【連載小説】「CROSS ROAD」第5話【毎週土曜更新】

更新:2021.2.15 作成:2017.12.2

ついに始まった体育祭。練習では負けなしだったトオルたちだったが、1試合目の1回からエラーをしてしまい……。

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連載第1回はこちら

体育祭当日。

天気予報によると最高気温は20度。晴天。文句なしだ。

体育祭は中学と高校で別になっていて、中学の体育祭は昨日開催された。

ソフトボールのチームを組めたのは8クラスで、トーナメントで3回勝てば優勝ということになる。男女混合で9人集めるっていうのは、結構難しいことなのかもしれない。男はサッカー、女子はバレーが一番人数の集まる種目だ。

陸上グラウンドで開会式を終え、種目ごとに会場へ向かう。

うちの学校は無駄に敷地が広く、野球場、陸上グラウンド、サッカーグラウンド、バスケットコート、テニスコート、体育館と無駄に施設も充実している。中高合わせて3000の人数の生徒を集める私立だけはある。

ソフトボールはもちろん野球場だ。

野球場内に試合場が4つ作られ、審判などは現役野球部が担当する。高2も高3も同じ野球場を使う。試合は回数制ではなく、時間制だ。30分で試合終了。攻守を均等にするため、ツーアウト交替制。引き分けなら後攻の勝ちというルール。

1試合目の相手は3組。

山下曰く、ひとり元野球部がいるが余裕とのこと。

ポジションは最初の練習で山下が考えた通りだ。ピッチャー山下、キャッチャー杉本、ファースト村上、セカンド澄香ちゃん、サードヒロタカ、ショート俺、レフト奥山、センターハルカ、ライト北川。

うちのチームは後攻だった。

1番バッターは男子。おそらく経験者のやつ。

守備位置につくと急に緊張してきた。自分のところにボールが飛んできて、エラーとかしたらどうしよう。ってか、後ろにハルカいんだよな。トンネルとかしたらマジまずい。不登校になるかもしれない。

山下の投球。ボールが手から離れる。

ストライク。

速ぇ~。練習試合の時より速ぇ~。あれは打てねぇよ。マジ、敵じゃなくてよかった。

2球目。1球目にはバットを振らなかったバッターもさすが経験者だけあって、タイミングよくバットを振る。しかし、当たらない。

あっという間にツーストライク。こいつ、全部三振にすんじゃね?

3球目。振り遅れで三振かと思ったが、バットがボールをとらえる。ボールはライト方向に高く上がった。ライトは北川だ。

北川は見るからに緊張していた。グローブを高く上げて、後ろに行ったり前に行ったりしている。でも、意外といい位置にいる。もしかしたら捕れるかも。

最高点に達したボールは落下し、北川のグローブに入った。

落とした。ボールは北川の足元に転がる。

バッターは一塁を回っている。

テンぱった北川はボールを拾い、一塁へ送球。

ボールは村上の1メートルほど頭上を越えていく。キャッチャーの杉本がカバーに入る。

杉本はボールを拾い、送球モーションにはいるも送球を諦める。

バッターはその間に三塁へ進んでいた。

俺は二塁ベース上に突っ立っていた。

やべぇよ、北川、目に見えて落ち込んでるし。セカンドの澄香ちゃんがフォローいったけど、今にも泣きそうだ。でも、試合は続くからいつまでもフォローしてはいられないし。

結局、次の女子バッターがセカンドゴロを打って、その間に三塁ランナーがホームに滑り込んだ。山下は、女子には本番でも本気は出さないらしい。抜いたボールを投げている。

次の素人男子バッターを難なく三振に取ってツーアウトチェンジ。

 

© mikesjc – Fotolia

うちの攻撃。ベンチに戻った北川を慰める担当は奥山になったようだ。おそらく適任だと思う。一緒にキャッチボールをしていた仲だ。

1番山下。頼む、北川のためにも打ってくれ。

山下は初球から打ちにいった。ボールを完璧にとらえ、三遊間を抜く。女子が外野に守っているのを見て、フライを上げたらワンバウンドキャッチでもアウトになるから、ゴロで内野の間を抜いたのだろう。

山下はガッツポーズするでもなく、当然といった風な感じでベース上に立っている。

2番村上。

村上は初球を見送りタイミングを取る。慎重だ。

2球目、少し高めの球をセンターにはじき返す。センターの前に落ち、センターはスリーバウンドでキャッチ。

ノーアウト、ランナー一塁二塁で、バッターは3番杉本。

杉本はバッターボックスに入る前に、ベンチの方を見る。そして、何を言うでもなく、バッターボックスに入った。

1球目、ちょっと高めだがおそらくストライクの球。杉本は見送る。案の定ストライクだった。

2球目、1球目と同じようなところにボールがいく。さすがに打つだろう、と思ったが、またも見送る。ストライク。これでツーストライク。後がなくなった。

3球目、さっきより少し低めの球。というか、ほぼ真ん中だ。杉本は思い切りバットを振り抜く。ボールはレフトとセンターの間へ、ボールが内野の頭上を越えた頃には、確実にワンバウンド以内では届かないなと思った。

二塁ランナーの山下は難なく生還。続いて一塁ランナーの村上も生還。

バッターの杉本は三塁まで進んだ。

ベンチはかなり盛り上がる。これで2対1、逆転だ。

生還した山下、村上とハイタッチをする。

三塁上の杉本だけが盛り上がっていなかった。でも、遠目にも喜んでいるのがわかる。

「ナイスバッティング!」

とりあえず叫んでおいた。

そして、この盛り上がっている雰囲気の中、4番ですよ、4番。

「ハルカのために打ってくるぜ」

「ちゃんとヒット打ちなよ」

おっ、まともな声援。気合い入るぜ。これは打つしかねぇ。

バッターボックスに入る。緊張もしているけれど、興奮の方が今は強い。なんか、今なら打てる気がする。

1球目。

……あれ? こんなに速いの? あいつら、これ打ってたの?

「トオル、かっ飛ばせ」

ヒロタカが柄にもなく叫んでいる。 

ってか、ピッチャー元野球部のやつじゃん。 
 

2球目。高め。とりあえず、振っとけ。バットがボールをとらえる感触が手に伝わる。

当たった~。しかもいい当たりだぁ~。センターの方にボールが飛んでいく。 
 

うっしゃ、ヒット。一塁めがけてダッシュ。

ボールはワンバウンドして、センターのグローブへ……あれ? 捕ったの女子だよね? ってことはアウト? 
 

「アウト」

審判が声を上げる。

マジで? ってか、このルールおかしくね? あれでアウトかよ。

なんか微妙な感じのままベンチへ戻る。

「あれ、よく当てたな」

声のする方を向くと、村上だった。

「アウトになっちゃったけど」

「まぁ、本来ならヒットだし。正直、あの球打てると思ってなかった」

どうやら、フォローしてくれているようだ。

「ありがとう」

俺がそう言うと、村上は軽く笑って、今度はバッターボックスにいるヒロタカに声援を送った。

しかし、ヒロタカもあえなく凡退。攻守交代だ。

2回の表は男子二人を山下が三振にして、すぐに終わった。

 

2回の裏。

6番奥山。 

「ユウ、頑張れよ」

村上が声をかける。

「うん」

頷く奥山。

あれ? ユウって呼んだ? こいつらもしかして付き合ってんの?

ベンチは俺が疑問を挟める空気ではなかった。まぁ、後で聞けばいいか。

さすがに相手の経験者のピッチャーも女子に本気で投げることはしないようだ。緩い球を投げる。だけど、その球は奥山には緩すぎる。これまでの練習を見ていた俺にはわかる。

奥山はボールをきれいにセンター前にはじき返し、難なくヒット。

次、7番ハルカ。

「今、試合始まってから何分?」

ハルカが山下に聞く。

「あと2分くらいで試合終了じゃないか?」

「わかった」

よし、俺も声かけとくか。

「ハルカ、愛してるぜ」

ハルカは俺を無視してバッターボックスへ。

そこは、うん、とか、私も、とかさ。そういうノリじゃん。 

「ドンマイ」

ヒロタカに肩を叩かれる。

ハルカはバッターボックスへ入ると、すぐには構えず、軽く素振りをした。

1球目、さっきよりも気持ち速めの球。ハルカは見送る。ストライク。

2球目、1球目より遅めの球。これはボール。加減して投げるのは難しいみたいだ。

3球目、真ん中より少し外寄りの球。ストライクかボールか微妙だったけれど、これはストライク。ツーストライク、ワンボール。追い込まれた。

「ハルカ、頑張れ~」

俺は声を張り上げる。

ハルカはピッチャーから目を離さない。少しピッチャーに嫉妬する。

4球目、スピードは遅めの低めの球。ハルカはバットを振る。一塁線を割ってファール。

「上手いな」

横で山下がつぶやく。

5球目、さっきよりも少し外寄りの球。ハルカはバットを振る。またも一塁線を割ってファール。

「あれ、お前より上手いんじゃね?」

山下が笑みを浮かべながら村上に言う。

「センスはかなりあるよね」

6球目、今度は真ん中の球。マジ打ちごろ。いけーハルカ。バットがボールをとらえる。しかし、またも一塁線を割ってファール。

ピルルルルルル。

サイレンが鳴る。試合終了だ。

とりあえず勝ったみたいだ。おしっ。ハルカがヒット打つとこ見たかったけど。勝ったからよし。

ホームの横に一列に並んで礼。

「ご苦労さん」

山下がハルカに言う。

「あれでいいんでしょ?」

「あれでいいし、できるのもすげぇよ」

山下に褒められても、ハルカはノーリアクションだ。でも、俺にはわかる。ハルカは喜んでいる。

えっ? どういうこと? えーっと、あのファールはわざとだったってこと? あっ! そっか。時間稼ぎだ。狙ってあれやってたの、ハルカ。ヤバくね?

「ハルカ、すげぇよ」

「ありがと」

「でも、ヒット打つ方が簡単なんじゃね?」

「普通に打って、もしダブルプレーとかになったら相手の攻撃になるでしょ」

えっ、マジで? そこまで考えてたの? ヤバすぎる……。

「ハルカ、惚れ直したぜ」

俺は親指を立てる。

「負けられなかったから」

ハルカが闘志をむき出しにするのは珍しいなと思って、ハルカの視線の先を見ると、北川。負けたら、北川がもっとつらくなるってことか。ハルカ、優し過ぎる、と俺は言おうとするけれど、山下が口を開きかけたのを見て自重する。 

「お疲れ様。じゃあ、次の試合の10分前に集合で」

山下がそう言うと、杉本は真っ先にどこかに行ってしまった。

「ハルカ、次の試合までどうする?」

「私は澄香とうちのクラスの他の試合観に行くけど」

「じゃあ、俺も行く」

「別にいんじゃない?」

あれ? 断らないんだ。まぁ、断る理由が見つからなかっただけかもしれないけれど。

なにはともあれ、ハルカと澄香ちゃんと俺とヒロタカは一緒に応援に行くことになった。で、なんかノリでかなんかしらないけど、山下と村上と奥山と北川も一緒に来た。

バレーの自陣のベンチの後ろに8人で立って並んで応援する。といっても、声を上げているのは、澄香ちゃんと俺と村上くらいで、他は点数が決まったらパラパラと拍手する程度だった。

もっとみんな声出せばいいのにな。たとえば、俺がバッターだったとして、ハルカに、私のために打って、とか、甲子園に連れてって、とか言われたら、もう絶対ホームラン打つよね。打てるとか打てないとかじゃなくて、打たざるをえないよね。

ってか、もうちょい気合い入れろよ男子バレー。声援なしにしても、ハルカが見てくれてんだぞ。

俺たちの応援もむなしく男子バレーは敗退し、俺たちは体育館をあとにした。

校内はジャージ姿の生徒たちであふれ、俺たちと同じように自分たちの種目と他の種目の応援のためにグラウンド間を自由に行き来していた。

体育館をあとにした俺たちは、バスケのコートで女子バスケの試合を途中まで応援した後、野球場に向かった。

野球場に着く。杉本の姿を探す。

両ベンチの付近を探してみるがいない。

一度グラウンドの外に出て、捜査範囲を拡大する。

それほど探さずとも見つかる。杉本は地面に座って壁に寄りかかり、完全に寝ていた。

「そろそろ試合だぞ」

山下が声をかける。

杉本はゆっくりと起き上がった。

2試合目の相手は現役野球部のキャプテンがいる2年のチームだ。

「山下、村上、正々堂々やろうぜ」

ホームベースの前に整列すると、相手チームのキャプテンが口を開く。かつては同じチームで戦った仲、スポーツマンシップというやつか、と思って、山下と村上の顔を見ると、ふたりの表情はくもっていた。


 

次回:12月9日土曜更新予定

第6話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走2

2014年11月07日
大場諒介
KDP

この記事が含まれる特集

  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。