さくらももこさんへ BiSHモモコグミカンパニー

わたしは幼少期から実家にあった漫画の『ちびまる子ちゃん』をくり返し読みながら育った。小さい頃は「まるちゃんみたいだね」と言われ、そのことがとてもうれしかった。しかし小学生、中学生と成長していくにつれ、だんだん「まるちゃんみたいだね」と言われることもなくなったし、現実の世界を生きるわたしはまるちゃんのように毎日お気楽に過ごせたわけではなかった。

学校の友達関係、勉強、昔よりたくさんのことに悩んだり追われたりするようになり、どこか生きづらさを感じるようになっていたのだ。そんなわたしはいつしか、つらいことがあると『ちびまる子ちゃん』を開くようになっていた。なにかと考えすぎて少しのことでくよくよしてしまっていたわたしは、まるちゃんみたいにお気楽に楽しく、優しい生き方に憧れていた。「まるちゃんみたいだね」と言われた頃の自分も重ね合わせながら読んだ。

高校生になって、進路に悩み右も左も分からなくなった時期があった。そんなときに出会った本がさくらももこさんの『ひとりずもう』という作者の青春時代について書かれたエッセイだった。何度もちびまる子ちゃんに救われながら生きてきたわたしは、その生みの親でもある「さくらももこ」という人間にとても興味があった。

『ひとりずもう』を読むと、のちに国民的な作家となったさくらさんも昔は一人の夢を追う少女だったんだなと思い知らされた。デビューするまでの葛藤、自分の描きたいと思っていた少女漫画の作風が評価されずに流した涙があったこと。今ではこんなにたくさんの人に受け入れられているさくらさんもわたしと同じように悩み続けた青春時代があったのだ。はじめの一歩があったのだ。最初からうまくいっていたわけではないんだ。

このことは当時のわたしにとって衝撃であり、同時に大きく背中を押してもらえた気持ちになった。自分の将来の姿が少しも想像できなくて、理想ばかり浮かぶ毎日でも、それでも、さくらさんのように今、自分のやりたいこと、できることを一つずつやっていこう。そう考えると、暗闇から少し明るい場所に行けたような気がした。

さくらももこさんとは一度もお会いすることができなかった。だけど、わたしはこれまでの人生でさくらさんの作品に触れられたことが心から良かったと思う。さくらさんが亡くなっても、わたしの中に彼女が生み出した作品、さくらさんの心は生き続けている。わたしが生きている限り、わたしの中のさくらももこさんは消えない。そんなふうに考えるとと、私の人生もとても価値があるように思えた。

大切な毎日を通り過ぎるように生きるのではなく、たくさんのことを感じながら噛み締めて生きていきたいと思った。『ちびまる子ちゃん』が国民的作品なのは、ただ「面白いから」「かわいいから」だけではない。さくらさんの作品は、わたしがそうであったように、たくさんの人を救ってきたからだと思う。さくらさんの心はさくらさんの作品と触れ合ってきた。そして、今を生きる人の心と触れ合ってきたのだ。そんな彼女の作品は、たくさんの人の心の中にこれからも生き続けるのだろう。

著者
さくら ももこ
出版日
著者
さくら ももこ
出版日
2010-01-08

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