今回は、『このマンガがすごい! 2011』(宝島社)のオトコ編で第10位にランクインし、累計発行部数は300万部を突破している漫画『惡の華』を考察したいと思います。平凡な男子中学生が、嫌われ者の女子生徒に隷属させられるという、過激な青春を描いた物語です。奇才・押見修造の世界観をぜひ覗いてみてください! 2019年9月27日からは実写映画化もされ、ますます注目が集まりました!
漫画『惡の華』は押見修造によって『別冊少年マガジン』で2009年から2014年まで連載され、単行本は11巻まで発売されました。2013年にはアニメ化、2019年には実写映画化もし、大きな話題になりました。
伊藤健太郎と玉城ティナが主役を務めています。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2010-03-17
思春期の真っ只中にある少年少女たちの内に秘められた精神の動揺を巧みに描いているのが特徴的です。また、その動揺から生み出される過激かつアブノーマルなストーリー展開は、読者に強烈なインパクトを与え、賛否両論ありながらも人気を博しています。
その人気により、「このマンガがすごい! 2011」ではオトコ編の10位にランクインし、「マンガ大賞2012」にもノミネートされました。
本記事では、『惡の華』の単行本全巻の見どころを、考察を交えつつお伝えしていきたいと思います。ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください!
ボードレールの詩集『惡の華』を愛読する少年・春日高男(かすがたかお)。彼はある日、片思いしている佐伯奈々子(さえきななこ)の体操着を盗んでしまいます。クラスの人気者が被害に遭ったこともあり、クラスは大騒ぎです。
罪悪感にさいなまれる彼の前に現れたのは、クラスの問題児・仲村佐和。彼女は高男が体操着を盗むところを目撃したことを告げるのでした。そして高男に「“契約”をしよう」と持ちかけます。
果たして、高男の運命は……。
奈々子の体操着を持ち逃げするところを佐和に見られていた高男。口外しない代わりに佐和と“契約”を交わし、彼女の指示に従うようになるのですが、その内容はどれも変態行為ばかり。高男は苦悩します。
そんな中で、高男は思いを寄せる奈々子とデートをすることになり、大喜び。しかし、そのことを佐和に知られてしまい、とんでもない命令をされるのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2010-03-17
1巻の見どころは、高男と佐和の“契約”です。
佐和は人間を“クソムシ”と“変態”に分けています。前者は外面を良く見せて社会に迎合しようとする人々のことで、後者は自分の内面をさらけ出す人々のことです。そして、前者ばかりの世の中に嫌気がさしていました。
高男の体操着泥棒を目撃した彼女は、その行動に“変態”としての可能性を感じます。そして、高男と契約を結び、彼の中の“変態”を引き出すべく、様々な無茶ブリをするようになるのです。
背徳感と保身の間で板挟みに苦しみながらも変態行為を繰り返す高男。その姿を見て嬉々とした表情を浮かべる佐和。2人の奇妙な関係性に注目です!
佐和からの指示により、緊迫感のあるデートとなった高男。しかし、何とか成功させることができ、さらには奈々子と交際することになります。
ところが後日、佐和が奈々子に接近します。2人で話す様子などを見て、佐和が体操着の件をバラすのではないかという恐怖する高男。耐えきれなくなり、佐和に「いっそバラしてくれ」と頼みます。
それを受けた佐和は、高男に体操着を持って夜の学校に来るよう命じるのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2010-09-17
2巻では、佐和が高男を精神的に追い込みます。
急に奈々子と仲良くなって話をする機会を増やし、時にはきわどい発言をするなどして、高男に揺さぶりをかけるように。こうしていれば、いずれ高男が何かアクションを起こすと、佐和は考えたのでしょう。
狙いどおり、高男は佐和の口から奈々子に本当のことを伝えるように頼んできます。佐和に揺さぶりをかけられ、奈々子からも隠し事をしているのではないかと疑われたことで、彼のメンタルは限界を迎えていました。そこで罪をバラしてもらい、罪悪感や恐怖から解放されようとしたのです。
佐和はそんな高男を真夜中の学校に呼びつけ、教室で彼にある事をするように命令。それをきっかけに高男は暴走します。あらゆる感情を解き放つ彼の姿は、きっと心に焼きつくことでしょう。
夜の学校に侵入し、教室を荒らしてしまった高男たち。自分の名前まで書き残していたため、みんなにバレていることを覚悟します。ところが名前は消されており、外部の犯行として処理されたのでした。
ところが、奈々子と母親に犯行をさとられてしまい、高男は逃げ出したい衝動に駆られ、佐和の提案により、2人は山の向こうを目指すのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2011-02-09
3巻の見どころは、山の向こうへ逃げようとするシーンです。
高男と佐和を追って、なんと奈々子がやってきます。高男の“変態”ぶりを知ってもなお、別れようとせず、彼とともに町に帰ろうと説得まで試みるのです。
彼女がなぜそこまで高男にこだわるのか。その理由が読み取れるのが、このセリフです。
「春日くんは…石ころだった私を宝石にしてくれたんだもん!!」(『惡の華』3巻より引用)
どうやら彼女は、高男と接するうちに、自身の中で良い変化が起こったのではないかと推測できます。
そんな奈々子と佐和との間で揺れ動く高男。“クソムシ”に戻るのか、“変態”として生き続けるのかという、究極の選択を迫られます。
高男がどのような答えを出すのかに注目です!
山の向こうへ行くことが叶わなかった高男たち。佐和には失望され、奈々子ともギクシャクしてしまいます。
自問自答の末、ある決意をした高男は、何とか佐和に接触しようと自宅を訪れ、彼女の部屋で日記を見つけるのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2011-08-09
4巻の見どころは、高男が新たな決意をするシーンです。
あのときのことを振り返り、佐和は傷ついていたのではないかと考える高男。そして、彼女の日記を読んだことで、彼女を1人にはしないことを決意し、再び“契約”を結ぼうとします。高男の気持ちが完全に佐和のほうに向いていることがわかるシーンです。
決意の証として、高男は学校である変態行為をしでかし、佐和と新たな“契約”を結びます。そのスケールの大きさは、彼の決意の大きさと言っても過言ではありません!
夏休みになり、秘密基地を作っていた高男たちは、夏祭りで何かできないかと思案します。
そんな2人を、奈々子が親友の木下亜衣(きのしたあい)とともに尾行し、秘密基地を発見。夏祭りの計画を書き綴ったノートを見つけ、思いもよらぬ行動に出るのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2012-01-06
5巻の見どころは、奈々子の内に秘められていた思いが明らかになるシーンです。
1つ目は、亜衣に高男と関わるのをやめるように説得されるシーンで、奈々子が高男を諦めようとしない理由を語ります。3巻で言っていた、「私を宝石にしてくれた」というセリフの意味が明らかになりますので、お見逃しなく!
そしてもう1つは、奈々子が高男をだまして基地に呼び出すシーンです。
どうしても高男を取り戻したい彼女は、ここで捨て身の行動を連発! その中で、高男と、駆けつけてきた佐和に対して感情をぶつけていきます。
クラスのアイドル的存在だった奈々子の変貌ぶりに、圧倒されることでしょう。
秘密基地を失い、警察に夏祭りの計画を知られてしまった高男たち。さらに、2人のしてきたことが町中に知れ渡り、しだいに追い詰められていきます。
夏祭りの前日となり、両親から外出を禁じられていた高男は、佐和に力ずくで連れ出され、祭りを台無しにする計画を再び練るのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2012-06-08
6巻では、大人たちの介入により、2人だけの世界が壊されていきます。
警察にノートを見つけられたことで身動きが取れなくなり、奈々子を狂わされたことを恨む亜衣にそれまでの変態行為を暴露されたことで、街の人々に軽蔑されるように。
居場所を完全に失った高男たちは、大人たちから逃れて計画を練り直します。その中で、佐和の心境にある変化が起きていることがわかりますので、必見です。
そして、祭りに乱入した2人は、ついに計画を実行! “クソムシ”に対する“変態”たちの最後の抵抗に注目です!!
夏祭りから3年。高男は他県に引っ越し、普通の高校生として過ごしていました。佐和への思いを断ち切れないまま……。
そんな彼に、また新たな出会いが訪れるのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2012-12-07
7巻は夏祭り乱入の続きから始まります。
街の人々に対して自分たちの感情を全て吐き出し、計画の最終段階に向かう高男たち。ところが、佐和の予想外の行動などによって、計画を完遂することはできずに終わってしまいます。その一連の流れは大きな見どころといえるでしょう。
そして月日が流れ、高男は高校生になります。
新しい環境で、再び地味な生徒として学校生活を送る彼ですが、佐和のことはなかなか忘れられない様子。そんな彼の前に、佐和の面影が重なる少女・常盤文(ときわあや)が現れます。
佐和とは違い、友達が多く男子からの人気もあるタイプの女子生徒ですが、実は文学好きで、本をきっかけに高男と知り合います。
新しいヒロインとの出会いのシーンは、必見です!
文の部屋に招かれた高男。そこで彼女の自作小説のプロットを見つけ、読もうとします。ところが、そこに文の彼氏・藤原晃司(ふじわらこうじ)が現れてうやむやに。
自分を差し置いて文の部屋に上がった高男に嫌がらせをする晃司。それをやめさせようとした文とケンカになってしまい……。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2013-06-07
8巻の見どころの1つは、文と距離を縮めるシーンです。
彼氏でさえ入らせなかった自室に高男を入れたのは、文にとって高男が初めて本当に好きなものを共有できる相手だと思ったからだとわかります。高男もそれに気付き、文の小説を読みたいと頼んだことをきっかけに、2人の距離は縮まるのでした。
形は大きく違うものの、3年前の佐和との関係に少し似ています。そんな彼らの関係が、どのようになっていくのかに期待です!
もう1つの見どころは、なんと奈々子の再登場です!
中学生のころよりも、美少女っぷりに磨きがかかっている彼女。高男に似た雰囲気の彼氏を作っています。
そんな奈々子に誘われ、高男は彼女と2人きりで会うことに。この再会が高男と文の関係に影響を与えることになるので、要注目です!
奈々子の言葉が重くのしかかり、それまでのように文と接することができなくなる高男。文が晃司と仲直りしたことも手伝って、ギクシャクしてしまいます。
現在と過去の間で葛藤する中で、高男はあることに気付き、意を決して文のもとに向かうのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2013-08-09
9巻の見どころは、高男が過去の罪と向き合うシーンです。
陰の自分との対話という形で思い悩む高男。「奈々子や両親、そして佐和を不幸にしてしまった自分に、文を幸せにできるはずがない」という結論に至ろうとします。
しかし、文の小説を思い出し、彼女も自分も本当の自分を隠して生きる“幽霊”なのだと気付き、
「僕にはできない。一生幽霊の世界で生きていくなんて」(『惡の華』9巻より引用)
と、文のもとに向かい、自分の本当の気持ちを伝えます。
過去を振り払う高男の姿と、大胆な告白のシーンは必見です!
祖父の危篤の報せを受け、両親とともに帰郷する高男。看病を手伝うも、休んでいる間に祖父が亡くなってしまい、親戚から「お前のせいだ」などと責められてしまいます。
その後葬儀が執り行われ、受付をしていた高男は偶然にも亜衣と再会。「話がある」と誘われて行くと、彼女から佐和の住んでいる場所を知らされるのでした。
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2014-01-09
10巻では、おもわぬタイミングで佐和の居所がわかります。
最初は迷いがあった高男。しかし、文と生きていくために、佐和と会うことを決意。その際に、高男は文に中学生時代の話をします。高男の覚悟が伝わってくるシーンなので、必見です。
亜衣からの情報を頼りに、文とともに銚子に向かった高男。佐和の母親が経営する定食屋で、ついに佐和と再会します。
かなり変わった佐和の雰囲気に、驚くことでしょう。
佐和との再会を果たした高男。文を交えた3人で、海へと向かいます。
どこか憑き物が落ちたような雰囲気の佐和。そんな彼女に、高男はずっと疑問に思い続けてきたあの夏祭りでのことについて尋ねます。
果たして、彼女は何と答えるのでしょうか……?
- 著者
- 押見 修造
- 出版日
- 2014-06-09
夏祭りのことを聞いた後、その場を去ろうとする佐和に高男がある行動を取ります。彼らならではのやり方です。そして、その中で佐和に対してある言葉を贈ります。
その言葉は、6巻で佐和が高男に言った言葉に対するものです。ぜひ6巻と読み比べてみてください。
別れのシーンも見どころです。「どこへ行っても佐和は佐和だ」と最後まで思わせるような印象的なシーンです。ぜひ彼女の表情とあわせて読んでみてください! 難解という声も多いこの最終回のラストシーンですが、何とも整理のつかない感情を呼び起こすものです。一度読むと忘れられない問題作を、ぜひご自身でお確かめください!
漫画『惡の華』は中学生編と高校生編は密接にリンクしているので、コミックスを読み返すたびに新たな発見があります。
お読みの際に、ぜひ楽しんでみてください!
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