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宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

作者 加藤 文元
出版社 KADOKAWA
出版日 2019年04月25日

人類に残された最後の超難問、ABC予想に挑む!

人類に残された超難問、ABC予想の解決をも含むとするIUT(宇宙際タイヒミュラー)理論。
京都大学の望月新一教授によって構築された論文は、「未来から来た論文」と称されるなど、数学界のみならず、世界に衝撃をもたらした。

この論文は、世界で理解できるのは多く見積もっても数人、といわれるほどの難解さであり、
論文の発表から6年以上たった現在もなおアクセプトに至っていないが、望月教授と、議論と親交を重ねてきた著者は、
IUT理論は数学者ではない一般の人たちにもわかってもらえるような自然な考え方に根ざしていると考える。

本書では、理論のエッセンスを一般の読者に向けてわかりやすく紹介。その斬新さと独創性を体感できる。
理論の提唱者である望月新一教授の特別寄稿も収録!

(目次)
第1章 IUTショック
第2章 数学者の仕事
第3章 宇宙際幾何学者
第4章 たし算とかけ算
第5章 パズルのピース
第6章 対称性通信
第7章 「行為」の計算
第8章 伝達・復元・ひずみ

レビュー

本書は宝石のように輝く部分を持っているのだが、自分のアホさ加減を棚に上げ、天に唾することを承知でいえば、やはりこれは純粋な書籍としての出来映えはかなり駄目ではないかと思うし、実際に読んでいる途中で何度も苛ついたことも事実である。
そのあたりに関しては順次触れていきたい。

さて本作は
「IUT理論という新しい理論が、いかに斬新で深淵な発想によって、数学の世界に革命を起こそうとしているか」ということを、できるだけ身近な例や比喩などを用いて説明する(p290)
ことを目指した作品である。
本作中ではこういった説明はたしなめられているのだが、一般向けの説明としては、数学上の難問である「ABC予想を日本人数学者が解いた」ということが2012年に話題となったのであるが、その解法の元となった「IUT理論」を巡る話である。
そう、本作はあくまでも「IUT理論を巡る話」であって、その概念の説明はされるのであるが、それ以上の詳細な解説がなされる訳ではない。
まあ逆にいえば詳細な解説がなされても、少なくとも私では到底ついていけないのであるが。

ではABC予想とは何か。<注:誤記訂正:文末参照>

a+b=c
を満たす、互いに素な自然数の組(a、b)とその和(c)に対し、d=rad(abc)とする。
このとき、任意の正の実数 ε>0 に対して、
c>d≪1+ε≫ (評者注:適切な文字表現ができなかったが、≪ ≫内の1+ε はべき乗を表わしたい)
となる組(a、b、c)は、高々有限個しか存在しないであろう。(P147)

ということである。(必要に応じてググって下さい。)
本作を元にもうすこし解説すると、どんな自然数も、いくつかの素数の積の形に分解する(素因数分解)ことができるが、互いに素ということは、素因数分解した際に、互いに共通の素数を持たない組み合わせということである。

次にd=rad(abc)であるが、
一般に、自然数nについて、その標準分解を考えて、そこに現れる素数の指数を全部1にしたものを、nの根基と呼んで、 rad(n) と書きます。 (p138-139)
従って
dは、言い換えれば、abcの素因数分解に現れる素数の(互いに相違なるもの一個ずつの)積 (p143)
という意味である。

例えば、
a=5、b=7とします。
c=a+b=5+7=12
ですからabc=5・7・12となりますが、その標準分解を計算すると、
abc=2≪2≫・3・5・7 (評者注:≪ ≫はべき乗を表わしたい。つまり2の2乗)
となります。ですから、
d=rad(abc)=2・3・5・7=210
となります。ここで、cが12で、dが210ですから、dの方がcよりも大きくなります。(p144)
そして
ABC予想は「ほとんどの場合はdの方がcより大きい」ということ、そうでない例外的な場合が「少ない」ということを予想している(p148)
訳である。
また実際に色々と計算してみても、ほとんどの場合「dの方がcよりも大きくなる」ということが分かる。
しかしだからといって、この予想が本当なのかまでは証明できないことから、「予想」であって「定理」ではないという訳である。

さて何故確認できないのかというと、例外的に「dの方がcよりも小さくなる」ことはあるのだが、その規則性が分からないからである。
つまり「ほとんどの場合はdの方がcより大きい」という感じはするのだが、規則性が分からないので、自然数の桁を無限にあげていった先も同様であるのかが「証明できない」ということだろう。

本書ではその規則性が分からない現象を「素因数の気まぐれ」と表現し、その原因を「たし算的構造とかけ算的構造の複雑な絡み合い」、たし算とかけ算の「正則構造」にあると説明している。

そもそも自然数の説明として
1,2,3,4,5・・・
というように、1から始まって、1ずつ次々にたして得られる数です。この考え方は、自然数というものの理解として、非常に自然であり単純です。(p164)
ということで、これを「ペアノの公理」というそう(正確には5条件で定義)で、自然数というものを、どんどん1を足していくことで定義するのだが、これでは自然数のたし算的側面だけしか表わせていないということらしい。

しかし、それでもなお、このやり方で自然数の秘密がすべてわかるのか、というと、必ずしもそうではないのです。なぜなら、このやり方は、たしかに自然数の「たし算的な」構成法にはなっているのですが、そこには「かけ算的側面」がゴッソリ抜け落ちているからです。(p165)
「素数」という概念は、それが「約数・倍数」という概念を用いて定義されることからもわかるように、すぐれてかけ算的な概念です。「1を次々にたしていく」という「たし算的な」自然数の捉え方だけでは、素数というものを把握したり、素数が現れるパターンを記述したりすることは、なかなかできません。(p165-166)
ということなのだ。

これ以上説明を続けても、どんどん引用が増えていくだけなのでほどほどにするが、要するに自然数の理解として「1を次々にたしていく」ということだけでは、一見、十分なように感じても、例えば自然数に含まれる素数という数の「自然数との関連」を十分理解できない。
それは素数がかけ算的な概念であるからで、このように自然数というか整数論には、そしてあるいは数学には
「たし算的構造とかけ算的構造の複雑な絡み合い」、たし算とかけ算の「正則構造」
といった構造的な問題が存在していて、これが例えばABC予想といったものの証明を困難にしている原因だということなのだろう。

ではそういった「構造上の問題」にどう対応するのか?
それがいわゆる「IUT理論」として提唱されていることになるのだが、以下がその概要であるようだ。

それはいわばパラレルワールドのように別の(複数の)数学舞台を用意して、一方に「たし算的構造」を担わせ、もう一方に「かけ算的構造」を担わせることで「複雑な絡み合い≒正則構造」を解きほぐすことを目指す。
そしていったん解きほぐされ、別々のパラレルワールドの置かれた「たし算的構造」を担う数式と「かけ算的構造」を担う数式を、「群の対称性」の概念を用いて再び繋ぎ合わせようとする。
さらには再びつなぎ合わせる事で生じた「ひずみ・不定性」を、定量的に評価できる。
ということであるらしい。

ちなみにIUT理論とはインター・ユニバーサル・タイヒミュラー(Inter・universal Teichmuller)理論のことで、宇宙際タイミュラー理論ともいう。
宇宙際とは、例えば異なる国同士の関係を考える際に「国際」という言葉を用いるように、異なる宇宙(≒数学の舞台)同士の関係を扱うため「宇宙際」なのだそうだ。
またタイミュラーは人物名で、元々「タイヒミュラー理論」と呼ばれる理論があって、それの類似(アナロジー)として「たし算的構造」と「かけ算的構造」の扱い方を構想したということらしい。
「タイヒミュラー理論」とはリーマン面における二つの次元(X軸が実数でY軸が虚数という複素構造≒正則構造)を変形させる理論だそうである。

そしてここからも分かるように、実はIUT理論というのはいわゆるABC予想を解決するための理論ではない。
もっと上位概念というか、ベーシックな理論というか、より根本的な数学構造を再構築しようとする理論であり、結果としてABC予想も解決できますよといったことであった。

さてIUT理論の概念について、本書ではこう説明している。

・ 異なる数学の舞台を想定することで、欲しい状況を、まずは「同語反復的に」作りだす。
ということです。ここで「同語反復的に」と言っているのは、いままでにも何度か述べてきた、「形式的な対応」という意味です。一方、これは我々の言葉では、「大きさの異なるパズルのピース」を、映像の中の映像を使って、見かけ上、形式的に「はめ込む」ことに喩えられていました。
その上で、IUT理論は、
・ 舞台間の限られた通信手段を用いて、計算方法を伝達する。
ということを目論みます。これは「対称性通信」と我々が呼んでいたものです。異なる舞台の間で、正則構造の壁を超えるためには、対称性の群を用いる必要があります。そして、そこから計算の対象や手順を回復するために、遠アーベル幾何学を応用していたのでした。
(評者注:遠アーベル幾何学の応用とは、簡素で元の少ないより群よりも、より複雑で元の多い群の方が、伝える情報量が増えることによってより正確な再現が可能になるということ。)
そして、最後に、
・ 「対称性通信」によって生じた「不定性・ひずみ」を、定量的に評価することで、不等式を導く。
ということをやるわけです。数学の舞台を複数用意することや、その間の通信のために、対称性の群を使うところなど、IUT理論には多くの斬新なアイデアがありましたが、ここで最後に、「対称性通信」をすることによって生じた「宇宙際不定性」を、定量的に評価して、値を出すことができる、というのは、IUT理論における、もっとも驚くべき主張の一つであろうと思います。(p291-292)

また冒頭にある、IUT理論の提唱者その人である望月新一氏の「刊行によせて」では、IUT理論の概要がこう説明されている。

「宇宙際タイヒミュラー理論」という理論は一言で言うと、「自然数」と呼ばれる「普通の数」(=つまり、1,2,3,・・・)の足し算と掛け算からなる、「環(かん)」と呼ばれる複雑な構造をした数学的対象に対して、その足し算と掛け算という「二つの自由度=次元」を引き離して解体し、解体する前の足し算と掛け算の複雑な絡まり合い方の主立った定性的な性質を、一種の数学的な顕微鏡のように、「脳の肉眼」でも直観的に捉えやすくなるように組み立て直す(=再構成する=「復元」する)数学的な装置のようなものです。
 足し算と掛け算は、分離して「環」の構造を解体する前の時点においては非常に「固い」(=ある数学的な文脈においては有名な表現を用いると、「尋常ならざる剛性」のある)関係にあり、その関係を勝手に「揺すったり」、「変形したり」することは(少なくとも従来の数学の「常識的な道具」をどんなに頑張って総動員しても)到底叶わない芸当と見做されてきました。
 一方、宇宙際タイヒミュラー理論では、この足し算と掛け算の間にある「底なしに固いはずの関係」を解体して変形を施すことがまさに理論の核心的な部分に対応します。しかも、単に解体して変形を施すだけでなく、固いはずの関係を再構成する際、きっかり元の固い状態のものとして再構成するのではなく、様々な「緩み」=「不定性」が必然的に付随してしまう、「ゆるゆる」な状態で復元するのです。言い換えれば、復元後の、足し算と掛け算の関係というのは、本来の固い関係そのものではなく、本来の固い関係に対する「一種の近似」でしかありません。(p7-8)

というわけで以上見てきた通り、IUT理論というのは、非常にスリリングで興味深い理論だといえるのではないだろうか。
また理論構築に関連する数学論もとても面白く、またその数学論の説明も簡潔でありがたい。特に群論に関する説明など、個人的にはちょっとマジックを見ているかのようにスッキリと説明がなされていて、とても驚いたのであった。
(例えば以前「方程式のガロア群:金重明」という作品を読んだのであるが、131/240頁で投げ出してしまった。アホな私のレベルからすると内容もそれなりに難しいのだが、それ以上に数式が続く構成に読書そのもの楽しさを感じられず、「ガロア群とは何か」がなかなか明確にならないこともあいまって~要するに私の問題であるのだが~諦めてしまった。それに比べると本作の説明は余りに簡潔であった。)

勿論そのIUT理論そのものの是非に関しては、私如きに伺い知る由も無いし、またそもそも本書もそういった目的の作品でもなく、理論に対する詳細な説明がなされていないのも、既に述べた通りである。

以上が本書の「宝石のように輝く部分」であるが、次に「純粋な書籍としての出来映えはかなり駄目ではないかと思うし、現実に読んでいる途中で何度も苛ついた」ことに関しても述べておきたい。

本作の著者は数学者であり、学者らしくより正確な表現と理論的な構築を目指したが故か、説明が丁寧である反面、なかなか進んでいかないもどかしさがある。
さらにいえば、これは邪推であるが、「IUT理論に対するマイナス評価」を意識してか、とにかく文章全体が言い訳じみて感じたのだが、それはさすがに穿ち過ぎであろうか。
とにかく内容の進行が極端に鈍く、また目的地に向かって真っすぐに進んでいる感じも乏しくて、ゆっくりと少しずつ登山しているだけでなく、ぐるぐると周囲を回っているだけで一向に頂上にたどり着かない感じで、終始ストレスを感じながらの読書になってしまった。

例えばIUT理論の前提になる整数論での「たし算的構造とかけ算的構造の複雑な絡み合い」に関する説明が出てくるのが162頁ぐらいからである。
またIUT理論自体の説明も、別々の数学の舞台を用意する旨の説明が173頁ぐらいから始まるのだ。
本文は292頁までの作品であるので、いかに本題(というかIUT理論の説明)に入るまでに枚数を擁しているのか、これらの頁数からも伺えるのでは無いだろうか。

ではそれまでの頁では何が記されているのかというと、恣意的に極論を言えば「IUT理論を巡る話」の「を巡る話」の部分である。
(それとIUT理論そのものとは必ずしも直接関係のない、いわゆる数学に関する話題が述べられる。)

ここで上記の「IUT理論に対するマイナス評価」に関して補足しておくと、私が知る限り、IUT理論に対する評価は特に欧米に於いては芳しくないようである。
また理論そのものの評価も高くないが、それに付随する形で、理論が斬新で難解であるにもかかわらず、積極的にIUT理論を説明しようとしない望月新一氏の姿勢に対しても、疑問と批判が少なくないようである。
本書でもそれを意識したかのように、望月氏が決して閉鎖的な性格でないことや人間性を肯定的に捉えたエピソード、そしてIUT理論に関しても理論がオープンに公開されていたことや望月氏も実は積極的に説明されてきたとの記述が繰り返し出てくるのであった。

また例えば、IUT理論は決して荒唐無稽な考え方ではなく「自然な発想」に基づく理論である旨は、特に繰り返し繰り返し述べられており、それは本作を最後まで読めば何となく納得できるのではあるのだが、しかしIUT理論がどう自然な発想なのかを、積極的に説明する文章が特にあるという訳でもないのだ。
という訳で、特に前半部分における言い訳じみた話が長々と続き、なかなか本題(というかIUT理論の説明)に入らない文章と作品構成は、個人的には本当にイライラさせられた。

なお繰り返しになるが、IUT理論の是非もそうだが、望月新一氏の姿勢の是非に関しても、私が数学界の常識に関する情報を持ち合わせていない上に、知的なレベルが低いこともあって、それを客観的に判断するのは困難であることを強調しておきたい。

(とっても蛇足)
本書はそれなりに売れている様で、奥付によると
2019年 4月25日 初版発行
2019年10月25日 5版発行
となっていた。
私も病院の定期検査の帰りに、思わず寄った書店(ツンドク本がたくさん有るのに寄るなよ!)で平積みになっているところを発見したのであった。

さて元々は「地球進化 46億年の物語:ロバート・ヘイゼン」を読んでいて、その息抜きに「世にも美しき数学者たちの日常:二宮敦人」(読了!)を読んだのだが、元に戻らず、思わず書店で見つけた本書を読んでしまった。
そういえば「世にも美しき数学者たちの日常」に本作の著者である加藤文元教授も出てきていた。

それと本文で「方程式のガロア群」の読書が途中で挫けたと書いているが、そういえば「もっとも美しい対称性:イアン・スチュアート」という群論に関する作品も、100/350頁で中断していたのを思い出した。
う~ん、読書途中の作品も多いなぁ・・・。

< 注意:2020.06.26 に 致命的な誤記を訂正しました。>
文中の「ABC予想」の説明文で、

a+b=c
を満たす、互いに素な自然数の組(a、b)とその和(c)に対し、d=rad(abc)とする。

とすべきところを

~互いに素な自然数の組(a、b、c)に対し、~

と間違えて表記しておりましたので、訂正致しました。
申し訳ございません。

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