「ピュリッツァー賞」文学部門の受賞作おすすめ5選!【小説フィクション】

更新:2021.11.17

コロンビア大学が主催している「ピュリッツァー賞」。世界中から注目される、アメリカの権威ある賞です。日本でも関心度の高い同賞の文学部門受賞作のなかから、おすすめの作品を厳選してご紹介します。

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「ピュリッツァー賞」とは。世界が注目する文学賞

 

アメリカでもっとも権威のある賞のひとつ「ピュリッツァー賞」。ハンガリー生まれのアメリカ人ジャーナリスト、そして新聞王でもあるジョーゼフ・ピューリツァーの遺志に基づいて1917年に創設されました。

毎年コロンビア大学の運営によって授与がおこなわれ、アメリカ合衆国の新聞や雑誌、オンライン上の報道、文学、作曲の各分野における卓越した功績に送られます。

「ピュリッツァー賞」の文学部門では、アメリカ人の作者による優れたフィクション作品が選ばれ、文学色の強い旬な作品に世界中から熱い視線が送られます。受賞作は日本でも注目され、特集を組んで紹介されることも多いです。

たとえば1953年にアーネスト・ヘミングウェイが『老人と海』で、1961年にハーパー・リーが『アラバマ物語』で受賞しています。

 

「ピュリッツァー賞」のおすすめ小説!戦時下の少年少女を描いた大作『すべての見えない光』

 

幼い日を孤児院で過ごし、ナチスの技術兵となった少年ヴェルナーと、パリの博物館に勤める父のもとで育った目の見えない少女マリー=ロールの2人が主人公です。

ヴェルナーは戦場で過酷な体験をし、徐々に心を壊して人間性を失ってしまいます。一方のマリーは、ナチスドイツの占領によってパリを追われ、フランスのサン・マロに住む大叔父のもとへ身を寄せています。2つの物語は別々に進みますが、どちらも歴史の渦に巻き込まれ、過酷な現実に2人は身も心もぼろぼろに引き裂かれていくのです。

運命に翻弄され多くのものを失ったヴェルナーとマリーですが、「ラジオ」によって一瞬の邂逅へと導かれ……。

 

著者
アンソニー ドーア
出版日
2016-08-26

 

2015年に「ピュリッツァー賞」を受賞したアンソニー・ドーアの作品です。美しくて詩的な文章が、辛く哀しい物語を映像のように浮かびあがらせてくれます。

人は皆、どんなに小さなものでも何かしらの希望にすがって生きているでしょう。たとえ目に見えないものだったとしても、誰かの存在が希望になることもあるのです。

戦争の非情さや人間の愚かさとともに、誰かを想うことの美しさを感じさせてくれる感動的な一冊です。

 

波乱万丈の人間ドラマを描いた「ピュリッツァー賞」受賞作『ゴールドフィンチ』

 

13歳の少年テオが、メトロポリタン美術館で爆破事件に巻き込まれるところから物語は始まります。

彼は奇跡的に生き残ったものの、瀕死状態の老人の指示で、美術館から名画を持ち出すことに。いったいこの老人は何者なのでしょうか。

テオの持ち出した名画が、タイトルにもなっている「ゴールドフィンチ(ごしきひわ)」です。ニューヨークやラスベガス、アムステルダムと舞台を移しながら、怒涛の運命がテオを追いかけます。

 

著者
ドナ・タート
出版日
2016-06-25

 

2013年に出版された、ドナ・タートの作品です。瞬く間に評判となり、2014年に「ピュリッツァー賞」を受賞しました。

友情と裏切り、恋と失望……人生に起こりうるすべてを表現したといっても過言ではない少年テオの成長譚です。全4巻と長編ですが、多彩な登場人物たちが生き生きと描かれていて、飽きることはありません。エピソードのどこを切り取っても印象深く、心に沁みる物語です。

 

退屈な町の隠れた傷跡を追う『オリーヴ・キタリッジの生活』

 

舞台となる港町クロズビーは、アメリカ北東部にある、退屈で静かな田舎町です。

物語は、薬局を経営している夫のヘンリーと暮らす、妻のオリーヴ・キタリッジを中心に進んでいきます。気分屋で頑固なオリーヴは、気に入らなければ大統領でも共和党でも罵倒する変わり者です。

主人公の変わる13編の物語とオリーヴの半生を重ねながら、ありふれた日常に生きる人々が抱える悩み、親子の確執、秘密の恋愛、生きることの苦しみなどを丁寧に描いています。

 

著者
エリザベス ストラウト
出版日
2012-10-04

 

2009年に「ピュリッツァー賞」を受賞した、エリザベス・ストラウトの作品です。テレビドラマの原作にもなりました。

夫への冷めた視線や愛する息子への強い執着心などがあるオリーヴ。一般的な魅力を持ちあわせた主人公ではありません。しかし物語が進むにつれて、少しずつ彼女の隠れた優しさや繊細さがにじみ出てくるのです。だからこそ読者の心を捉えて離さないのでしょう。

決して明るいだけではない日常のなかで、生きることを考えさせられる物語です。

 

ディストピア小説の傑作が「ピュリッツァー賞」を受賞!『ザ・ロード』

 

空を暗雲が覆い、植物は死に絶え、どこもかしこも降り積もる灰に覆われた終末の世界。そこに、孤独な父子が生きていました。荒廃した世界で、ひたすら南を目指して歩き続けます。

父は、寒さや飢え、暴徒となった人間、そして世界から息子を守るために、歯を食いしばって歩き続けます。行く先々に希望は見えません。状況は悪くなっていく一方です。

滅びゆく世界の下、壮絶な旅路を行く2人の向かう先にはどんな未来が待ち受けているのでしょうか。

 

著者
コーマック・マッカーシー
出版日
2010-05-30

 

2007年に「ピュリッツァー賞」を受賞した、コーマック・マッカーシーの作品です。

淡々と歩みを進める描写が長く続く小説ですが、崩壊以前の世界を知らない息子が、父を頼りにしながらも道端でうずくまる弱者に自然な優しさを示したりと、心に残る場面が多くあります。

極限状態に置かれても相手を思いやり、道徳と信仰心を最後まで捨てない父と子の物語。胸が痛くなるほどの臨場感と、不思議な感動に包まれた作品です。

 

人生のターニングポイントを描いた「ピュリッツァー賞」受賞作『停電の夜に』

 

シュクマールとショーバという若い夫妻は、とある停電の夜に、2人の間に隠してきた秘密をひとつずつ打ち明けることにしました。

子どもの死産をきっかけに消えないわだかまりを抱えることになった若い夫婦。問題はいつか自然に解消されると思っていたシュクマールでしたが、蝋燭の明かりのもとで秘密の告白をするうちに、2人の関係が変わったことに気が付くのです。

決定的な時がやってくることを薄々と感じながらも歩みを止めることができない、ターニングポイントを巧みに描いた短編です。

 

著者
ジュンパ ラヒリ
出版日
2003-02-28

 

インド系の両親をもつ作家ジュンパ・ラヒリのデビュー作。2000年に「ピュリッツァー賞」を受賞しました。

ありふれた日常のなかにある、ささやかなすれ違いや違和感の積み重ねが丁寧に描写され、あやふやだった2人の距離がはっきりと変化する瞬間が巧みに切り取られています。

言葉では表現することが難しく、普段は忘れてしまっているような、それでいてきっと誰しもが抱いているはずの感情が見事に表現された一冊です。

 

「ピュリッツァー賞」の受賞作は読みごたえのある作品が多いので、小説の世界に浸る喜びを深く味わえます。この記事ではそのなかでも特に面白いものを選んだので、すべておすすめ。ぜひ1度挑戦してみてください。

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