C・W・ニコルのおすすめ本5選!英国出身で日本に帰化した、森を愛する作家

更新:2021.11.9

彼のことを、日本好きな、自然を愛する笑顔のタレントとしてご存知の方も多いのではないでしょうか。生い立ちから日本に腰を落ち着けるまで、そして日本に住んで以降も、彼の人生は波乱万丈です。まさに小説のような彼の人生の一端をのぞいてみませんか。

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自然を愛する作家、C・W・ニコルとは

1940年、イギリスの南ウェールズ生まれのC・W・ニコルは、自身のことを「ウェールズ系日本人」と、こだわって呼んでいます。ウェールズを愛しながらも、40歳のとき日本に住むようになり、1995年55歳で日本国籍も取得しました。
 

彼は12歳のとき、北極探検の記録映画を観て以来強い憧れを感じます。13歳で転校したクラスでは、上級生グループから過酷ないじめをうけ、いつか北極へ行くためにも身体を鍛えようと、武道を習い始めました。そしてその頃から、将来日本に修行に行くという夢も持ちます。

高校卒業後は、北極探検隊についていくチャンスに出会い、なんと親に黙って隊に着いて行ってしまいます。映画を観た5年後、その夢が叶ったのです。

大学在学中の19歳のときには、スカウトをされてプロレスラーのアルバイトをします。給料が良かったので、北極へ行く資金作りの目的もありました。しかしある日、学長に呼ばれ、そんな品のないアルバイトは辞めるように、と言われてしまいますが、レスラー仲間との絆もすでに強まっており、もともと学校生活も退屈に思っていたので、彼は大学を辞めてしまいます。

アルバイトも続けながら、北極圏の越冬隊に加わり鳥類の調査が終わったとき、今度はもう一つの夢である日本へ初めてやってきたのでした。

19歳の頃からその豊富な体験をもとに小説を書き続け、36歳のベストセラーをきっかけに様々な作品を執筆し続けています。

生きる、ということにいつも真剣に向き合ってきたC・W・ニコル

1963年、C・W・ニコルが22歳のとき、空手修行のために初めて来日します。しかし東京の都会的な生活は肌に合わず、見かねた先輩方から、山登りでもしてくるよう言われたのでした。

彼はこれまで3度の北極探検を経験していたので、日本の雪山など大したはことはないと思っていました。しかしその山は、彼のそれまで経験した雪と比べて、柔らかく重いのです。1歩進むごとに足が埋まってしまい、ニコルは先輩方から後れを取り始めました。

一行は休憩を取り、腰を降ろします。ニコルが周囲の木洩れ日と、雪を反射した光、ブナの樹皮の複雑な色あいと苔の様子を見渡してみると、その美しさは思わず涙が流れるほどでした。

著者
C・W ニコル
出版日
2011-12-14

少年時代のことから、今に至るまでを振り返っている一冊で、冒険そのものと言える彼の人生が描かれています。

北極に憧れ、転校先では度々命を脅かされるほどのいじめを受け、武道と出会い、日本へ憧れるまでの経緯。そして高校卒業と同時に北極探検への随行を実現させ、生死をさまよう事故に遭った後も、仕事以外の時も、何度も足を運ぶフットワークには驚かされます。

共同生活をしていたイヌイットの仲間たち、そして故郷の騎士道を教えてくれた祖父、武士道を教えてくれた先輩たちによる、彼の人生にとって大切な名言がこの作品では惜しみなく披露されています。目から鱗が落ちる彼らの教えは、昔からあったはずなのに、新鮮に感じるのは不思議です。現代社会が必要としていることの示唆に富んでいます。

自然に関する様々な仕事に従事したC・W・ニコルが、日本の海にも携わるようになり、日本の国籍を取得し、森づくりを始めるまでの経緯と決意が描かれています。色々な場所へ行ったことのある彼ですが、日本国籍を取ることはそれまでとは意味が違いました。その真剣な思いも語っています。

圧倒的に豊富な経験を経た著者が読者におくる、生きるヒントが凝縮された一冊です。

都会生活に疲れたあなたに。心に染み入る感動の民話。

その山にはある黒い大きな「岩」があって、岩はその周りを守っていました。ある春、黒い岩の周りの雪が解けると、1本の「ミズナラ」が芽を目を出しました。周りのみんなもミズナラの成長を楽しみに見守ります。

 

ミズナラは、先輩である柳やハンノキたちに強い日差しから程よく守ってもらい、滝からは霧を与えられ、岩には冷たい風から守ってもらいました。やがて、柳の木は腐って別の植物たちを生み出し、成長したミズナラはハンノキの背を追い越し、日光を遮っていることを申し訳なく思いつつも、立派に成長するのです。

その間にも、森には様々な人間が、様々な事情でやってきます。

 

著者
C・W ニコル
出版日
2007-11-14

主人公であるミズナラの木が生まれてからのことを物語る、という神秘的な作品。ミズナラはマザーツリーと呼ばれ、千年以上生きることもあるそうです。まさに母なる木、母なる自然と、そしていくつもの世代分の人間と対話する形で進んでいく物語です。

 

その森の自然はみな、意思を持ち、会話をし行動しています。物語の中で彼らは、人間とは比較できないほど思いやりがあり、達観しています。これを読んだ後は木々や花を見かけたとき、もし意思を持っていたら何を思っているだろうか、という想像力が持てるようになるかもしれません。

その他にも森には何年にもわたって、色々な目的をもった人間がやってきては、自然たちが対応していくのですが、彼らの達観した価値観に比べて、人間の生の期間のなんと短く、そして考えがいかに浅く目先の利益に囚われがちであるか気づかされ、反省させられます。
 

悲しみ、苦しみを通して懸命に生きる命を、大事にしたくなる作品です。片岡鶴太郎による表紙画と挿画、題字が、幻想的な世界観を高めてくれています。

 

 

現代の日本へ。C・W・ニコルだから思うこと。

C・W・ニコルの生い立ちから振り返っていますが、実に面白い少年時代です。ちょっといたずらが過ぎますが、明るく子供らしい、両親の大好きな男の子でした。そして、ニコルという姓を誇りに思っており、ウェールズ系またはケルト系と名乗るその思いにも、強いこだわりがあるのです。

そして武道を通しての日本との出会い。彼が武道を始めるに至ったのは、ある事件がきっかけでした。

来日してからは様々な人と交友を広げていくC・W・ニコル。住民、著名人、皇室に至るまで実に幅広い方々が彼を訪ねます。

後半は、彼の愛する日本の、昨今の変化、そして提言が語られています。

著者
C・W. ニコル
出版日
2004-11-01

彼が日本で暮らしだすと、周りには様々な人びとが集まり、交友が広がっていきます。人間関係作りというのは森をつくるにしても何にしても重要なのだと教えられます。彼の人間的魅力を読み取ることができる一冊です。

そして、日本の現状を真剣に見つめている彼には、日本に初めて来た時の印象と昨今では、様変わりしたように見えるようです。彼の主張を聞くうちに日本、はたまた地球について、もっと真剣に考え、愛せるようになるかもしれません。

C・W・ニコルが日本のために森をつくると言った時、すぐに理解を示してくれたのはほんのわずかの人だけでした。日本のどこがそんなに良いのですか?と聞くのは決まって日本人だそうです。

彼の愛ある提言は、日本の文化の良いところは言えるようにしたい、そして日本のかけがえのない自然を大事にし共生していきたい、と思わせてくれるでしょう。

美しい挿絵も魅力の、C・W・ニコルのコラム集

12のパートで語られるのは、ウェールズ、著者の住み移った日本への思いや、砂漠化するエチオピア、黒姫で森作りをし「アファンの森」と名付けるまでの経緯、そして屋久島、北海道、ガリシア、ザイールなど危機にさらされている様々な環境についての嘆きが綴られています。
 

とりわけ強調されるC・W・ニコルの主張は、いまこそ日本は世界の模範となって自国の森と河川を回復させるべきだという訴えです。

表紙と巻頭には宮崎駿の挿絵が複数収録されており、読者の想像力を豊かにしてくれるでしょう。また、巻末に宮崎との対談が収録されており、2人は国立公園の保護、日本の林業など、北海道や屋久島の危機意識を共有しあっています。

宮崎駿は映画「天空の城ラピュタ」の取材で訪れた、ニコルの故郷でもある南ウェールズについて、そして当時の次回作、「となりのトトロ」の構想を話しています。

著者
["竹内 和世", "宮崎 駿", "C・W・ニコル"]
出版日
1991-03-01

日本を基軸としながら、世界で起きている自然破壊についての様々な背景が語られています。敵はひとつではなく、問題が複雑で、一朝一夕には解決できず、選択を誤ればその自然が永遠に失われかねない、という深刻な問題であるということが訴えられています。

C・W・ニコルが森づくりに着手したのは、ホームシックになったからとか、ウェールズの自然を思い出したからという理由ではありません。どうしても必要だとは思えないような林道や、新しいダムの建設などの開発を見るにつけ、日本の将来を心配せずにいられなかったのです。つまり最終的な決断に至らしめたのは、目の前の自然が破壊されることを放っておけないという彼の自然への愛なのでしょう。

そんな彼の周りに様々な人が集まり、意見を一致させ関係を構築していく様子も興味深く、これは特筆すべき、著者の特技と言えそうです。時には、遠慮なくものをいい、感情をあらわにし、臆せず行動することに膨大な時間を費やしてきたという証なのかもしれません。

「月刊アニメージュ」で連載されていただけあって、木々や花、草の種類や性質について、ファンタジックな雰囲気を漂わせつつも、現代の状況を鋭く見つめています。C・W・ニコルの主張と挿絵の力とが相まって、読んでいると本当に自然に触れたくなってきます。

はじめはか弱い少年だった著者が、夢や目標、強い意思を持つようになり、行動し、仲間をつくり、地球のための活動をするようになるまでの経緯は、まさに小説のようです。彼の著書には、勇気と癒しがあふれ、日本もウェールズも、すべての場所の自然を、そして人間をも大事にしたいと思えてきます。

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