ロボット漫画の傑作にして鬱漫画の代表『ぼくらの』を詳しくご紹介します。乗ったら死んでしまうというロボット・ジアース。地球を守るためのパイロットとして選ばれたのは、全員子供たちでした。過酷で壮大な戦いの結末とは。
『ぼくらの』は、鬼頭莫宏が描くロボットバトル漫画です。2007年にはアニメ化もされ、主題歌『アンインストール』とともに有名になりました。
乗れば死んでしまうというロボット・ジアースに搭乗するのは年端もいかない少年少女たち。 勝っても負けても、結局は死んでしまうという衝撃なストーリーに、鬱漫画の代表とも呼ばれる漫画です。
しかし実際は、人間の生きざまを濃密に描いた漫画であり、単純に鬱漫画作品とくくることはできないという意見もあります。
ここでは、『ぼくらの』のあらすじと、その魅力をあらためて紹介。 鬱だけじゃない面白さに気づくこと間違いナシです。
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夏休み、自然学校で集まった15人の少年少女たちは、海岸沿いにあった小さな洞窟へ足を踏み入れます。そこにはココペリと名乗る、謎の男がいました。
ココペリは、子供たちにゲームに参加しないかと誘います。巨大なロボットに乗って敵を倒すゲームという説明を受け、暇を持て余していた少年少女たちは、喜んでゲームに参加するための「契約」をすることにしました。
参加をしたのは、全部で15名です。 男子のワク、コダマ、カンジ、ウシロ、キリエ、カコ、モジ、ダイチの8人。そして女子の、チズ、マキ、ナカマ、マチ、アンコ、コモ、そしてウシロの妹カナの7人です。 しかし、カナは小さいからとウシロに止められ、契約をしたのは中学生14名となりました。
翌日、下宿先の目の前の海には、巨大なロボットと思わしき黒い塊と、それに対峙するような白い塊が、立っていました。謎のマスコット・コエムシに呼ばれるまま、カナを含めた15人は黒いロボットに乗ります。
まず、サッカー好きの少年、ワクが最初のパイロットとなり、ジアースと名付けた黒いロボットを操り、白い塊(敵性体ロボット)と戦うことになりました。
戦いに勝ったのも束の間、ワクは海に転落し、死んでしまいます。
次のパイロットになったのは、建築会社を営む父親を持つ少年・コダマでした。その傲慢な性格はパイロットになっても変わらず、街の被害も考えずに、ジアースを操縦していきます。
そのとき、たまたま街を移動中だったコダマの尊敬する父親を、ジアースは踏みつぶしてしまいます。
時を同じくして、ワクの死体を診ていた検視官が、ワクが水死する前に、すでに死んでいたことが明らかにするのでした。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
衝撃展開の続く第1巻。ジアースの出現、ワクの戦い、そして死、コダマの戦いと、物語は休む暇もなく進んでいきます。
特に悲惨なのは、何も知らず死んでしまうワクでしょう。ジアースや契約について、何も事実を知らないワクは、あくまでも中学生の少年らしく、楽しそうに巨大なロボットに乗って戦い、誰にも事情を知られることなく海に落ちて死んでしまいました。
エピソード終盤。空っぽになったワクの椅子のカットが入るのは、ワクの孤独で悲しい死を暗示しているようにも感じ取れます。
父親を失った悲しみにくれながら、敵ロボットを倒したコダマ。しかし、コダマもまたジアースの操縦を終えた瞬間、こと切れてしまいました。
そこでようやく、コエムシは、ジアースは生命力を使って動いていること、ジアースの契約は途中で破棄できないことを明かします。
つまり、ジアースのパイロットになれば死んでしまい、そしてその運命からは逃れることが出来ないのです。
衝撃の事実にショックを隠せない少年少女たち。しかし、そうこうしている間にも次のパイロット・ダイチが決定してしまいます。
両親のいない少年・ダイチは、一人で妹と弟たちを育てていました。妹弟たちを遺して死んでしまうことに、強い葛藤を覚えるダイチでしたが、ジアースが戦いを放棄すれば地球自体がなくなってしまうことを知り、自分が戦わなければ(=死ななければ)妹たちを守れないと悟り、戦うことを決意します。
ダイチは前の二人とは違い、街の人の避難を優先させました。妹たちが行きたがっていた遊園地を守り、勝つのです。
次に選ばれたのは、正義感溢れる少女・ナカマ。 売春婦の母親を持つナカマは、生まれのことで差別を受けないよう、誰よりも規律を守って生きていくことを己に課している少女でした。
しかし、パイロットに選ばれたのをキッカケに、母の真似をして金を稼ぐことを決意します。それは、仲間たちの意志が一つになるよう、ユニフォームを作るためでした。
結果として、ナカマの試みは大人たちにバレてしまい、母親からお金を渡されることになります。その過程でナカマは、自分が恥ずかしいと思っていた母親が、誰よりも堂々としていたことに気づくのでした。
仲間たちの服を完成させ、戦うナカマ。母の心を受け継ぎ、今までの自分の考えを脱却するような戦い方で勝利を収め、そして死んでいくのでした。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
- 2004-12-24
この2巻では、ただ現状を受け入れただけの前巻とは異なり、子供たちが自分たちの意志で街を守ること・被害を出さないこと・そして自分の死と限られた命に向き合っていることが痛切に伝わってきます。
ダイチもナカマも、それまで生きてきた短い人生のなかで育んできた意志を守り、戦い、そして死んだ。
悲惨な物語でありながら、そんな子供たちの懸命な意志が、確かに伝わってきたように感じられます。
次に選ばれたのは、臆病な少年・カコ。 カコの戦闘が始まる前、軍の一佐であるコモの父親の口利きによって、パイロットたちは政府によって保護されることになりました。
それぞれ、陸軍、空軍、海軍から一名ずつ、パイロットたちのサポートがつくようになります。特に空軍の女性隊員・田中は、まるで母親のようにパイロットたちに接するのでした。
しかし、戦いが始まってみると、軍の戦力では敵性怪獣に太刀打ちできず、あっという間に全滅。カコはパニックになり、いつもいじめていた少年・キリエを意味もなく殴り続けます。
その状況に誰も手を出せずにいたとき、パイロット候補の少女・チズが立ち上がり、カコをナイフで刺殺。そして、そのまま、ジアースのパイロットを引き継ぐのでした。
しかし、チズはただ敵性ロボットを倒すことはなく、街の一部を攻撃し始めます。その目的は、憎んでいる人間の殺害でした。
大好きで信頼していたハタ先生に売られ、妊娠してしまったチズは、加担していた大人たちをジアースの力で葬るために行動しているのです。
周囲の制止の声も聞かず、最後の仇の一人、ハタ先生を捉えたチズ。しかし、ハタ先生は、チズの姉と行動をともにしていたのでした……。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
- 2005-06-30
カコの戦いも悲惨です。国の介入があり、ようやく助かると思ったところで、まったく役に立たないとわかったときの絶望感たるや。
また、3巻のなかでも特に、チズのエピソードは衝撃度が強いです。 パイロットたちのなかでも誰よりも淡々としていたチズ。カコの返り血が残る顔に、平然と笑みを浮かべてパイロットの役目を引き受けるチズには鬼気迫る何かを感じます。
彼女の過去が明らかになったとき、多くの読者はチズに同情したでしょう。
その後、チズがパイロットを(強制的に)変わることでなんとか戦いが続いたものの、チズが場を収めなければジアースが負けていた可能性は高いでしょう。
しかし、チズによってカコが殺され、パイロットが一人減ってしまったため、このままではジアースのパイロットが不足してしまうことになり、手詰まり感はより加速していきます。
戦いの最中、チズはハタ先生と自分の姉を発見します。チズは、「自分を不幸にした先生を殺すからどいてほしい」と言いますが、姉は決して聞き入れようとはしません。
それどころかチズに対し、「人を殺してはいけない」と説きます。
しかし、それはすでに多くの人を殺したチズを、追い詰めるだけの言葉でした。チズは、自分自身に失望しながら、戦いに勝ち、死んでいきます。自分の子供が宿るお腹に触れながら。
戦いが終わり、パイロットたちが残りのパイロットの数を示すジアースの光点を確認したところ、子供たちのなかで一人、契約していない人間がいることが明らかになります。
それが誰なのか答えが出ないまま、補充のため、軍人の田中一尉と関一尉がジアースと契約することに。
ブリーフィングの最中、田中は子供たちに、これから軍が積極的に攻撃することはない、と伝えます。
カコの戦いで軍の戦力が役に立たないことが判明したので、当然の帰結とはいえ、子供たちは一層落ち込む結果となりました。
会議の休憩中、ウシロとカナの母親が他界してすでにいないことを話すパイロットたち。一方、カナは田中を追いかけ、何かを頼むのでした。
次のパイロットに選ばれたのは、冷静な少年・モジ。誰よりも冷静なモジは、自分が死んだら、病を患っている親友に心臓を移植してほしいと田中に頼みます。
かくして始まったモジの戦い。しかし、ジアースの身体を敵に挟みこまれ、身動きが取れなくなってしまいました。
攻撃も出来ず防御も出来ない。絶体絶命のなか、モジがある奇策を思いついたところで、次巻に続きます。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
- 2005-12-26
軍隊の力では敵性怪獣に及ばないことが確定したうえ、契約していない仲間がいることが明らかになる4巻。
ジアースのパイロットたちは、孤立無援のうえ、身内にも不信感を抱く状態となってしまった訳ですね。
そして、ここにきて、ウシロとカナの歪な兄妹関係が少しずつ浮き彫りになってきました。
パイロットたちが何気なく話していたこの兄妹の関係が、のちに大きな伏線になるのです。
絶体絶命のモジは、コクピットを切り離し、上空から敵の弱点にダイブするという方法を取りました。これは、長い手を切り離して戦ったナカマの作戦、そして自分が心臓を移植することからヒントを得た戦法です。
しかし、あと一歩のところで直撃とならず、あわや敗北かと思われたそのとき、味方の空軍の戦闘機が敵のコクピットに向けて特攻。くしくも勝利となったのです。
次に選ばれたのは、もうすぐ弟が生まれる予定のマキ。マキは弟と、そして今まで育ててくれた義理の両親のために戦うことを決意していました。
父親から授かったミリタリー知識を武器に、危うげなく勝利するマキですが、味方のはずの空軍機が攻撃してきたことに驚愕します。
そして、敵のコクピットの中を開いたマキは、そこに自分たちと寸分たがわぬ人間たちがいること、そして彼らが、自分たちと同じように椅子に座ってロボットを操縦していることを知りました。
ここにきて初めて、コエムシは、今戦っている地球は平行世界にある別の地球であり、ジアースとパイロットたちは、無数にある地球の未来の可能性を摘みとるために戦わされていることを明かします。その事実に驚き、ショックを受けるパイロットたち。
凄まじい自己嫌悪を抱きながら、敵のコクピットを破壊するマキですが、自分たちの地球に帰ってきたとき、弟が誕生したことをジアースの力で察知します。 そして、妹のカナをいじめてばかりのウシロに、カナを守るために戦うことを願い、そっと命を閉じるのでした。
次にパイロットとなったのは、いじめられっこのキリエ。キリエは、希死念慮を抱く従姉妹が苦しむさまを見ることで、自分が負ける(地球が消える)ことが従姉妹を救う術になると思うのですが……。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
- 2006-06-30
5巻で、ついに残酷な真実が明かされました。
戦わなければ自分の地球は死んでしまう。しかし、戦って勝っても、他の地球の人々が死んでしまうのです。
『ぼくらの』は鬱漫画と呼ばれる所以が、ここにあるでしょう。中学生の子供たちに背負わせるには、なんとも過酷な話です。
また、前巻で戦力としては期待できないと判断された軍隊ですが、サポートとしては十分、役目を果たすことが明らかになりました。彼らの役割に、今後注目したいところです。
次のパイロットは、おとなしい性格の少年・キリエです。いじめられっこのキリエは、人を殺すことが出来ないと悩んでいました。
キリエの相談を受けた田中は、人間の命は他の生命の犠牲のうえにあることを伝え、そのことを感謝したうえで納得する生き方を選ぶように伝えます。
決戦当日。キリエは、ジアースのコクピットを離れ、立橋のようになったジアースの腕の上に立ちます。戦うことよりも、自殺することを選んだのです。
それがキリエの下した決断ならと、止めない仲間たち。しかし、相手のパイロットの少女もまた、コクピットを降り、ロボットの手へ歩きます。そして、キリエに向かって無言で、自らの手を差し伸べるのでした。その手には、生々しい自傷痕が。
それを見たキリエは、戦うことを決意します。
生きている以上は、頑張らなきゃいけない。自殺願望のある従姉妹にもそれを伝えてほしいと仲間たちに言い残し、キリエは勝利します。
次に選ばれたのは、軍人の父を持つ少女・コモです。しかし、コモの戦いの最中に、相手側のパイロットが逃げ出すという不測の事態が起こってしまいました。
逃げ出した男はこの地球のどこにいるかわからず、47時間以内にパイロットを倒さなくてはコモの敗北が決定してしまいます。
協議の結果、サポーターである軍人たちが出した作戦。それは、コモがジアースのパイロットということをテレビを通じて世間に明かし、さらにピアノの演奏会を開くという、不可解なものでした。
案の定、コモの家はジアースとの戦闘の被災者によって放火される事態に。 日本中が敵性怪獣との戦争の真実に驚くなか、果たして消えた敵のパイロットを見つけ出すことが出来るのでしょうか 。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
- 2006-12-26
6巻は、相手パイロットもまた戦いを望んでいなかった、というまさかの展開が続きました。
「私達は生まれながらにして、生命に対して業と責任を背負っているの。」(『ぼくらの』6巻より引用)
この田中の言葉は、『ぼくらの』という作品が伝えたいメッセージそのものではないかと思います。
戦うことを望む望まないに関わらず、生きている以上は戦わなければならない。
それは、キリエたちパイロットも、敵のパイロットも同じなのです。そして、おそらく我々読者も。
そして、コモのエピソードを機に、世間にジアースの情報が公表されることに。
秘匿とされていた少年少女の情報が暴かれ、また別方面の脅威が迫ることになりました。
ますます窮地に追い込まれる子供たちの運命は、どうなるのでしょうか。
敵の逃亡という、まさかの展開で終わった6巻。7巻は、その続きから始まります。
逃げ出した敵のパイロットが、自分の娘をなくしたばかりという情報を集めた軍人たちは、コモのピアノ演奏会を開くことで敵パイロットを呼び寄せる、という作戦を立てたのでした。
本当に来るのかとパイロットたちが不安になるのも束の間、敵パイロットは、コモの演奏を聴きに会場までやってきます。それは、死を決意した男の行動でした。
敵パイロットが演奏会場に来たのを悟ったコモは、今までの人生で、自分の感じてきた情動をピアノの演奏に乗せます。それは、死を覚悟で自分の演奏を聴きに来た敵パイロット、そして会場にいる父親に向けた、コモの人生全てを表す演奏でした。
そして敵パイロットはコモの演奏に満足し、その命と自らの星の運命を、コモの父親の銃口の前に晒すのでした。
コモが死に、次に選ばれたのはニュースキャスターの父親を持つアンコです。それはちょうど、コモの戦いによって開示されたジアースの情報で、日本中が大混乱。そしてその混乱に乗じて、少年少女たちの個人情報が暴かれそうになっている時期でした。
事態に対抗すべく、パイロットをサポートする大人たちは、次に戦うアンコのテレビインタビューを決行することを決定。大々的にジアースを公表することで、 大義名分を得て、子供たちを保護し、混乱を収めようという試みでした。
そしてそのインタビュアーとして、アンコの父親が選ばれます。 父親、そして日本中の目にさらされながら、戦うことになったアンコ……。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
- 2007-07-30
7巻は、パイロットたちの葛藤もさることながら、地球に生きる他の人たちの思惑が交錯する複雑な巻となりました。
コモの父親、アンコの父親、そして日本中、地球上の人々全てが、パイロットたちの戦いに注視することになります。
あらためて、パイロットの子供たちが、地球全てを背負って戦っていることが浮き彫りになる7巻でした。
足を負傷し、絶体絶命のアンコ。しかし、足を負傷しながらも戦うアンコの姿を見ていた地球の人々は、アンコを応援します。
自分を応援する声が聞こえ、奮起したアンコは、ついに敵を倒すことに成功しました。 アンコは最期に、カメラ越しに世界中の人へジアースのパイロットとしてのメッセージを発信します。ニュースキャスターである、父親の語り口調を参考にしながら。
次のパイロットは、ウシロの幼馴染であるカンジでした。カンジと世間話をしている最中、ウシロは、自分はジアースパイロットとして契約をしていないことを明かします。
それを聞いたカンジは、後に残されたウシロに、妹のカナを大事にすること、そしてマチに気をつけることを助言するのでした。
そして始まったカンジの戦い。カンジの相手は長距離射撃で狙ってきます。自分たちの地球(ホーム)での戦いのため、防戦一方になるカンジ。
最後の手段である核も通じず、ウシロの提案で最後に思いついたのは、誰かの命をマーカーにして敵のもとへ向かわせ、そこめがけてレーザーを連続一点射撃することでした。
自らマーカーになることを志願したのは、ジアースのパイロットにもなっている関一尉。そして、カンジは関一尉を始めとした多くの軍人の命を犠牲にして、敵を倒すことに成功するのでした。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
- 2008-01-30
少年少女たちだけではなく、大人たちも覚悟してこの戦いに臨んでいることが強く印象に残る8巻。
そして、この巻では主人公であるウシロ、そしてカナとの関係がピックアップされています。
まず、契約していなかったのは、ウシロということが判明しました。そして、カンジが気を付けろといったマチの存在も、今後の要注意人物として浮上します。
残りパイロットが少なくなるなか、これらの謎は一体どのような展開をもたらすのでしょうか。
9巻冒頭。カナがジアースと契約していたという衝撃の事実が判明し、物語は始まります。
さらにカナのモノローグによって、ウシロとカナが本当の兄妹でないことがわかりました。時を同じくして、マチとコエムシが兄妹であることも明かされます。
カナの戦いが近づくころ、以前、カナがアンコの父親に頼んでいたらしい人探しの結果が出ました。カナが探してほしかった人とは、生きているウシロの母親。そしてその人とは、田中一尉であることが判明します。
カナは田中に、ウシロの母親であることを明かしてほしいと願いますが、田中は首を縦に振ろうとはしませんでした。
そして始まるカナの戦い。 カンジの戦いでジアースの索敵能力に弱点があることを知った軍人たちは、戦闘機に乗った田中をカナのサポートとして回します。
カナは戦うことを躊躇しますが、戦闘の最中に田中から「戦いが終わったらウシロに母親であることを伝える」と聞き、戦うことを決意。
しかし、わずかな隙が出た田中は、敵に捕まってしまいます。 人質になった田中は、カナの足を引っ張ることを拒み、敵性怪獣の手のなかで自殺。
激昂したカナはついに敵を倒し、死亡します。 ウシロは、母親と義理の妹を同時になくしてしまうのでした。
戦いが終わり、田中の遺体を引き取りにきた田中の夫と、その娘(ウシロの異父兄妹)に出会ったウシロ。 母親の死に悲しむ実の妹の姿を見て、ウシロは誰かが死んでも別の誰かが悲しむことになるとマチに告げ、ついに契約をします。
そして、コエムシの意志によって契約を免れていたマチも、ジアースと契約するべく手を伸ばしました。そこで9巻は終了です。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
- 2008-09-30
最年少のカナがパイロットになってしまうというショッキングな展開からスタートした9巻は、ウシロの家庭を始めとした複雑な家族模様がメインとなります。
そして、カナと田中の死を経て、ウシロがパイロットになります。さらに、実はコエムシの妹でジアースと契約する予定がなかったマチも参戦するなど、クライマックスに向けて衝撃的な展開が続きました。
ウシロの父親は、死について考えることが先進国の人間に与えられた最高の娯楽であると、田中に伝えています。
これは、『ぼくらの』を読んでいる、私たち読者に贈られたセリフなのだと思います。
子供たちが地球のために死んでいく、どこまでも残酷な物語。しかし、その死について想い、考えることが、私たちに与えられた最高の娯楽であり、同時に生きていくうえで必要なことなのかもしれません。
ジアースと契約し、パイロットになったマチ。 そして、ウシロより先に戦うことになったマチは、死んでいった仲間たちの住んでいた街や家を訪ねてまわることをウシロに提案します。
ウシロも承諾し、二人は長い時間をかけて、ゆっくりパイロットたちの家族を訪問しました。 全ての家を回ったとき、ウシロへの恋心を明かしたマチでしたが、直後に何者かに撃たれてしまいます。
マチが撃たれ、またパイロットは欠員が出て足りなくなってしまいました。 たった一人残されたウシロに、パイロットになることを申し出たのは、マチの兄であり、これまでの戦いを見守ってきたコエムシでした……。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
- 2009-01-30
10巻はクライマックスに向けて、凪いだ水面のように穏やかな場面と嵐のような場面の緩急が激しい巻です。
パイロットの子供たちが死んでしまったことで、家族や周囲にどのような変化が起きているかが丁寧に表現されているのが、この巻最大の見どころといえるでしょう。
子供の死をキッカケに、前向きに生きる人、反対にふさぎ込んでしまう人。それぞれの人生があり、正解はありません。
そこに、『ぼくらの』が名作たる所以が感じられます。
さらに、これまで狂言回しのような役回りだったコエムシが、妹・マチの影響を受けて変わっていくのも感じられ、登場人物「ぼくら」全てが「戦っている」。そんなことを感じさせる10巻でした。
コエムシを残し、最終決戦に挑むウシロ。戦いの場所は、自分たちの地球ではなく、他の地球(アウェイ)での戦いになりました。
優勢に戦闘を続けるウシロでしたが、敵性怪獣のコクピットを開けてしまったために、敵パイロットが逃亡してしまいます。
逃げたパイロットは、アウェイの地球のどこかに存在します。しかし、どこにいるかまではわかりません。
ウシロに残された選択は、この地球のどこかにいるパイロットを殺すまで、その地球の人間を一人残らず殺していくことしかありませんでした……。
- 著者
- 鬼頭 莫宏
- 出版日
- 2009-12-26
最終巻となる『ぼくらの』。そこには最後の戦いにして、最大の苦難が待ち受けていました。
物悲しさ、生きることの意味、その非情さ。家族との関係など、最終巻は、物語のテーマ全てを包括した終わりになっています。
言葉で語らずとも、読んだ読者全ての胸に、深い感慨が残ったことでしょう。
果たして、ウシロがどのような道を選んだのか。それは、読んでからのお楽しみです。
いかがでしたでしょうか。鬱漫画といわれる『ぼくらの』。しかし、複雑に絡み合う人間ドラマを知れば、その読後感は決して暗いものではなく、むしろ感動に近いものです。小さな子供たちが織り成す大きな物語。ぜひ、読んでこの感動を味わってください。
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