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吉本隆明 自著を語る

吉本隆明 自著を語る

作者 吉本 隆明
出版社 ロッキングオン
出版日 2007年06月30日

固有時との対話』『マチウ書試論』
『共同幻想論』『心的現象論』......
----代表作を著者自らが解説。
全ての「吉本読者」に贈る決定版!!

レビュー

そもそも私は読書量が少なく、またその大半はいわゆるノンフィクション系の読み物であるのだが、去年の冬、思うところがあってそれまでほとんど読んだことのなかった小説を手に取りだした。
どれくらい小説に縁がないというと、それまでは10年単位でも2~3冊も読むか読まないといった程度であった。
つまり本書のレビューを含む「本棚」の名称「小説原始人の読書備忘録」は正にそのままの意味であるのだが、その小説原始人がいきなりクロード・シモンやマルグリット・デュラス、あるいはバタイユや吉井由吉を読み始め、さらにはあろうことかレビューまでしてしまうのだから、身の程知らずにも程があるだろう。
つまり「正しい分析・正しい理解」といった意味では殆ど話にならないといった自覚はあるのだ。
しかしながらこれらの小説を、純粋に読むという行為の楽しさも含めてとても楽しく読んだことも事実であり、また何故どのように楽しく読んだかといった意味での自己表現としてのレビューをしているつもりでもある。

 さて本書はインタビュー形式での吉本隆明自身による自著の解説本である。
久しぶり(下手をすると10年近いかもしれない)ではあるが何度目かの再々読であった。つまりそれだけ面白いということではあるのだが・・・

本書のインタビュアーは渋谷陽一であり、言わずと知れたインタビューの名手である。
また自身が熱心な吉本読者でファンでもあるということで、本書には不思議だが強いグルーヴがあって、私などはそこに惹かれて幾度となく読み返してきたと感じている。

そもそも素材となるのは思想界の巨人吉本隆明であって、元から私の手に追える存在ではない。
さらには吉本の著作は何冊か持っていて読んだことがあるとはいえ、本書の題材となった著作はツンドク本として「言語にとって美とはなにか」と「共同幻想論」を持っているだけといった体たらくであるので、本書における吉本著作の分析内容への論評は不可能である。

ところが渋谷陽一はある種天才的な洞察力の持ち主ではあっても、あとがきで本人も認めまた吉本も仄めかしているとおり、さすがに吉本相手では少なくとも知性といった面では太刀打ちできないであろう。
またそうであるから、本書の内容も、吉本の著作を学術的に正確・精密に分析して位置付けるといったスタンスではなく、吉本本に対する一般大衆の読者の面白がり方を対象化し、そちらの視点から吉本本を分析して位置づけをし直すといったコンセプトでインタビューがされている。
そして渋谷のそういった明確なコンセプトと、インタビュアーとしての手腕、さらにはそこに上手く乗っかった吉本のある意味正直な受け答えが、本書にグルーヴと熱気を生んでいると考える。

そういった意味で本書は、必ずしも読者が吉本の著作に対して正確な分析を持っていなくても楽しめるガイド作品になっているし、また読むこと自体の楽しさも存在していると考える。

とはいっても吉本の著作、または吉本思想に関する理解といった意味でも、興味深い記述は随所に見られることも事実であるので、最後にその点についても触れておきたい。

1. 吉本の少年時代はいわゆる軍国少年であって、天皇陛下のために死ぬのだなという想いがあった。
2. そういった自身の意識を含んだ戦時下の大衆の感性を踏まえて、戦後の思想形成がなされた。
3. したがって思想の党派性やいわゆる進歩的な思想には与しない。
4. また現象にたいする分析には社会構造や心理面での影響分析が不可欠と考える。
5. 冷静な批評性とともにある種宗教的ともいえる情動が共存する。
6. 著作には詩的な文学性とともに数学的なセンスの影響が大きい。
7. あくまでも文芸批評が目的であった。
8. そのためには全く新しい批評軸の構築が不可欠と考えた。
9. そしてそれは「言語にとって美とはなにか」「共同幻想論」「心理的現象論」などの作品群によって立体的に描かれる。

<蛇足>
相変わらず複数の本を併読している。例えば「ハイデガー拾い読み:木田元」「ヨーロッパ思想入門:岩田靖夫」「世界一おもしろい 日本史用語の授業:伊藤賀一」「なるほど高校数学 数列の物語 なっとくして、ほんとうに理解できる:宇野勝博」etc...である。
まあいわゆるトイレ本に位置づけしたモノも含むのだが、いずれにしてもそれほどのめり込めていなかった。
そんな中、ふと本書を思い出して読み返したところ、その面白さにひきこまれて思わず再々読をしてしまった次第である。

また久しぶりに本書を再々読することで、以前よりも少しだけ理解は進んだとも思うが、それとともに吉本著作にも(再び)興味が出て来てしまった。
自身の知能レベルを鑑みるにたいした理解もできないと思うし、また読書スピードも遅いためツンドク本や読書途中の本が増えるだけなのは目に見えており、困ったものである。

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