徳川家康の気持ちになって、とことん考えてみる (マンガ家・三田紀房インタビュー)【中編】

更新:2023.12.28

さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人のもつ本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひも解いていこうというインタビュー。第1回のゲストは、マンガ家の三田紀房さんです。『ドラゴン桜』や『エンゼルバンク』、そして現在連載中の『インベスターZ』や『砂の栄冠』など、意表をつく展開で読者をぐいぐいとひきつける三田さんのマンガの原点は、どこにあるのでしょうか。古典文学ばかり読んでいたという、高校時代のお話からうかがっていきます。 (この記事は2014年に作成したものです。)

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前編の記事はこちら。

売れるマンガはパターンでつくれる (マンガ家・三田紀房インタビュー)【前編】

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突拍子もないアイデアがないと、読者は振り向いてくれない

――現在、「モーニング」で連載されている『インベスターZ』を描くために、参考にした本などはありますか? 

三田 実は『インベスターZ』を描くために読んだ本って、ほとんどないんですよね。

――ためになる知識が毎回出てくるので、膨大な資料を読みこんで描かれているのかと思ったのですが……。

三田 資料を調べて、そこから構成するという描き方は一切しないんですよ。本を読んでネタが思い浮かぶわけではないんです。

――ではどうやって、ストーリーをつくっていくのでしょうか。

三田 基本は想像です。「あ、これおもしろいんじゃないか」というアイデアをふくらませてストーリーをつくり、それにあてはまる事実を探す、という順番です。そのときには、本も参考にします。

――「仮説」が最初にあって、それを確かめていくんですね。

三田 世の中の事柄には、かならず2つ以上の側面があります。ある本を参考にして物語をつくると、その本に書かれている面だけに影響されることになり、対象が狭くなってしまうと思うんです。だったら、完全にオリジナルの仮説をつくったほうが、広いマーケットにうけるものが生まれる。これはあくまでも僕の考えですけど。

――なるほど。

三田 あと、ストーリーを考えるときに意識しているのは、エンターテインメントとして成立しているかどうか。マンガは娯楽作品としておもしろくないといけません。まだ世の中で誰も言っていない、突拍子もないアイデアが盛り込まれていないと、読者はおもしろがってくれないだろうと思うんです。

――『インベスターZ』では毎回、一般の投資論とは違う切り口の話が展開されていますよね。ひとつのお話の終わりに、「えっ?」というような次の話題がふられるので、つい気になって先が読みたくなります。

三田 各話とも、まず疑問をどんと提示して、次の話で答えを出すというフォーマットで描いています。今度(※)、「金は汚いものだ」「金儲けは卑しい」という考えがいつ生まれたのか、という話を描こうと思っているんです。(※聞き手注:雑誌「モーニング」の4月24日(木)に発売号に掲載している話)

――その考えは、いつ生まれたのでしょうか?

三田 江戸時代です。徳川家康が、国民にその価値観を植えつけた。なぜだと思います?

――うーん……分かりません。

三田 裏切られたくなかったからですよ。そして、その強い思いは本能寺の変から始まっている。

 

――裏切られたくないから、お金が汚いと思わせる……? どういうことでしょうか。

三田 順を追って説明しますね。まず、徳川家康は、本能寺の変で織田信長が討たれたとき、堺にいたんです。このときの家康のお供は少人数で、すごく危険な状態にあった。そんな状態で、命からがら山の中を三河国まで戻るわけです。帰り着くまでにおそらく1週間くらいかかったと思うんですけど、相当怖い思いをしただろうと想像できます。

――そうでしょうねえ。

三田 僕が思うに、徳川家康ってかなりの臆病者だったんじゃないでしょうか。武田信玄との戦いのときも、大負けしてあまりの恐怖に醜態をさらしたという逸話が残っていますよね。

――負けた時の顔をわざと肖像画で描かせて、戒めにしたらしいですね。

 

家康はなぜ、士農工商の身分をつくったのか

三田 そんな家康が恐怖にかられながら道中、何を考えていたか。きっと、織田信長の末路から「自分が国をつくるときは絶対に裏切られたくない!」と心底思ったでしょう。裏切られないためにはどうすればいいかというと、大名たちをある程度、貧乏にしておくことがいい。財力を持つと権力に対抗してきますからね。なおかつ、国民も貧乏にしたほうが国を治めやすいだろうと。

――おお、お金の話につながってきました。

三田 でも、ただ貧乏にしておくだけだと、どこかで不満が爆発するんですよ。徳川家康はフランス革命のことを知らなかったと思いますけど、あの革命は国民を貧乏にしておいたことが原因ですよね。自分たちは貧しいのに国王は贅沢しているという不満が、民衆の火種になった。そういう暴動を起こさせないためには、プライドを持たせてあげることが必要なんです。

――貧しくても、君たちは立派だと。

三田 そう。そして、家康は士農工商という身分制度をがっちり固めた。武士は貧乏だけど、位が一番高いことにして納得させる。で、金儲けをしている商人は一番身分が低いことにする。「あいつらは金をもっているけれど卑しい奴らだ」という価値観を定着させるんです。そうしておけば300年くらいはコントロールできるんじゃないか、と考えたに違いない。これが、僕の仮説です。

――家康の心情を想像しながら、推論していくんですね。

三田 もともと、山岡荘八の『徳川家康』などは読んだことがありましたけど、これも創作ですから。史実かと言われるとあやしいですよね。

――日本人の頭のなかにある坂本龍馬像は、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』にすごく影響されているといいますよね(笑)それと同じでしょうか。

三田 そういうところはありますよね。だから、他人の作品をそのまま参考にはしないで、そこから得た自分のインスピレーションをもとに仮説をたてるんです。そして、徳川家康がなぜ金が汚いという意識を国民に植えつけたのか、その理由はこうに違いないと、とにかく考えていく。それがストーリーになります。


後編の記事はこちら。

どんな本に書いてあることよりも、僕が考えていることが一番おもしろい (マンガ家・三田紀房インタビュー)【後編】

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