20年以上連載が続く『名探偵コナン』。その物語にはたくさんの伏線や謎が散りばめられ、その多くは明らかになっていません。今回は謎の中でも最も大きな部分を占める「黒の組織」に関わるものについて、これまでの情報を整理して考えてみましょう。ネタバレ有の本気考察です!
- 著者
- 青山 剛昌
- 出版日
息の長い人気を保ち続ける、推理漫画の代表『名探偵コナン』。謎が謎を呼び、多様な登場人物の思惑が複雑に絡み合う展開は息つく暇も得られません。
胸高鳴る展開でありつつも、謎やその解決のヒントとなる要素が多いために、整理しなければ幾つもの要素がこんがらがってくるのも事実。そこで今回は物語の最重要点である「黒の組織」についてネタバレを含む情報整理をしてみたいと思います。
全巻読んでいるという人も、これから読むという人も、ネタバレを考慮しつつお読み頂き、今後の展開予想に役立てて頂ければさいわいです。
高校生探偵・工藤新一を幼児化させた張本人、黒ずくめの男たちが属する組織、通称「黒の組織」。正式名称は単行本第99巻の時点でまだ不明です。黒の組織はいったい何を目的に暗躍しているのでしょう。
単行本第1巻FILE.1「平成のホームズ」では遊園地トロピカルランドの敷地内で拳銃を密輸した会社の社長を相手に、密輸の証拠となるマイクロフィルムを買い取らせる取引を行っています。密輸会社の社長は組織が何をやっているかを知っているらしく、このように言います。
「おまえらの組織がやっている事に比べれば、ワシらなんて…」(『名探偵コナン』1巻から引用)
取引の様子を目撃した新一の目には「一億円はあるぞ…」と見て取れる金額を支払ってでも証拠隠滅しなければならない悪事です。それが些末なものと言えるほどのことを、組織はしているということです。
新一はこの現場を見てしまったために背後から殴打の上、昏倒させられて「組織が新開発した毒薬」を服まされ、身体が縮んでしまったのでした。しかしながら、黒の組織にとってこの取引は組織の活動資金を得るための、それこそ些末な仕事のようです。
このとき新一を殴打して毒薬を服ませた男、ジンが言ったように、組織は「毒薬を開発」しています。薬物を開発できるほどの施設と人材を擁しているということです。また、毒薬が必要な何かを企てているということでもありましょう。
新一が服まされた毒薬の薬品名はAPTX(アポトキシン)4869。第18巻FILE.8「コードネーム・シェリー」で、薬を開発した本人である灰原哀が、自身が黒の組織に属していたこと、そしてコードネームが「シェリー」であることとともに明かしています。
このAPTX4869が黒の組織の活動のキーとなっているようです。第24巻FILE.11「白の世界」で組織の古株であるピスコが、捕らえた哀が白乾児という酒の効果で一時的に幼児化が解かれ、しかし白乾児の効果が切れて再び幼児化した姿を見て言うのです。
「君はまだ赤ん坊だったから覚えちゃいないだろうが、科学者だった君の御両親と私はとても親しくてね…」
「開発中の薬のことはよく聞かされていたんだよ…」
「でもまさか君がここまで進めていたとは…事故死した御両親もさぞかしお喜びだろう…」
(以上『名探偵コナン』24巻から引用)
実年令が18歳だという哀が幼い頃、既にAPTX4869の開発ははじまっていたのだということがこの台詞から判ります。さて、いつ頃からはじまっていたのでしょうか。これを示唆するのは第19巻FILE.9「狙われたボール」に見られる哀のモノローグです。
「工藤君…? あなたは夢にも思っていないでしょうね…
あなたはすでに…我々組織が半世紀前から進めていた極秘プロジェクトに…深く関わってしまっているなんて…」(『名探偵コナン』19巻から引用)
半世紀即ち50年も以前から、組織の「極秘プロジェクト」ははじまっていました。そしてそれは、新一が組織の手で投与されたAPTX4869の開発に大きく関係していると推測できます。そして、重要人物の暗殺や裏取引や破壊工作などの犯罪を繰り返す黒の組織の真の目的は極秘プロジェクトの完遂であって、ほかの度重なる犯罪は、そのための手段に過ぎないのでしょう。
では、組織の目的は人を幼児化させる薬の開発なのでしょうか?
いいえ、これは違うでしょう。組織はAPTX4869が服用した者を幼児化させる事実を、まだ知りません。知っているのは哀即ちシェリーとベルモットだけです。この事実から、開発途中の段階で哀が組織から脱退したので薬の開発は中断してしまっているものの、完成形は、もっと違うものだということが判ります。
APTX4869の完成形とは、黒の組織が求めているものとは、いったい何なのでしょう。第37巻FILE.8「白い雪…黒い影…」で殺害されたコンピュータプログラマー板倉卓が日記に書き残したところによると、ベルモットと思しき人物が電話を通して板倉にこのように述べています。
「We can be both of God and the devil.
Since we're trying to raise the dead against the stream of time.」
(我々は神でも悪魔でもある。なぜなら時の流れに逆らって死者を蘇らそうとしているのだから)
(『名探偵コナン』37巻から引用)
また、第20巻FILE.1「遠くからの眼」では哀が独りごちています。
「時の流れに人は逆らえないもの…
それを無理やりねじ曲げようとすれば…人は罰を受ける…」(『名探偵コナン』第20巻から引用)
この辺りが大きなヒントとなります。巷の黒の組織について推測する人たちからは「不老不死の秘薬」と囁かれる声が多数聞こえます。しかしおそらくはそれは違って、死者の復活こそが組織の目的であると考えていいでしょう。
APTX4869は、「死体から毒が検出されない、完全犯罪が可能なシロモノ」として使用されました。第1巻で新一に飲ませたときにジンがそう発言しています。これは、開発途中で偶発的に生まれた副次的な作用であって、組織が開発しようとしていたものではないようです。また、幼児化するという効果も「途中段階」のものであって、完成形ではないことが判っています。
最終的に開発に携わっていたのは灰原哀こと宮野志保、コードネーム・シェリーでした。しかし、哀は第89巻FILE.11「握られたハサミ」でこう言っています。
「私は焼け残った資料を掻き集めてその薬を復活させただけだから…」(『名探偵コナン』89巻から引用)
哀の両親であり黒の組織の科学者であった宮野厚司・宮野エレーナ夫妻の研究成果を引き継いで開発したのがAPTX4869であったのです。マウスを使った実験ではほとんどが死に至り、それを知った組織が毒物として哀に無断で使用したのでした。使用された数人のうちの一人が、工藤新一です。
その一方で、哀はこのようにも言っています。
「毒なんて…作ってるつもり…なかったもの…」(『名探偵コナン』18巻から引用)
APTX4869が元来は「死体から毒が検出されない毒薬」ではなかったことが判る台詞です。副次的な作用を知った組織が開発者である哀に無断で、試作段階であるにも関わらず毒薬として使用したのでした。
それに哀が反発して、実験でほとんどが死に至ったマウスの中で1匹だけ死なずに幼児化したものがいたことを組織に報告せずにいた、ということが、第18巻FILE.9「偽りの少女」で語られています。
哀によると、APTX4869とはこのような薬です。
「私たちの身体を幼児化したAPTX4869のアポとはアポトーシス…つまりプログラム細胞死のこと…そう、細胞は自らを殺す機構を持っていて、それを抑制するシグナルによって生存しているってわけ…」
「ただ、このアポトーシスを誘導するだけじゃなく、テロメラーゼ活性も持っていて細胞の増殖能力を高める…」
(以上『名探偵コナン』24巻から引用)
要約すると、こういうことです。
APTX4869の働きによりアポトーシスの誘導とテロメラーゼ活性が起こり、投与された者の細胞の増殖能力が高められます。つまりエネルギー消費がはげしいアポトーシスの作用によって投与された者は高熱を発する苦しさを覚え、新一がいつも感じている「骨が溶けるみてーだ」という感覚の後、大抵は死に至ります。その身体からは薬物が検出されません。稀れにアポトーシスの偶発的な作用で細胞のプログラムが逆転して骨格や筋肉、内臓などの全細胞が幼児化することがある、ということです。
現在のところ判っているAPTX4869の作用はこのようなものなのですが、真に望まれて開発が急がれた作用がどのようなものなのかは、『名探偵コナン』作中でもまだ明らかにはされていません。
しかしおそらくは、前項でも述べましたように「死者再生」の可能性が高いと考えられます。
単行本第99巻までに登場した、酒の名前のコードネームを持つ黒の組織の構成員たちを列挙してみます。一人ひとりを再確認することで登場人物同士の関係が新たに浮かび上がるでしょう。
コードネームは基本的には、男性には蒸留酒の名が、女性には甘い酒(ワインをベースとしたもの)の名が与えられています。
工藤新一にAPTX4869を飲ませて幼児化させたその人です。『名探偵コナン』という物語の発端とも言えます。
長身で細身。夏でも黒いトレンチコートを着て鍔の広い帽子を目深にかぶっています。性格は冷酷で、組織を裏切った者や組織の不利益になる情報を得た者は即抹殺、人命を奪うことに躊躇がありません。「疑わしき者はすべて消去する」という組織のやり方を地でいきます。
シェリー=灰原哀とは過去に何らかの関係があったらしいことが示唆される描写が第24巻FILE.7「裏切りの街角」ほか数箇所にあります。また、第24巻では愛車の座席に残された一本の「赤みがかった茶髪」を目聡く見つけ、それだけで彼女だと断定する一幕も。
ベルモットやバーボンの秘密主義には嫌悪を覚えていて警戒しているようですが、組織のボス=「あの方」と、No.2と目されるラムにはとても忠実な態度を見せています。
大抵ジンと行動をともにしている、組織の実動部隊の一人。がっしりとした体躯と発達した顎を持つ男性で、常にサングラスを着用しています。
拳銃を扱い、戦闘ヘリを含む各種乗りものの操縦をこなし、逆探知装置やインターネット上のデータ解析なども手掛けるという多方面の技術を持って活躍しますが、大事な場面でのうっかりミスが時折見られます。
「疑わしき者はすべて消去する」という組織の方針には則るものの、同じ組織内の者に疑義がかかったときは「消去」に躊躇する一面もあります。ジンとともに行動していますが、ジンほどは非情にはなりきれないようです。
組織の外ではクリス・ヴィンヤードなる女優と名乗っていますが、正体はその母親であるシャロン・ヴィンヤードです。
「千の顔を持つ魔女」の異名を持ち、過去に女優仲間で工藤新一の母でもある工藤有希子と一緒に黒羽盗一(初代怪盗キッド)から変装術を学んだことがありました。その技術は人種も年令も性別も問わず、さまざまな人物に完璧に身をやつすことができます。実際に、いつ頃からか新出医師になりすまし、周囲の人たちを、そして読者までをも第42巻FILE.8「工藤新一登場?!」まで欺き通しました。
黒の組織では高い地位にあり、「あの方」と直接やり取りが可能な立場を確立しています。第42巻FILE.10「ラットゥンアップル」では携帯電話から「あの方」宛てにメールを送っています。その際の操作音が童謡「七つの子」の出だしのメロディに酷似していることからコナンがあの方のメールアドレスを突き止めることになります。
また、黒の組織内では唯一、コナンと哀がAPTX4869によって幼児化した工藤新一と宮野志保であることを知る人物です。しかし、何らかの理由でその事実を他には伏せています。彼女は新一を「長い間待ち望んだSilver Bullet (銀の弾丸)になれるかもしれない」と希望を抱いているようですが、それが具体的にどういうことなのかはまだ明らかではありません。
ただ、「銀の弾丸」は魔物を倒す唯一の武器とされていることから、黒の組織壊滅の決定打となり得るもののことと思われます。
果たして、黒の組織の目的を成就させたいのか、組織解体を望んでいるのか。謎の多い女性です。
ベルモットについては<【ベルモット編】漫画『名探偵コナン』を本気でネタバレ考察!>の記事で考察しています。気になる方はぜひご覧ください。
【キャンティ】
左目の周囲にアゲハ蝶のタトゥーを施した、ショートヘアの女性スナイパー。メイクのカラーリングや身なりがときどきサイケデリックで、本人の性格を表しているようです。アッパー系で口数が多く、過激な発言が頻繁。
射撃の腕は高速走行中の自動車の車輪を撃ち抜くほど正確ですが、些か短気で騒々しい面もあって、スナイパーとしては一流とは言い難いようです。
カルバドスと何らかの関係があったのらしく、彼を見殺しにしたベルモットをひどく憎んでいることが第49巻FILE.1「ターゲットを追え!」での「殺す!殺す!!絶対殺す!!!」などの発言から判ります。
【コルン】
キャンティと組むスナイパー。野球帽とサングラスを常に着用していて、表情や年令は伺いづらい男性です。キャンティとは逆に口数は少なく、話すときは助詞を使わない独特の話法で話します。おとなしいようですが、狙撃の際には「頭を撃ち抜きたい」と言ったり、キャンティが狙撃に成功したときに「自分が撃ちたかった」と言ったり、攻撃性を見せることもあります。
キャンティ同様、カルバドスと何らかの関係があったらしく、ベルモットを嫌っています。しかし、キャンティほど強烈な殺意を見せたことはまだありません。
警視庁公安部からの潜入捜査官・降矢零がその正体。組織外では私立探偵の安室透を名乗りつつ、毛利探偵事務所が入る建物の1階にある喫茶ポアロでウェイターをしています。小五郎に弟子入りするという名目で毛利事務所との接点を得て、時折コナンとともに事件解決に当たったりしています。
公安からともに潜入したスコッチというコードネームの仲間がいましたが、ライ=赤井秀一が高い能力を有し、かつ側にいながら、彼の自死を阻まなかったことで現在も赤井を憎み続けています。
普段穏やかなバーボンですが、赤井の前では感情をむき出しにすることもたびたびです。一方で赤井は「敵に回したくない男の一人」と彼の洞察や情報収集の能力を高く評価しています。
第85巻FILE.5「緋色のエピローグ」ではベルモットを相手に「なにしろ僕はあなたの秘密を握っている数少ない人物の1人…」と発言しており、ベルモットがボス=「あのお方」の特別な何かであることを示しています。
バーボンについて紹介した<【安室透編】漫画『名探偵コナン』を本気でネタバレ考察!>もあわせてご覧ください。
組織の外では日売テレビアナウンサー水無怜奈を名乗っていましたが、その正体は、CIAからの潜入捜査官。CIA諜報員イーサン本堂の娘で、帝丹高校に通う蘭の同級生・本堂瑛祐の姉、瑛海でした。
組織からスパイである疑いをかけられて赤井殺害を命じられ、拳銃で赤井を撃ち、さらに彼が乗車していた車ごと爆破して疑いを晴らしました。しかし、これは偽装で、実際には赤井は生きており、沖矢昴として潜んでいたのでした。
諸星大を名乗って潜入しましたが、その正体はFBIからの潜入捜査官赤井秀一でした。
クールで感情をあまり表さず、アクシデントにも動揺しない胆力と、截拳道や射撃術に長じて優れた戦闘能力を有しています。
シェリー=灰原哀=宮野志保の姉である宮野明美と接触して組織に潜入したものの、正体が組織に知れてしまい、スパイを組織に引き込んだかどで明美は組織に殺害されてしまいます。捜査目的で接触したものの明美との交際は上辺だけのものではなかったらしく、そのため明美に直接手を下したジンを中心に黒の組織を追い続けています。
また、第42巻FILE.10「ラットゥンアップル」でベルモットが言うところによると、組織のボスである「あの方」が「我々の銀の弾丸になるかもしれない」と怖れる存在でもあるようです。
赤井秀一については<【沖矢昴(赤井秀一)編】漫画『名探偵コナン』を本気でネタバレ考察!>で詳しく紹介しています。ぜひご覧ください。
本名は宮野志保。ライ=赤井秀一が接触した宮野明美の実妹です。両親も組織の科学者でした。現在は、研究成果を両親から引き継いで自らが開発した薬品APTX4869の効果で幼児化し、灰原哀と名乗って小学生として世を忍んでいます。
組織が姉を殺害し、さらには開発途中の試作段階の薬を無断で人間に投与したことに反発して薬の研究開発を中断しましたが、それを組織に咎められ、監禁されてしまいます。どうせ殺されるのなら、と隠し持っていたAPTX4869を飲んだところ、死ぬことなく身体が幼児化。拘束を脱け出して、雨の中、工藤邸の前で倒れていたところを阿笠博士に保護されました。
阿笠博士と名前を考え、「灰原哀」と名乗ることに。その後はコナンとともに黒の組織に対抗していくのです。
灰原哀については<【灰原哀編】漫画『名探偵コナン』を本気でネタバレ考察!>で詳しく紹介しています。
【ピスコ】
表向きは自動車製造メーカー社長の枡山憲三。口髭を蓄えた白髪の老人です。その実は「あの方」に長年仕えたと自称する組織の古株。哀の両親とは親しく、APTX4869の開発についても彼等から聞かされていたと第24巻FILE.11「白の世界」で発言しています。
杯戸シティホテルで行われた「映画監督酒巻昭氏を偲ぶ会」で、組織に属していながら収賄容疑がかかっている政治家・呑口重彦を殺害するために会場にいたところ、そこに現れた哀がシェリーだと気づき、彼女を監禁して抹殺を図りますが、コナンに阻まれてしまいました。
その後、呑口殺害の瞬間を偶然ながら撮影されてしまい、その写真が新聞に掲載されることで彼の口から機密が洩れる可能性を危惧した「あの方」の命令により、ジンの手で殺害されてしまいました。
【カルバドス】
レミントンを愛用する腕利きのスナイパー。第42巻FILE.9「仮面の下の真実」及びFILE.10「ラットゥンアップル」でベルモットの計画に手を貸してジョディ・スターリングを狙撃し、さらに車のトランクから飛び出した蘭をも狙いましたが、ベルモットに制止されました。
しかし、ベルモットが蘭の安全を確保しようとしていた隙に同じ現場にいた赤井によって両足を折られてしまいます。その後ベルモットは自動車で逃走しますが、カルバドスは置き去りに。そのため、その場で自決してしまいました。彼を連れて逃げなかったことをキャンティやコルンは怒り、ベルモットを憎んでいるのです。
【スコッチ】
かつて降谷零=安室透=バーボンとともに警視庁公安部から潜入していた捜査官。組織に身許がバレてしまい、ライ=赤井を刺客と判断して彼の拳銃を奪って自死を図りました。
赤井は自らもFBIからの潜入捜査官であることを明かして自死を制止しましたが、直後に近づいたバーボン=安室の足音をやはり刺客と思い、胸ポケットに入れてある自分の情報が入った携帯電話越しに自ら心臓を撃ち抜き、情報を隠滅、生命を絶ちました。
これを安室は、赤井は高い能力を持ちながらスコッチを助けなかったと捉え、赤井を憎み続けているのです。
RUM/ラムという人物像は謎に満ちています。第86巻FILE.2「親切なおばちゃん」で哀が「組織のNo.2」であることとともに、ラムについて知っていることを次のように述べています。
「屈強な大男だとか…女のような男とか…年老いた老人とか…それらが全部影武者だって言ってた人もいたわ…」
「何かの事故で目を負傷して…左右どちらかの眼球が…義眼らしいわよ…」
(『名探偵コナン』86巻から引用)
他方、赤井は組織に潜入していた頃に聞き及んだことを次のように証言し、ラムを「ジン以上の大物」としています。
「組織にいた頃、二、三度名前は耳にしたが…どうやら奴らのボスの側近らしい…」
(『名探偵コナン』85巻から引用)
また、コナンは第90巻FILE.2「切り取られた文字」で、APTX4869を投与された人物リストに名を連ねる棋士・羽田浩司を17年前に殺害した人物がラムであると推理しています。
単行本第92巻までの間に得られるラムについての情報はこれだけです。
姿を見たものにより容貌についての証言が異なり、性別すら判然としない人物で、左右どちらかの眼球が義眼。組織のNo.2であり、「あの方」の側近で、ジン以上の大物である。17年前に、赤井の弟で棋士・羽田秀吉の兄である羽田浩司を殺害した犯人でもある。まとめるとこうなりますが、これだけでは人物像を描くにも推理するにも難しすぎます。
ただ、「左右どちらかの眼球が義眼」との哀の証言から、一方の目を怪我している人物、たとえば長野県警の大和勘助や黒田捜査一課長がその人だとする声も読者の間でちらほら聞かれますが、この二人は候補から外れると考えていいでしょう。
義眼であるということは、一見は両目が普通に見えているように、負傷などしていないように見せているということですから、隻眼である大和や、眼鏡の片方のレンズにだけ色を着けて目を隠している黒田は義眼ではないと判断し得るからです。
ラムについては<漫画『名探偵コナン』黒の組織No2ラムの正体は?4人の候補を本気で考察!>の記事で詳しく考察しています。あわせてご覧ください。
第95巻において、ついにあの方の正体が明かされました。結論から書いてしまうと、あの方の正体はコミックス30巻で言及された烏丸蓮耶(からすまれんや)。半世紀前に謎の死を遂げたと言われている大富豪です。
ここでは、これまで張られていた伏線に関して確認していきたいと思います。
国際的犯罪組織である黒の組織の長は50年も前から「極秘プロジェクト」を推進してきました。しかしその実の名を口にする者はおらず、組織の者からも「ボス」や「あの方」としか呼ばれていませんでした。名前も年令も性別も判らない、容貌の描写すら見当たらないという、ラム以上に謎の人物です。
性格は、第67巻FILE.8「静かなる戦い」でベルモットが述べたところによると「慎重居士で、石橋を叩きすぎて壊しちゃうタイプ」。かなり用心深いようです。
第42巻FILE.10「ラットゥンアップル」ではベルモットに直接、次のようなメールを送信しています。
「どうやら私はお前を自由にさせ過ぎたようだ。私の元へ帰ってきておくれベルモット。」(『名探偵コナン』42巻から引用)
ベルモットを特に気に入り重用する一方で、いささかの不信感も抱きつつあるようです。そのベルモットによると赤井を「我々の銀の弾丸になるかもしれないと恐れている」とのこと。また、使用メールアドレスを携帯電話でプッシュするとその操作音は「七つの子」のメロディになることをコナンが突き止めています。ご存知の通り、本曲は「からす なぜなくの~」という歌詞。ここにも烏丸蓮耶を導く伏線が張られていました。
安室はベルモットに対してこのように発言しています。
「組織のメンバーが知ったら驚くでしょうね…まさかあなたがボスの…」(『名探偵コナン』85巻から引用)
この発言から「あの方」とベルモットの間にはただならぬ関係があることが判ります。その関係とは、愛憎関係か、血縁関係か、はたまたもっとほかの関係なのでしょうか。
まだまだ謎の多い烏丸蓮耶ですが、この記事で書いてきたように黒の組織の目的が「死者の復活」だとすると、烏丸自身はすでに死んでいて、何者かが二代目を名乗っているという可能性も考えられます。
長い連載が続く『名探偵コナン』。主人公・江戸川コナンがその身を幼児化させたAPTX4869の解毒剤を入手して工藤新一に戻るための物語としてはじまりましたが、次第に物語のスケールは大きくなり、登場人物も増えて、群像劇の様相を呈しています。
多くの人物がそれぞれに黒の組織と関わり、その行方を見つめます。私たち読者も物語が残してきた情報を整えながら彼等彼女等を追い、刮目して何れ訪れる物語の終幕を見届けたいものです。