【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第30話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.29 作成:2018.1.29

呉道が提案した決着の方法は、ジュンヤとのタイマン。

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村上淳也SIDE

 

連載第1回はこちら

呉道とタイマン。勝率はたぶん5割。

直接的な暴力を振るうことは少ないとはいえ、だてに呉道も集団のトップを張っていない。格闘技経験があるかはわからないけれど、中学の頃からケンカの強さでは学年トップ5に入ると言われている。

呉道の最大の強みは、相手を傷つけることにためらいがないことだ。骨折しているやつの足を何度も平気で踏みつけるようなやつだ。おれにはそんなことはできない。いくら相手が憎い敵であっても。

こぶしの速さや力の強さ以上に、相手を傷つけるストレスを感じないことは脅威だ。

おれがどこまでやれば、呉道は負けを認めるだろうか。仮に呉道を追い詰めたとしても、呉道が負けを認めなかったら、おれはそれ以上呉道を傷つけることができるだろうか。

「ジュンヤ、挑発に乗っちゃだめ」

ユウの言葉に、思考を中断する。

そうだ。呉道とどうやって戦うかじゃない。

戦っちゃいけないんだ。

ここは呉道のフィールドだ。何が仕掛けてあるかわからない。そんな状況で、相手から提案されたタイマンに乗ってはいけない。

おれはユウの方を見て、うなずく。

「挑発に乗るなって言っても、あれもだめ、これもだめで手打ちはできないだろ」

呉道が仕掛けてきたこととはいえ、いや、呉道が仕掛けてきたことだからこそ、後にしこりは残しちゃいけない。

ユウが自分の気持ちに決着をつけたのであれば、この場をあとにしてもいいのだけれど。そうすると、この後が怖い。呉道は確実にまた何かしてくるだろう。2日連続で、おれとユウを無傷で帰してしまっているのだから。今回の件が学年に噂として流れれば、呉道のことをなめるやつも出てくるだろう。もしかしたら、これまでの恨みを晴らそうとするやつも。

そういう噂を払拭するためには、当事者であるおれかユウに、他のやつがはむかう気を起こせなくなるくらいのダメージを与えるしかない。もちろん、そんなことがあれば、アキラが黙っていないだろうが。

呉道にとって望ましい手打ちの順位は、おそらくこんな感じだ。

1、おれかユウに傷を負わせる。

2、アキラ派との全面戦争。

3、おれとユウを無傷で帰す。

まず順位の低い3番から考えていこう。

おれとユウを無傷でこのまま帰して、呉道が後に何もしてこないということはありえない。そんな安易な決着をするくらいなら、アキラとの全面戦争を呉道は選択するだろう。

おれとユウにとって一番いい手打ちの3番は、呉道的にはありえないということになる。

そして、おれ的に最悪なのは2番だ。2番になるくらいなら、おれがここで呉道とタイマンを張って負けた方がいいように思う。ようするに、落としどころは1番ということになる。

そして、もちろんユウに傷を負わせるなんてことはさせない。傷を負うのは、おれひとりで充分だ。

じゃあ、タイマン張るのか?

呉道が勝ったとしたらそれで呉道は溜飲を下げるのか? おれに勝ったことを呉道が吹聴してまわる。アキラがそれを黙って見過ごすとは思えない。行きつく先は、アキラ対呉道の戦争だ。

逆におれが勝ってしまった場合はどうなる? おれの勝ちで終わりってことにはならないだろう。今後、ユウがひとりの時を狙って何か仕掛けてくる可能性もある。

呉道が勝ってもダメ。おれが勝ってもダメ。

勝利条件のない戦い。それが呉道と対決するということの本質なんだ。

どうやってこの状況を打開する?

そもそも今回の1件は、東大寺でおれが呉道を注意したところから始まった。注意しなければよかったという話ではないが、あそこで注意しなかったとしたらこんなことにはなっていないだろう。結果として呉道は池に落ちて、おれは少し怒られる程度で済んで、そこにユウの過去が絡んできて、こんな感じになってしまったんだ。ユウのことは後付けと考えていい。

呉道の立場から考えれば、自分を池に落としたやつの恋人にちょっかいを出してやろうくらいのところだろう。たまたまその恋人が自分の元カノだったというだけだ。

昨日のホテルで、呉道はおれに土下座を要求した。

呉道も本音では、おれやアキラとことをかまえたくはないはずだ。呉道にとって重要なのは、自分を池に落としたやつらにケジメをつけさせたという構図だ。

ここで土下座するか? それでことは収まるのか?

自分が立っている場所を見る。そこに膝と手をついている自分を想像する。

おれが立っているのは、2メートルほどの長さの石橋だ。橋の1メートルほど下には、底の見えない池がある。

……これはやりたくないけれど。これなら呉道も納得するかもしれない。

「呉道、今回の手打ち、これで納得して欲しい」

おれはそう言って、橋から身を投げた。

 

ジュンヤが身を投げた橋

原島真蔵SIDE

これは、作戦成功と言えるのだろうか?

僕たちは教頭と外国人カップルとともに、喜光寺に向かっていた。

喜光寺の最寄り駅は、薬師寺や唐招提寺の最寄り西ノ京駅の隣駅、尼ヶ辻駅である。つまり、駅ひとつ分歩くということだ。

駅ひとつというのは、電車に乗るかどうか迷うところだろう。近鉄線の駅間は短い。距離にしてみれば1キロ弱だろう。歩いたとしても15分かからない。それに道中は奈良の街だ。観光で来た身としては、時間の無駄ということにはならない。

松本の名を呼んだ外国人カップルが喜光寺に行きたいという話をしたのだ。なんでも写経をしたかったんだとか。喜光寺の写経は、いろは写経という難度が低めの写経で、外国人でも取り組みやすいという話だった。でも、昨日観光ガイドを鹿に食べられてしまって、行くのをやめようか悩んでいると。

松本は昨日と同様に道案内を買って出て、ついでに教頭もなかば強制的に連れて来たのだ。教頭の不幸は英語が堪能だったこと。

外国人カップルの男の方(名前はジャクソン)に、昨日、僕たちに助けてもらったと話しかけられて、流暢な英語で返してしまった時には遅かった。松本がすかさず会話に参入し、教頭も一緒に行く流れにしてしまったのだ。会話をすべて聞きとれたわけではないのだが、聞こえてくる単語と雰囲気から、松本が教頭を絶賛して、日本の高校の教師はみんな親切だから、一緒に案内してくれるとかそういうことを言っているのはわかった。

教頭としては断りたい気持ちでいっぱいだっただろうが、ここで断っては、海外から来た観光客に、日本の高校生は親切だけれど教師は不親切だと思われかねない。それに唐招提寺で事件が起こっていることを教頭は知らない。往復30分くらいであれば、行って帰って来て、唐招提寺の見回りをすればいいと考えたのだろう。僕たちと一緒にジャクソンたちを案内することにした。

ジャクソンは片言の日本語で、お料理行進曲を歌っている。班員たちが、モスト・ポピュラー・ジャパニーズ・ソングと言って教えている。

教頭は水色の服を着た女性(キャサリン)と話している。

「ラッキーだったな」

僕は隣を歩く松本に言う。

「間一髪だったねー。ジャクソンたちが来てくれてよかったよ」

松本の言い方に違和感を覚える。来てくれてよかった?

「……もしかして、おまえが呼んだのか?」

「呼んだっていうか、ジャクソンが薬師寺にいるってフェイスブックで言ってたから。今近くにいるよってメッセージ送っただけだけどね」

フェイスブックって、おまえ。ってか昨日アカウントの交換とかしてたのかよ。すげぇな、ソーシャル・ネットワーク・サービス。僕は使っていないけれど、利用を検討した方がいいかもしれない。

「人に親切にすると返ってくるんだよ。情けは人のためならずってね」

そう言って、松本は笑う。

「ホントだな」

もちろん、松本はこんな風になることを考えて、昨日道案内をしたわけではないだろう。

でも、結果としてみれば、昨日道案内をしなかったら、さっきの窮地をなんとかできていなかったかもしれない。

個々に独立している出来事が、こうやって繋がることもあるんだな、と思う。因果というか、運命というか。あそこでああしていなかったらこうなっていない、というもの。

そんなこと、これまで意識してこなかった。

一期一会。そんな言葉が頭をよぎる。

「シンちゃんは、ホントにロマンティストだねぇ」

僕の思考を読みとったのか、松本がそんなことを言う。

おまえが言い出したんだろ、と言い返そうと思って、松本の方を向く。

しかし、僕の口から言葉が出てくることはなかった。

松本の表情がかたまっていたからだ。

自身の手にあるスマートフォンを、息を止めて見つめる松本。

次の瞬間、松本は反転し、今まで歩いてきた道を逆走。僕に何か言う暇を与えずに走り去っていく。

他の班員たちも松本の様子に気づいたのか、松本の後を追う。

あとには、ジャクソンとキャサリンと教頭と僕が残された。

「せんせい、後はお願いします」

そう言って、僕も松本の後を追う。教頭の声が聞こえるが無視。これは、あとで呼び出されるな。

僕の先を走る班員たちが、ひとつ目の角を左に曲がっていく。

僕も少し遅れながら角を曲がる。すぐそこには唐招提寺の南大門がある。

先頭の松本が唐招提寺に入っていく。

「シンちゃん、お金は後で払う!」

は?

他の班員たちも松本の後に続く。

最後についたのは僕だ。

受付の女性と目が合う。

8人分、3200円。

……ちゃんと払うんで、睨まないでください。

次回:1月31日6時更新予定

第31話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP