こぶしファクトリー・広瀬彩海が選ぶ「重苦しく、圧倒される小説」
こぶしファクトリーの広瀬彩海です。暖かくなってきて、読書が捗る最高の気候になってきました。こんな今だからこそ私は重苦しい本を欲してしまいます。こんな今、に限ったことではないのですが……。

春の暖かく心地よい陽射しを浴びながら、読みたいと思う本は、殆どの方が「ふわっと心が浮き上がるような物語」のものだと思います。そんな小説を紹介される場面も多いかと思いますので、今回は敢えて、手に取るだけで心が重くなるような「気圧される」小説をご紹介します。

絶望しか残らないと同時に……

著者
カズオ・イシグロ
出版日
2008-08-22
まず、クローン人間という設定から、人権無視という底知れぬ残酷さを感じます。あたたかい光が差し込んだかのように思えても、周りの空気はあたたまることなく、ただ冷酷さが際立つのみ。切なく、苦しい。こんなに胸が締め付けられることはあるのでしょうか。

自分の夢を持って、希望を持って、将来に向かう権利を得られずにただ歳を重ねる。私がそんな人生だったら、何を生き甲斐にしたらいいか分からず絶望しか残らないでしょう。そう考えると、この小説に出てくる人物は強いんだな、と思うのと同時に、この世界は幸せだと感じることが出来ます。

恐怖心に支配されていく

著者
小野 不由美
出版日
2002-01-30
とにかく分厚さと長さにまずは圧倒されます。読破できるのか。この本との勝負はまずそこから始まります。ですが、面白い。奥深い面白さがあります。

が、読み進めているうちは面白いというより、逃げられない――という恐怖心に支配されるようです。真っ暗な部屋に閉じ込められて、壁に手が触れただけでも何かいる!と思ってしまうような、そんな計り知れない怖さと不気味さを持っています。

読み終わって感じたのは、人はつくづく孤独に弱い生き物なのだなということ。一番怖いのは屍鬼なんかではない。人間なのではないかと。読めば読むほど深いと感じ、いろいろなことを考えさせられます。そして、読めば読むほど、怖い。

愛の定義、生きる意味とは?

著者
カミュ
出版日
1963-07-02
“きょう、ママンが死んだ”という冒頭で有名なこの小説。この本は初めて手に取った時、ものすごくページ数が少なくて驚きました。

この本を読めば誰もが、ムルソーは冷徹だと思うのでしょうか。そもそも私は、もちろんフランス語は読めないので日本語訳版を読んだのですが、私が読んだものは殆ど改行がなく、字が詰まっていて淡々とした日本語で書かれているからか、より一層強くそれを感じたのです。

主人公であるムルソーは果たして何故これほどまでに無感情で冷徹な人なのか。そもそも本当に冷徹なのか。そもそも愛の定義とは? 生きる意味って? 自分の感情って、何を基準に判断しているのだろう、人生においての常識をひっくり返す、ある意味非常識な小説です。

この記事が含まれる特集

  • 本とアイドル

    アイドルが、本好きのコンシェルジュとして、おすすめの本を紹介します。小説に漫画、詩集に写真集に絵本。幅広い本と出会えます。インタビューも。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る