エンタメ
趣味/実用

【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第15話【毎朝6時更新】

更新:2020.12.2 作成:2018.1.14

なんとか呉道との対峙を乗り切ったジュンヤだったが……。一方、コーヒー牛乳を買えなかったシンゾウは……。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

村上淳也SIDE

連載第1回はこちら


ユウを部屋まで送って、自分の部屋に戻ってようやく一息。

「アキラ、ありがとな」

アキラはベッドに腰掛けてコーヒー牛乳を飲んでいる。

一息で半分ほど飲み終えて、コーヒー牛乳に蓋をする。

「結局、何もしてないけどな」

「リョウスケから聞いたのか?」

「あぁ。何か呉道とトラぶってたとか聞いたけど」

おれはアキラに呉道とのやり取りを話した。

「奥山と呉道か」

「意外だよな」

「いや、知ってた。ってか、おまえ知らなかったのか?」

「なんで知ってんだよ」

「あいつら結構有名だったからな」

中1の頃は、違うクラスのやつの名前なんてほとんど知らなかった。当時は野球やってただけだったからな、おれ。

「呉道の件はクリアになったわけじゃないんだよな?」

アキラが聞いてくる。

「クリアになっているとは言えないだろうな」

リョウスケの強引な処理の仕方で、後にしこりが残らないとは思えない。もちろん、リョウスケの判断が間違っていたわけではないのだけれど。

「明日は警戒しないといけないかもな」

「そうだな」

「聞いたか、杉本」

アキラはもうひとりのルームメイトである杉本に声をかける。

ベッドに寝転がって本を読んでいた杉本は寝返りを打って、こちらに向く。

「明日、呉道に絡まれるかもしれないと」

「そうだ。いざとなったら、おれとジュンヤは呉道を叩く。で、おまえは」

「他のやつらをガードしてればいいんだな?」

「他のやつらというか、北川をガードしとけ」

「……なんで北川なんだよ」

「一緒にキャッチボールする仲だろ?」

体育祭の時のソフトボールの授業中に、北川とキャッチボールをしていたのはユウだったはずだ。それに杉本は野球経験者のおれとアキラが相手をしていた。

「……おまえ、なんで知ってんだよ」

えっ?

「安心しろ。今のところ、おれしか知らないはずだ」

そう言って、アキラは笑う。人をいじっている時のアキラは本当に幸せそうだ。

「話が見えないんだが」

もしかして付き合ってるのか?

「おれの口から話してもおもしろくないよな」

そう言って、アキラは杉本に目を向ける。

「べつにおまえが想像してるような関係じゃない」

「おれは何にも言ってねぇよ」

「あいつが野球へた過ぎるから、練習に付き合ってただけだ」

このまま置いていかれるのもしゃくなので、話に加わる。

「おまえはどっからそういう情報仕入れてくんだよ」

「ジュンヤも気付くチャンスはあったはずだ。おまえはまだまだ観察眼が弱いな」

観察眼というより、自分に関係ないことまで考えている余裕がないのかもしれない。

おれは自分のことでいっぱいいっぱいだ。情報収集なんて余裕のあるやつの贅沢。

杉本と北川の話には驚いたけれど、それ以上に頭の中をひとつの事実が駆け巡っていた。

ユウと呉道が付き合っていた。

なんで呉道みたいなやつと。

ユウは呉道も中1の頃はあんな風じゃなかったと言っていたけれど、呉道がユウを追い詰めたのは中1の時だ。しかもユウと別れたその日のうちに、クラス中に裏で手を回してしまうようなやつだったんだ。ユウと付き合っていた時から、腐っていたんだ。

呉道の本質をユウは見抜けなかったのだ。中1の時はもっと純粋に真っ直ぐ、人を疑わずに生きていたのだろう。

人を信じるだけでは生きていけないことを学ぶ時はいつか必ず来る。人に裏切られることも、もちろんある。

人はひとりだと、かつてユウは言った。ひとりなのだから、わかりあえないのだから、人と付き合うのは無駄なことで、ひとりでいる方が楽だと。

おれも人はひとりだと思う。完全にわかりあうこともできないと思う。

でも、それでもどこかで繋がれたり、わかりあえたりする部分があるんじゃないかとも思っていて、だからユウに告白して、ユウにもそれが伝わったから、付き合うことになったんだと思っていた。

ユウと呉道が付き合っていたのは過去の話だ。そんなことわかってる。

でも、この胸にうずまくどす黒い何かは、きっと、嫉妬だ。

大晦日にアキラに言われた言葉が、今さらのように重くのしかかってくる。

おまえ、まだキスしてないのかよ。

ユウと呉道はキスしたのだろうか?

© oninikoniko – Fotolia

原島真蔵SIDE

僕は風呂からあがってから何をしていたんだ?

コーヒー牛乳を買おうと思って休憩室に行って、村上と奥山がいて撤退して、コーヒー牛乳を買おうと思って売店に行って、班のやつらにコーヒー牛乳を買い占められて、コーヒー牛乳を買おうと思って休憩室に戻ったら、村上と奥山と呉道がトラぶってて、止めに入ろうと思ったら、僕が止める前に松本が止めて、山下が来てコーヒー牛乳を買っていって、僕がコーヒー牛乳を買おうと思ったら売り切れになって……結局、コーヒー牛乳を買おうとして、買えなかっただけじゃないか。

部屋のベッドに座る僕の手にあるのはビン入りの牛乳。紙パックとは違うビン独特の味わいはあるものの、コーヒー牛乳の、あの中毒性のある甘さには到底およばない。

ってか、黙ってブラックコーヒー買っとけよ、山下。おまえに甘いものは似合わないんだよ。

牛乳をひと口飲む。

部屋には、僕の他に、松本と冬川がいる。

エキストラベッドに腰掛ける冬川は、先ほどから一言もしゃべっていない。手首をさすっている。赤くなっている気がするが、もしかして縛られていたんだろうか?

「どうやって冬川連れて来たんだ?」

僕はさっきから疑問に思っていたことを松本に聞く。冬川本人だけではなく、冬川の荷物まで運ばれている。むこうの部屋に入って取って来たということだろうか。

「班のみんなに連れて来てもらったの」

「班のみんなってのは、うちの班の?」

「そうだよ」

あいつらもやる時はやるのか。いや、そういうレベルの話じゃない。僕が売店を離れた時には、松本は安藤と一緒にいて、村上と呉道が対峙していることを知らなかったわけだから、その時点から10分もせずに冬川の身柄を確保したのか。訓練でもしているかのような手並みの良さだ。

「あいつら、何者なんだ?」

「ん? 友達だよ? シンちゃんも友達でしょ?」

「いや、そういうことじゃなくて」

松本は笑みを浮かべている。これ以上は聞いても無駄か。

なんだかな。

まぁでも、あいつらが動けるやつらなのであれば、明日、呉道に何かされたとしても対応できるだろう。うちの班よりも、村上たちの方が心配だな、と考えて、なんで僕は村上たちの心配をしてるんだと思う。でも、なんというか、今回は村上たちの方が被害者みたいな気がしてしまう。 

まぁ、僕が心配することでもないのだろうけど。

あいつらも班のメンバーは守るだろうし。村上たちの心配をする前に、僕が対処しなくてはならないのは、目の前の冬川だ。

冬川はうちの学校では珍しい、高校からの編入生だ。私立の男子校から編入してきたと言っていたように思う。

うちの学校に高校から編入してくる生徒は10人もいない。学年が500人、12クラスだから。ひとクラスにひとりいるかいないかという感じだ。うちのクラスの転入性は冬川だけ。それでも、いじめられているとかそういう感じではなかった。松本なんかは結構話しかけていたみたいだったし、僕はそんなに話していなかったけれど、クラスにも馴染んだように思っていた。

呉道と冬川が一緒にいるのを見かけるようになったのは、つい最近のことだと思う。もしかしたら、ずっと前から付き合いがあったのかもしれないけれど、気がつく範囲ではなかった。冬川はともかく、呉道の動向にはいつも注意していたから、これは間違いない。

「呉道となんで一緒にいるんだ?」

冬川がいじめられていると決まったわけではない。冬川の口からは何も聞いていないし、村上たちが冬川を解放しろと言っていたのを聞いただけなのだ。今日の新幹線と東大寺で、いじられているのは見たものの、いじめと呼ぶほどのものではないと思った。

もしかしたら、冬川は呉道と一緒にいたくているのかもしれない。その可能性も残されている。

僕の質問に冬川は答えない。イスに腰掛けたまま、目を伏せてうつむいている。

「冬川ちゃんはどうしたいの?」

松本の質問。たぶん、僕の質問よりも正しい質問だ。呉道と一緒にいる理由ではなく、これからどうしたいか? 明日どうするか? 今後の学校生活をどうするか?

「……放って、おいて欲しい」

冬川はゆっくりと口を開く。

「わかった」

松本は笑顔で答えて続ける。

「でも、今日はこの部屋に泊ってって。これから外歩いて、見つかったら怒られちゃうからね」

やけにあっさりしてるな、松本。こういう時は、もっと食い下がるやつじゃないのか?

でも、本人が放っておいてくれと言っているのであれば、それ以上は何もすべきでないのかもしれない。そう思う一方で、放っておいてくれというのは、本音なのか? という疑問もある。本当は助けを求めてるんじゃないかと。

仮に、冬川が本音を言っていないとして、どうやって、本音を聞き出す? それは本音なのかって聞くのか? それで話してくれるのであれば、苦労しない。

「てか、見回りは大丈夫なのかよ」

消灯時間には教師の見回りがある。そこで冬川がこの部屋にいることがばれれば連れ戻されるだろう。

「クレミーたちが自分から言うことはないでしょ。言うようならこっちにも考えがあるし」

「呉道たちが黙ってても、この部屋に見回りに来るだろ」

「シンちゃんよく考えて、学年500人いて1部屋2~3人だったら約200部屋だよ? ひとつひとつ丁寧には回れないでしょ。うちの部屋なら一時的に冬川ちゃん隠れてればいいだけだし、クレミーたちならベッドの中に何か詰めてもう寝ましたって言えばごまかせるでしょ」

こういう考えかたはしたことがなかった。200部屋を見回る教師の負担なんか、考えようとも思わなかった。確かに、言われてみればひとつひとつ丁寧に見回りをしていたら相当時間がかかる。2人が3人になるくらいであればごまかすことも難しくないだろう。

まぁでも、今日はそれでいいとして、明日になって、呉道のところに冬川が戻ってしまえば、そこで何が行われているのか、僕には知りようがない。校外学習が終わって、普通に学校が始まって、クラスで冬川へのいじりがひどくなったり、明らかにいじめだとわかるような状態になったりしても、冬川が放っておいてくれと言うのであれば、僕には何もできないのだろうか。

そう。僕は冬川がいじめられていることに胸を痛めているというよりは、目の前でいじめられているクラスメイトがいるのに、何もできない自分が嫌なのだ。

親切の押し売り、なのかもしれない。


次回:1月16日6時更新予定

第16話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP