【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第21話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.20 作成:2018.1.20

ジュンヤは唐招提寺に向かって全力で走る。

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村上淳也SIDE

連載第1回はこちら

法隆寺から法隆寺駅に向かってダッシュ。

途中、教師とすれ違って呼び止められるも、忘れ物がー、と叫んでスルー。後で呼び出されるかもしれない。まぁいい。

とにかく今は走れ。

野球部を辞めてから、体を動かすのは体育の授業くらいだ。正直なまっている。足はすぐに重くなってくる。風もすごく冷たい。音もすごい。耳の横でゴーゴー鳴っている。冷たさのせいで耳が痛くなる。鼻水が出てくる。

荷物はホテルに置きっぱなしで、手ぶらで来たのは正解だった。あとはおれの体力の問題だ。

ユウより先に着いたとしても、おれはユウを止めるつもりはない。

呉道と話すことは、ユウにとってきっと必要なことなのだ。それは理解できる。でも、呉道にユウが何かされたらと思うと、落ち着いてはいられない。せめて、ユウが呉道と対峙する時に、そばにいてあげたい。いや、そばにいたい。

何もできなくても、気のきいたことなんか言えなくても、ユウの隣を歩いてなきゃいけなかったんだ。ユウがいつも通りじゃないのには気づいていたのに、なんで目を離してしまったんだ。

指の先が冷たくなってくる。下腹が痛くなってきて、汗が背中から、全身から噴き出す。風が汗を冷やして、余計に寒くなる。

法隆寺駅で、ちょうどのタイミングで来た電車に飛び乗ると、車内の暖房のせいで無茶苦茶体が熱くなる。

『ユウは唐招提寺』とアキラにメールを送る。

こういう時に、ユウをひとりで行かせてるようじゃダメなんだ。自分がきつい時でも他の人に迷惑かけないようにとか、そういうことを考えてるユウが好きなんだけど、でも、せめて、おれにくらいは甘えて欲しい。ユウを甘えさせられるくらいの強さがなきゃダメなんだ。

でも、そんな強さをすぐには手に入れられないから、せめてユウの隣に立っていたい。

JR郡山駅で降りて、駅前の看板をたよりに一度も歩いたことのない街を走る。

不安だった。でも、ユウの不安はこんなもんじゃないはずだ。ひとりきりで自分の過去と戦いに行ったんだ。

ユウはずっとひとりで戦ってきて、別におれなんかいなくても、すごくしっかりしていて、おれがユウを守るなんておこがましいことなんだけど。ユウを守るというより、ユウが戦ってもし負けてしまったとしても、その時にユウを支えられる場所にいたかった。

男の見栄なのかもしれない。エゴなのかもしれない。束縛なのかもしれない。

ひとりで戦う覚悟を決めてユウは呉道のところに行ったんだ。ユウはそんな簡単に負けたりはしない。ユウはきっと大丈夫だって頭の隅ではわかっていても、そういうことじゃないんだって思っている自分がいる。どうしても悪い想像をしてしまう。もしも、と思ってしまう。

おれの足を動かしているのは、不安だ。焦りだ。

ペース配分なんか考えていない。ただ足を前に。止まることなんてありえない。

ダメで頼りない彼氏なのかもしれないけど、カッコ悪くても、いや、もうそういうことじゃなくて、走れる時に走らないと、これからユウの隣を歩けなくなってしまう。

ユウが戦っている時に、へらへら笑っていたり歩いていたりしたら、おれは絶対に自分のことを許さない。ユウが許してくれたとしてもおれだけは絶対におれのことを許さない。

近鉄郡山駅を出た電車のスピードがもどかしい。動いていないと、どうにかなってしまいそうだった。

おれがしなくちゃいけないこと。ユウが呉道に集中できるように、外野を退場させること。それから、ユウが倒れそうになったら、支えること。それから……それから……それくらいのことしか、おれにはできないのかもしれない。

法隆寺~JR法隆寺駅

原島真蔵SIDE

西ノ京駅の改札から村上が走ってくる。時刻は12時前。ホントに30分できやがった。

「おつかれー」

そう言って、松本は村上に向かってペットボトルのスポーツドリンクを投げる。

村上はそれを片手でキャッチ。ふたを開けてひと口飲む。

「唐招提寺にユウがいるのか?」

「時間的には、ユウちゃんも唐招提寺に着いたくらいじゃないかな?」

「で、唐招提寺ってどう行けば早い?」

「まぁまぁジュンヤちゃん落ち着いて」

村上は深呼吸する。

「そうだな。で、状況は?」

「たぶん、冬川ちゃんを人質にしてるんじゃないかな?」

「おまえまだ取り返しに行ってないのかよ」

「うーん、なんていうか、今日のことって、昨日の繰り返しじゃん? 結局、冬川ちゃんとかユウちゃんが自分で戦わないと、またおんなじことになると思うのね」

「それはそうかもしれないけど」

「でもね、大事なのは、ジュンヤちゃんがここに来たってこと」

「どういう意味だ?」

「ユウちゃんはひとりじゃないってことだよ」

満面の笑みを浮かべた松本の言葉に、村上は一瞬かたまる。

「……ありがとな。リョウスケ」

「いいってことよ。おれの役目はヒーローに剣を渡すことだから」

松本は自分のバッグから木刀を抜く。

「あとこれね。ちゃんと返してよ」

木刀とスマートフォンを村上に渡す。

「この光ってるのが冬川ちゃんの位置だから」

「わかった。サンキュー。絶対返す」

村上はそう言うと、力強く走り去って行った。

「おれたちはどうすんだ?」

村上の背中が消えてから、僕は松本に聞く。

「もうちょっと付き合ってもらっていい?」

この事件のエンディングを見届けたいと思った。

「もちろん」

次回:1月22日6時更新予定

第22話

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青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP