漫画雑食ライターが独断と偏見で選ぶ新年度に読むべき2025年発売の注目作20選

更新:2026.6.14

筆者は日頃からプライベートでもジャンルを問わず読み漁っていますが、2025年も刺激的な作品が数多くリリースされました。仕事柄、話題作を追うことが多いですが、同時に新規タイトルの動向も欠かさずチェックしています。 今はちょうど新年度。新しい作品に触れるには絶好の季節なので、2025年に発売された新作漫画の中から、私が自信を持って厳選した注目の20選をご紹介したいと思います。

小説も漫画も映画も基本雑食な、しがない物書き。温故知新で古典作品にもよく触れるようにしています。
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ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選

2025年発売の注目作20選概要

ライターの仕事柄、日頃は話題作を中心に追いかけていますが、漫画の面白さは決して話題性や人気だけでは決まりません。毎年数多の新作が生み出され、まだ知られていない原石が数多く埋もれています。

今はちょうど新年度。こうした節目は、心機一転して新しい作品に手を出す絶好のチャンスです!

そこで今回は2025年に第1巻が発売された新規タイトルから、独断と偏見で厳選した注目の新作漫画20選をご紹介します。

各作品はあらすじに加えて、見所や魅力を簡単にまとめました。いずれも既刊3巻前後で購入しやすく、今からでもすぐに追いつけるものばかり。各社公式の漫画アプリで気軽に読めるものも多いので、気になったらとりあえずチェックしてみてください。

なるべく幅広いジャンルを意識しましたが、筆者が惚れ込んだものを優先した選出である点はご容赦ください。

また、作品の紹介順は第1巻の発売時期に基づくものです。優劣で決めているわけではありません。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:本なら売るほど(既刊2巻)

古本屋は本好き相手の商売だと思われがちですが、実はそうと言い切れません。古本屋を訪れる客は、大きく分けて4種類います。冷やかしと本に出会えなかった人、本に出会えた人、そして本と別れる人です。さらに本と別れる人の中にも、理由があって本を手放す人と本には興味がない人の2種類がいます。

街中にぽつんと佇む「十月堂」もまた、そんな客たちがやってくる古本屋でした。決して繁盛しているわけではないものの、風変わりながら誠実な店主に惹かれるようにして、本の虫や亡き夫の本を整理したい老婦人など様々な背景を持った人が訪れます。

「十月堂」という小さな空間で、本との出会いや別れに際してふと零れ落ちる人生の断片。本作はそうして雄弁に語られる行間を、隣でそっと垣間見るようなオムニバスヒューマンドラマです。

著者
児島 青
出版日

作者は児島青。初連載ながら、本作で「このマンガがすごい!2026」オトコ編第1位、「マンガ大賞2026」で大賞を受賞するなど目覚ましい活躍を見せています。

多くの読者が惹きつけられたのは、児島青が描く紙の本と個人経営の古本屋が持つ、独特の雰囲気や佇まいへの深い慈しみです。店主が本を扱う姿勢、店内にずらりと並んだ本棚の古本の空気感。そこにはデジタルでは代替できない物質としての本が持つ「重み」や、持ち主とともに積み重ねた「時間」が息づいています。

本作は本と持ち主のノスタルジーも魅力ですが、古物商としてのシビアな現実が描かれるのも特徴です。商売である以上、すべての本や持ち主の物語を引き取ることは叶いません。本好きだからこそ、すくい上げられない「もの」へ葛藤を覚えつつ、割り切ろうとする店主の姿に感情が揺さぶられます。

各エピソードに登場する本はどれも興味深く、店主の豊富な豆知識や解説も相まって、きっと読後は「本屋へ行きたい」という衝動に駆られるはずです。『本なら売るほど』をとっかかりに、深遠な古本の世界を覗いてみるのはいかがでしょうか。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:サンキューピッチ(既刊5巻)

「少年ジャンプ+」連載中。

他の追随を許さない投球が出来る代わりに、1日3球しか全力を出せない――。『サンキューピッチ』はそんな制約を軸にした斬新な野球漫画です。

舞台は神奈川県立横浜霜葩(そうは)高校野球部。主将の小堀は、悲願の甲子園出場を叶える「最後のピース」を探していました。そんな時、彼は県内で噂になっている謎の“野球部狩り”の正体が、同校の生徒・桐山不折であることを突き止めます。

桐山は中学時代に将来を嘱望されるも、怪我で全力を出せなくなった投手でした。それでも野球そのものを忘れられなかった彼は、辻斬りのように野球部の打者に3球勝負を挑んでいたのです。桐山の規格外の実力を目の当たりにした小堀は奇策を思いつき、彼を部に勧誘しました。

こうして一癖も二癖もある部員たちが揃った弱小公立校が、本気で甲子園を目指す夏が始まります。

著者
住吉 九
出版日

作者は『ハイパーインフレーション』で読者の度肝を抜いた住吉九。あちらもかなり突飛で面白い漫画でしたが、本作も「次にくるマンガ大賞2025」Webマンガ部門1位、「このマンガがすごい!2026」オトコ編3位になるなど負けず劣らずの高い評価を受けています。

見どころはやはり野球というスポーツをモチーフにしながら、その実態が「カイジ」シリーズや『ライアーゲーム』といったギャンブル漫画に近い、高度な知略戦がメインなところ。それでいて野球そのものは真っ当に行われるため、スポーツ漫画特有の熱量や爽快感もしっかりと共存しています。

そして『サンキューピッチ』を普通の野球漫画とは違う特異な作品たらしめているのが、倫理観のぶっ飛んだ登場人物たちです。敵も味方も基本的にどこかおかしくて、独特なセリフ回しが癖になります。

特に目立つのは、異常なまでにキャラが濃い監督の阿川先生でしょう。コメディリリーフと読者へのルール解説に便利な素人ポジションを兼ねて、しかも大人としての振るまいもできる名物キャラ。

『サンキューピッチ』は野球を知らなくても勢いだけでも面白い、2025年を代表するエンターテインメント作品です。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:ヤッターラ(全4巻)

「少年ジャンプ+」掲載。

人々が繁栄と飽食の時代を謳歌する一方、水面下に問題を抱えたとある文明社会。破滅を求める1人の男が、歴史上幾多の国を食い尽くしてきた暴食の怪物「ヤッターラ」を現代に召喚しました。

ヤッターラは人間、特に子供を好んで食べる超越的な化け物です。彼(?)は手始めに召喚者をたいらげると、近隣のアパートの一室に住む不法難民の3姉弟に目を付け、無慈悲に捕食しました。

美味ではあるものの、代わり映えしない味に物足りなさを覚えるヤッターラ。そこでふと閃きました。家畜や農作物は手塩にかけて育てるほどに味が良くなる。丁寧に育てて特別な思い入れを持つことが出来れば、同様に人間の味にも新鮮な感動を得られるのではないか?

ヤッターラは一度捕食した子供たちを元通りに蘇らせ、望むもの全てを与えて人間並みの暮らしを送らせるという、奇妙な共同生活を始めるのでした。

著者
大山田
出版日

作者の大山田は「ジャンプ+」等で読み切りを発表してきた漫画家で、『ヤッターラ』が初の商業連載です。

本作の見所は、不気味なのにどことなく愛嬌を感じるヤッターラと、幼い子供たちによる疑似家族的な不思議な関係にあります。

ヤッターラは圧倒的に強大な存在であり、その思考はあくまで冷淡。折に触れて味見と称して子供たちを捕食、吐き戻す振る舞いは超越種としての底知れないおぞましさを感じさせます。

そんなヤッターラに翻弄される3姉弟は長女セトミ、長男ナナト、次男ユマ。それぞれヤッターラへの関わり方が違っていて、救世主と盲信したり、得体が知れないと警戒したり、あるいは遊び相手と思い込んだり。それぞれの関わり方が物語に多層的な魅力を与えています。

ヤッターラという極めて特異な存在が、命の危険を感じる非日常の不穏さと、人間らしい平穏な日常のどちらも生み出しているのがとにかく面白いです。

そしてさらに、そんな彼らの生活の裏側で進行していく異質な状況……。ヤッターラは最終的に子供たちを食べてしまうのか? 奇妙な共同生活はどこへ向かうのか? 超格差社会、超消費社会への警句も感じる怪作です。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:邪神の弁当屋さん(全4巻)

「コミックDays」掲載。

お弁当屋さんを主人公とする、ちょっと風変わりなファンタジー漫画です。

主人公は「北の国」の街で弁当を商うレイニー。彼女の正体は実りと死を司る神ソランジュですが、あることをきっかけに本来の姿と力を失い、人間として生活しています。

レイニーは善行を積めば力が戻ると考えており、そのモットーは一日一善。2000年前の飢餓の時代に、飢えた人間の精神から生まれた存在である彼女は、心の隙間――とりわけ他の行為で満たすことの出来ない食欲を重視し、人々の心を満たすために様々な工夫をしたお弁当にこだわっています。

「高さを出す事、隙間を埋める事。丸い形も歪な形も、型に入れば同じ事」(『邪神の弁当屋さん』より引用)

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作者は『邪神の弁当屋さん』が初の商業連載となるイシコ。本作はもともと「ヤンマガ新人賞」のコンペ企画の読み切り作品でしたが、SNSで爆発的に話題となったことから正式連載が決定し、2024年10月から2025年9月まで「コミックDAYS」で連載されました。

まず目を惹くのが特徴的な絵柄。どことなく絵本を思わせるポップな作画で、デフォルメによって極限までシンプルな線で見やすいのに、物語と合わせて読むと非常に印象的です。

ストーリーは主にレイニーか、彼女と関わったキャラクターの視点で進みます。基本的に日常の出来事がメインですが、人々が心の中で抱く日々の葛藤や苦悩にフォーカスし、生きることや隣人との関わりについて考えさせられます。

主な登場人物はレイニーと彼女の同居人で人嫌いのダリア、城下を見回る誠実な大臣ライラック、何かといわくの多い国王ナタリオなど。ライラックの部下やナタリオの関係者も個性的で、それぞれ優しくて思いやりのあるキャラクターばかり。何気ない場面で発せられる、彼らのちょっとした言葉に胸を打たれることも多いです。

本作は最初から最後まであるテーマに沿って描かれていますが、それがなんであるかは直接語られません。物語に余白を多く取り、説明しすぎないことで、どのように解釈するかは読者に委ねられています。

とはいえ全体的に雰囲気はゆるく、とても読みやすい作品です。シリアス一辺倒ではない(むしろ日常やおふざけの方が多い)ので、絵柄で気になったらとにかく手に取ってみてください。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:東京最低最悪最高!(全3巻、第1部完)

「ビッコミ」掲載。

東京は息苦しい。まず人が多すぎて、そのせいで家が狭く、街全体が窮屈。なんでもかんでも信じられないほどお金がかかって、他人と合わせるために思ってもいないことを話し、いつか上向くと信じて我慢して生きていかなければいけない。そしてそのうちに、人はなりたかった自分を見失ってしまう。

でも、東京には、最低で最悪なことを自分で選べる出来る自由がある。この物語は、そんな東京で暮らす大人たちのオムニバスストーリー。

著者
鳥 トマト
出版日

作者の鳥トマトは漫画家と小説家、どちらでも活躍する希有な作家です。2026年には小説に作中作として漫画を盛り込んだ意欲作『漫画でイけ』を発表しています(「文學界」2026年3月号掲載)。

本作は元々、2023年に読み切り短編としてWeb漫画サイト「ビッコミ」で公開されました。上京して働くことの厳しさ、地方の苛烈な性差別意識、言葉の裏に隠された本音……。賛否両論の大問題作として注目、話題となったことから2024年に「月刊!スピリッツ」連載化されたという経緯があります。

毎回主人公が変わるオムニバス形式になっており、それぞれの性格も事情も問題点も、まったく異なるのが特徴です。かなりクセの強い絵柄ですが、だからこそパワーがあって引き込まれます。

どのエピソードも凄いですが、格別にリアルで強烈なのはワンオペ育児で限界に達する第3話と、社会人とは何かを問う第11話でしょう。大人なら何かしら共感する部分があって、読み終わると勇気をもらえた気がするはずです。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:ドラマクイン(既刊5巻)

「少年ジャンプ+」連載中。

際限なき憎悪の連鎖が語られる問題作です。

劇中から遡ること9年前。当時、巨大隕石接近の危機に晒された地球は、高度な文明を持つ宇宙人によって奇跡的に救われました。それ以来、宇宙人は救世主として崇められ、敬われ、人類の大切な隣人として地球へ移民するようになります。

徐々に数を増やしていく宇宙人。彼らには特権的な振る舞いが許され、その一方で本来の住人である地球人が肩身の狭い思いをすることに……。その歪な状況に違和感を抱いていた主人公のノマモトと北見は、ある事件をきっかけに増加する宇宙人を街から一掃してスッキリするため、人知れず宇宙人殺害を繰り広げ始めます。

著者
市川 苦楽
出版日

『ドラマクイン』は悪の宇宙人を倒すために立ち上がる、正義のヒーロー漫画ではありません。ノマモトは若くして生活苦にあえぐ貧困少女で、北見は宇宙人の起こした事故で妹を亡くした青年です。本作は設定がかなり重く、登場人物の「怒り」や「嫌悪感」といった負の感情にフォーカスしたストーリーとなっています。

2人は宇宙人根絶を目指して地道に殺して回る――と書くと凄惨な事件現場を連想すると思いますが、読んだ時の印象は逆。宇宙人は打たれ弱く、ちょっとした衝撃であっさり死にます。しかも、もともと着ぐるみのような宇宙人の死体はどこか滑稽で、死体処理に至ってはノマモトが宇宙人を頭からバリバリ食べるというとんでもないやり方。

何もかもがぶっ飛びすぎていて、ギャグかコメディのように読めてしまうのですが、『ドラマクイン』の本質は社会派SFサスペンスなのです。基本的に不快な存在として描写される宇宙人の中にも、善良な人物や明らかに罪のない者もいます。しかし、ノマモトと北見は彼らの負の欲求に従って分け隔てなく殺していき……やがて見方が転換します。

異常な日常を舞台としつつ、現実の移民問題や陰謀論の風刺とも考えられる話になっていて、非常に読み応えがある作品。現在第2部が「ジャンプ+」で連載中ですが、第1部終わりから第2部にかけての急転直下の展開に圧倒されます。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:大人大戦(既刊4巻)

「少年ジャンプ+」連載中。

『大人大戦』は極端な評価社会を背景としたサバイバルサスペンスです。

主人公の名前は浦島優太郞。物語は猫1匹助けるために瀕死の重傷を負った彼が、15年にわたる長い昏睡状態から目覚めたところから始まります。優太郞は社会の変化を目の当たりにし、浦島太郎さながらのショックを受けますが、特に驚いたのは『ガーデン』の存在です。

遡ること5年前、国家事業として推進された国家公認SNS『ガーデン』。全日本国民がアカウントを所持し、全国至るところに設置された観測カメラであらゆる行動が監視され、個人の人となりが可視化されるというとんでもないシステムです。

日本は肉体年齢に基づく成人年齢は廃止され、この『ガーデン』の評価によって決まる「大人」階級ですべてが判定されるようになっていました。

亡き父の言葉「正しい大人になれ」を心に刻む優太郞は、善行も悪行も他人の評価で測られる制度に違和感を抱き、自分の信念に従って歪んだ社会に立ち向かうことを決意します。

著者
["都築 真佐秋", "かっぴー"]
出版日

『大人大戦』は『左ききのエレン』作者かっぴーが原作、都築真佐秋の作画による作品です。

少年漫画としては珍しい超監視・階級社会が題材で、『ガーデン』構想自体は突飛なものの、現実のSNSやインフルエンサーを風刺するかのような設定が新鮮。

おそらく『トゥルーマン・ショー』や『世にも奇妙な物語』(オトナ免許)、『20世紀少年』、『LIAR GAME』辺りの影響を受けていると思われますが、それらのいいとこ取りをした上で大胆で痛快なストーリーにまとめているのが秀逸です。

主人公の優太郞は肉体年齢こそ30歳なものの、中身は不良上がりの15歳。現実基準ではどう見てももう大人なのに、ガキっぽいまっすぐな言動で作中の「大人」に立ち向かう様子にスカッとさせられます。たまにやらかすのはご愛敬。

さらに面白いのは『ガーデン』構想のベースが、15歳のころの優太郞がに作った自分の目指すべき「大人憲法」であるところ。黒田勇という議員が猫を救った優太郞に感銘を受け、「大人憲法」を曲解して作り上げた制度なのが早い段階でわかり、『ガーデン』社会との対峙がそのまま彼自身の成長を意味する構図になってるのが見事です。

ストーリーが進むごとに尻上がりで面白みが増していく『大人大戦』ですが、現在連載中の第2章ではその面白さが3段階くらい一気に上がりました。今から追いかけて絶対損はしないので、とりあえず読んでいただきたい作品。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:嗚呼、たぬきはもうだめです

「カドコミ」連載中。

ビビりの野生動物なのにどんくさくて、図太くて、食い意地が張っていて、諦めが早い。そんな不思議な生き物「たぬき」。『嗚呼、たぬきはもうだめです』はそんなゆるすぎる生態をさらにデフォルメ(主に外見)し、疲れた人間にお届けして心を癒やす新感覚コメディです。

著者
遊ハち
出版日

作者は『店番のスピス』でも知られる遊ハち。元は2024年頃からネット上で公開され始めた一連の短編シリーズでしたが、2025年5月に書籍化されました。

本作には特筆すべき重厚なストーリーも、人生を変える主義主張もありません。あるのはまんまるころころした、ちょっとかわいそうで可愛いたぬきたちの日常だけです。中身らしい中身はないものの、基本的に前向きでどんな状況にもすぐ適応するたぬきの行動がクセになります。

些細なことに不必要なまでに怯えたかと思えば、美味しいサツマイモや楽しそうなことに気を取られ、しばらくしたら我に返ってまたビビる――俄には信じられませんが、ほとんど誇張なく本物の野生のたぬきと同じなのが笑ってしまいます。たぬきという生き物は、存在自体がとてもコミカルなのです。

2025年秋にはSNSで謎のたぬきブームが巻き起こり、それ以来頻繁にたぬきが注目されるようになりました。何事も難しく考えがちな現代人には、たぬきのゆるさが必要なのでしょう。「もうおしめぇだ……」と追い詰められる前に、『嗚呼、たぬきはもうだめです』で癒やされてください。きっとたぬきの宅配レンタルが切実に欲しくなります。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:人喰いマンションと大家のメゾン(既刊3巻)

「少年ジャンプ+」連載中。

太陽が恒星の活動で数百倍に膨張し、今まさに飲み込まれる寸前の地球。1秒後に迫った崩壊を前にして、人々は「マンション」と呼ばれる巨大タワーで過ごしていました。いつからそこにあるのか、誰がそれを作ったのか……。マンション内部では外界と隔絶した時間が流れており、無限に引き延ばされた1秒で住人は日常を送っていました。

マンションはその環境を永続させるため、あらゆるものがリサイクルされて循環する、高度なシステムで運営されています。そしてそれを管理するのが「大家」です。

主人公は生まれながらにして大家に任命された少女メゾン。14歳の誕生日を機に正式に大家となりますが、その矢先に事件が起きてしまいます。彼女と同じ日に同じマンションの設備から生まれ、家族同然に育った少年ジンケンがマンションの禁忌に触れてしまい、違反の罰としてリサイクル――つまり殺害されてしまったのです。

ジンケンは何を知ってしまったのか? なぜ殺されなければならなかったのか? メゾンは大家の務めのかたわら、ルールを取り締まる謎の存在「マンションマン」の目をかいくぐって、マンションの秘密を追っていきます。

著者
["あきま", "田中 空"]
出版日

『人喰いマンションと大家のメゾン』は原作・田中空、作画・あきまのSF冒険漫画です。骨太なSF漫画『タテの国』で知られる田中空が手がけるだけあって、本作の根底に流れるのもハードSF……なのですが、作画担当のあきまの豊かな表現力と次々起きる謎めいた展開のおかげで、普段SFに親しんでなくても冒険漫画として楽しめるようになっています。

個性際立つ住民それぞれに「電報委員」や「危機管理委員長」などの役割が振られていて、ビジュアルと合わせてわかりやすくキャラが立っているのもポイント。個々の活躍や思惑がストーリーと上手く絡み合っており、設定的には弐瓶勉の『BLAME!』くらい重厚なのに、ジブリ系作品――具体的には宮崎駿のTVアニメ『未来少年コナン』に近い感覚で楽しめます。

もちろんSF作品としても非常に魅力的です。全50階の正規フロアの他に存在する、無限に広い非正規フロア。地球最後の1秒が永遠に続くリサイクル社会と、それを成立させる永久機関の仕組み、そしてマンションの外側……。SF的なアイデアとガジェットがこれでもかと盛り込まれていて、読み応えがたっぷりとあります。

これほど読みやすく、かつ面白いハードSF漫画はそうそうありません。独特な世界観をぜひ堪能してください。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:やちるさんはほめるとのびる(既刊2巻)

「コミックDays」連載中。

現代妖怪「八尺様」をフィーチャーしたちょっとおかしなラブコメディです。

主人公は一般人に紛れて暮らす八尺様の八雲やちる。かつては子供をさらう怪談として恐れられた八尺様ですが、現在は主に18禁創作の影響で「えっちな妖怪」のイメージが強くなった結果、やちるは身体サイズも能力も弱体化してしまいました。

やちるは自身が思う「怖いもの」を体験してなんとか力を取り戻そうとしますが、ことごとく失敗。そんな時、彼女はホラー映画を観賞しに入った映画館で、八尺様の大ファンという名桐誠一郎と出会います。誠一郎の力説で一時的に本来の姿へ戻れたことから、やちるは彼に事情を明かし、どうすれば元通りになるのか協力してもらうことにしました。

著者
遠野 人夏
出版日

『やちるさんはほめるとのびる』は遠野人夏が漫画アプリ「コミックDAYS」で連載しているラブコメディです。

八尺様とはその名称通り、身の丈8尺(約240㎝)で白いワンピースを着た女性型の妖怪。元ネタは2000年代に創作された都市伝説で、「ぽぽぽ」という奇妙な笑い声や子供に執着する習性があるとされています。

元々人気のある妖怪でしたが、近年は外見のインパクトと習性に着目して、18禁の成人向け漫画のモチーフになることもしばしば……。本作はそんな現実の事情を逆手に取って、「エッチなイメージ」によって弱体化した八尺様をコミカルに描き出しています。

面白いのはそんな基本設定が、ラブコメ展開と密接に関連している点。

妖怪の力が他者のイメージに依存するせいか、やちるは誠一郎の褒め言葉に反応して巨大化します。単純に一喜一憂する様子が可愛いらしいのもありますが、急激なサイズ変化で服のボタンが弾け飛んだり裾の角度(というか短さ)が危うくなったりするおかげで、ちょっと際どい描写を楽しめます。

そんな風にコミカルな一方、心情の掘り下げがとても丁寧です。やちるが八尺様である前に1人の繊細な女性であることや、お互い相手を尊重する姿勢に心打たれます。

じれったさと微笑ましさ、それに少々のハプニング(イメージを払拭したいやちるには申し訳ないですが)。まさしくラブコメの王道を行く作品です。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:陽光ヲ待ツ(全2巻)

「少年ジャンプ+」掲載。

昭和16年、滋賀県信楽町のある夏。松原陽子は国民学校の夏休みを利用して、友人・由希子の父が経営する大山製陶に入り浸り、陶芸制作の仕事を手伝っています。彼女は信楽焼のたぬきに魅了され、いつか陶芸家になることを夢見る少女でした。

しかし、時代がそれを許しません。段々と物資がなくなっていき、「不要不急」と判断された活動が制限され、大山製陶の工房も閉鎖の危機に陥ります。陽子は陶器の価値を示すべく、自分なりに奔走し、大山製陶の存続のために努力しました。それが本当は何を意味するのかをわからずに……。

時は昭和16年――西暦1941年。その年、日本はアメリカと開戦、未曾有の第2次大戦に突き進んでいました。

著者
ななせ 悠
出版日

『陽光ヲ待ツ』は第2次大戦中の信楽にフォーカスした戦争記漫画です。作者はななせ悠。「少年ジャンプ+」連載漫画としては非常に珍しいジャンルですが、ななせ悠は同誌で計算手をモチーフとした読み切り短編『続く道 花の跡』も発表しています。

『陽光ヲ待ツ』が連載された2025年は終戦80年に当たるため、戦争の記憶を風化させないことを意図して制作されたと思われます。しかし、物語の中には単純な反戦メッセージや軍国批判は出てきません。主人公の陽子はもちろん、彼女の周囲の子供も大人も、刻々と変わる状況に翻弄されつつ必死に生きる様子が描かれます。

伝統を守るため、軍需産業への転換を余儀なくされる製陶所の人々。誰より優しく思いやりがあるのに、軍国教育で染まっていく若者。子供たちに当たり前の生活をさせてやれず、暮らしどころか勉強も奪われていくことに苦悩する大人……。誰もが戦争という異常事態に向き合わざるを得ない、複雑な時代背景が丁寧に積み重ねられていきます。

本作はあくまでフィクションです。ですが、おそらく似たようなことが日本全国であったのは間違いありません。実際に信楽焼の軍事転用は行われていて、陶器製の地雷や手榴弾の実物や記録が今でも残されています。

滋賀県平和祈念館の協力で時代描写がとても詳細なため、読むとつらくなる場面は少なくありませんが、戦後が遠くなった今だからこそ触れておくべき作品です。

ライターが独断と偏見で選ぶ2025年の注目作20選:放課後、僕らは宇宙に惑う(既刊2巻)

手作りロケットで宇宙を目指す木ノ嶋宇宙ロケット研究部。彼らは細々と開発を続けるかたわら、部の宣伝のために活動記録を動画サイトにアップロードしていました。ある時、新しく作り出したハイブリッドエンジンの燃焼試験を行ったところ……見事に爆発。

失敗も次に活かせる貴重なデータとはいえ、気落ちしてしまうのもまた人情――だったのですが、そこで2度目の爆発が起きてしまいました。燃焼試験の記録映像に偶然映り込んだロケット部エンジン班、惑(まどい)あやめが「美少女エンジニア」として大バズリしてしまったのです。

一躍時の人となったあやめは、同学年で同じエンジン班の男子・荒瀬衛(あらせまもる)や先輩たちとともに、このチャンスに乗じて部の活動を対外的にアピールすべく、あれこら苦心することになります。

著者
斉藤 ゆう
出版日

作者はアニメ化もしたラブコメ漫画『疑似ハーレム』の斉藤ゆう。前作は変則ハーレムでしたが、今作はロケット開発を通じて高校生男女が仲を深めるという、ほのかな恋心と一風変わった日常風景が楽しい作品となっています。

ロケット研究部は、同じ敷地内にある大学と高校の学生が主体の部活。大学生なども出てきますが、主人公となるのは高校1年のあやめと荒瀬の2人です。ラブコメとしてはシチュエーションが少し特殊ですが、周囲のからかいも含めて、思わずニヤニヤしてしまうウブなやりとりが魅力。

なおロケットについて多少触れられるものの、話は研究や部の活動から彼らの日常へと広げられていくので、ジャンル的にはライトなラブコメ+日常学園漫画です。基本設定が『ROBOTICS;NOTES』などを想起させますが、展開はまったく違うので注意が必要。

従ってロケットや宇宙について、何も知らなくても大丈夫です。ただ、あやめが独特かつマニアックな宇宙ネタ、ロケットネタを披露するので多少知識があるとより楽しめるでしょう。

奇しくも現在、NASAがアポロ計画以来、50年振りとなるアルテミス計画を進めている最中。『放課後、僕らは宇宙に惑う』を通じて、有人月着陸計画に思いを馳せてみるのも面白いのではないでしょうか。

 

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