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【連載小説】「CROSS ROAD」第3話【毎週土曜更新】

更新:2017.11.18 作成:2017.11.18

秋休み明け。迫る体育祭に向けて、トオルは、ハルカと一緒にソフトボールをやろうと画策する。

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連載第1回はこちら


月曜日、しまってくぞ、おー。ってな感じで気合いを入れて学校に向かう。 

目覚ましなしで目も覚めて、朝シャンして、してる間にパンを焼いて、制服に着替えて、パンを食べて家を出た。

かなり早起きをして、いつもと違う感じで家を出て、うまく言えないけれど、どこか特別な感じがして、家から駅までは人通りが少なくて、自分だけの世界じゃないけど、いつもと違う雰囲気のいつもと同じ道を歩くみたいなのは、なんかいい感じだ。

明るすぎず暗すぎない空。早いといっても、太陽が出ているはずの時間だから、今日はくもりなのだろう。 

駅に着くと、いつもよりは少ない人がホームで電車を待っていた。眠そうにしている人はあまりいない。この時間に電車に乗るのが日常というようなオーラを発している。すごいなと思う気持ちと、俺も将来はこうなるのかな? こんなに朝早く起きるのは嫌だなっていう気持ちが入り混じる。

将来? いや、待てよ。もしかしたら、社会に出る頃にはハルカと暮らしていて、朝ご飯とか作ってくれているかもしれないじゃないか。それ、ヤバいでしょ。

朝起きて、会社に行く前にハルカが朝ご飯を作ってる姿をゆっくり見られるなら早起きも悪くない。

電車が来る。いつもは学校まで立っていくのだが、今日は席に余裕があるので座る。

同じ車両に制服を着た学生がいないのを見て、学校に着いたら暇だろうなと思う。

イメージトレーニング。

俺はひとり、席に座って待っている、ハルカが教室に入ってくるのを。天井を見上げてみたり、机に突っ伏してみたりして時間を潰して、ドアの方に気配を感じるたびにそちらの方をむいて、なんだ、ハルカじゃないのかとか思いながら、おはようとか言ったりする。教室には生徒が集まり始めるが、ハルカの姿はない。そのうちに、澄香ちゃんとヒロタカが登校してくる。ハルカはまだ来ない。チャイムが鳴る。ハルカの姿はない、なんて……そんなの嫌だぁー。ハルカのいない学校なんて学校じゃない。そうだ、きっと俺は学校を間違えたんだ。澄香ちゃんもヒロタカも間違えたみたいだ。みんなバカだなぁ~。やれやれ、今日はとりあえず家に帰ろうかと思って立ちあがったら、なぜか、いつもは注意しない担任の瀬川に呼び止められる。いや、だって、先生、ハルカがいないんですよ? 僕は帰ります、と言って帰ろうとしたところで、目が覚めた。

© structuresxx – Fotolia

どうやら電車の中で眠ってしまったようだ。窓の外の見覚えのある景色に安心する。

電車は学校の最寄り駅のひとつ前の駅に停車する。

押し引きについて考えてみる。押しても駄目なら引いてみなってやつ。恋愛の基本……とかいうほど経験豊富じゃないけど。そういう話を聞いたことがあるし、あながち間違っていないように思う。押し、押し、押し、って感じで来られてもうっとうしいだろうし、引くことにより、自分の不在を強調し、意識させる。いやでも、ハルカは引いたとしても意識しないだろうな。やはり、押すしかない。押すしかないのか?

電車の窓に駅のホームが流れ込んでくる。

俺は立ち上がる。

時間があるから、ライトバーガーに寄って朝食でも買おうかなと思うけれど、やめておくことにする。朝早くに行くのは恥ずかしい。知ってる人がいない可能性もあるし、仮にいたとしたら、なんでこんなに朝早くいるの? みたいなノリになるかもしれないし。なんだか、恥ずかしめんどくさい。

いつもはうちの学校の生徒がどわっといて、ハンパなく混む駅なのだけれど、今日はすいている。

! あれ? 見間違いだろうか? ハルカらしき人が俺の前を歩いているのだけれど、うちの制服を着ているし、East Boyのカバンだし、スカートはうちの学校の生徒にしては珍しく膝丈(みんなもっと短い)だし、髪のツヤがハンパないのが離れててもわかるし、歩き方がハルカって感じだし、ってか、オーラがマジでハルカ! 間違いねぇ。

「ハールカー」

……反応なし。イヤホンをしているとみた。

ダッシュ。走れ、トオル、風よりも速く。

ハルカの横を通り過ぎ、横目で確認、ハルカだ!

3歩ほど通り過ぎたところで振り返る。

「おはよう」

右手を上げたら、なぜかピースサインになってしまう。

ハルカは立ち止まり、右耳だけイヤホンを外す。

「なんでいんの?」

これはフリとみた。

「ハルカがいるから」

今度は親指を立てる。

ハルカはため息をついて、イヤホンを右耳にはめ直し、歩き出す。

「なんでイヤホンをはめる。ここは一緒に登校パターンでしょうが!」

俺が横からツッコミを入れると、ハルカは眉根を寄せ、再びイヤホンを右耳から外す。

「今日は朝練で、劇中で歌う曲を確認したいんだけど」

「なるほど。了解。じゃあ、黙ってる。いい子にしてる。邪魔しない」

俺がそう言うと、ハルカはイヤホンをはめ直した。

ハルカと歩調を合わせて歩きながら、こういうところがいいんだよなぁ、と思う。

冷たくされるのが好きとかじゃなくて、普通女の子なら、曲の確認したいなと思っていても、イヤホン外して話したりするんだと思う。

ハルカは自分がやりたいことをはっきり言う。ハルカがやりたいことがわかれば、俺はそれをさせてあげたいと思うし、話したくないのに話させるっていうのは、一番やりたくないことだ。

もしかしたら勘違いかもしれないけど、本当に迷惑な時と、ちょっと迷惑な時と、別に話してもいいかなって時は、言っていることが同じでも、微妙にトーンとかが違う気がするし、その違いが俺にはわかる気がする。違いのわかる男、トオル。

ハルカの気が散るといけないから、ハルカの方は見ない。ハルカが向いているのと同じ方を向いて歩く。

時々、俺の言っていることが伝わっているのか不安になる。不安になるというか、たぶん伝わってない。

もちろん、俺の言っている言葉の意味はわかるんだろうけど、でも、俺が伝えたいのは言葉の意味じゃなくて、言葉という手段を使って表現する俺の気持ちなわけで、たぶん、俺の気持ちは伝わっていないと思う。

といっても、今の俺にできることは、両耳をイヤホンでふさいでいるハルカの横を黙って歩くことなのだろう。

6時間目、ホームルーム。体育祭の種目決め。司会は体育係、そう俺だ。

体育係は男女1人ずついて、これは着替えとか、まぁ色々、男2人とか女2人じゃ対応できないあれこれがあるからで、とか正直そんなことはどうでもよく、女の方の体育係は北川といって、確か美術部だ。

もちろん俺は係決めの時に、ハルカと一緒に体育係をやろうとしたのだが、というか、ハルカに何係にするつもりか聞いても教えてくれなかったから、ハルカが手を挙げた体育係に手を挙げて、見事ジャンケンに勝ったんだけど、ハルカが負けて、こういうことになった。

女子で体育係に手を挙げたのは、ハルカと北川のふたりだけだった。ハルカは北川が希望していると知って辞退しようとしたが、北川は北川でそれは悪いですみたいな感じになって、結局ジャンケンすることになった。

北川は、ふち無しのメガネをかけていて、これで黒ぶちメガネだったら、ニックネームは委員長で決定だろうなみたいな感じだ。でも、委員長タイプの性格じゃなくて、むしろ内気な感じで、そこのギャップを楽しむ感じの委員長というニックネームで、いじられキャラ的なポジションを獲得できること間違いなしだ。

高校の種目はサッカー、バスケ、バレー、ソフトボールで、サッカー、バスケ、バレーの3つは男女別で、ソフトボールだけ男女混合だ。

正直に言おう。サッカーとかバスケとかバレーとかどうでもいい。勝手に決めてくれって感じだ。大事な点は2つ。ソフトボール参加に必要な人数を確保することと、ハルカがソフトボールに参加することだ。

「人数の関係もありますので、とりあえず全体の希望を確認したいと思います」

体育祭の種目決めは係り決めと違って、明確な定員があるわけでもない。極論、クラス全員でソフトボールを選択してAチーム、Bチーム、Cチームとかに分けてもいいのだ。

全体の希望を確認、一通り希望を取るというのは、簡単に言うと、空気読めよってことだ。たとえば、バスケ希望がひとりだとしたら、他の種目にしようぜってこと。そのバスケ希望のひとりには申し訳ないけれど、まぁそういうこと。司会によっては、全員の希望をできるだけ叶えようとするやつもいるかもしれないけれど、そのバスケ希望のひとりの希望を叶えるために他のやつを犠牲にするのかって話にもなるし、無理して組んだチームがうまく機能するとは思えないし。とりあえず、そんな感じで希望種目に手を挙げてもらうことにした。

俺が種目を聞き、北川が人数を数え、黒板に書くという感じで種目決めは進んでいった。

いい感じにばらけていて、そりゃそうだよなと思う。仲のいいやつらはホームルームの前に、サッカー一緒にやろうぜとかそういう感じで話をしているだろうから。

そして、運命のソフトボール。

「ソフトボール希望の人」

俺が言うといくつか手が挙がる。

ハルカ、キター。教壇の机の下で小さくガッツポーズ。

他は、ヒロタカ、澄香ちゃん、村上、山下、奥山……えっと、俺入れて7人? まずくない? ソフトボールって9人だよね? あと2人カモン!

「北川さん、俺もソフトボール希望ね」

俺がそう言うと、北川は頷いて、黒板に「8」と書いた。

8? 数え間違いかと思い、教室を見渡すが、挙がっている手は6しかない。

「7じゃないの?」

「私もソフトボール希望なので」

北川は俺の顔を真っ直ぐに見て言う。声のトーンはゆったりとしているのだけれど、強い視線に、こんなやつだったのかと思う。もっと内気というか、人とコミュニケーション取るの苦手です、みたいなキャラだと思っていたのだけれど、芯が強いのかもしれない。

そして、8人。ということはあと1人。他から引っ張ってきたいけど。

「あと1人、たぶんなんとかなるぞ」

山下だ。

「マジで?」

「あぁ、たぶん杉本はソフトボール」

杉本尚樹。うちの学校には珍しい不良系の男子。今日は学校を休んでいる。

なんかよくわかんないけど、ソフトボールになったし、ハルカいるし。完璧じゃん?


次回:11月25日土曜更新予定

第4話

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青い暴走2

2014年11月07日
大場諒介
KDP