どんな本に書いてあることよりも、僕が考えていることが一番おもしろい (マンガ家・三田紀房インタビュー)【後編】

更新:2023.10.13

さまざまなプロフェッショナルの考え方・つくられ方を、その人のもつ本棚、読書遍歴、本に対する考え方などからひも解いていこうというインタビュー。第1回のゲストは、マンガ家の三田紀房さんです。『ドラゴン桜』や『エンゼルバンク』、そして現在連載中の『インベスターZ』や『砂の栄冠』など、意表をつく展開で読者をぐいぐいとひきつける三田さんのマンガの原点は、どこにあるのでしょうか。古典文学ばかり読んでいたという、高校時代のお話からうかがっていきます。 (この記事は2014年に作成したものです。)

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前編、中編はこちら。

売れるマンガはパターンでつくれる (マンガ家・三田紀房インタビュー)【前編】

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徳川家康の気持ちになって、とことん考えてみる (マンガ家・三田紀房インタビュー)【中編】

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投資をマンガにするとき、みんな「歴史が知りたい」と言った

――徳川家康とお金に対する日本人の意識の話が出てきましたが、三田さんはもともと歴史がお好きだったんですか?

三田 いえ、そういうわけでもありません。『インベスターZ』を始めるときに、いくつかストーリーの柱をつくろうと思いました。その一つが歴史なので、『インベスターZ』には歴史に関係する話がよく出てくるんです。

――なぜ歴史をストーリーの柱に据えようと思われたのでしょうか。

三田 連載前、「モーニング』の編集長など、まわりのいろいろな人に「投資についてのマンガをやろうと思うんだけど、何が知りたい?」とリサーチしたんです。すると、十中八九みんな「歴史を知りたい」と答えたんですよ。

――そうだったんですか。

三田 明治から大正、昭和、平成と、この国がどんな道筋を経て今の経済状況になったのか。意外と知られていないんですよね。日本がどのようにして世界第2位の経済大国にまでなったのか、わかりますか?

――そう言われると……。

三田 今の日本経済の基礎は、高度成長期にできたといわれていますよね。じゃあ、高度成長期の前はなにがあったのかというと、終戦があった。その前には太平洋戦争、日露戦争、日清戦争……とさまざまな戦争があった。そうやってさかのぼって考える機会はなかなかないんです。

――1巻ではさらにさかのぼって、お金の成り立ちをひもといていました。

三田 お金も、今やみんな当たり前に使っていますけど、いつできたのか知らないですよね。はるか昔に、お金というシステムをつくったやつがいるわけです。その人はどういうアイデアでお金をつくったのか。そういう歴史を読者に提示すると、一つの発見があるのではないかと。

――三田さんのアイデアの出し方やストーリーのつくり方は、マンガだけでなくいろいろな作品制作に通じるものがありますね。三田さんはなぜ小説などではなく、マンガを描こうと思われたんですか?

三田 マンガって、コンビニに行けばマンガ雑誌がずらーっと並んでいますし、それらの雑誌に新人賞が一つはあります。どこかに出せば、ひとつは引っかかるだろうという算段がつくでしょう。それに比べて小説は発表の場が少ないから、間口が狭いんですよ。

――たしかにそうですね。

三田 小説家の社会的ステータスは高いですが、デビューまでのハードルも高いし、そのあと食っていくのも大変そう。僕は若い頃に家業を継いで、お金で苦労しました。だから、同じ労力をかけるならお金になることがしたい、と思ったんです。

 

アイデア出しで苦しんだことは一度もない

――30歳でちばてつや賞に入選したとき、ここまでマンガ家を続けると思っていましたか?

三田 マンガを描き始めた時から、絶対、一生これで食っていくと決めていました。マンガ家はいい商売ですよ。週刊誌で書いていると、雑誌が毎週出るので原稿料も毎週発生する。このスピード感は、他のメディアにはないですね。

――たしかに収入は安定しますが、週刊だと描くのが大変だったり、アイデアが出なくて大変ということはありませんか。

三田 ありません。アイデアが出なくなったら、この商売は終わりです。アイデアをストックして、時代に合わせて商品化して、市場に供給するというサイクルをつくる。それを意識してやることが大事です。僕はかならず2本の作品を平行して描くようにしています。今は『砂の栄冠』という野球マンガと『インベスターZ』。こうして、休まず描く状況を自らつくるんです。

――アイデアが出ない人はそもそもマンガ家に向いていないんですね。

三田 アイデアが出ないとこの商売、つらいでしょうね。そうならないように市場調査をしたり、世の中の動向に目を向けたり、情報が入ってくる環境づくりは怠らないようにしています。

――情報を集める上で意識していることはありますか。

三田 一生懸命集めないことですかね。

――と、いいますと?

三田 情報を集めてそこからネタを探そうとすると、集めること自体に一生懸命になってしまうじゃないですか。そうじゃなくて、頭に浮かんだ仮説とつながる情報があればいいな、くらいのスタンスで情報に接するんです。あくまでもとになるのは、自分のアイデア。

――自分の仮説が、最初にある。

三田 それは、現在メジャーな考えでなくてもいいんです。そのうち世の中が俺についてくるだろう、くらいの余裕を持って世の中の情報にふれていたほうが、ストレスがかからない。どんな意見も「そんなわけないだろう」って言ってくる人はいるんです。100人読んで15人が文句をつけてきても、50人が「たしかにそうかもな」って納得してくれたらこっちのものですよ。それくらいの気持ちでやっていたほうが、おもしろいことが描けると思っています。

――情報を集めるために、取材をすることもあるんですか?

三田 取材はかなりします。本を読むよりは人に話を聞くことが多いかもしれません。本棚をつくるサイトのインタビューでこんなことを言うのもなんですが、「影響を受けた3冊は?」という質問など、いつも答えに困るんですよ(笑)。実際、人が書いたものにそんなに影響受けることってあるんでしょうか。よく調べているな、と思うことはありますけど……。

――たしかに、簡単に影響受けていたら、作家という職業は成り立たないのかもしれませんね(笑)

三田 思いきって言っちゃうと、どんな本に書いてあることよりも、僕が考えてることが一番おもしろい。そう思っています。そうじゃないと、マンガ家なんてやれっこないですよ。

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