エンタメ
趣味/実用

【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第16話【毎朝6時更新】

更新:2020.12.1 作成:2018.1.15

呉道との間にわだかまりを残したまま、ジュンヤ、シンゾウそれぞれの2日目が始まる。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

幕間~榎本徹の夢~

連載第1回はこちら


車の免許なんか持っていないけど、運転くらいできる。

助手席にはハルカ、文句なしだ。

ハルカの機嫌はいいようで、何もしゃべらないけれど、微笑みを浮かべている。今まで見たこともないような柔らかい表情だ。

車は止まる。たぶんここがハルカの家なのだろう。

「また明日遊べるじゃん」

俺は何も言っていないのだけれど、俺が名残惜しそうにしているのが伝わったのか、ハルカが俺にむかって言う。

嬉しく思う反面、複雑な気持ちになる。わからなくなる。はぐらかされているだけなんじゃないかと思う。

「俺にどうして欲しいの?」

「何て言って欲しい?」

「遊ぼうよ」

「遊ぼうよ」

ハルカは俺の言葉を繰り返す。明るく元気よくかわいく。まるでハルカじゃないみたいだ。俺の聞きたかった言葉を言うハルカ。幸せな気持ちになるのだけれど、これが夢だとわかり、目覚める。

朝の6時。まだ寝ていてもいいのだけれど、目は完全に覚めてしまっている。ベッドから起き上がり、机にむかう。

バッグから取り出したノートを開いて、さっき見た夢の内容を書く。ハルカがいなくなってから、俺の書く日記は、ハルカの夢日記と化した。我ながら痛々しいと思うけれど、他に書くことがないからしょうがない。夢を見ている間と、この日記を書いている時が唯一幸せな時だ。自分が何を求めているのか再確認して、書き終えて、それでもまだ少し幸せな感じは続いている。

ハルカがいなくなって、初めてハルカの夢を見た時は、この気持ちがずっと続くんじゃないかと思うくらい幸せな感じが強烈に残っていて、しばらくは幸せだったけれど、その日のうちにその感覚はなくなって、それからも毎日でないけれど、週1くらいでハルカの夢を見ながら目覚めることがあって、その時はこうしてノートに書くことにしている。

ハルカと実際にふたりで遊んだことはない。休日に遊ぶとしても、ヒロタカと澄香ちゃんと四人で遊ぶ感じだった。でも、それでも十分楽しかった。幸せだった。

ハルカと一緒にいる。それ以上に幸せなことなんて思いつかない。そう思うから、ずっと気持ちを伝え続けたし、今だって忘れることができない。

結局、実ることのなかった恋。世の中には多くのカップルがいるのに、俺はハルカと結ばれることはなかった。

ハルカがいた頃は、諦めなければ、いつか気持ちは伝わると思っていた。それは勘違いだったのだろうか。

告白して、OKされて、付き合うっていうのは、俺にしてみれば、奇跡みたいなことで、まだ一度も経験したことのないことで、当たり前みたいに付き合っているヒロタカと澄香ちゃんとか、村上と奥山とか、本当にすごいと思う。

お互いそんなに好きでもないけどなんとなく付き合っているやつらもいるけれど、ヒロタカと澄香ちゃんとか、村上と奥山は違うと思う。お互い、ちゃんと好きで、それで付き合っている。

それは本当に奇跡みたいなことで、本当に幸せなことなんだと思う。

だからこそ、気を使わせてしまっている自分のことがすごく嫌だった。

好きな人と一緒に校外学習に来るなんて、一生に多くても数回しかないことだ。一度も経験できないやつも多いだろう。

そんな貴重な機会を俺のせいで。特にヒロタカと澄香ちゃんには、本当に申し訳ないことをしていると思う。

今日は部屋で寝ていようか、いや、それは逆に気を使わせてしまうかもしれない。俺が部屋にひとりでいるのに、自分だけ楽しんでいいのかと思うだろう。

明るく振舞いたいけど、できない。無理にやったとしても、すごく痛々しいものになってしまうだろう。

どうすればいいんだ。

俺みたいなやつは死ねばいいんだ。

まわりに迷惑しかかけてない。

俺は最低最悪でもいいけど、まわりの空気まで最低最悪にしちゃダメだ。

この校外学習は、俺にとって楽しい思い出にはなりえないだろう。楽しく過ごすなんてことは諦めている。

ならせめて、他のメンバーの迷惑にならないように、他のメンバーが極力楽しく過ごせるように行動するべきなんじゃないか。

今は、昨日よりはいい精神状態だ。ハルカの夢の感覚が、まだ少し残っているからだろうか。

こうやって、他のメンバーのことを考えられているうちはいい。昨日は途中で限界になって、それから何も考えられなくなってしまった。

今のうちに、こういうことを思えているうちに、ヒロタカに言っておこう。

ごめん、大丈夫だから気にしないで。

いや、もっといい言葉があるはずだ。

隣のベッドで寝ているヒロタカが目覚める前に、おれが最低よりは少しマシな気分でいる間に、もっといい言葉を見つけたい。

© jyapa – Fotolia

村上淳也SIDE

2日目のチェックポイントは法隆寺だ。昨日は昼に奈良に着いたから半日の班別行動だったが、今日は丸1日班別行動で、午前中に法隆寺に行く班もあれば、午後に行く班もある。おれたちは午前中に行くことにしていた。1日フルで使えるのであれば、面倒なことは先に済ませた方がいい。

法隆寺の最寄り駅はJR法隆寺駅。JR奈良駅から3駅13分。

おれたちの泊まっているホテルはJR奈良駅から徒歩1分。朝食を済ませて、準備を終えて、すぐに出発することにした。

昨日の夜、部屋に帰った後、ユウからメールが届いた。

『巻き込んでごめん。呉道は、私が楽しそうにしてるのが気に入らないんだと思う。学校祭とか、体育祭とか、それ以外の学校生活とかで、私のことを聞いたり、見たりして、それで気に入らなくて、今日みたいなことをしたんだと思う。私がいる限り、呉道は何かしてくると思う。』

ユウはきっと、おれと別れることも考えていると、メールを読んで思った。自分のせいでおれに迷惑をかけてしまうかもしれないと考えているのだろう。

中1の時、ユウは呉道に勝つことができなかった。それまでの自分を保つことができずに、周囲との壁を厚く高くしていった。今回も、ユウは呉道に負けてしまうかもしれないと考えているのだろう。中1の時と違って、今度は自分だけでなく、おれも周囲から孤立してしまうかもしれないと。

『巻き込まれたなんて思ってないよ。呉道が何かしてきたって大丈夫。おれもユウもひとりじゃないし、アキラやリョウスケや安藤もいる。ユウだって、安藤が何かされたら、安藤を守ろうとするだろ? 巻き込まれたとか思わないだろ? それと一緒だって。みんな、巻き込まれたとか思わないよ。』

おれの言葉は、ユウの不安や恐怖を少しでも拭うことができているだろうか。おれがどのような言葉を並べたところで、呉道が何かしてくれば、そのたびにユウは責任を感じてしまうだろう。それが何度も繰り返されれば、きっと耐えられなくなる。

おれもユウも、自分が何かされるより、自分の大切な人たちが何かされる方がツライ。それはきっと今後も変わらないだろう。

だから、呉道を何とかするしかないんだと思う。呉道にこれ以上何もさせないようにしなくてはならない。でも、今回に関しては停学くらい覚悟しているだろう呉道を、どうやったら止められるだろう。他のやつになら通じるような手も、呉道には通用しない。尻尾を出さないし、出したとしても、致命傷を与えることはできない。軽傷を負わせることはできるかもしれないけれど、いずれは復活する。

昨日は、リョウスケやアキラがいたから何とかなった。でも、いつもふたりが近くにいるわけじゃない。たとえば、おれとユウが下校している時に、人気のない道で呉道の一派に囲まれたら。そんな想像をしてしまう。

中学の頃であれば、おれとアキラで呉道のところに行って、全員ぶん殴ってなんとかなった。でも、今は違う。ケンカをして、呉道に勝ったとしても、その後は? 

ユウがひとりの時に狙われるかもしれない。いつまでたっても終わらないのだ。戦争と同じで、憎しみは連鎖する。

教師だって、証拠がなくちゃ動けない。呉道がシラを切れば、それで終わりだ。

正直おれは、怖かった。ユウに何かあったらと思うと、まったく眠れなかった。

おれが土下座すれば今後ユウに手出ししないというのであれば、すぐにでも土下座しようと思った。でも、おれの土下座では、ことは収まらない。収まらなくなってしまった。

別に学校での権力なんかに一切興味はないし、呉道の手下が増えようが、そんなことはどうでもいい。不快になることはあるかもしれないけれど、それも瑣末なことだ。

おれは、ただただ、自分の大切な人を傷つけられることが、怖かった。

原島真蔵SIDE

「唐招提寺かな」

ホテルを出てすぐ、松本がつぶやく。

「なんで唐招提寺なんだ?」

「唐招提寺に行こう!」

「法隆寺と全然場所違うじゃねぇかよ!」

計画では、法隆寺に行って、その後、中宮寺、法輪寺、法起寺とまわる予定だった。唐招提寺と法隆寺では、最寄り駅からして違う。

「法隆寺とかは半日でまわれちゃうから、午後行けば大丈夫だよ」

「それはそうかもしれないけど、なんで唐招提寺なんだよ」

「ん~と、勘?」

なんの勘だよ……。

ホテルのまわりに、うちの班以外の生徒の姿はない。

僕と松本以外の6人は、明け方まで人生ゲームに興じていたとかで、朝食が食えるギリギリの時間に起きてきた。現在、時刻は9時半過ぎ。他の班はきっともう法隆寺の最寄り駅に着いてしまっているだろう。先頭集団であれば、すでに法隆寺に着いているかもしれない。

「おれ、億万長者になった夢見たんだけど」

「それ夢じゃなくて人生ゲームだろ」

「あっ、そっか。おまえ確か、毎回人生最大の賭けに負けて、開拓地行ってたよな?」

「それは、おれのフロンティアスピリッツが自然と足を開拓地に向かわせたんだよ」

「一度もまともにゴールしてないのかよ」

「人生にゴールなんてねぇ」

「なんだこいつ。無駄にカッコいいこと言ってるぞ」

「毎回最下位だったくせに」

人生ゲームを6人でやって毎回最下位ってある意味すごくないか? 人生ゲームは基本的にはルーレットを回すだけだから、ほとんど運で勝負が決まる。どれだけ運がないやつなのだろう。

「シンちゃん、行くよ」

松本はそう言って、JRの改札とは違う方向に歩き始める。

「マジで唐招提寺行くのかよ」

「さっきからそう言ってるじゃん」

何を言っても無駄か……。まぁいい。別に他に行きたいところがあるわけでもないし。他の6人は何も考えずについてくるだけだろう。

昨日身柄を確保した冬川は、今日の朝食の段階で呉道の班に戻っていた。元々は呉道の班の人間なのだから、本人が戻りたいと言っている以上、僕に止められるものではない。

今後、冬川がどうなるか考えた時に、いじられることがなくなることはありえないだろう。悪化することはあっても、沈静化されることはない。今までは、いじめといじりの間であったが、これからはいじめの方に転がるかもしれない。

一晩経って元に戻ったといっても、一度はうちの班に来てしまったのだから。

おそらく、冬川は今日も何かされるだろう。でも、いじめられている本人が何もするなと言っている場合は、どうすればいいのだろう。放っておくしかないのだろうか。

僕にはまだ答えが見つけられていない。

「ところで、おまえらどうやって冬川連れて来たんだ?」

僕は昨晩から気になっていることを、人生ゲームの結果について話しているやつらに聞いた。

「普通に部屋に行って、冬川くれって言っただけだけど」

「……言っただけって」

「冬川、手足縛られてたろ? そんなの教師呼ぶって言えば一発だろ。拘束解いたって、縛ってた跡すぐには消えないんだから」

なるほど。呉道に対しては有効とは言えない教師であっても、手下に関しては有効な場合もあるというわけか。

昨日考えたグレーゾーンのことを思い出す。松本も、他の6人も、グレーゾーンにいるやつらだ。こうやってトラブルを解決していることを聞くと、グレーゾーンも存外悪くないのかもしれないという気がしてくる。真面目に校則を遵守しているやつにはできない発想のような気がする。

かといって、トラブルを解決するためであれば、なんでも正当化されるわけではない。グレーゾーンにいながら、黒に転ばないためには、きっと色々なものが必要なんだと思う。周囲の環境、本人の強さ、バランス感覚、その他色々。

四方を黒に囲まれたら、中央の駒は黒に返らざるをえない。


次回:1月17日6時更新予定

第17話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP