マンガと絵本は根っこでつながっている

更新:2021.12.13

絵本のお店をする傍らで、seedbooksというハンドメイド絵本を自社商品として企画しています。ご縁がありまして、絵本作家さんではなく漫画家さんの作品をお借りして発行の準備を進めていたものがいくつかあり、最近ようやく完成しました。漫画家さんが絵本の創作に興味を持ったり、その逆だったり……。漫画と絵本は、意外と根っこでつながっています。ということで今回は、漫画にも絵本にも居場所を持つような作品をいくつか集めてみました。

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人間くささをまとった、コミック版『ムーミン』

絵本のキャラクターと聞いて、きっと上位に上がるであろうムーミン。実は、コミック作品がたくさん残されています。ロンドンの夕刊紙『イヴニング・ニューズ』で連載が始まったのは1954年。途中からトーベの弟ラルスが引きついで、連載は1975年まで続いたそうです。

コミックならではの魅力といえば、キャラクターのしぐさや表情ではないかなと思います。絵本や童話の挿絵では、どちらかと言えば「おすまし」しているキャラクターたちが、コミックでは、1コマごとにコロコロと表情やポーズが変わり、キャラクターどうしの距離感も近い。そのやりとりには、(新聞連載という媒体の影響もあるかもしれませんが)より大衆化されたような、人間くささのようなものを感じて親しみを覚えます。セレクトで構成されたベスト版がありますので、まずはこちらでお楽しみになってみてはいかがでしょうか。
 

著者
["トーベ・ヤンソン", "ラルス・ヤンソン"]
出版日
2015-12-09

長谷川町子が描く、可愛らしい動物キャラ。

『サザエさんえほん』。昨年、約40年ぶりに復刊されました。当時は累計77万部も発行されたとか。シリーズとしていくつか発行されたうち、私のお気に入りは『どうぶつむらの きしゃ』です。

ここでは唐突に動物キャラばかりでお話が進んで、サザエさん一家が登場するのは最終場面のみという構成ですが、長谷川町子さんが描く動物キャラと、お花畑の可愛らしさといったら。このあたり、絵本ならではの魅力ではないかなと思います。混み合った車内で席を譲ろうとしない、大きくて頑丈そうなクマ。見かねたネズミの車掌さんがクマに注意するんですが、実は、クマは見えないところ(足の裏)に怪我を負っていた、というのが後に判明します。

「見た目で決めつけちゃダメだよ」というメッセージを込めつつも、お話自体はクマとネズミ、どちらも「偉かったね」と肯定して終わらせるだなんて。さすが長谷川町子さん! な作品です。
 

著者
長谷川町子
出版日
2015-02-20

「菌」の知識を子どもたちにも

『もやしもん』は、菌やウイルスが見える能力を持つ農大生、沢木の日常を軸にしつつ、菌にかかわる食品と生産者の活動が紹介されている漫画です。個人的には8巻のビール編が一番好きなエピソードです。

2009年~2010年にかけて、『もやしもん』のキャラクターが登場する絵本がいくつか発行されました。『てをあらおう』は第1弾。その広告で、「おしゃれなアレだったり、アートなソレだったり」せず「お子様向き」だと公言している通り、まめに手を洗う大切さと正しい洗い方を、しつけ絵本の要領でシンプルに伝えています。手を洗うポイントは全部で6つもあるんですよ。

巻きカバーの折り返しには、絵本を模したような「オリゼーのおしごと」というキャラ紹介が添えられているんですが、絵本屋店主的には、これにもう少し肉付けした感じの絵本も読んでみたかったなあ!などと思ってみたり。オリゼー、やっぱりかわいいです。

著者
いしかわ まさゆき
出版日
2009-08-27

漫画のエッセンスを、絵本で膨らませる

『オチビサン』は、現在AERAで連載中の1ページ読み切り漫画です。鎌倉のどこかにあるという豆粒町で暮らすオチビサンとその仲間たち。彼らのほのぼのした日常を描いたストーリーに加え、カラーの原稿を仕上げるための技法が凝っていてアート性に富んでいることから、より必然的に「絵本」と結びついた印象を与えています。

『オチビサンのひみつのはらっぱ』は、安野モヨコさんにとって初めての創作絵本だそうです。古いビルが壊されてできた空き地。最初は歯がぬけたみたいに「すうすう」していたけれど、いつの間にか少しずつ草花が生え、小さなはらっぱになって……というお話。この草や花たちは、いったいどこから来たんだろう? 最後には「なるほど」と納得の答えが。

文は、絵本の編集者として活躍している松田素子さんが担当されているため、親子で楽しむことを意識したテンポに仕上がっています。

著者
松田 素子
出版日
2014-05-28

漫画と絵本の狭間を行き来する作品の魅力とは、大人と子ども、両方に共有できる世界観を持った懐の深さにあると思います。そのため、登場するキャラクター達も広く認知され、長く愛されるのかもしれません。それでいて表現手法は作家によって様々です。これからも色々な作家によって、双方のジャンルに新しい風穴を通すような作品が生みだされるといいなあと思います。

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