駄目な人、悪い人がたくさん出てくる本5冊【ハッカドロップス・マイ】

駄目な人、悪い人がたくさん出てくる本5冊【ハッカドロップス・マイ】

更新:2021.11.10

こんにちは、ハッカドロップスです。どんなに駄目でも、問題をかかえていても、物語の中では魅力を持って描かれる。そのことに安心して私は本を読むことが好きになりました。 悪を憎んで人を憎まずということなのかもしれない。“駄目な”“悪い”人たちがたくさん出てきます。けれどそのすべての人が愛を持って描かれる時、それは人間賛歌になる。 そんなことを感じた本を5冊、紹介します。

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泳ぐのに、安全でも適切でもありません

著者
江國 香織
出版日
母と姉と妹が祖母の入院で集まる。
無職で酒のみで散らかし屋で甘ったれの、母に言わせてみれば「ろくでもない」男。

そんな男に財布から金を抜き取られて私が思うのは、男のブラックホールみたいな淋しさのことで、それ以外ではない。それぞれに事情のある彼女たちが笑って話せば、大げさに悲しむことでもないようなことに思えてくる

そして、男たちも愛すべきダメな人に思える。彼女たちはこうしてかなしみをやり過ごしてきたのだ。女性の弱さと強さは、母性に集約されているということを思った。

おとうと

著者
幸田 文
出版日
1991-02-10
碧郎もいけないのだし、母もいけない。
どっちも悪い人でないのに、一ツ間拍子が合わないとたちまち憎らしいほどの感情になってしまう。

継母とおとうと(家族)を見つめる姉「げん」の視線には愛がある。だから、姉の視点から語られる人たち。

いやみを言う継母のことも、不良少年になっていく弟もバラバラな家族をみんな、嫌だと思わなかった。

信じるものの弱々しさ、すなおなものの痛々しさ。碧郎は誰がなんと云っても「いい奴」だった。
「弟」だった。そしてやっぱりげんは「姉」だった。

とことんダメな人を、他人だと切り捨ててしまうことってある。家族間で持つようなこの愛情を他人にも向けることができたらと思った。


こころ

著者
夏目 漱石
出版日
平生はみんな善人なんです、それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしいのです

物語序章の先生の「私」への忠告とも取れるセリフですが、後の告白体の文章を見れば、特に自分のことについて責め立てた言葉にも思えます。

この台詞の例にもれず先生も御嬢さんへの恋とKへの嫉妬心の中で自身の言う「悪人」に変わるのですが、その悪の心情を精緻に描くほど、悪いという嫌な印象は逆に薄れていくように感じました。

「人間らしいという言葉のうちに己の弱点の凡てを隠している」とKは先生を非難するように言いましたが、ここに描かれる悪を、人間であること、と同義に感じてしまいました。

窓の魚

著者
西 加奈子
出版日
2010-12-24

4人の男女。どこにでもいるような男女のグループ。そして一人の女性が殺められる。4人一緒の物語から一転、それぞれにスポットが当てられると、この人たちのことをまったく見えていなかったと思った。

「死」というものと、とても近いところに存在していたような気がするのです。そしてその気配を漂わせることで、ますます己を輝かせる、そんな魔力を持った子であるような、気がするのです。

男と女がもう一人の女を殺めるこの場合の感情をここで一言では言い表せないと感じ、だから物語になっているのだと思った。

堕落論

著者
坂口安吾
出版日
2011-04-15
だが人間は永遠に堕ち抜くことはできないだろう。なぜなら人間の心は苦難に対して剛鉄のごとくではあり得ない。人間は可憐であり脆弱であり、それゆえ愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる。

堕ちてこの世に生まれたのだから生きることは堕ちていくこと。どこかで持ち直してしまうだろう。まだ気合を入れれば動かせる範囲、ギリギリ戻れるだろうという所までしか堕ちることはできないと思う。

自分がかわいいのだ、結局。そして「美しいものを美しいままで終わらせたいと希うこと」は確かに人情だ。


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