ビートルズの刺激的なドキュメンタリー5冊

ビートルズの刺激的なドキュメンタリー5冊

更新:2021.12.12

ビートルズに関しては、これまでにさまざまな本が出ているし、今でも全世界で出続けている。伝記・事典・写真集・全曲ガイド・詩集・クイズ・イラスト集・絵本・インタビュー集・発言集など、ジャンルも幅広い。もちろん、その中には面白いものもつまらないものもある。そんな多彩なジャンルの中から、まず、ビートルズのドキュメンタリー本を紹介することにした。意識的に聴き始めてから40年。長い期間、多くの関連書籍を読んできたが、それでもいまだに知らない新事実がたくさん出てくるのだから、ビートルズは面白い。

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日本公演の舞台裏を明かす

2016年はビートルズ来日50周年。各社からあれこれたくさんの記念本が出るのは間違いない。というか、出す予定があるという話をすでに数社から聞いているし、自分でもすでに企画中の本がある。ビートルズの日本公演がらみ本は過去にももちろんたくさん出ているけれども、そんな中で最も印象深かったのが、ジャーナリスト・竹中労を中心に日本公演の文字通り舞台裏を緻密に探った『ビートルズ・レポート~東京を狂乱させた5日間~』。
著者
出版日
1995-12-01
来日公演後に出たオリジナル版は古本屋で見る機会もほとんどなく、最初に手にしたのは82年に白夜書房から出た、小ぶりな復刻版だった。あれだけ警備が厳重だったのは、70年安保改定を前に、要人護衛の大演習にビートルズを使って行なうためだったという視点が、まだ20代前半だった自分にとって、予期せぬ驚きだったのをよく覚えている。光があれば影もあるというか、「レイン」があれば「ヒア・カムズ・ザ・サン」もあるというか、脚光を浴びる人たちの裏には、それを実現させるための陰の存在があること。そしてビートルズをジャーナリスティックな視点でとらえることが可能だということをこの本で学んだ気がする。

「いつどこで何を録音したか」を網羅

これまでに読んだビートルズのすべての本の中で最も衝撃を受けたのがこれ。1988年、当時イギリスに滞在していた兄が出たばかりの本書を手にしてまもなく帰国したので、それはもう、貪るように読んだ。まだ日本語訳の出ていない英語の大書だったが、写真も含めてページをめくるのがもったいないような感覚に襲われたものだ。
著者
マーク・ルーイスン
出版日
2009-09-07
ビートルズがいつ何時にどこでどの曲をどのくらい時間をかけて何テイク録音したのか。実際に立ち会ったプロデューサーやエンジニアはだれか。1962年から1970年まで、ビートルズがEMI(のちのアビイ・ロード)スタジオで録音した曲の詳細を、残されたセッション・テープを元に、ビートルズ研究の第一人者が実際に音も聴いてまとめた記録集だ。マニアックな話になるけれど、『ラバー・ソウル』収録の「ウェイト」がもともと『ヘルプ!』のアウトテイクだったことや、『アビイ・ロード』収録の「ハー・マジェスティ」が当初はB面のメドレーの途中に入っていたことなど、目玉が飛び出すほどの衝撃の数々が本書には詰め込まれていた。本書でも触れられていないが、1969年のポールとリンゴのセッション写真は、アルバム『アビイ・ロード』ではなく、メリー・ホプキンの「ケ・セラ・セラ」のレコーディングの時のもの。

ヨーコにクッキーを食べられて怒るジョージ

マーク・ルイソンの『ザ・ビートルズ レコーディング・セッション』を超えるレコーディング・データ本はないだろうと思っていたけれど、それに匹敵する本が出た。プロデューサーのジョージ・マーティンとともにアルバム『リボルバー』以降のビートルズを支えたエンジニア、ジェフ・エメリックの回想録だ。最近編集を手掛けた『ビートルズ音盤青春記』(音楽出版社)の著者・牧野良幸さんも、目にした情景や発言がそのまま絵や音として即座に記憶される特技(?)の持ち主だけれど、ジェフ・エメリックの記憶力もすごい。日記でもつけていたんじゃないかと思えるほどに。
著者
["ジェフ・エメリック", "ハワード・マッセイ"]
出版日
2009-09-09
この本でも、たとえば「イエロー・サブマリン」のブラスの音はスタジオの擬音を使ったものだという記載をはじめ、新事実があちこちに登場するが、中でもとくにおかしかったのが、『ザ・ビートルズ』のセッション中に、オノ・ヨーコに自分のクッキーを勝手に食べられて激怒するジョージのくだり。ビートルズ解散後もポールと組んで『バンド・オン・ザ・ラン』や『タッグ・オブ・ウォー』などの名盤を作ったエンジニアなので、当然のようにポール贔屓。ドキュメンタリー仕立ての回想録だからこその面白さがある。

「主夫」時代の自堕落なジョンの素顔

ドキュメンタリーというよりは、ドキュメンタリー仕立てのエグイ1冊。これも『ビートルズ・レポート~東京を狂乱させた5日間~』と同じ頃に読んだが、手にしてまず思ったのは、本の装丁と、書名や見出しに使われている書体の印象の強さだった。表紙の黒地の赤文字も印象深かったし、カバーの折り返しにまで文字が連なる裏表紙も、斬新なデザインだった(装丁は海野幸裕氏)。ページをめくると、巻頭には、78年9月に成田空港で係員におばけのようなポーズでおどけてみせるジョンの奇妙な写真がある。その写真もまた、装丁とともにどことなく胸騒ぎを起こさせるものだった。

ジョン・レノン最期の日々

1983年12月08日
ジョン・グリーン
松文館
内容は、ジョンとヨーコの専属タロット占い師の回想録。天才と狂気は紙一重というけれど、強さと弱さを併せ持つジョンのかっとびぶりは、ホントかウソかは別にして、さもありなんと思わせるのに十分な真実味がある。ビートルズ時代の名曲「アイム・オンリー・スリーピング」を地で行く「ハウス・ハズバンド」時代のジョンの自堕落な日々が窺える、刺激的で抜群に面白い1冊だ。二人の秘書をつとめたフレデリック・シーマンの『ジョン・レノン最後の日々』(シンコーミュージック)と併せて読みたい。

思わず“ジャケ買い”

ビートルズのパロディ・ジャケットはたくさん出回っていて、アナログ(LP)レコードを売っている店で見ると、思わず“ジャケ買い”してしまう。この本も、それと同じく、表紙を見ただけでジャケ買いした1冊だ。ジャケ買いする理由は、ポール・マッカートニーのサインが入っているからではない。そのサインがパロディだったからでもない。「25.1.1980」という日付の入ったサインだったからだ。それが何を意味するのかは、書名を見ればわかる。いや、書名をみてわかる人はポールにある程度関心のある人だろう。
著者
瀧島祐介
出版日
2015-09-17
1980年1月、ポールが成田空港に到着後に大麻不法所持の現行犯で逮捕され、日本公演が幻と化した。それだけでなく、今じゃ絶対にありえないことだけど、あのポールが日本の“ブタ箱”に入れられて味噌汁まで飲むハメになったという悪夢の9日間。その時のトラウマで味噌汁をその後に飲めなくなったとか、村田英雄の「王将」をやくざに教わったとか、噂レベルでも面白い話がたくさんあるが、本書は、留置場で「イエスタデイ」を聴いて更生した殺人犯の回想録。やっぱりいたんだ、そんな人。たしか「フジモト」という名前のやくざもそこにいたはずなんだけどね。

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    バンドマンやソロ・アーティスト、民族楽器奏者や音楽雑誌編集者など音楽に関連するひとびとが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、写真集にビジネス書、自然科学書やスピリチュアル本も。幅広い本と出会えます。インタビューも。

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