塚本邦雄のおすすめ本5選!「前衛短歌の三雄」の一人

更新:2021.11.9

現代短歌を語る上で欠かせない歌人、塚本邦雄。耽美的且つ写実的な表現とメタファーで表現される彼の出現により、現代短歌は完全に確立したと言っても過言ではありません。短歌好きでもそうでない人にも、一度は読んで欲しい塚本作品をご紹介します。

ブックカルテ リンク

戦後の短歌界を牽引した偉人・塚本邦雄

塚本邦雄は戦後期に活躍した歌人、小説家です。その作風は反写実的で前衛的。塚本邦雄の影響を多大に受けた後世の歌人の数は計り知れなく、自由かつ独創的な彼の作風に対しては、各芸術方面から多くの支持を受けています。

塚本は1920年、滋賀県神崎郡生まれ。滋賀県立神崎商業卒業後、1944年には「青樫」の同人となります。1947年には前川佐美雄に師事を仰ぎ、「日本歌人」に入会し、1951年には第一歌集となる『水葬物語』を刊行します。その後も意欲的に作品を作り上げ、1956年には『歌飾樂句』を上梓。第三歌集の『日本人霊歌』で現代歌人協会賞を受賞し、岡井隆や寺山修司らと共に前衛短歌歌人の一人として称されます。 

1960年には岡井隆、寺山修司らと共に同人誌「極」を創刊し、1960年代を代表する前衛短歌運動を展開します。他の歌集に1965年発行の『緑色研究』や1969年の発行の『感幻楽』があり、1985年には短歌結社「玲瓏」を設立。晩年も旺盛な執筆活動を続け、近畿大学で教壇に立つなど、後輩育成の活動に尽力しました。1987年には詩歌文学館賞を受賞。2005年9月に他界しました。 

塚本は20代に当時国民徴用において従事していた呉市海軍工廠にて、原爆投下直後の空を遠くから眺めた体験をしばしば作品の中に投影しています。戦争に対する憎しみや嫌悪感が、より一層塚本の歌を力強く、また虚無的な作風へと昇華させている印象を受けます。歌人として意欲的な活動を続け、多くの支持や称賛を受けるも、実のところはほぼ無冠であった塚本邦雄。彼の作品はプロの歌人解説者であっても理解に窮するところも多く、難解な歌とも知られています。 
 

塚本邦雄の耽美派小説集『紺青のわかれ』

『紺青のわかれ』は1972年刊行の塚本邦雄の短編小説集です。 タイトルになっている『紺青のわかれ』や『月蝕』『朝顔に我は飯喰ふ男哉』などの10篇を収録。

内容は全て同性愛を中心に描いた耽美派の小説となっており、表紙にも描かれた草花のモチーフは、各タイトルや内容にも当てはめられて考えられます。女性の嫉妬心を描き出す事で表される『紺青のわかれ』を始め、濃厚かつ壮麗な世界観を堪能できる一作に仕上がっています。

著者
塚本 邦雄
出版日

塚本作品が難解であると言われる理由の一つに、旧字体や旧仮名遣いが多いという点や、メタファーがふんだんに使われているといった点が挙げられます。最初の内はこうした癖につまづき、読み詰まってしまう事もしばしばあるのですが、塚本作品は、世界観を全体で一つとして吸収するような雰囲気の作品が多く、読み進んでいくにつれ旧字体であっても不思議と苦しい印象を受けなくなります。その字体がむしろ心地よい気持ちにさえなってくるのです。

『紺青のわかれ』は塚本の癖が前面に押し出された作品の一つであり、彼の作品とはどのような物かを知る上で、非常に重要なアイテムとなってくるかと思います。

塚本邦雄を知る上で欠かせない究極の解説本

塚本邦雄の歌、並びに塚本自身の感性に迫った解説本が本書です。著者は塚本に師事し、彼の作品に傾倒した島内景ニ。

独自の世界観が存在する塚本作品を、50首の歌を例に挙げて解説していきます。一つの歌に対して解釈と背景を紹介し、歌が持つ世界の広がりを提示した本書の解説は読者に対し、塚本作品の並々ならない感性と美意識を植え付けてくれます。

著者
島内 景二
出版日
2011-03-01

前衛短歌運動の旗手として活躍した塚本作品ですが、その作品の魅力を語るのは少しだけ難しいと感じざる負えません。旧字体の出現や語割れや区跨りといった短歌の手法を駆使して映し出される塚本の作品は、短歌初心者のレベルであればしり込みをしてしまうでしょう。

『塚本邦雄 ーコレクション日本歌人選』は一つ一つの歌を丁寧に読み解き、更に脚注を付けて補足説明を加えるなどの手間をかけた解説本となっています。塚本作品初心者であれば、まずは彼の作品の空気感を吸った上で、この本を一読する事をおすすめします。 
 

現代短歌に影響を残した軌跡を感じる一冊

1988年刊行の『塚本邦雄歌集』は、塚本の第一歌集である『水葬物語』から『豹変』、『日本人霊歌』などの代表作品を収録した歌集です。歌論の『森羅万象幻影論』や歌人論の『歌人の業』など現代短歌のみならず、小説や詩、絵画などの現代芸術世界を形創る上で多大な影響を与えるに至った、思想の断片を収録した決定版ともいえる本書は、彼の歌を知る上で欠かせないツールとも言えるでしょう。

著者
塚本 邦雄
出版日

短歌は塚本邦雄の出現以前と以降を境にして大きく異なると言われています。区跨りや区割れといった技法を駆使し、独自の手法で短歌を確立。彼以前の短歌を知る人にとっては、強烈なインパクトを与える事になると思いますが、現代であってもそれだけ塚本作品は鮮烈です。

また、現代詩とは戦争以後の詩を指すとも言われており、塚本が文壇にデビューした時期と重なって、彼の戦争体験は後の詩文世界に莫大な影響を与えました。自他選であるこの『塚本邦雄歌集』は、未発表作品も含めた千二百余の歌が収録され、現代短歌誕生の息吹を深く味わいたいという人にはおすすめの一冊です。 
 

天才・藤原定家に現代の奇才が挑んだ解釈本

2006年刊行、講談社から出版された『定家百首・雪月花(抄)』は、戦後前衛的歌人として名高い塚本邦雄が唯一の心惹かれ、また宿敵とも見なしている天才歌人・藤原定家の歌に、散文的解釈と訳を付けています。

歌には各訳となる詩を載せ、その後に塚本邦雄自身の評論を載せる形式となっています。定家の選び抜かれた百首を、奇才・塚本邦雄が切り込み独自の解釈を伴わせた上で新たな境地へと昇華させます。他に藤原良経の歌の解説を加えた本書は、塚本の代表的評論文と言えます。 
 

著者
塚本 邦雄
出版日
2006-10-11

藤原俊成の次男として生を受けた藤原定家は、和歌に秀でた父親の才能に傾倒し、熱心な指導を受けて育ちました。後には『新古今和歌集』の編纂や百人一首の選定を命じられるまでにもなる事は有名です。

定家は根っからの歌好きとして知られ、歌人としての才能を伸ばす事に人生を懸けた人物です。和歌に関しては天性の持ち主と称された彼の性格は、血の気が多く、感情的であり、まさに感性の赴くままに生きているような人物像でした。 

これまで定家の詠む歌は難解であると言われ忌避される事も多く、解釈は難しいとされるのが一般的な認識でした。藤原定家の歌はまさに塚本邦雄の歌と重なります。難解であった定家の歌が、同じく天才と称された塚本の才能によって紐解かれ、交じり合います。

塚本と定家、二人の才能が共鳴し合っているのを感じる美しい一作です。 
 

塚本邦雄の濃厚な癖を堪能できるミステリー

1997年発行の『十二神将変』は、塚本邦雄が描く本格ミステリー小説です。

ホテルで一人の男性が死に、その傍らには十二神将像が転がっています。精神学者やサンスクリット学者、織部流茶道宗匠などといった個性的なキャラクター達が織りなす悦楽の世界とも言える秘密結社は事件とどう関わってくるのか。謎、また謎。文を織りなす美しい言葉と耽美的な世界観にどこまでも酔いしれる事間違いなしの一作です。 
 

著者
塚本 邦雄
出版日

ミステリーの領域に初めて踏み込んだ本書は、刊行当初はあまり評判も高いものではなく、注目を受ける事はありませんでした。しかし歌人である塚本が描いたミステリーは言葉の随所に美しさが散りばめられ、咽る程に耽美的な世界を表しています。

また一方で、想像以上に小説としての体を為しています。特殊な肩書や名前を冠したキャラクター達に準え様々な韻が踏まれており、あらゆる事象が関連していく様は見事。作中には旧字体で書かれている事も多く、読んでいる途中でしんどくなってしまうという人も多いようですが、一通り慣れてくると、その字体が美しい事に改めて気づかされます。

一節一行を大切に読み解きたい気持ちで満たされる本書は、塚本作品が好きな人はもちろん、少し指向を変えた読み物を読みたいと考えている人にもおすすめです。 
 

意欲的かつ情熱的な作家活動を経て他界した塚本邦雄。彼の作品は未だ解釈が付かないものも多く、歌人や評論家といった専門の中でも難解であるというイメージが定着しています。しかし当の塚本は、その晩年には教壇に立ち、学生達と歌会を開くなど後人の育成に尽力しました。前衛歌人と称えられた彼の後を追う様に次々と気鋭の作家が登場しました。まさに現代短歌の裾野を拡げた人物こそが塚本邦雄であり、彼の作品を読まずして現代短歌を語る事は難しいでしょう。短歌に興味を持たれた方は、是非一度目を通してみて下さい。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る