『潤一』5の魅力をネタバレ!9人の女と潤一の、官能的で刹那的な恋愛小説

更新:2021.11.18

恋愛小説の名手として知られる小説家・井上荒野。そんな井上荒野の小説の1つで、流されるままに生きる男と、そんな男を求める傷を抱えた女達を描いた作品が『潤一』です。官能的な描写も多い作品ですが、2019年にはテレビドラマ化も決定しました。今回は、そんな本作のあらすじと作品の魅力をご紹介します。ネタバレも含みますので、まだ読んでいない方はご注意ください。

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小説『潤一』あらすじをネタバレ紹介!2019年7月、志尊淳主演でドラマ化!

伊月潤一は、定職を持たず定住もしない男。そんな自由人の潤一は、求められるままに女性と情を交わしては別れ、情を交わしては別れるを繰り返しながら、ふらふらと生活をしていました。

そんな気まぐれで女ったらし、不良っぽい潤一ですが、そんな彼に惹かれた女性達は後を絶ちません。潤一を求めるのは、死んだ夫の影に見え隠れする女性に悩む未亡人や、処女であることに悩んでいる中学生だったり、妹の夫と浮気をしている姉だったり……。潤一との逢瀬を重ねる9人の女性達を、連作短編で描いていく作品です。

著者
井上 荒野
出版日
2006-11-28

本作は恋愛小説ですが、官能小説といってもよいくらい情欲的な表現が魅力的な作品です。

そんな本作のテレビドラマ化が決まり、潤一を俳優の志尊淳が演じることになりました。志尊淳は、このドラマで初めてのオールヌードとベッドシーンに挑戦します。体当たりの演技も楽しみなテレビドラマでは、6話で6人の女性の話が語られることも発表されています。

原作をすでに読んでいる方もこれから読む方も、テレビドラマも合わせてチェックしてみてはいかがでしょうか。

 


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『潤一』の魅力1:作者は恋愛小説の名手・井上荒野!おすすめ作品もランキングで紹介

父親が小説家の井上光晴であることも有名な作者・井上荒野は、女性の小説家です。名前はコウヤと読みたくなるところですが、「あれの」と読みます。これまで様々な作品を執筆し、直木賞をはじめとした文学賞を受賞するなど、名実ともに実力派の小説家です。

なかでも恋愛小説を得意としており、女性作者だけが応募できるフェミナ賞を受賞してデビュー、今回紹介している『潤一』では、島清恋愛文学賞を受賞しました。

そんな作者の作品のなかでも特に読んでおきたいおすすめの作品は『潤一』以外にももちろんあります。今回はそのうちの3作品をご紹介しましょう。

著者
井上 荒野
出版日
2010-10-28

まずは、2010年に発売された『つやのよる』。男ぐるいの女・艶と、家族を捨てて艶と駆け落ちした男・松生。艶が危篤になった時、松生はかつて艶が関わった男達に会いにいくことにするのですが、それが男達の隠していたものを暴くことになっていく姿を描いた、長編の恋愛小説です。

2013年には映画化もされ、タイトルは聞いたことがあるという方も多いかもしれません。一筋縄でいかない男女の機微を描いた内容は、井上荒野の得意とするものが詰まっているように感じることができるでしょう。

次におすすめなのは、結婚詐欺師の男とその相棒の女を描いた『結婚』です。こう書くと、詐欺師と相棒が主人公のようですが、物語を語るのは、2人に騙された女性達。様々な女性が登場し、特定の人物について語るという手法は、『潤一』にも通じるものといえるでしょう。読者の想像にゆだねた結末の描き方も魅力的な1冊です。

そしてやはり一番押さえておきたいのは、直木賞も受賞した『切羽へ』。「切羽」は「きりは」と読み、掘っている最中のトンネルの一番先のことを指す言葉です。

九州にある島を舞台に、養護教諭として働く女性が、ふとしたことから夫以外の男性に心を惹かれてしまいます。平凡だけど幸せな生活に少しずつ変化が訪れ、人生の「切羽」に向かっていくような人々の生活が丁寧に描かれていきます。

「切羽」は、掘っている最中のトンネルにだけ与えられる言葉。それはつまり、掘り終わったら消えてしまうということ。静かなのにどこか恐ろしい物語は、直木賞受賞作らしく魅力がたくさん詰まっており、井上荒野作品を読むならぜひ押さえておきたい作品といえるでしょう。

『潤一』の魅力2:気まぐれでお調子者な不良・潤一

潤一は、ふらふらと気ままに女性の間を渡り歩いている男。

長身で華奢な体格と藁色の髪が特徴で、誘われるままに女性と体を重ねていきます。女ったらしとも不良ともとれるような罪作りな人物で、まだ感情移入する前の読み始めの頃などは、不快に思う読者も少なくないかもしれません。

しかし潤一は、性行為そのものに依存したり執着しているようにも見えません。それを疑問に思った女性から理由を尋ねられた際に、彼は「女性と寝ることはごはんに呼ばれた時のようなもの」だと答えています。

呼ばれたら食卓へ向かうごはんのように、誘われたら女性とベッドに入る、そんな感覚を持った男を目の前にしたら、普通はよい感情を持たないかもしれません。しかし読めば読むほど、彼にはどこか憎めないものを感じることができ、とても不思議な感覚になります。

本作の最後のエピソードでは、潤一自身のことが語られていきます。序盤でいろいろと思うところがあっても、ぜひ最後の潤一のエピソードまで読んでみてください。彼について新しい発見があるかもしれません。

『潤一』の魅力3:潤一との関係のなかで描き出される、9人の女の人生

本作には9人の女性が登場します。14歳の中学生から62歳の未亡人まで、年齢も立場も、置かれた状況も違う女性たちです。ひょんなことから潤一と出会い、恋愛のような、そうでないような関係になりながら、何かを変化させていくのです。

本作は全10話で、最後は潤一の物語になっています。それ以外は、それぞれ1人ずつの女性が中心となって物語が進みます。10話目の潤一の話では、潤一の姉が登場するので、彼女も入れれば10人の女性が登場するといってもいいのかもしれません。

潤一の姉以外の9人の女性は、30歳の映子、28歳の環、62歳のあゆ子、26歳の美雪、29歳の千尋、14歳の瑠依、43歳の香子、38歳の希、20歳の美夏です。

全員に共通することは、様々な事情を抱え、心に隙間のような、空っぽの部分を抱え、さらにそこから抜け出せなくなってしまっていること。心に隙間を抱えた女性だからこそ、潤一のような、何ものにも捕らわれない、自由な男に魅力を感じているのかもしれません。

このなかでも特に注目したいのは、実写ドラマ化でも演じられることが決まっている映子、環、あゆ子、千尋、瑠依、美夏でしょうか。

1話で登場する映子はもうすぐ出産を控えた臨月の妊婦。そんな彼女が潤一と体を重ね合わせるシーンなど、読者によっては複雑な感情を抱くこともあるかもしれません。しかし「妊娠したら女性は母親でいなくてはいけないのか」「両方を求めることはいけないことなのか」など様々なことを考えさせられるでしょう。

本作に登場する中では一番の年少で、14歳の中学生・瑠依。思春期真っただ中の彼女は、処女を捨てたくてたまらないというときに潤一と出会いました。潤一は流されるまま女性と体を重ねますが、2人だけ、夜をともにすることなく別れた人がいます。その1人が瑠依でした。

そして、もう1人、潤一が体を重ねなかったのが、あゆ子です。62歳のあゆ子は、医師の夫を亡くしたばかりの未亡人。それなりに幸せな家庭を築いてきたと思っていましたが、夫の書斎を片付けている中で、夫に自分以外の女性の気配を感じることになってしまい悩みを抱える女性です。

どうして身体を重ねなかったのかは、ぜひ本編を手に取って確認してみてください。

他にも、自分の妹の夫と逢瀬を重ねている環や、夫に束縛されている千尋、常に男を求めている美夏などが登場します。何かが欠けていて、それを埋めようと何かを求めているような女性たち。彼女たちの姿は、読んでいてどこかもの悲しさを感じることもあるかもしれません。

『潤一』の魅力4:美しくも切なく儚い、官能描写

男女の機微や、微妙な気持ちの揺れなどを描くには、読みやすさや分かりやすさだけではなく、読者の想像を刺激するような表現も必要になってくるでしょう。その点に関して、井上荒野の文章はとても魅力的です。

本作は「潤一はただの女ったらしで、女性達は男にだらしないだけの人々」とも読めてしまいます。もちろん本を読んで何を感じるかは人それぞれではありますが、潤一を憎めないなと思ったり、女性達を悲しいと思ったりすることができるのは、作者の文章が流暢で、きれいな表現だからといえるでしょう。

そして、官能描写にも同じことが言えます。官能的な表現は、場合によっては品がないと感じられてしまったり、抵抗感を覚えることもあるかもしれません。

しかし、作者の官能描写は、美しさや切なさはもちろんのこと、どこか悲しさや寂しさのようなものを感じることができ、読者を魅了します。

決して華美なわけではなく、それでいて物足りなさもない文章だからこそ、時に際どい内容のストーリーも、じっくりと味わうことができるのです。

『潤一』の魅力5:最後に描かれる潤一の章!【結末ネタバレ注意】

これまで潤一と関わる女性達が登場していましたが、最後は潤一の姉という女性が登場します。姉ということもあって、当然、他の女性達には見えていなかったであろう潤一の姿が描かれていくことにもなります。

ここまで、流されるまま、誘われるまま、女性と関わってきた潤一は、まさにつかみどころがない人物。その潤一がどんな人物であるかを、潤一自身の回想も含めて描かれていくわけですが、これまでとは違う視点から描かれる潤一は、少し違う人物のようにも見えます。

著者
井上 荒野
出版日
2006-11-28

潤一はこの物語の中で、自分は何事も長続きしない人間だと語るところがあります。本当にただ流されるだけの人間であれば、そんなことは考えないのではないでしょうか。そこからは、潤一が自分自身に疑問を持っていることを思わせます。

他にも、潤一自身の気持ちが垣間見えるところがあり、ここまでの物語を読んだ読者にとっては、全てを総括したような流れになっているといえるでしょう。

とはいえ、これを読めば潤一がわかるかといえば、そうでもないかもしれません。分かったようで分からない結末、読者の想像に委ねているようなラストは、井上荒野作品ならではともいえるでしょう。

いかがでしたか?テレビドラマ化も決定した『潤一』をご紹介しましたが、井上荒野の作品には、他にも美しくも切ない物語がたくさんあります。もし気になったら、ぜひ他の作品も手に取ってみてください。

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