2015年にM-1グランプリに出場し、奇抜なファッションとシュールなネタでお茶の間に衝撃を与えた「メイプル超合金」のカズレーザー。相当な読書家で、「読書芸人」としても知られています。この記事では、これまで彼がメディアでおすすめしてきた本をご紹介します。
寺沢武一の『コブラ』が大好きで、金髪に赤服スタイルを通しているというお笑い芸人のカズレーザー。本名は新年号の「令和」をひっくり返した「和令(かずのり)」という名前だということでも話題になりました。
安藤なつとともに、「メイプル超合金」というお笑いコンビでネタを披露するほか、意外なほど博識でクイズ番組に多数出演しています。同志社大学の商学部出身です。
また、テレビ朝日系列で放送されているバラエティ番組「アメトーーク!」で、年間の読書量が200冊ほどと披露するほどの読書好き。「読書芸人」としても活躍しています。
その読書スタイルも独特で、本棚を持たず、畳の上に積みあげているそう。読み終わった本は20冊ほど溜まると、人にあげたり古書店に売ったりしてすぐに処分するんだとか。読み返したくなった時はもう1度購入し、作者にお金が入るようにしているそうです。
この記事では、そんなカズレーザーがこれまでにおすすめした本のなかから、文芸作品と小説に絞って紹介していきます。
どの家でもお父さんが5~6人に増えてしまった世界のお話。増殖したお父さんは、みんな自分が本物だと主張します。
困ってしまった政府は、その家の子どもにお父さんをひとり選ばせ、その他のお父さんを「処分」するよう決めるのです。子どもたちは家庭再組織委員会の立会いのもと、ひとりのお父さんを選ぶのですが……。表題作のほかにも不思議なお話が収録された短編集です。
- 著者
- 三田村 信行
- 出版日
1975年に刊行された三田村信行の短編集です。カズレーザーはライフスタイル誌「FRaU」にて、自分の子どもに読ませたいと本作を選びました。
どの物語にも子どもが登場し、不可解で奇妙なストーリーが展開されます。後味が悪いものもありますが、妙に癖になってしまうシュールさが魅力。不思議な世界観が読者の心にずっと残り、忘れられない読書体験となるでしょう。
物語の舞台は、第二次世界大戦で日本、ドイツ、イタリアが勝利し、アメリカが東西に分割されているという世界。
終戦から15年が経ち、日本が支配しているアメリカの西海岸では、「高い城の男」を名乗る謎の人物によって執筆された「もしも連合国側が第二次世界大戦で勝利していたら」という仮想小説が流行していました。
- 著者
- フィリップ・K・ディック
- 出版日
- 1984-07-31
1962年に刊行されたアメリカのSF作家フィリップ・K・ディックの作品です。カズレーザーはテレビ番組「アメトーーク!」の読書芸人回で紹介していました。
肝となっているのは、枢軸国側が勝利をした世界で、枢軸国側が負けたと仮定した小説がはやっていることでしょう。登場人物同士が影響しあい、未来を作っていきます。「本物」と「偽物」の価値を考えさせられます。
日本や日本人が登場するので、海外SFもののなかでもとっつきやすく、おすすめです。
ドイツ人とミクロネシア人と大阪人の混血で、ヨーガと奇術の達人「ヨギガンジー」が活躍するシリーズ。
登場人物のひとり、中村千秋は、透視能力をもっています。この力を使って、世間を騒がせている殺人事件の犯人の名を言い当てました。
本作の最大の特徴は、本の作り自体がミステリーであるという点。作者が仕掛けたトリックを楽しんでみてください。
- 著者
- 泡坂 妻夫
- 出版日
- 1994-10-28
1994年に刊行された泡坂妻夫の作品です。泡坂はマジシャンとしても有名な人物。カズレーザーはテレビ番組「アメトーーク!」の読書芸人回で、変わったギミックの本として紹介していました。
最大の特徴は、十数ページごとに「袋とじ」されている点。そのまま読むとよくある短編小説なのですが、袋とじを開けると『生者と死者』という長編小説が完成します。単純に物語のボリュームが増えるだけでなく、登場人物の性別が変わったり、あとがきが本文になったりしてしまうのがすごいところです。
同じ単語のはずなのに違う意味をもって解釈され、短編の時にはわからなかった謎が解決していくさまは面白く、まさに1冊で2度楽しめる作品です。
語り手の「わたし」はポルノ作家をして暮らしています。ある日、「すばらしい日本の戦争」と名乗る人物から、たくさんの死躰が描かれた手紙が届きました。差出人の住所はありません。
「すばらしい日本の戦争」は、突然「わたし」の家にやって来ます。そして詳しいことは何も話さず、死躰のことばかりを口にするのです。
- 著者
- 高橋 源一郎
- 出版日
- 2004-04-10
1985年に刊行された髙橋源一郎の作品。デビュー作である『さようなら、ギャングたち』よりも前に執筆していたものだそうです。カズレーザーは「タイトル一発勝負の本が好き」として、本書を紹介していました。
登場人物の不思議な名前、意味のわかりかねる固有名詞があふれていて、ストーリーも途中でどこかへ消えてしまうなどかなりアナーキーな内容。過激で抒情的で、しかし確かに言葉のもつ力というものがあると感じさせてくれる作品です。
さまざまな災厄が街を襲い、主人公は新天地を求めて引越しをすることに。しかし辿り着いた先の環境は、言葉も食べ物も何もかもがこれまでと違いました。
主人公は四苦八苦をしながらなんとか生活基盤を確立し、妻と子どもを呼び寄せる準備を整えます。
- 著者
- ショーン・タン
- 出版日
- 2011-03-16
2011年に刊行されたショーン・タンの作品です。ショーンはオーストラリアのクリエイター。本作は文字のないサイレント絵本になっています。
精密なイラストで、文字はなくとも登場人物の感情を雄弁に語り、主人公の不安で苦しい気持ちが手にとるようにわかります。謎の生き物と心を通わせ、孤独な心を和らげていくのも素敵です。
全体的にセピア色で、ノスタルジックな空気感が魅力的。空気のざわめきまでもが聞こえてきそうな物語の世界を堪能してください。
つぶれかけた売春宿「ホーカーズ・ネスト」に、オランウータンのポポロと、ヤギの甘汁が働きにやってきました。そこで働く女性たちは、動物なんかに負けるわけがないと思っていましたが、なぜかポポロに指名が殺到します。
そのほか、虐待を受けている子どもの話、探偵をしている男の娘が行方不明になってしまう話、ハードボイルドな殺し屋の話など、全部で4つの短編が収録されています。
- 著者
- 平山 夢明
- 出版日
- 2016-06-30
2016年に刊行された平山夢明の短編集。どの物語もシュールで悪趣味、ポップでグロい、だけど思わず笑ってしまうような物語がスピーディーに展開されているのが特徴です。それでいて後味が悪くないのが魅力でしょう。
表題作の「ヤギより上、猿より下」は、まさにタイトル通りのお話。売春の商品としての価値が、ヤギよりは上だけどサルよりは下だというのです。さてどう展開していくのでしょうか。「底辺」と呼ばれるような人々を、どこかキラキラと儚く輝かせている作品です。