おすすめの恋愛詩集5選。“あの日”の自分に戻っちゃうかも。

更新:2021.12.11

恋愛に悩んでいるあなた、恋愛に憧れているあなた、とんと恋愛はご無沙汰なあなた。。。 ひと言で言い表せない様々な感情が渦巻く恋愛ですが、そんな気持ちに寄り添ってくれたり、はたまた過去の切なさをえぐりかえすような詩集をご紹介します。

ブックカルテ リンク

恋愛感情って何なのか考えてしまう詩集『わたしたちの猫』

究極、私たちは、一人でも生きていけます。生きていけると思っています。そんな一人でも生きていけるもの同士が「一緒になる」のが恋愛なのではないでしょうか。では、「一緒になる」とはどういうこと?何をもって一緒になれていると確認できるのでしょう。

著者
文月 悠光
出版日
2016-10-31

「生きるということが「延長」である限り、「あなた」と「わたし」の関係も、絶えず星のように動いていく。その変わり続ける地図に惑いながら、わたしたちは一匹一匹、見えない尻尾を泳がせています。」(『わたしたちの猫』あとがきより引用)

本書は作者が19歳の冬から、5年間のあいだに綴った“恋にまつわる詩 ”26篇をおさめたものです。文月悠光は高校3年生の時に出した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』で中原中也賞を受賞しました。そのほか書評やエッセイの執筆、NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞など、幅広く活動しています。

本書の中の『ばらの花』という詩をご紹介します。

「わたしにとって
 「わたし」はひとりきりだから。
 あなたはあなたを
 裁くことができますか。
 自らのとげを
 愛することができますか。
 とげを愛してもらえなければ
 花は花を生きられない。
 刺して知らせる誰かの指がほしかった。」
(『わたしたちの猫』ばらの花より引用)

そしてもう一つ、『ばらの花』のすぐ後に綴られている、『女の子という名のわたし』という詩です。

「朝目覚めたら
 金平糖を一粒。
 飲み込めない棘を
 舌の上で溶かしていく。
 (中略)
 金平糖よ、
 この舌はあなたの棘を包みます。
 すみやかに色づいて
 熱も痛みも味わい尽くす。」
(『わたしたちの猫』女の子という名のわたしより引用)

ひとりで生きてくこと。棘をまるごと飲み込むことはできないけれど、その棘ごと包みながらふたりで生きていくこと。棘を溶かしたあとの、すこし色のついた舌が、ふたりで一緒になることの証なのではないかと感じます。
 

映画化も決定、最高密度の恋愛詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』

“夜空”と聞いて、
どんな空を思い浮かべるでしょうか。

“青色”と聞いて、
どんな色を思い浮かべますか?

著者
最果 タヒ
出版日
2016-04-22

最果タヒは1986年生まれ。2004年にインターネット上で詩作をはじめ、2007年に発売した第1詩集『グッドモーニング』では、当時女性では最年少で中原中也賞を受賞。 詩のほかに、小説やエッセイも書き、フジテレビオンデマンド「さいはてれび」では、最果タヒの詩を元にしたショートムービーが配信されています。『夜空はいつでも最高密度の青空だ』は、そんな最果タヒの4冊目の詩集です。映画化も決定しました。(2017年5月27日全国公開)

「レンズのような詩が書きたい。その人自身の中にある感情や、物語を少しだけ違う色に、見せるような、そういうものが書きたい。人間の体には最初から思想があって、感情があって、経験があって、過去があって、未来があって、予定があって、期待があって、不安があって、それは全部読む人のメロディとして、風景として、私が書いたものとなにかを補い合い、ひとつの作品を作ってくれる。私は自分の言葉単体よりも、その人と作り出したたったひとつの完成品を見ていたい。」
(『夜空はいつでも最高密度の青空だ』あとがきより引用)」

自分でもこの感情の正体がわからないのに、それでも誰かにわかってもらいたい、そんな自分の中にある矛盾を、この詩集が少し解決してくれるように思います。

本書には、死・殺す・滅ぶなどのワードが多くでてきますが、けっして残酷ではなく、むしろこのような言葉こそ、読む者の脆くて儚い部分をすくい上げてくれている気がします。

残りのページ数がわずかになってきたとき、『4月の詩』という詩があります。

「40年後に死にますって、伝えられてもきっと私はなにも変えない。くだらない命、くだらない呼吸。それを、愛しいと言うきみをばかにしない私は、ばかだけど。(中略)
星は死んだら消えてしまうけど、そのことにだれも気づかないで、光がずっと残ってく。羨ましいときみが言うけど、きみの光が残ったって、私が、死ねって言える時間がないなら、嘘だよって笑えないなら、意味ないんだよ。死なないで。」
(『夜空はいつでも最高密度の青空だ』4月の詩より引用)

“好き”とか“愛してる”ということばより、もっと確かな何かを求めている方にぜひ読んでいただきたいです。

夜がふけた頃に本書を開き、読み終わって窓の外をのぞいたら、夜空の色が少し違ってみえるかもしれません。

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すべての〈あなた〉に読んでほしい詩集『あたしとあなた』

一篇の詩におけることばの数はけっして多くはなく、なおかつ難しい単語も使っていませんが、読者である〈あたし〉に対して、それぞれの〈あなた〉が浮かんできます。普段詩を読まない方、本を読むことが苦手だと思っている方にもぜひ手にとって頂きたいです。

著者
谷川 俊太郎
出版日
2015-06-24

言わずと知れた、谷川俊太郎。日ごろ詩など読まない方でも、教科書などで一度は目にしたことがあるでしょう。

1952年に第1詩集『二十億光年の孤独』を刊行して以来、多数の詩集、絵本、エッセイ、翻訳、脚本などを発表。そのほか詩を釣るiPhoneアプリ『谷川』や、郵便で詩を送る『ポエメール』など、詩の可能性を広げる新たな試みにも挑戦しています。本書は、そんな谷川俊太郎が83歳の時に発表した詩集です。37篇の詩すべてに〈あたし〉と〈あなた〉が登場します。

「〈あたし〉と〈あなた〉が登場するのだが、特定の人物を思い描いている訳ではない。性別も年齢も、物語のかけらのような情景も読者が自由に、その時の気分で想像して楽しんでくれることを願っている。〈I〉と〈YOU〉はあらゆる人間関係の基本なのだから。」
(『あたしとあなた』あとがきより引用)

本書には、見開き仕様になっている特製しおりが挟まっており、谷川俊太郎と、ブックデザインを担当した名久井直子氏の文章が記されています。その文章の下、左右のページにまたがって記されている、38篇目の詩があります。その詩が、“この詩を読むためにこの詩集を手に取ったのだ”と思わせてくれるような詩で、そんな仕掛けにもグッと来ます。ぜひ皆さんご自身で確かめていただきたいです。老若男女、すべての〈あなた〉に全力でオススメできる詩集です。

人生と詩が一体になっている詩集『中原中也詩集』

中原中也。名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。青春の切なさや人生の哀しみをうたった詩はいまも多くのファンに読み継がれています。そんな中也は、泰子という女性との出会い・別れを経験し、詩人として大きな飛躍を遂げることになります。

著者
["中原 中也", "吉田 ヒロオ"]
出版日
2000-03-29

中也は27歳の時に処女作『山羊の歌』を出版します。実は生前に出されたのはこの1冊のみで、それから3年後の30歳の時に病で亡くなります。日本のランボオと呼ばれ、近代詩に大きな足跡を残した詩人ですが、生きている間はけっして広く認められる事はありませんでした。本書『中原中也詩集』には、『山羊の歌』と、中也が亡くなった翌年に友人たちによって刊行された『在りし日の歌』の2冊でよまれた歌、そして、詩集として編まれなかった作品も合わせた140篇が収録されています。

中也の青春時代を語るうえで欠かせないのが、長谷川泰子と、小林秀雄の2人です。言うなれば奇怪な三角関係を繰り広げるのですが、この2人の存在があったからこその、中也の詩人としての飛躍がありました。

中原中也は1907年に山口県で生まれ、弟の死をきっかけに文学に目覚めます。文学に傾倒していった中也は中学を落第し、世間体のため京都へ転校。中也が京都へ移り住んだ16歳のころ、関東大震災が起こります。東京が壊滅的な状況になり、罹災者として関西へやってきた泰子と出会い、そして中也が17歳、泰子が20歳のとき、同棲をはじめます。今考えてみると、かなり早熟ですよね。

その後1925年、中也が18歳の時、詩人としての成功を求め泰子と一緒に上京し、友人を介して、後に批評家となる小林秀雄と出会います。ほどなくして泰子は小林に惹かれていき、ついに小林の元へ出て行くことに。このとき、泰子が持ちきれない荷物を、中也が小林の家まで抱えて運んでやったという記録も残されています。

中也は、泰子と別れたあとしばらく詩をつくれなくなったのですが、半年後、苦労して書き上げた詩を、 最初に小林に見せにいきました。また、泰子は結局小林とも別れて別の男性との間に子供をつくるのですが、中也はその子供の名付け親になってもいるのです…。

本書は詩集ですが、30歳という短い中也の人生と詩が一体になっている1冊です。

“あたり前”にひかりをあててくれる詩集『よいひかり』

三角みづ紀は1981年生まれ。大学在学中に詩の投稿をはじめ、第42 回現代詩手帖賞を受賞。第5詩集『隣人のいない部屋』では史上最年少で萩原朔太郎賞を受賞しています。本書は三角の第7詩集。本書を書くために1ヶ月滞在したベルリンでの生活が描かれています。

著者
三角 みづ紀
出版日
2016-08-30

本書にはたびたび“彼”が登場し、ベルリンでは一緒に暮らしていることが伺えます。彼が買ったチューリップが窓際に飾ってあること、蕪のスープを作って彼の帰りを待っていること、一緒に蚤の市へ行ったことなど日々の生活が、わかりやすい言葉で穏やかに綴られています。

「とりいそぎの水と
 ジュースと野菜を
 赤いかごにいれて
 レジに並んでいたら
 彼はあわてて その場をはなれて
 一束のチューリップを持ってくる
 わかりやすいピンクの
 まだつぼみのそれらは
 計量カップに飾られて
 咲くのを 待っている」
(『よいひかり』花束より引用)

難しい比喩なども使っておらず、詩、というよりは短い日記のようでもあり、詩ってなんだかわかりづらい、と馴染みのない方でもすっと入り込むことができるのではないでしょうか。

本書の途中、“彼”が帰国することになり、その後も連絡がとれず、失恋。それでもベルリンでの生活は続いていきます。

「ひとりの食事は
 とてもつまらない
 とてもつまらないけど
 ひとりで作って食べる
 オムレツもおいしくて
 丸机に置いた皿
 塩と胡椒
 会話があったら
 より贅沢な食卓
 アスパラガスがちょっと硬い」
(『よいひかり』オムレツを作るより引用)

当たり前だと思っていたことが当たり前でなくなっても、生活はつづいていきます。わたし達の生活は、どこまでが当たり前のことで、どこからが当たり前ではないことなのか……読み終わったあと、じぶんの生活を見つめ直し、当たり前だったことに光をあててくれる一冊になっています。
 

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