【灰原哀編】漫画『名探偵コナン』を本気でネタバレ考察!

更新:2021.11.27

『名探偵コナン』にはミステリアスな女性キャラクターがたびたび登場します。その中でも最初期に登場した灰原哀は物語の最重要ポイントであるAPTX4869に深く関わる重要な存在です。今回はその人物像について考察してみましょう。

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謎多き少女灰原哀をネタバレ考察!

著者
青山 剛昌
出版日
1998-01-01

『名探偵コナン』連載初期から登場する、最初のミステリアスレディ灰原哀。2017年現在まで長い間登場し続けていますが、まだまだ彼女に関する謎は多く、ミステリアスであり続けています。

物語をずっと追い続けている読者には馴染みが深くなり、同様に灰原哀自身も作中で周囲の人物たちに馴染みつつあります。その様子もまた、物語に深みを与える味わいどころとなっています。

随分よく知っているようで明らかにならない謎を多く持つ彼女について、振り返ってみましょう。

ネタバレ考察1:灰原哀の正体

ネタバレ考察1:灰原哀の正体

出典:『名探偵コナン』18巻

単行本第18巻で初登場したときに自ら名乗った通り、黒の組織に属してAPTX4869を開発した科学者でコードネームはシェリー。姉は宮野明美といって、組織の手で殺害されてしまいました。

初登場のシリーズではこれだけのことしか分かりませんでしたが、のちに少しずつ、ほんとうに少しずつですが、素性が明らかになってきました。ここでは、それを整理してみましょう。

出典:『名探偵コナン』18巻

世を忍ぶ仮の名は「灰原哀」

「『灰原哀』って名前なら、女探偵の名前をもじって、ワシと彼女の2人で考えたんじゃ!」
「灰原の『灰』はコーデリア・グレイの『グレイ』! 『哀』はV・I・ウォーショースキーの『I』!」
(『名探偵コナン』18巻から引用)

単行本第18巻FILE.9「偽りの少女」で阿笠博士が述べている通り、幼児化した彼女の名前は彼女本人と阿笠博士の合作です。「愛」ではなく「哀」の字を選んだのは哀自身。この字の方が自分に合っていると考える厭世的な考え方が既に表れています。

・黒の組織に所属した科学者で、APTX4869を開発した
・黒の組織でのコードネームは「シェリー」

この点は初登場時(第18巻)で自ら明かしています。

本名は宮野志保
同じく第18巻FILE.10「チェックメイト」に哀の回想として、幼児化する前に宮野明美と談笑する場面があります。そこで明美が彼女を「志保」と呼んでいることから本名が分かりました。

実年齢は18歳
第19巻FILE.9「狙われたボール」でコナンに年齢を訊かれ、一旦は「84歳…」と答えましたが直ぐに「ウソ…」と否定し、第20巻FILE.1「遠くからの眼」ではこう言っています。

「私ホントは…あなたとお似合いの18歳よ…」(『名探偵コナン』20巻から引用)

これも直ぐに「…なーんてね」とはぐらかしてしまっていますが、随分経ってからまたコナンとこのような会話をしています。

「それによ…オレが飲まされたあの薬が17年前にもうあったってことは…お前、今何歳だ?」
「失礼ねぇ、言ったでしょ? 18歳って…」
(『名探偵コナン』89巻から引用)

どうやら18歳であることは間違いないようです。

父は宮野厚司、母は宮野エレーナ、姉は宮野明美。何れも黒の組織に属していたが、組織によって殺害されている
姉の明美が殺害されていることは初登場時(第18巻)に、自ら組織を脱けてきた理由として述べています。

また、両親である宮野厚司・エレーナ夫妻については哀自身の口からこのように語られています。

「父と母の研究所が火事になって薬の資料と一緒に2人とも焼死したのよ…」(『名探偵コナン』89巻から引用)

家族をすべて亡くし、最早や天涯孤独の身となった18歳の若き科学者、宮野志保。それが灰原哀の正体です。


黒の組織については<漫画『名探偵コナン』を本気でネタバレ考察!【黒の組織編】>で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

ネタバレ考察2:灰原哀のひととなり

ネタバレ考察2:灰原哀のひととなり

出典:『名探偵コナン』18巻

単行本第18巻FILE.6「転校生は…」で帝丹小学校に転校生として現れた哀は、同巻FILE.8「コードネーム・シェリー」でその正体を自らコナンに明かしました。

「灰原じゃないわ…シェリー…」
「それが私のコードネームよ…」
(『名探偵コナン』18巻から引用)

しかし事の真相までは明かさず、現在の住まいであるという「米花町2丁目22番地」、つまり阿笠博士の家へとコナンとともに「帰宅」したのちに、阿笠博士から真相が伝えられます。

この件で、哀の性格が幾らか捻れていることが窺い知れます。「APTX4869」という薬の名と「組織」との関わり、そして「シェリー」というコードネームを口にした上で、顔色を変えて博士に電話をかけるコナンに追い討ちをかけて、こんなことを言ったのです。

「無駄よ…何度かけても話し中…
受話器が外れたまま、彼はとる事ができないのよ…」
「もうこの世には、いないんだもの…」
(『名探偵コナン』18巻から引用)

実は博士はパソコン通信に凝っていて、そのために電話回線が使用中で、電話が繋がらなかったのです(連載当時はまだ光回線などが発達しておらず、電話回線を利用してインターネットに接続すると、その間は電話が使用できなくなったのです)。

それが分かっていながら、敢えてコナンに疑心を抱かせるようなことを哀は言ったのです。彼女のキャラクター性を読者に十二分に伝えた秀逸なエピソードでした。

このように、灰原哀という少女はいまひとつ素直ではなく、また幼児化していながら必要がない限り「子供の振り」を敢えてすることがない、冷徹な印象を与える性格であることを示すエピソードが、このほかにも数回に渡って散見されます。

その一方で、自分の存在に罪悪感を感じているようで、周囲を巻き込むくらいなら自身の死を以てすべてを解決させることを選択する傾向も、一時は見られました。第29巻FILE.3「見えない恐怖」からはじまるバスジャック事件や、第42巻FILE.5「満月の夜と黒い宴の罠」からはじまる満月の夜の二元ミステリーがその例となるエピソードです。

しかし、前出のバスジャック事件の最後にコナンから「自分の運命から逃げるな」と言われたことや、第42巻FILE.11「雨中の刻印」からはじまる通り魔事件で「逃げてばっかじゃ勝てないもん!!」という歩美の言葉を聞いたことによって、逃げない、生き抜く意志を強くしていく過程をしばしば見せるようにもなりました。

その決意の表れとして、第43巻FILE.2「灰原哀の決意」ではジョディから提示されたFBIによる証人保護プログラムを断っています。

同時に、寡黙で表情をあまり変えない、護りが堅いクールビューティというキャラクターが変容をはじめ、次第に感情や地の性格を見せるようになってきています。

ネタバレ考察3:灰原哀の意外な一面

ネタバレ考察3:灰原哀の意外な一面

出典:『名探偵コナン』92巻

前項で見ました通り、初期の哀は頑なな態度で自分をなかなか開かない人物でしたが、物語が進行するにつれ、徐々にではありますがキャラクターがやわらかくなってきています。

たとえば、第80巻FILE.11「バーボンの正体」ではおみくじを引いて「凶」が出てしまったコナンに自分が引き当てた「大吉」を見せて大変な「ドヤ顔」を見せていますし、第87巻FILE.10「ビッグカップル誕生?!」ではひいきのサッカー選手、比護隆佑の熱愛報道をスマートフォンで見て、点目になって路上に立ち尽くしています。

また、同じく第87巻FILE.10では比護選手の熱愛報道を信じたくないばかりに目の下にクマをつくりながら毛利探偵事務所に乗り込み、比護選手と熱愛報道の相手である沖野ヨーコの素行調査を依頼し、「もちろん無償で!!」と付け加える大胆さと周到振りをあらわにするという、初期のイメージからは想像し得ない姿を見せています。

さらには、第92巻FILE.10「真っ白な気持ち」では自分の頬に「あ」と言う文字を書こうとして失敗したナルト状の書き損じをつけたままドヤ顔を見せるなど、最早やギャグも担当できるキャラクターに昇華しつつあります。

そのほか、自称する年齢(18歳)の女性らしくファッション誌を読んだり、ブランド物をほしがったりする場面も時折見かけられます。少年探偵団の面々やコナン、阿笠博士たちには随分打ち解けて、見せる表情も連載初期と比べてかなりやわらいできています。いずれ、素直なままの自分の姿を見せられる日が来るのかもしれません。

ネタバレ考察4:灰原哀が感じる「匂い」

ネタバレ考察4:灰原哀が感じる「匂い」

出典:『名探偵コナン』29巻

「わかるのよ匂いで…組織の者だけが発するあのイヤな…」(『名探偵コナン』29巻から引用)

第29巻FILE.3「見えない恐怖」で哀はこのように言い、乗車したバスに同乗した黒い服装の男性を黒の組織の者ではないと判断しました。

「別に変な匂いなんてしねーけどなぁ…」
「ふざけないでくれる…?」
(『名探偵コナン』29巻から引用)

哀の言葉を受けて彼女の衣服をかいだコナンに呆れていることでわかる通り、この「匂い」とは実際に鼻でかぎわけるものではなく、当該人物が発散させる「気」のようなものや雰囲気的なものと捉えるのが妥当でしょう。

このとき同時に、第24巻FILE.7「裏切りの街角」からはじまる杯戸シティホテルでの一件のときにもピスコやベルモットの匂いを感じていたと哀は語っています。

この「匂い」による察知能力の感度はかなり高いものです。第38巻FILE.1「新兵器」では面識もなくただ擦れ違っただけの赤井秀一の気配に気付き、第64巻FILE.1「一角岩」では沖矢昴に対して「匂い」を感じています。

沖矢昴の正体はかつて黒の組織に「ライ」として潜入していた赤井秀一ですから、これ等の例は「匂い」による組織の構成員の判別としては「当たらずとも遠からず」と言えますが、感度は高くとも精度が高いとは言えないようです。

その一方で、第35巻FILE.9「消えた光彦」では末端とは言え黒の組織に属している沼淵己一郎を目視しながらも何も感じることがなく、哀自身が「どうして?」と自問しています。やはり末端の者と幹部クラスの者とは発散するものが異なるのでしょうか。

また、第78巻FILE.1「ミステリートレイン〔発車〕」からはじまるベルツリー急行車内での一連の事件以降、たとえば第80巻FILE.11「バーボンの目的」からはじまる花見でのスリ事件に容疑者として関わっていた弁崎桐平とその妻・素江は安室透ことバーボンとベルモットが変装した姿だったのですが、不審を感じるものの、「匂い」即ち気配を感じ取るまでに至っていません。

このように、「匂い」による黒の組織を察知する能力は、ベルツリー急行での事件を境に徐々にではありますが、弱まってきていると考えられます。

ネタバレ考察5:灰原哀の正体を知る者たち

ネタバレ考察5:灰原哀の正体を知る者たち

出典:『名探偵コナン』18巻

灰原哀の正体が黒の組織の科学者シェリーであり宮野志保であることはもちろん秘しているのですが、それを知る者──知りながら秘密を他に漏らさずにいる者が数人います。その面々を改めて確認してみましょう。

江戸川コナン
同じAPTX4869で幼児化した者として、幼児化したシェリーが最初に拠りどころとした人物がコナンでした。はじめて出会ったその日に哀本人と阿笠博士から、APTX4869で幼児化し、黒の組織から脱してきた人物であることを知らされています(第18巻FILE.8「コードネーム・シェリー」~FILE.9「偽りの少女」)。

阿笠博士
幼児化したシェリーが黒の組織を脱け出して工藤家を目指し、その門前で倒れていたところを保護したのが阿笠博士でした。コナンよりも先に本人から事情を打ち明けられ、「灰原哀」という名を本人と一緒に考え出しています(第18巻FILE.9「偽りの少女」)。

ベルモット
第24巻FILE.8「漆黒の葬列」でクリス・ヴィンヤードとして登場して以降、日本に滞在して独自に調査を続けていた様子がジンとの会話の中に窺えます。

「それより例の捜し物は見つかったのか?」
「そうね…本命はまだって所かしら…」
(『名探偵コナン』29巻から引用)

この「例の捜し物」がシェリー=灰原哀であったと考えられます。

その後、第41巻FILE.7「迫る包囲網」からはじまる4台のポルシェ事件が終わる頃にベルモットはシェリーの写真を燃やしながら「見ィーつけた♪」と言っています(第41巻FILE.9「逃れられないターゲット」)。この時点でシェリー=灰原哀であることを確信し、「季節外れのハロウィンパーティ」を企て(第42巻FILE.5「満月の夜と黒い胃宴の罠」)、新出医師の姿で哀を連れ出して港でカルバドスの手を借りて殺害を図りました(第42巻FILE.10「ラットゥンアップル」)。

ベルモットはコナンが工藤新一であることや、コナンや哀がAPTX4869によって幼児化した姿であることを知っていますが、何か思惑があるのか、それは個人の秘密にして黒の組織には洩らしていません。APTX4869の幼児化という効果については伏せておきたいような素振りです。

赤井秀一
作中には明らかに事実を知ったと窺える描写は特にありませんが、赤井は第42巻FILE.10「ラットゥンアップル」で気絶した哀が目を覚ます前に場を立ち去り、そのときにこのように言い残しています。

「それに、俺はまだその茶髪の少女と顔を合わせるわけにはいかないんでな…」(『名探偵コナン』42巻から引用)

また、第41巻FILE.6「黒い光の謎」では哀の写真を見て「しかし…よく似ている…」と言っています。おそらく赤井は、ライとして黒の組織に潜入していたときに宮野志保と会ったことがあり、その容貌を覚えているのでそのように言うのでしょう。

哀がシェリーと呼ばれる黒の組織の一員であったことは一連の事件から理解しているようですが、シェリー=宮野志保であることを知っているかは明らかではありません。

ピスコ
第24巻FILE.9「突然の別れ」で哀の姿を見つけ、モバイルパソコンでシェリーを検索して写真を確認しています。このときはまだ黒い影でしか姿を描かれていませんが、この黒い影はのちに姿を現し、正体がピスコであることが分かります。ピスコは白乾児でもとの姿に戻った哀を確信を持って「志保ちゃん」と呼びました。

灰原哀=シェリー=宮野志保であることに気付いたものの、任務遂行の上で失態を犯したために「あの方」の命を受けたジンの手で殺害されてしまいました(第24巻FILE.11「白の世界」)。

服部平次
哀と直接会う場面は僅かながら、その事情はコナンと博士から聞かされて知っています。遠山和葉以外の女性はすべて「姉ちゃん」呼ばわりの平次は哀のことを「ちっさい姉ちゃん」と呼んでいます。

工藤優作、工藤有希子
平次同様、直接関わり合う機会は少ないながら、事情は息子であるコナンから聞かされており、ときには有希子が学んだ変装術や優作の推理などで哀を助けることがあります。

第42巻FILE.9「仮面の下の真実」ではコナンが哀に変装してベルモットの前に現れますが、これは有希子の手によるものであることが同話の中で明らかにされています。

ミステリアスな少女として登場した灰原哀ですが、少しずつ、キャラクターが変わりつつあります。それは、哀の頑なだった心が開かれてきている証拠なのかもしれません。厭世的で自罰的な様子だった哀は、彼女のほんとうの姿ではおそらくないのでしょう。

物語は帰結へと向かっていきます。その最終地点では周囲と打ち解け合い、自分をためらいなく出せるようになっていることを願いたいものです。

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