「あれは見る価値ありますよ」

「まぁ、それも、俺とハルカの信頼関係のなせる技というか」

こんな感じで、飯を食いながら、結構いい感じに話をした。

それにしても秋休みが長い。ほとんど毎日ハルカと会っていた状況の中で、まったく会えない日が数日続いて、このまま会えないんじゃないかという気すらしてくる。月曜日になれば、10中8、9会えることはわかっているのだけれど。

ってか、まじめにどうすればいいんだろう。ひとつひとつ整理していくと、俺はハルカが好きで、ハルカと会いたいし遊びたいし電話したいしメールしたいし、とかまぁ、そういう前提があって、でも、ハルカは乗り気じゃないみたいなところがあって、それを無理に付き合わせるのは違うと思うし。たとえば、一緒に映画観に行ったりして、つまんなそうな顔をしていたら、そういうハルカを見るのも嫌だし、ハルカがそういう気持ちになるのも嫌で、そんなことになるくらいなら、一緒に遊ばない方がいい。でも、このままの感じでいくと、来年は理系と文系でクラスが分かれることだし、今よりもっと会えなくなる。

自分的にすごく頑張っているつもりだけど、正直、付き合ってとか言って、ハルカがOKしてくれる気がまったくしない。はっきりと手ごたえがない。笑うしかないような状況だ。でも、ハルカ以外の人をハルカ以上に好きになれる気がしないし。ハルカにその気がなくても、俺はハルカ以外の人と付き合う気はないから、ハルカがOKしようが、断ろうが、俺のやることは変わらない。もちろん、ハルカが本気で迷惑そうにしてると感じたら、距離はおくつもりで、とにかく俺の中の一線は守るつもりだ。よしっ、じゃあ、一晩寝て、ハルカに会いに行こうかな。

次回:11月18日土曜更新予定

第3話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走2

2014年11月07日
大場諒介
KDP