歴史小説家・伊東潤おすすめ小説ランキングベスト6!

更新:2021.12.14

IT業界から歴史小説家となった伊東潤。現代の最先端ともいうべき業界の視点で時代を描き、独特の作品を生みだしています。伊東潤の作品のおすすめを6作ご紹介します。

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戦国時代の人間たちを丹念に描く伊東潤。

伊東潤は1960年に神奈川県横浜市で生まれ、浅野高等学校を経て早稲田大学を卒業しています。

大学卒業後、IT業界での勤務を経験して、2003年『戦国完投血風録』でデビューしました。

伊東潤は主に戦国時代の東国を舞台にした歴史小説を執筆し、2010年頃からは時代や地域を広げています。またビジネス新書『天下人の失敗学』、歴史研究新書では乃至政彦との共著『戦国関東史と御館の乱』を出版しました。

かつて、アマチュア・ウィンドサーファーだったこともあり、ソウル五輪国内予選参加、湘南百年祭記念選手権優勝などの実績を持っています。
 

6位:初代警視総監(大警視)川路利良を描く小説『走狗』

作品の舞台は江戸時代末期の薩摩藩、古い幕府を倒し新しい時代を作ろうとする熱気が高まるなかストーリーは始まります。

本作『走狗』は薩摩藩の下級武士、川路利良の視点で語られる長編歴史小説です。川路利良、そう、歴史好きならピンと来る警視庁初代大警視(のちの警視総監)、今では日本警察の父と呼ばれています。

歴史ものはちょっと苦手という方も安心してください、幕末から明治へと向かう流れは、日本が熱く燃えた時代のひとつです。川路の視点で語られる西郷隆盛、大久保利通の苦悩と決別など人間模様も盛り込まれ、人間ドラマとしても十分に楽しめます。

著者
伊東 潤
出版日
2016-12-19

タイトルに使われている『走狗』、これはもともと狩りのときに獲物を追い立てる犬のことです。これを転じて、他人の手先として使われる者のことも走狗と言います。

新しい時代のために西郷と大久保、二人の走狗となる川路。明治維新から明治政府へと進むに従い、権力に身を染めていく三人。やがて訪れる、思想家・西郷隆盛と政治家・大久保利通の決別、それは川路にも苦悩の決断をせまるものでした。

この決断シーンが『走狗』の名場面のひとつで、川路利良という男のプライドを感じさせます。

伊東潤デビュー10周年の集大成として書かれた本作ですが、明治維新の光と影を描き切った作品。500ページをこえる長編ですが、著者得意の戦闘シーンもあり一気に読める一冊です。

5位:戦国の世の勝敗をわけるもの『天地雷動』

武田信玄亡き後、勝頼が戦国最強の武田軍を背負うことになります。そんな中、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康らが武田軍を滅亡させようと目論み、ついに戦国の転換点ともいうべき長篠の戦いへ突入していきます……。

登場人物の気持ちや行動にスポットが当たっているため、その緊張感に、現代に生きる人間にも共感でき、読みながら戦に加わっているような気分になります。
 

著者
伊東 潤
出版日
2016-10-25

史実に添っているかどうかが気になってしまう人には向かないかもしれませんが、物語として戦国の世を味わいたいという人にはぴったりです。難しい書き方はしていませんから読みやすく、それでいて歴史ものの重厚さも兼ね備えています。

勝ったから賢く負けたから愚かなのではなく、ほんのわずかの違い、些細な選択のミスで大局が分かれていく様子が丁寧に描かれている伊東潤の傑作です。
 

4位:家康はいくつの峠を越えるのか『峠越え』

幼き頃に「凡庸」の烙印を押された男・徳川家康が戦国の世を勝ち抜き、天下を取るまでを描く「家康モノ」です。

桶狭間・姉川・三方ヶ原・長篠での激しい戦はもちろんのこと、妻子の処断を要求されたことも含め、生殺与奪の権利を握っている信長の非情さに翻弄され続けながらも、薄氷を踏む思いで生き伸びてきた家康。

武田が滅びた後、少数の家臣と共に信長に呼び出され、安土、京、堺へと連れ回される中で家康はその真意に気づいていくのです。
 

著者
伊東 潤
出版日
2016-08-11

そのあたりの描写、演出、展開が見事で読ませてくれます。映像が頭に浮かんできて、緊張感が漲っていて、タイトルの「峠越え」が伊賀越えだけでなく、家康の半生における難所の連続を表しているという伊東潤の意図に気づくことでしょう。

この作品で描かれる家康はなんだかちょっと可愛らしいんです。

「殿は小心でおられるによって…」などと家臣団に言われて憮然としたり、「このような少人数でワシを守れるわけがないであろう。」「殿、勘違い召されるな。殿が腹を切る時間を稼ぐためでござる」なんてやりとりがあったり。

伊東潤の人間描写が魅力的なので、そこを楽しんでみてくださいね!
 

3位:秀吉VS千利休の最高峰『天下人の茶』

天下人となった秀吉と、安土桃山文化の中心でもある茶の湯によって、武将たちを含め、人々の心を支配した千利休。

この戦いの勝者は誰なのか……?

戦国時代後期、茶の湯文化を作り上げていく男・千利休と、彼の弟子たちを伊東潤が描いています。
利休と関わりをもった武将の牧村兵部、瀬田掃部、古田織部、細川忠興たちも短編として描かれていて、秀吉を含めて連作で長編が出来上がる形式になっています。
 

著者
伊東 潤
出版日
2015-12-05

そして、最後には利休の死の謎に迫るわけです。

茶の湯では利休の弟子のはずの秀吉がなぜ、師匠に自決を迫ったのか、ふたりの間になにがあったのかを伊東潤が想像を巡らせて形を作り上げているので、読み進めて答えに辿り着いたとき、「一本取られた」という気分になります。

推理小説的楽しさもある1冊。おすすめです。
 

2位:利に生きるか義に死すか『国を蹴った男』

戦国時代ものの伊東潤短編集です。

表題作『国を蹴った男』で描かれるのは、凡庸な主君と言われた今川氏真です。タイトルの『蹴った』は蹴鞠に掛けたもの。武将としての道よりも蹴鞠へ向かっていく姿に、無能と侮られた人間の悲哀が描かれています。
 

著者
伊東 潤
出版日
2015-05-15

他の収録作品は、算術だけが得意な長束正家を取り上げた「戦は算術に侯」、武田軍の傭兵の生きざまを描いた「牢人大将」、天下人・秀吉と一茶人の戦い「天に唾して」、賤ケ岳の戦いを描く「毒蛾の舞」、上杉家内紛の新解釈「短慮なり名左衛門」。

どれも中心に据えられているのは、知名度の低い武将たちや名もなき者たちです。本来なら主役格の有名武将が脇に廻っているのが、この作品群の最大の魅力ではないかなと思いました。

意外な切り口が新鮮で、楽しみながら読める伊東潤の作品です。
 

1位:山田風太郎賞受賞作『巨鯨の海』

江戸時代。紀伊半島の漁村・太地。集団で鯨に立ち向かう「鯨組」は、仲間との強い絆と厳しい掟で繋がっていました。命を削る凄絶な戦いとなるため、鯨にも畏布の念をもって鯨漁をするのです……。

江戸から明治へ移っていく時代背景の中で描かれる鯨漁に関する6本の短編小説が収録されています。

鯨との死闘、組織の厳しさを織り込みつつ、よそ者が絡む人間関係も描かれ、現代社会にも通じるものがあるように思えました。
 

著者
伊東 潤
出版日
2015-09-09

どの話も鯨と獲る人間の悲しみ、死がテーマです。鯨の生態、漁師の生活、文化への造詣が素晴らしく、どれだけ取材したのだろうと感心しまうことでしょう。

特に鯨漁の描写にリアリティがあって、迫力に飲み込まれそうになります。そのシーンを楽しむためにも、ぜひとも読んでいただきたい伊東潤の1作です。
 

歴史小説、時代小説の気鋭と呼んでも差し支えない魅力的作品を生み続ける伊東潤。歴史に詳しくなくても楽しめますので、ぜひ手に取ってみてくださいね。

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