【#1】文化放送アナウンサー西川あやのの読書コラム

更新:2022.7.10

文化放送アナウンサー、西川あやのが読書コラムを再始動!落語からアイドルまで、ジャンルレスのカルチャー好きとして夕方帯のラジオ番組「西川あやの おいでよ!クリエイティ部」を担当する傍ら、自ら作詞した楽曲で歌手としてソロデビューも果たした彼女。一体どんな本に影響を受けてきたのでしょうか。

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“人の見つめ方”が心地よい1冊

私は、1人で過ごす時間が好きです。映画も焼肉も1人で行くし、最寄り駅から自宅までの道にある串焼き屋さんで、自分の担当するラジオ番組を聞きながら1人で芋焼酎を飲んでいる時間は至福の時です。主に週3度程、この至福の時を楽しみます。

もちろん放送に関わる人間としての反省点を見つけたり、自分のこういうところが嫌いなんだよなぁなどとマイナスの感情が生まれたりもしますが、自分が夢中になれる職業に就けていることの充足感を厚切り豚バラの串焼きと一緒に噛みしめたりもします。こうやって喜怒哀楽をぐるぐるしながら、その時担当している番組のことを考えたり、自分の周りの人たちのことを考えたり、1人の時間を堪能しています。

こんな話を放送ですると、1人で寂しくないの?と聞かれることもありますが、寂しいという感情はよく分かりません。日々、色々な方とお話させていただく機会もあるし……。

ただ、あらゆる場面で“物足りない”と感じることがあります。

人付き合いや仕事をしていく中で感じる物足りなさ。これも豚バラと共に噛みしめる。

友人や仕事仲間との関係を顧みたとき、どう算出しても自分ばかりが相手を想っている気がする。それは好きや嫌いの感情とは関係なく、他者への単純な興味ともまた違う、自分とその人との関係の中で、自分ばっかり気持ちが過剰な気がしてしまう。また、それが相手や周囲にバレてしまうことが恥ずかしくて、言葉や連絡の取り方などで、小細工を挟んでしまったりする。想いの強さの天秤は傾くように出来ているのでしょうか。

小心の自分に空しくなって、関わる人や抱える仕事を無理やり増やして、自分の思考時間の分配をして、物足りなさをごまかしたりしています。

最近、この自分の欲求不満を少し洗い流してくれる作品に出会いました。

著者
長嶋 有
出版日
2005-02-01

 

今年4月から始まった文化放送の午後の番組「西川あやの おいでよ!クリエイティ部」。先日、水曜日の共演者・哲学研究者の永井玲衣さんとお笑いコンビXXCLUBの大島育宙さんと、自分が今まで読んできた本について語り合う機会があり、その際にお2人からおすすめしていただいた1冊です。

小学5年生から6年生になる主人公・慎と母親の生活の一時期を切り取った作品。慎と母親は2人家族でありながらも、互いに依存しすぎず少しずつ独立し合っている関係にみえます。祖父母との関わりや学校生活が、慎に寄り添った視点から描かれてゆく……。

一見ドライにもみえる慎の心境は、詳細には綴られず、大人たちの心中も推し量れません。しかし互いを1人の人間として受け止め、それでも母と子という関係の中でしっかりと向かい合っている様が、2人の会話や行動から伝わってきます。

慎の“人の見つめ方”に、私は学ぶところがありました。

母親の恋人らしき男を紹介されることもある慎が、母親とその男の関係を気にかける様は、例えばこのように語られます。

母が無口に変わっていくところから二人の仲を想像するしかない。「最近あの人遊びにこないね」という不用意な質問を一喝されて、終わったのだと分かった。人には人の関係というものがあって、それは続いたり、盛り上がったり、だらだらしたり、ときには終わったりするのだと慎はもう知っていた。
猛スピードで母は』より引用)

この慎の気づきを、「大人びている」とか「冷静に見つめられている」とか、どのように表現すれば良いのかはわかりません。自身が触れ合う人々を悪く思う訳ではなく、でも期待しすぎない。距離をとるのともまた違う。それでもちゃんと、母親とも恋人らしき男とも心から向き合っている。この慎の人の見つめ方に惹かれました。

私も欲求不満にならない程度に、人付き合いを頑張りたい。慎と母親の関係のように、行動や言葉の重ね方で気持ちが伝わったり、関係を築けたりするのかもしれない。自分が関わる人に対していつも感じる過剰さは、言葉にしたり伝えたりするものじゃなくて良さそうだ。人と向き合う術は、本心を吐露し合うことだけではないのかもしれないと思いました。

『猛スピードで母は』読後はすっきりとして、心地良かったです。


 

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