「アクリルの白いコートを汚す雨 好きってそういう意味じゃなかった」
初めて彼女の短歌を目にした時、脳が揺れるという比喩が全く現実的な形容だと知った。瞼の裏にはっきりとその情景を描けるような、1枚1枚の絵画のような美しい歌。どこか懐かしく、切なく、そしてみずみずしく、タンスの奥に大切にしまっていた何かに名前をつけられたような気持ちになる。
「この煙草あくまであなたが吸ったのねその時口紅つけていたのね」
女性的なアイロニーが痺れる。ストレートでいじらしい。私が最も愛した1冊と言っても過言ではないと思う。人は必ず人生のある一時期、誰かのことで頭がいっぱいになり、恋に身を焦がす以外何も出来なくなってしまうことがあるのだと思う。馬鹿な恋をしたことがない人なんているだろうか。この歌集を読む時、少女の顔から母の顔まで思い浮かんでは消える。そして私の恋のようにも思えてくるから不思議だ。それは誰もが心に乙女を飼っているからなのかもしれない。忘れられない恋がある女性に読んで欲しい一冊。
「ロッテリアのトイレでキスをするなんて たぶん絶対最初で最後」
クラスメイトの恋愛話を聞いているような、こちらが恥ずかしくなるほどリアルな女子高生の言葉で綴れた短歌たち。息づかいまで聞こえるような、思春期の微妙な心の揺れが切なくもどかしい。
あの頃の甘酸っぱい気持ちが喉奥までせり上がってくるようで、自分が17歳の頃を思い出して、ああ私、一生あの頃に戻れないんだわ、なんて思わずエモい情感に浸ってしまう。