秋の夜長、活字の中で夜空を眺める

秋の夜長、活字の中で夜空を眺める

更新:2021.12.12

この名前で活動している以上、当然初対面の人に「宇宙が好きなの?」とよく聞かれる。別に特別好きじゃない。詳しくもないし。なんか難しそうだし怖いし。でも星や夜空をモチーフにした小説や絵には惹かれるし、きっとそれは私だけじゃないはず。活字の中の夜空なら時間も、虫に刺されるのも、首が痛くなるのも気にせず眺めることができる。その広大な小説の大宇宙の中から、好きな物語をいくつか紹介する。

ブックカルテ リンク

「今から流れ星を流します。みなさん、その流れ星に願いをかけてください」

著者
橋本 紡
出版日
2008-06-30
1年半前、奈緒子の高校時代からの恋人である加地は海外で知らない女の子と事故死した。加地の友達である巧と付き合っても、玄関に布団を敷いても、奈緒子の心から加地の存在を消すことはできなかった。
古本屋で表紙とタイトルに一目惚れした。一見ベタな恋愛小説なのに、恋愛小説さっぱりでもグングン読み進められて少し泣ける。自分が味わえなかった甘酸っぱい高校時代への嫉妬とかそういうの全部抜きにして素直な気持ちで読むことができる。これじゃ夜空関係ないじゃんってなりそうだけどそんな事ないです、巧君と加地君が協力してプラネタリウム作るシーンが青春過ぎてアツい。

「月の船は来ないよ 宇宙船も来ない 死神も来ない でも、あたしたちは来たよ」

著者
森 絵都
出版日
2005-11-25
親友同士のさくらと梨利の友情は、万引きによる揉め事をきっかけに亀裂が入る。さくらはそれをきっかけに宇宙船の設計図を書く青年・智と出会う。さくらは、さくらのことが好きな勝田とともに心の拠り所である智の家に通うようになるが、智は次第に精神を病んでゆく。
中学生の頃、夏休みの宿題のために最初は嫌々読み始めた本がこの「つきのふね」だった。教師たちによりいくつか本が推薦されている中、当時は読書なんてめんどくさくて嫌いだったから、一番薄かったこの本を選んだ。
当時の自分と歳の近い登場人物達が一気に駆け抜けるように物語を紡ぐ様は、それまでの読書のイメージを覆してくれた。万引き・売春・裏切り・親友との絶縁状態。遠いようで中学生たちのすぐ近くにある「最悪」達と、「宇宙船を作って人類を救いたい」という、智さんの幼稚なようで切実な闇に心をかき乱された。
難しい表現は一つも使われていないのに、全くすっからかんな感じがしない。
18歳になった今改めて読んでみたら、智さんの方に感情移入するようになってたから若干寂しい。

「ぼくたちはみんな宇宙のみなしごだから。自分の力できらきら輝いていないと、宇宙の暗闇にのみこまれて消えちゃうんだ」

著者
森 絵都
出版日
2010-06-25
陽子と弟のリンは、忙しい両親のもとで育ったのでいつも自分たちで遊びを考えた。今のとっておきは、深夜によその家の屋根に上る遊び。ある晩、陽子の友達の七瀬と3人で屋根に上っているところを、同学年のいじめられっこ・キオスクに目撃されてしまう。
小説なら何が好き?と聞かれると、真っ先にこの本を挙げる。
「つきのふね」を読み終わり、読書に目覚めて、でも何を読んだらいいか分からず、とりあえず同作者の本を選んだ。それがこの「宇宙のみなしご」だった。
つきのふねと同様、学生たちに抱える、身近に存在する問題を題材にしている。だから読むたびに、歳を重ねるたびに、見方が変わってくる。キオスクが好き。ところどころ共感するから。あと、可愛いから。
中学生時代にこの本を読むことにきっと意義がある。高校生だってまだ遅くないから読んで欲しい。

「おはよう。地球がこわれると、こんなふうに見えるものかしら。からっぽで、なにもないけど」

著者
トーベ・ヤンソン
出版日
2011-04-15
じゃこうねずみが、彗星による地球滅亡を予言した。ムーミンママはムーミンとスニフに彗星について調べさせるため、遠くの天文台まで旅をさせる。道中で旅人スナフキンやスノークのお嬢さんに出会うが、彗星は地球へ刻一刻と近づいて来ていた。
ムーミンシリーズを読むなら最初に読むべきがこの「ムーミン谷の彗星」。児童文学のように見えて奥が深く哲学的で面白い。それからちょっぴり怖い。大移動するニョロニョロとか、灰色のムーミン谷とか。でも彗星が迫っているから絶対に急がなきゃまずいのに途中ダンスパーティに出ちゃったり、「大切な物だけ持って洞穴へ避難しよう」という時にムーミンママがバスタブまで持ってきちゃったり、そういう事が当たり前のように行われるシュールさがあってそれもまた面白い。挿絵も繊細でとてもかわいいです。

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