ボルヘスのおすすめ作品5選!知の怪物に挑戦しよう

更新:2017.2.23

数千冊の本を読んだと言われている、知識の怪物ボルヘス。今回は彼の描いた教養あふれる作品についてご紹介します。

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知の怪物のような作家、ボルヘスとは

ホルヘ・ルイス・ボルヘスはアルゼンチン出身の作家です。夢と迷宮、無限と循環、宗教、神をモチーフとする幻想的な短編作品を書くことで知られています。ボルヘスの作品は1960年代のラテンアメリカ文学ブームによって評価され、20世紀後半のポストモダン文学に大きな影響を与えたと言われています。

ボルヘスの出自は1899年、中産階級の家庭に生まれたと言われています。父親であるホルヘ・ギリェルモ・ボルヘス・ハズラムは弁護士であり、英語を使った心理学の講義も持っていました。非常に教養のある家庭の出身であると言えます。また、父親の書庫には5000冊を超える蔵書があり、ボルヘスは幼い頃からこの書庫の書物を読み漁ったようです。

その後、1921年からボルヘスは本格的に作家活動を開始しました。同年に、壁雑誌『プリスモ』を発行しています。壁雑誌とは、一枚の紙に創作物を印刷し壁に貼ったものです。その後、アドルフォ・ビオイ・カサレスと知り合い、『ドン・イシドロ・パロディの六つの問題』という探偵小説も執筆しています。

そして、1933~1934年に、実在した人物の伝記を脚色して作った『汚辱の世界史』を発表していますが、これがボルヘスの作家としての「真の出発点」と言われています。その後、『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』『バベルの図書館』などの代表的な短編を執筆し、1944年に『伝奇集』を刊行しました。これにより、アルゼンチン作家協会より、栄誉大賞を送られています。

晩年には、ボルヘスは視力を失い、ほとんど盲目となってしまいます。この失明は遺伝的なものとされており、父親もまた、晩年に視力を失っているのです。また、ボルヘスの作品の評価としては、フォルメントール賞、マドニーナ賞、エルサレム賞、セルバンテス賞、レジオン・ド・ヌール勲章を受章し、オクラホマ大学、コロンビア大学、オックスフォード大学から名誉博士号を授けられています。

このように、ボルヘスは非常に教養の高い家庭に生まれ、彼もまた、その恩恵を十二分に受けて育ち、非常に教養の高い作家へと成長しました。そして、国内のみならず、国際的にも高く評価されています。作家として、非常に優秀な人物であると言えますね。ボルヘスは長編小説を1本も書きませんでしたが、短編を数多く残しています。短編集が好きな方はボルヘスの作品を読んでみると良いかもしれません。

教養高い文学作品を書いたボルヘスの作品は現代にも残っています。文学を好む人もそうで無い人も一度ボルヘスの作品を読んでみると良いかもしれません。

ボルヘスの深い精神性『七つの夜』

この作品はボルヘスが行った7つのテーマに関する講演を集めたものです。そのテーマは「神曲」「悪夢」「千一夜物語」「仏教」「詩について」「カバラ」「盲目について」の7つです。ボルヘスという人物が一体物事をどのように考えていたかを記す珠玉の講演集となっています。そのため、この作品はボルヘスの入門書と言われています。

本書は第一夜から第七夜までの章で構成されています。例として、第一夜から抜き出しますと、その主題は「神曲」となっています。ボルヘスは「神曲」を「あらゆる文学の頂点に立つ」と言います。このように、文学作品から宗教まで幅広くテーマを取り扱った講演集になっています。

著者
J.L.ボルヘス
出版日
2011-05-18

ボルヘスの知性はあまりにも強力であり、それは時空を超えるほどの知性になっています。本書を読むと、きっと自分の知性の無さに愕然とさせられると思いますが、それでもこの本を読むことは苦痛にはならないでしょう。むしろ幸せを感じるのでは無いでしょうか。その理由は、ボルヘスの本に対する愛情に同感するからなのかもしれません。

そして、ボルヘスはこの本にタイトルを付けると、こう言いました。「悪くない。さんざん私につきまとってきたテーマに関して、この本は、どうやら私の遺言書になりそうだ」と。ボルヘスは目が見えていた頃も、目が見えなくなってからも、ずっとこれらのテーマについて考え続けていたのです。

さて、ボルヘスは博覧強記で知られる作家なので、難しい文章を書くのではないか、と思われがちですが、その想像よりもずっと穏やかで優しい語り口調であることに驚かされます。次々に引用される語句には少し難解さを感じてしまいますが、読んでいてどこか心に馴染む感じがしますね。

さて、ボルヘスの作品は非常に難解な物が多くなっています。上述したように、物事を深く突き詰めて考える人であるので当然と言えば当然でしょう。

ボルヘスという知性の怪物のたどった道をトレースしてみたい方は、本書を足がかりにボルヘス作品にチャレンジしてみてはどうでしょうか。

ボルヘスが最も愛した詩文集『創造者』

ボルヘス自身が最も愛し、評価した代表的な詩文集です。作品の随所に、等身大の作者の影や肉声を聞くことができます。その内容は「鏡」「分身」「時間」「ドン・キホーテ」などがあります。本書はボルヘスの代表的な文学大全です。

やはりボルヘスらしく、難解な作品になっています。読者が本気で本書を読み解こうとするならば、ボルヘスと同等の知識や教養、そして想像力が必要になってくるでしょう。それほどに、本書に書かれている内容は一筋縄で理解できない文章が多くなっています。

例えば次のような一文があります。
「夜空の月よりも、むしろ、詩の中の月の方が思い出しやすい。」(『創造者』から引用)
このことは、ボルヘスが類を見ないほどの読書家であることが表れていますね。

この作品はわずか200ページほどですが、じっくりと時間をかけて、腰を据えて読書をする時間を作ることのできる読者以外には不向きでしょう。しかし、それでもボルヘスを理解するには必読の書となっています。なぜなら、本書はボルヘス自身が最も愛した作品集なのですから。この本を読み解くこと無しに、ボルヘスを理解することは出来ないでしょう。

著者
J.L. ボルヘス
出版日
2009-06-16

世の中の成り立ち、その真理について考え、想像し、その仕組みを解き明かそうとした、ボルヘスの作品です。

年老いて失明することで、どんどん自身の能力が失われていく悲しみ。それは想像を絶するものであると思います。ボルヘスは読書家でしたが、その本も読めなくなることで、新しい知識を入れることが出来なくなってしまった悲しみも、きっと私たちでは想像できないほどのものでしょう。そのため、本書は、1人の作家が何かを失った悲しみを感じ取れる名著になっているのです。ボルヘスの愛した詩をあなたも読んではいかがですか?

様々なボルヘスが味わえる、珠玉の短編集『砂の本』

本から無限にページがわき出すような”砂の本”に魅入られて、謎を解き明かそうとする男は、その本に恐怖感を抱くようになります。本書は、表題作である「砂の本」を含めて、ボルヘスの様々な魅力が味わえる珠玉の短編集になっています。

表題作である「砂の本」は、始まりも終わりも無い無限の本に取り憑かれた男を描く物語ですが、この作品は文学というものの持つ無限の可能性、そして文学という宇宙について考察して書かれたものなのでしょう。始まりも終わりもない、摩訶不思議な本の世界を想像させてくれます。

著者
ホルヘ・ルイス ボルヘス
出版日
2011-06-28

さて、そんな「砂の本」を読み進めていくうちに、主人公である男は恐怖感を抱きます。この本を読み終えることは出来るのだろうか、読み終えることが出来ないのならば、自分がこの作品を読み進める意味とは何だろうか。男はそんな風に考えます。しかし、それでも男は「砂の本」を読み進めることを止めることは出来ません。この物語が無限に終わらないのならば、自分は永遠にあのつらく厳しい現実世界に戻らなくては良いのでは無いかと思ってしまったからです。

我々の世界に「砂の本」はありませんが、読書家たちは一冊読めばまた次の本を、と無限に新しい本を手に取っていきます。まるで我々が文学に取り憑かれているかのように、無限に本を読んでいってしまうのです。まさしく「砂の本」のように読書の世界は終わらないわけですね。

この世界には一生かかっても読み切れないほどの本があります。ジャンルも多岐にわたり、とても飽きることはありません。それこそ世界の本全体が「砂の本」のように、終わりの無い読書の世界へ誘ってくれるのです。我々読書家が陥っているこの無限ループの恐ろしさこそ、ボルヘスが描いた「砂の本」で男が感じた恐ろしさなのかもしれないのでした。永遠に終わらない本の恐ろしさを知りたいあなた、是非一度読んでみてください。

時間を操る迷宮的短編集『アレフ』

これはボルヘスの中期の短編集です。時間を自在に操った作品が、読者を様々な小宇宙へと誘う迷宮的短編集になっています。

本書は全17作品から構成される短編集ですが、後にご紹介する『伝奇集』と並ぶ傑作として扱われています。各作品のテーマは一貫しており、「時間」をテーマに作品は構成されているのです。時間が循環していくこと=輪廻を扱った、複雑な様相を呈する短編集たちは、きっとあなたを文学の迷宮へと誘ってくれるでしょう。

ある人物が、過去に存在したかと思えば、また現代に同時に存在しうる。しかし、その二人は同一人物であるかのように描かれるのに、実際は同一人物では無いと言った現象が繰り返し語られます。このように、読み手を迷宮へと誘うかのような物語の描き方をしているのが、ボルヘスの本書の特徴の一つでしょう。

著者
J.L.ボルヘス
出版日
2017-02-17

時間の循環性に着目して描かれた作品は、相変わらず難解で、腰を据えて読む必要があります。さて、このような手法はマジックリアリズムと呼ばれるもので、日常の中にある非日常のような、非現実的と現実との融和を作品に用いた手法です。ボルヘスの本作も、時間というテーマに絞ってこのマジックリアリズムが用いられていることが分かりますね。

本書は非合理でありながら合理的で、迷宮的でありながら終わりへと真っ直ぐに向かっていくような、不思議な短編集になっています。ボルヘスの魔術にかかりたい人は一度じっくりと向き合ってみてはいかがでしょうか。

大作家ボルヘスの処女短編集『伝奇集』

ボルヘスの処女短編集になります。様々な伝説、神話、哲学をテーマにして各作品は展開していきます。「バベルの図書館」や「円環の廃墟」などを収録した代表的短編集です。

本書はボルヘスの処女短編集なだけあって、ボルヘスの個性が十二分に発揮されています。ボルヘスを彼たらしめているところは、幻想的な作品をイメージで生み出すのでは無く、彼の持つ高い教養や、知性によるロジックや思想から生み出している天にあります。本書も、ボルヘスの思想を出発点にした数々の幻想的な物語が展開されていくのです。

さて、思想を出発点に幻想を生み出す作品群なだけあって、本書の物語には非常に多くの哲学が含まれています。そのため、小説に観念的なものを求めている人には、ぴたりとはまるボルヘスの作品になっているでしょう。しかし、観念的なものが多くちりばめられている小説ですので、やはり本作も非常に難解な作品になっています。小説を読みながら、1つ1つの情景についてその意味を考えながら読み進める、といった読書態度が必要になります。

著者
J.L. ボルヘス
出版日
1993-11-16

観念的な物を求める人は、おそらく日々の物事についても思索をめぐらせていることでしょう。本書を通して、ボルヘスもまた、そういった観念的な人物であったことが窺えます。そして観念的な物には、様々な理論からの引用が必要になりますが、本書ではそういった引用文が非常に多くなっています。どうやら、この引用は真偽不明であると言われている向きもあるようですが、しかしそれほどボルヘスは多くの引用を行い、様々な理論を駆使して小説に観念や哲学を与えているのです。

本書では『八岐の園』、『工匠集』の二つの編から成っていますが、前半は難解で観念的、後半ではミステリー仕立ての作品もあるなどして、後半の方がわかりやすい作品群になっています。反対に前半はつかみ切れそうでつかみきれない難しさがあります。しかし、その前半の難解さがボルヘスの真骨頂であると言えます。『バベルの図書館』など、現代社会の空虚な感じと現実感の薄さを描写している作品群は、社会の本質を再確認させてくれます。ボルヘスの様々な顔を見ることの出来るのも本書の魅力の一つです。気になった方は手に取ってみてはどうでしょうか。

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