美味しい食のエッセイおすすめ5選!

更新:2021.12.17

食に関するエッセイおすすめ作品を、5作をご紹介します。ライトなエッセイから、ちょっと渋めなエッセイまで楽しめますよ。

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世界と日本の美味しさが詰まった食エッセイ

著者
西 加奈子
出版日
2016-02-10

世界と日本の美味しいものをポップなテイストで西加奈子が紹介してくれます。

カイロで育ったという作者は、日本食の美味しさを味あわせたいと思う母心からずっと和食を食べていたといいます。また日本人が外国人に刺身をすすめる場面では、誰にでも日本食を強要するのはよくないと静かな主張が聞こえてくるのです。さりげなく勧めることと、押し付けることとの違い。この感性は作者が子どものころから人間の多様性に敏感だった名残なのかもしれません。

印象深いシーンは、著者が初めて料理を作ったエピソードでしょう。幼い頃、前夜遅く帰ってきた両親のために、いり卵とだしの入っていない味噌汁を作った著者。起きてきた両親はその朝ごはんを食べて「加奈子、天才!」と喜んでくれたそうです。

食べることは、他人を受け入れることと同じだと発見できる本書。嫌味のないさらりとした、隠し味のような大阪弁も楽しめますよ。

美味しいもので、豊かになる心

著者
高山 なおみ
出版日
2009-04-10

料理家に転身する前の、形の定まらない時期にあった高山なおみの料理や仕事、日常のことを簡潔な文体でまとめたエッセイが楽しめる本作。著者が好きな映画、音楽などから、その人柄が浮かび上がってくる仕掛けになっていますよ。

プロローグには、別れが近い父のそばで弁当を完食する作者の姿があります。人間は、どんな悲しみの最中になってもお腹が空いて美味しいものを食べたくなるのです。残酷ですが自然なことで、それが生きることといえるでしょう。

仕事のスタイルに迷いながらも、自分の料理と生き方をきちんと見出していく著者の姿。つまづきながら、それを自分の血肉にする作者の芯の強さから、読者は元気がもらえることでしょう。仕事や人間関係に疲れた時に、強力な栄養ドリンクのようになる1冊です。

森鴎外の娘による食エッセイ

著者
森 茉莉
出版日
2016-09-07

ため息が出るほどゴージャス!本書『紅茶と薔薇の日々』では、森鴎外の娘である森茉莉が、そのエキセントリックな感覚で、食べ物と人生をさばさばと語るエッセイを楽しめます。

森鴎外の長女として生まれた作者は、50歳を過ぎて作家デビューした文筆家です。鴎外に連れられて当時は珍しかった洋食レストランを食べ歩いた思い出や得意料理について、個性的な文章で綴られていきます。

本書を読んでいると、料理の本質は作り手の愛情だと気づかされます。日常の和食も、フランスのプロの料理も食べる人を思って美味しくなるのです。その行間にはフランスへ行っていて、看取ることができなかった鴎外への愛情が滲み出ており、時に切ない心情が感じられることでしょう。

一番印象的な作者の料理は、友人である萩原葉子(萩原朔太郎の娘)の病床に運んだマグロとヒラメのぬた。友人を思う作者の暖かい心がそこにあります。料理を自慢する言葉は、自分のやさしさに対する照れ隠しなのかもしれませんね。

美味しいものと、子どもの笑顔

著者
よしもとばなな
出版日
2013-06-07

美味しいと喜ぶ子どもの笑顔を覗き込む著者よしもとばなな。父吉本隆明の作った揚げ物オンリーのびっくりお弁当も登場します。『ごはんのことばかり100話とちょっと』は、ページを繰るたび新たな発見があるとびきりのエッセイです。

『キッチン』で作家デビューした、よしもとばななの食と人にまつわる思いのあれこれが綴られています。近所のこじゃれたイタリアンの滑稽な様子や、ヘルシーさを売り物にするカフェの押し付けがましさに納得いかない気分になる作者の思いに、共感できる人も多いのではないでしょうか。

また、息子との家での食事風景には心が和むこと間違いなしです。嫌いなものは丁寧に取り除いて、辛いものや酸っぱいものは「食べられない」とはっきり言う子ども。そのため別に料理を作る姿からは、著者の新たな一面を知れるかもしれません。

いつもの食事風景が、飾らない丁寧な文章で綴られています。巷の有名店や伝統的な日本食にこだわることなく、今の感性で美味しいものを頂くという潔さ。きっぱりとした矜持がステキです。

どれだけ食べたら気が済むの?

著者
獅子 文六
出版日

もう一度食べてみたいフランスの名店の味がここに!本書『私の食べ歩き』はさらに、京の精進料理の神髄をも探求した名随筆です。

料理の本場で鍛えた舌と簡潔な文体が生きた、美味礼賛の第一級の随筆である本書。フランスの有名レストランから日本の精進料理まで、胃を壊すほど食べた当時の絶品料理の数々が紹介されています。

「トウル・ジャルダン」の有名な鴨料理はテーブルですきやきのように煮る描写があり、その香りまで伝わってきます。一方、大徳寺での精進料理を褒める場面では、若い時代と嗜好が変わってしまったことを嘆くのです。しかしあっさりしたものを美味しいと思う、自分の老化を認める素直さはあっぱれです。

西洋亭の洋食を何皿も食べたと自慢する作者は、人生を楽しむ術を知っている根っからの快楽主義者といえるでしょう。酒と人生に酔うありさまは、この不景気な時代を忘れさせる愉快さすらあるかもしれません。美味しいものは食べられる間に食べ、人生を謳歌する姿をぜひお楽しみください。

ポップなエッセイから古い随筆まで、食にまつわる読みものは、それぞれ個性的で飽きないものです。料理のレパートリーを増やすことにも小ネタにも活用することにも、とっておきなエッセイをぜひ読んでみてください。

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