漫画『あくたの死に際』はWebマンガサイト「裏サンデー」、漫画アプリ「マンガワン」で連載中の作品。小説家と創作活動をテーマにしており、真に迫る内容が特徴です。「このマンガがすごい!2025」ではオトコ編で第13位に選ばれるなど、珍しいモチーフながら高い評価を受けています。 そんな漫画『あくたの死に際』について、作品の内容からファンを惹きつける魅力をご紹介していきます。

漫画『あくたの死に際』は2023年4月からWebマンガサイト「裏サンデー」、および漫画アプリ「マンガワン」で連載中の竹屋まり子の作品です。既刊は4巻。
本作はサラリーマンとして優秀なアラサー男が、ひょんなことから学生時代に打ち込んだ小説家を再び目指すようになり、夢に向かってすべてをなげうっていくヒューマンドラマです。
本作は文芸作家とその創作活動に焦点を当てた、いわば小説家漫画です。世の中には漫画家をモチーフとした漫画家漫画(『バクマン。』や『ルックバック』などが有名)が結構ありますが、平たく言えば『あくたの死に際』はその小説家版。
創作への本気の熱意や迷いが心を打ち、ページから熱すら感じるほどのドロドロした情念が凄まじく、そこに人間関係のしがらみが絡んできて毎話とても引き込まれます。人によっては夢を諦めたつらさや黒歴史を刺激される気分になりますが、それはこの漫画に激しく心を動かすパワーがあるからこそ。
モチーフ的に一般ウケしづらいものの、刺さる人にはとことん刺さる作品です。連載開始以降はじわじわと評価を上げていき、漫画賞にもいくつかノミネートされ、2025年には「このマンガがすごい!2025」オトコ編13位に選出されました。
主人公の黒田マコトは某大企業に勤めるアラサーのサラリーマン。仕事はなんでもそつなくこなし、上司や部下の信頼は厚くて評判も上々、プライベートでは結婚目前の彼女もいるなど人並み以上に充実した日々を送っていました。ところが、彼は周囲の期待に無意識に応えて無理をしていたいたことから、心身共に疲弊して心を病んでしまいます。
順風満帆だった人生からの転落。休職した黒田は自分の置かれた状況をそんな風に捉え、ろくに休むことも出来ずに焦りを募らせるのですが……。そんな時、大学時代の後輩・黄泉野季郎(よみのきろう)と再会します。
黄泉野は今をときめく超売れっ子作家で、実は彼も黒田も、かつて同じ文芸部に所属していました。そして当時、黒田は黄泉野の才能に触れて打ちのめされ、小説家になる夢を諦めたのです。
夢破れ、心を病み、どん底まで落ち――夢を捨てた元凶の黄泉野に触発されて、黒田は再び夢を追い始めます。
漫画『あくたの死に際』の魅力を一言で表すなら、それは“熱”です。先が気になって、読み進めたくてたまらなくなる熱。この熱にはポジティブな意味もネガティブな意味も含まれています。
何かの呪いかのように創作に向かう鬼気迫る臨場感、次々起きるトラブルをギリギリで乗り越えていく疾走感。ページ越しに伝わってくるそれらの熱量が半端ではありません。
とはいえ、これだけなら漫画家漫画でも似たような読書体験は出来ます。本作の場合、主人公がいい年をした大人であることが終始効いてきます。
30過ぎて夢にうつつを抜かしていていいのか? 先行き不透明で不安定な小説家を目指して、毎日の生活はどうなる? 成功の保証なんてないのに、将来のことを考えているのか?
曲がりなりにも社会に出て、人並み以上に働いてきたからこそ、身に染みてわかっている現実。会社、恋人、世間体……ありとあらゆるしがらみと常識が重くのしかかってくる不安感、決して拭い去れない胸を焼く焦燥感など、主人公の内面描写に心を揺さぶられます。
心の病で不安定になっているのもポイント。黒田が純文学を志向しているのもあって、読んでいると、自殺に走った過去の偉大な作家がちらちらと脳裏をよぎります。
努力と葛藤、夢に向かう情熱の熱さと厳しい現実の冷たさ。漫画『あくたの死に際』には派手なアクションこそありませんが、この2種類の熱が見事なまでにストーリーに織り込まれているため、バトル漫画に負けないほどの勢いで読み進められます。
漫画『あくたの死に際』は主人公が純文学作家を目指す話です。原動力となるのはポジティブな気持ちより、嫉妬心や情念といったややネガティブなもの。
それは純文学最高峰の登竜門「芥川賞(芥川龍之介賞)」と、無価値のゴミを意味する「塵芥」をかけた、本作のタイトルにも現れています。芥川賞を獲って成功するか、ゴミとなって死ぬか。「死に際」というのも絶妙。ギリギリまで粘って何かを生み出そうとする往生際の悪さ、あがいてあがいてあがき抜いて、最後までしがみつこうとする執念が感じられます。
そんな内容で面白いのか? と思うかも知れません。しかし、これが本当に面白いのです。
率直に言って、今この記事を書いている筆者にとって、純文学は完全に守備範囲外。芥川賞や直木賞(こちらは純文学ではありませんが)の受賞作や候補作を多少聞いたことがある程度で、ほとんど馴染みがありません。実は本作をきっかけに1冊読んでみましたが、ちんぷんかんぷんでちっともピンと来ませんでした。文学に親しむ素養がないのでしょう。
ライターとしてはお恥ずかしい限りですが、そのレベルの人間であっても、漫画『あくたの死に際』は問題なく楽しめます。本読みには間違いなくおすすめ出来ますし、かつて夢を抱いた人や、夢に破れた人にも刺さります。
そして、なんらかの創作活動を行っている人には特に刺さる……というより劇薬。深く突き刺さりすぎて、血反吐を吐くことになるかも知れません。見たくなかったもの、自覚したくなかったものを見せつけられた気がして、のたうち回る方もいるでしょう(作品概要で触れた黒歴史云々がまさにこれ)。
一読して心がざわついたら、絶対に漫画『あくたの死に際』にハマります。色々な意味で黒田に共感し、一緒に泥沼に沈んでいきましょう。もしかすると彼に感化されて、創作の道に踏み入ることになるかも……。
本作の主人公は黒田ですが、同じくらい濃い登場人物が他に何人も登場します。と言うかクセが強いか、何かしら引っかかりのあるキャラクターしか出てきません。
その筆頭が主人公の黒田マコト。物語開始時点では大企業に勤めている31歳の男性です。真面目な性格が祟ってメンタルを病んで休職、その最中に蓋をしていた小説への情熱を取り戻し、一念発起しました。元は自信満々なタイプでしたが、自身の置かれた崖っぷちの状況から思い詰めがちになり、純文学指向なのも相まってか非常に面倒な性格に……。
黄泉野季郎は本作のキーパーソン。かなりの天才肌で、小説に関係すること以外あまり興味を持たない変人です。文芸部後輩の立場で黒田の一番の理解者であると同時に、作家として黒田がライバルにして越えるべき壁であり、なおかつ黒田を引っ張ってくれる経験豊富で信頼出来る仲間でもあります。27歳男性ながら美形で、ヒロイン的な立ち回りも……。
黒田のもう1人の理解者と言えるのが幸田サチです。理想に燃える新人編集者。まだ若くて頼りないところはあるものの、黒田と彼の作品を成功させるために奔走します。
黄泉野の担当編集・犬飼もキーパーソンと言えるでしょう。流星出版のベテラン編集者で、黄泉野経由とはいえ無名の黒田に光るものを感じ、幸田を担当に据えた影の功労者です。商業出版については誰よりもシビアで、現実を突きつけてくることもしばしば。
登場は他の登場人物より遅いものの、忘れてはいけないのが水貴翠(みずきみどり)。黒田とは同い年ですが、性格も作風も正反対のライバル的存在です。
順風満帆な社会人生活を送っていた黒田マコトは、ある日突然メンタルを崩し、休職を余儀なくされました。根が真面目すぎるため、会社や恋人の気遣いが逆に彼を苛み、症状は一向に良くなりませんでした。
黄泉野季郎は再会した先輩を見て、小説の執筆を薦めます。黒田はずっと目を逸らしてきた本心を黄泉野に突きつけられ、再び自分と向き合って創作に挑戦するのでした。
- 著者
- 竹屋 まり子
- 出版日
とはいえ、黒田の執筆は順調には進みません。9年間のブランクとその間に積み重ねてきた常識に縛られている上に、彼にはタイムリミットがありました。休職期間として与えられた2ヶ月。それを過ぎれば、元のめまぐるしいサラリーマン生活に戻らなければいけません。
大企業の仕事量と執筆活動の両立は不可能。かと言って数年越しに芽生えた「書きたい」という意欲を消すことは出来ないし、成功する保証のない作家になるなど、常識的な大人に許されるわけがありません。作家になることを周囲に認めさせるには、何よりも結果が必要です。
読者としては奮闘する黒田を応援したくなりますが、正反対の反応をする人物が1人だけ登場します。恋人のミライです。小説の執筆はあくまで休職期間中の手慰みで、2ヶ月経ったら元通りサラリーマンに戻って欲しい、という態度を隠しません。ちょっとネタバレになりますが、なんなら完成原稿をおしゃかにするなんてこともやらかします。
恋人こそ主人公を応援すべき――と思いたくなるものの、現実的に考えれば渋い顔になるのも無理はないでしょう。どれくらいの付き合いか定かではないものの、年齢的に結婚を意識していた相手が、いきなり成功の見込みがない挑戦を始めようとしたら止めたくもなります。大企業勤めの収入をあてにしていたならなおさら。
まったく擁護出来ませんが、反発すること自体は理解出来ます。こういったじっとりした質感が伝わってくるのは本作ならでは。そしてこの苦境を黒田がどう切り抜けるのか、というのが第1巻の見所となっています。
「才能ってあるかないか、0か100かじゃないんだ……たぶん。(中略)
俺はこの夢となら、心中したっていい気がしてるんだ」(『あくたの死に際』第2巻より引用)
黒田はごたごたを経て、サラリーマンを退職。黄泉野の人脈から流星出版の幸田サチが担当に付き、改めて二人三脚で文芸新人賞を狙います。
そんな中、見えてきた作品の課題――というより黒田の欠点が、応募作の主人公の人間性でした。今一歩踏み込めていないせいで、読者の共感を得られるキャラクターになっていない……。それはこれまでの経緯から、自分というものに引け目を感じている黒田自身の問題でもありました。
行き詰まりを感じていた黒田は、ちょうど届いた大学文芸部同窓会の連絡を機に、かつて創作論を語った仲である先輩の魚住と飲みに行くことに……。
- 著者
- 竹屋 まり子
- 出版日
小説に限りませんが、作品を投稿して終わりとはなりません。実際に出版するためには編集者と相談し、練り直して、より良くする作業が必要不可欠。幸い幸田は編集として有能で、黒田にない視点からのアドバイスで改稿の作業は少しずつ進んでいきました。
黒田が腹を括って、いよいよここから本番……といったところで降って湧くのが、『才鬼』盗作騒動です。固有名詞などの細部は微妙に異なるものの、黒田の未発表小説『才鬼』とそっくりなWeb小説が公開され、文芸界隈の一部で話題となってしまいます。
思い当たる点はただ1つ。近況報告と創作の相談を兼ねて、黒田が酒の席で魚住に『才鬼』冒頭を読ませてしまったこと。盗作を行った犯人が魚住なのは間違いありませんでした。
幸田たちが魚住に接触しようとする一方で、黒田はある決意を固めます。全面的な書き直し、文句を付けられないほどのクオリティアップです。
黒田に降りかかる理不尽な仕打ちには怒りすら感じますが、そんな状況をはね除けるのも主人公の務め。元より似非の真似事でしかないパクリと違って、考えて、悶えて、苦しみ抜いて、頭の中から生み出した本人には、創造した世界を広げることも続けることも出来ます。
黒田が導く顛末に注目。
流星出版『星影』文芸新人賞。大賞受賞の報に黒田が沸いたのも束の間、異例の事態が告げられます。大賞に選ばれたのは黒田マコト『才鬼』……そして、水貴翠『ポップコーンのあさ』の2本でした。
デビューの喜びを噛みしめつつも、段々ナーバスになっていく黒田。授賞式当日になってもそれは変わらず、才能への自信のなさから素直に評価を受け止められず、謙遜する言動を繰り返しました。
そしてもう1人の大賞受賞者、水貴はというと――受賞の言葉で爆弾発言を行います。トップを決める大賞が2人では収まりが悪い、今この場でわかりやすく優劣を付けるべき、と。
- 著者
- 竹屋 まり子
- 出版日
これまで黒田は自分や状況が敵でしたが、ここに来て対等な立場のライバルが登場します。それが水貴。バックボーンのせいで小説に関してはウジウジしがちな黒田に対して、水貴はチャラいというか自己主張が強く、あけすけな物言いをする人物です。
かなり癖が強いトラブルメーカーに思えますが、爆弾発言の真意を知ると、彼の言い分にも一理あることがわかります。水貴が問題視しているのは、実のところ大賞受賞作が2本あることではなく、黒田の態度でした。
大賞なんて恐れ多い……上手く書けたのはたまたま……。謙遜は悪いことではありませんが、誰もが望んで獲れるわけではない権威ある賞でへりくだることは、他者を貶めることに繋がります。『才鬼』を評価した審査員や同率大賞の水貴、さらに賞に漏れたすべての作品と作者に失礼というもの。
これらの事実を突きつけられた黒田のリアクションは必見!
水貴の初登場時の印象は良くありませんが、自由人すぎる言動と黒田とは正反対の性格で、競い合う相手としてはなかなか面白いキャラクターとなっています。
漫画『あくたの死に際』の作者は、女性漫画家の竹屋まり子です。詳しいプロフィールは非公開。
確認出来た範囲では、2017年11月から「ガンガンpixiv」で『井戸端は憑かれやすい』を連載したのが商業活動の初期のようです。以後、少女漫画誌や学研の「COMIC×STUDY」シリーズなどで活動、2023年4月に「マンガワン」で『あくたの死に際』の連載をスタートして現在に至ります。
- 著者
- 竹屋まり子
- 出版日
インタビューによると元々は会社勤めでテレビ番組の制作に携わっていたそうですが、漫画家の幼馴染みの薦めで漫画業界に飛び込んだそうです。その辺りの経緯から『あくたの死に際』の黒田と黄泉野の関係が作られたとか。
業界の差異はあれど、身を削って創作に打ち込むのは漫画家も小説家も同じ。漫画『あくたの死に際』にはいくつも真に迫ったセリフが登場しますが、意識的に過去の自分自身へ向けたメッセージのつもりで描かれていることが明かされています。
- 著者
- 竹屋 まり子
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『あくたの死に際』は純文学がテーマなせいか湿度の高い真面目な内容となっていますが、過去には4コマ漫画『君はネガティブくん』やラブコメ漫画『女心@男子高校生』を手がけているので、竹屋まり子の作風の幅は結構広いです。連載が続けば、『あくたの死に際』もさらに違ったキャラクターの掘り下げがされることでしょう。
体調の問題で現在休載中ですが、再開に向けて進んではいるようなので、万全の状態で戻ってきてくれることを期待します。
文字数の関係で紹介を省きましたが、第4巻ではさらなる大波乱が待っています。現在は体調不良などの影響で更新が止まっていますが、連載分でもとんでもないことに……。
本作は漫画アプリ「マンガワン」なら基本無料で読めますが、単行本には描き下ろし漫画や、カバー裏に遊び心を感じる仕掛けがあります。まず「マンガワン」で読んでみて、気に入ったら単行本を買うのがおすすめです。