誰もが1度は読んだことのある日本昔話『桃太郎』。読んでビックリな真実や鬼退治のその後、ゆかりの地などを紹介します。 子供向けの昔話というイメージが大きい『桃太郎』ですが、大人の私達でも学ぶこと、考えさせられることがたくさんあります。この記事では、『桃太郎』を深堀りして読んでいきましょう。
日本人なら1度は聞いたことがある「日本昔話桃太郎」。 まずはあらすじをおさらいしましょう。
あるところに、子供のいないおじいさんとおばあさんがいました。ある日、おばあさんが川で洗濯をしているところに、大きな桃が流れてきます。その桃を持ち帰り、おじいさんと一緒に食べようとしたところ、桃の中から男の子が飛び出してきたのです。その男の子に、2人は桃太郎と名付けました。
成長した桃太郎は、鬼が悪さをしていると耳にし、鬼ヶ島へ退治しに行くことを決意します。
おばあさんが作ってくれたきびだんごを持ち、鬼退治へと出発する桃太郎。その途中でイヌ、サル、キジに出会います。3匹はきびだんごをもらう代わりに鬼退治にお供することになり、桃太郎は仲間と共に鬼ヶ島へと向かうことになりました。
鬼ヶ島では鬼達が酒盛りをしているところに攻撃をしかけた桃太郎達は、鬼を倒し、鬼達の宝物を村へと持ち帰るのでした。
歌や映画についても紹介します。
- 著者
- 楠山正雄
- 出版日
- 2011-04-25
『桃太郎』は、明治20年(1887年)以降、当時の小学生用教科書「尋常小學讀本」に採用され、子供達の間で知られるようになります。
その後、芥川龍之介や楠山正雄、尾崎紅葉といった著名人も『桃太郎』をもとに創作をしました。また、鬼退治へ行く様子を描いた童謡「桃太郎」(作曲:岡野貞一、作詞:不詳)はご存じの方も多いでしょう。
さらに、日本初の長編映画とされているのが『桃太郎 海の神兵』だということをご存知でしょうか。
これは『桃太郎』を元に、当時の子供達の戦意高揚を目的として作成された戦争アニメ映画で、1945年4月、日本が戦争真っただ中の中公開されました。当時、高校生だった手塚治虫もこの映画を見て影響を受けたと言われています。白黒のフィルム映画で時間は74分。戦意高揚が目的とはいえ、ミュージカル仕立ての場面もあり、子供たちに夢や希望を与えようとしたと言われています。
『桃太郎』が成立した時代・作者といった詳細ははっきりしておらず、由来は諸説あります。しかしその歴史は古く、起源は『古事記』に載っている「イザナギ・イザナミ伝説」ではないかというのが有力な説の1つとなっているのです。
- 著者
- 竹田 恒泰
- 出版日
- 2016-06-14
『古事記』は成立712年とされる、天皇の歴史が分かりやすくまとめられた歴史書。日本列島を作ったとされるのがイザナギとイザナミだとされ、イザナギと別名は孝霊天皇とされています。
そのイザナギとイザナミの伝説はご存知でしょうか?
イザナミが亡くなり、イザナミを追いかけて黄泉の国へと行ったイザナギ。そこで腐りはてたイザナミの様子を目の当たりにしたイザナギは思わず逃げ出してしまったのでした。それを見たイザナミは怒り、鬼と化け女たちに、後を追せます。イザナギは、近くにあった桃の実を鬼たちに投げつけ、イザナミ達を追い払ったのです。
こうして、鬼退治には桃という構図が出来上がったのです。
そんなイザナギ(孝霊天皇)の子供の1人がスサノヲであり、またの名を、吉備津彦命(きびつひこのみこと)といいます。この人物が桃太郎のモデルにもなったのではないかと考えられている人物なのです。
『桃太郎』の冒頭はご存知ですよね。
では、おじいさんが山へ行っておこなったのは「しば刈り」ですが、「芝刈り」と「柴刈り」の違いはご存知でしょうか。
「芝刈り」というのは芝生を刈り取るという意味です。現代だとゴルフ場や野球場、庭園といったところで芝生を定期的に手入れされていますよね。あれが「芝刈り」なのです。
そして、「柴」というのは山に生えている雑木のことを指します。そしてその雑木、つまり柴を刈り取り、薪にして、お風呂の燃料や炊事の際に使っていたのです。焚き木としてお金に変えることもできたので、生活のためにするのであれば「柴刈り」ということになります。
つまり、『桃太郎』の「おじいさんはしばかりに」というくだりは「柴刈り」だと心得ておくとよいでしょう。
さて、「桃太郎」と名付けられた由来は皆さん知っての通り、「桃から生まれたから桃太郎」というのは有名ですよね。
しかし、実はそのように言われ始めたのは明治後半以降のことなのです。それまでは「川から流れてきた桃を食べたおじいさんとおばあさんは若返り、その2人の間に誕生した男の子が桃太郎」とされていたのです。なぜ若返ったのかと言うとそれは桃という果実には不老長寿や若返りの効果があると古くから信じられていたためだと考えられます。
ただ、そういう話のまま明治20年(1887年)、小学生用教科書「尋常小学讀本」に採用してしまうと、問題が起こったのでした。つまり、児童から「どうして若返ると子供が産まれるの」といったような質問が相次いだのです。その質問に教師達は返答に困り、現在のような話となったのでした。
そして『桃太郎』の登場人物として欠かせないのが、桃太郎と仲間になり、鬼退治をともにする、イヌ、サル、キジですよね。桃太郎の最初のお供して現れるのは忠義を示すイヌです。そしてその次に知恵の象徴であるサル、そして最後は勇気の象徴だといわれるキジの順番で現れます。この3匹には、それぞれ役割があったのです。
では、なぜイヌ、サル、キジなのでしょうか。実はこれにもちゃんとした由来があるのです。
「陰陽五行思想」という考えでは、北東が鬼門にあたり、鬼が住むと考えられていました。この北東を十二支を北から順番に円を描くように並べていくと北東は「丑、寅」となります。その正反対の場所が裏鬼門となるのです。
裏鬼門は干支でいうと「未、申」。そしてその申から北の方向に順番に向かっていくと雉・戌と続きます。よって、鬼退治のお供として申(サル)に続き、酉(キジ)・戌(イヌ)となったというわけです。
しかし、桃太郎の家来としてサルとイヌを一緒にしてもいいものでしょうか。
「犬猿の仲」と言うぐらいですから、道中、喧嘩が絶えなかったのではないかと考えられますよね。そこで登場するのがキジなのです。十二支の順番で考えると申と戌の間に酉がきます。つまり、サルとイヌの間を取り持つ役割を担っていたのが、まさしくこのキジだったのです。
このようにみていくと相性の悪いイヌとサルが、たとえ一緒にいたとしても、リーダーの桃太郎や、仲裁役にあたるキジがいれば、鬼退治を達成することも可能だったのです。
前述したとおり、『桃太郎』の起源は諸説あるものの「イザナギとイザナミの伝説」が有力な説の1つとなっています。そのイザナギの子供であるスサノオ(吉備津彦命)が桃太郎のモデルとなった人物ではないかと考えられているのです。
このスサノオの父であるイザナギは桃によって黄泉の国から無事戻ってくることが出来ました。つまり桃には因縁があるのです。
そしてこの吉備津彦命は後述する温羅(うら)という鬼を朝廷から命令を受け、退治しに行ったというエピソードが残っていることからも桃太郎のモデルとなった人物ではないかと考えられているのが有力説。
そしてこの温羅を退治するのに
・犬飼部 犬飼健(いぬかいべの いぬかいたける)
・猿飼部 楽々森彦(さるかいべの ささきもりひこ)
・鳥飼部 留玉臣(とりかいべの とめたまおみ)
の3人をお供に連れて行ったというお話があります。このことも桃太郎のお供がイヌ・サル・キジとなった由来なのではないかという説の1つとなっているうえ、やはり吉備津彦命が桃太郎のモデルとなった人物の可能性が高いのです。
実は『桃太郎』にはその続きの話がいくつか書かれています。その中の1つ「桃太郎元服姿」をここでは紹介しましょう。
「桃太郎元服姿」というのは1779年、市場通笑によって書かれた人情本です。
桃太郎に退治されてしまった鬼。その鬼が桃太郎を殺害するために鬼娘を桃太郎の元へと送り込むのです。しかし、鬼娘は桃太郎と一緒に過ごすうちに淡い恋心を抱くようになります。
そして桃太郎と鬼娘はともに恋に落ち、結婚します。しかし、桃太郎を殺さなければいけないという使命感、殺すべき相手を好きになってしまった恋心の板挟みで苦しむこととなった鬼娘がとった決断は自害だったという何とも悲しい物語です。
他にも有名な尾崎紅葉が書いた「鬼桃太郎」等もあり、それぞれ違った目線から『桃太郎』を楽しむことができます。
さて、ここでビックリなお話をご紹介しましょう。
桃太郎はおじいさんとおばあさんに大切に育てられ、成長した桃太郎は鬼退治に行くというのが一般的なストーリーではありますが、都市伝説のような怖いエピソードもあります。
桃太郎は成長するにつれ、可愛がってくれたおばあさんに恋心を抱くようになります。そしておばあさんもまた桃太郎に恋心を抱いてしまうのです。そして桃太郎は邪魔な存在であるおじいさんを殺そうとするのでした。
おじいさん殺害を計画する桃太郎とおばあさん。しかしおじいさんは山の神に守られていました。そこで桃太郎は、おじいさんを殺す呪術を得るため、イヌ、サル、キジを殺して、その魂を山にいるおじいさんへと送り、おじいさんの殺害に成功する、という何ともむごいエピソードが残っているのです。
これが子供向けにと形を変え、まったく逆の桃太郎がヒーローとして語られたのではないか、とも言われています。
日本昔話『桃太郎』は鬼退治をして鬼たちが所持していた宝物を持ち帰ったというラストで終わっています。では、宝を持ち帰った後はどのような末路だったのでしょうか。
たとえば芥川龍之介の『桃太郎』のラストを一部紹介しましょう。
宝を持ち帰った桃太郎は必ずしも幸せな一生だったわけではありません。生き残った鬼ヶ島の鬼は雉を噛み殺したり、ときどき海を渡って桃太郎の家へ火をつけたり、桃太郎を殺そうとしたりしました。そんな不幸が続き、「鬼の執念深さには困ったものだ」と困り果てていました。
そして、もう1つ。
自分の腕試しとして鬼退治に行き、財宝の取り分を考えていた桃太郎。そして一緒に戦ったイヌ、サル、キジも、それぞれ財宝のことを考えながら帰路に着いていました。それぞれがした功績を考え、皆自分が1番多く取り分がもらえると考えていたのです。
そして財宝を前にしたおじいさんとおばあさんも財宝に目がくらんでしまいました。そんな醜い欲望を感じ取ってしまった桃太郎は、たった1人都に出て行くのです。
その後、都で剣術道場を開いたとも、鬼ヶ島に戻って王として君臨したとも噂されるもののその行方は誰も知らないと話を結んでいます。
さて、桃太郎のモデルとなった人物は吉備津彦命という説があることは先に述べた通りです。
岡山県には吉備という名前の地があることから桃太郎伝説発祥の地として強くアピールしているのです。そんな岡山には「温羅伝説(うらでんせつ)」というものがあります。この温羅伝説が桃太郎の鬼退治のモチーフになったのではないかという説があるのです。
温羅伝説は総社市・岡山市・赤磐市・倉敷市一帯に広がっている伝説で、様々な史跡や遺跡が今でも残されています。
温羅とは、身長が4mある、赤い髪の鬼です。温羅は悪行三昧で、人々を困らせていました。それを退治したのが朝廷から命じられた吉備津彦命だと言われています。
- 著者
- 中山 薫
- 出版日
中々勝負が決まらなかった両者の対決。ある時、吉備津彦命が放った矢が温羅の目に命中しました。その血が流れ、真っ赤に染まったと言われるのが現在の血吸川(ちすいがわ)と言われています。そして鯉に化けた温羅を見事退治した場所が、倉敷にある鯉喰神社なのです。
このように現在でも『桃太郎』ゆかりの地は岡山をはじめ、日本中に点在しています。
鬼が住んでいたという鬼ヶ島。この鬼ヶ島には実はモデルとされる場所があります。
それは、香川県高松市にある「鬼無」(きなし)という場所です。この鬼無は桃太郎が鬼を退治したことによって鬼がいなくなったことが由来となっていると言われています。
そして高松市の沖合約4kmに浮かぶ島「女木島」(めぎしま)があります。晴れた日だと、屋島の戦いで有名な屋島の頂上からとてもきれいに臨むことができる場所。高松港からだと約20分、フェリーに揺られ行くことができます。
鬼がいなくなったとはいえ、以前は鬼たちが住んでいたとされるこの島には様々な鬼のオブジェ等があり、日本昔話『桃太郎』の世界観を実際に感じることが出来る場所の1つとなっています。
さて、昔から受け継がれてきた『桃太郎』。そんな『桃太郎』を題材とした漫画がたくさん描かれています。
まずは1番のおススメ!『鬼灯の冷徹』(江口 夏実)『鬼灯の冷徹』はアニメ化もされている人気作品。
舞台は、悪行をはたらいた人間が死後、連れて行かれるという地獄。地獄には全部で8つの種類の地獄があるとされ、生前犯した罪の種類や重さでどこに行くのか決められると言います。
熱せられた鉄板の上に寝かされたり、刃物での殺し合いを何度も繰り返させられ、それが1兆年以上も続くとも言われる地獄。そんなむごい場所である地獄で働く人々に焦点をあてた漫画となっています。
しかし、この作品の作風はそんなむごいイメージとは一変し、地獄コメディ漫画となっており、楽しく地獄や鬼について学べる作品となっています。神話エピソードはもちろん、現代のネタも盛り込んだりと絶大な人気を誇る作品です。
そして第1話で桃太郎が登場し、桃太郎の家来であったイヌ、サル、キジも登場します。主人公である鬼灯に懐き、様々な地獄の住人達と関わっていくのでした。
- 著者
- 江口 夏実
- 出版日
- 2011-05-23
次におススメなのが『PEACE MAKER』で知られる黒乃奈々の『殲鬼戦記ももたま』です。
舞台は現代。「桃源島(とうげんとう)」と呼ばれる島がメインとなっており、携帯電話が出てきたりと現代を感じさせる道具が出てきます。
舞台となる「桃源島」は初代桃太郎から代々血を受け継いでいる桃太郎が統治する島。桃源島には鬼を倒す力を持つ殲鬼師たちが住んでいました。ある日、鬼の末裔だと名乗る子供・陸奥九世(むつここのせ)が現れます。
桃太郎を倒すことが一族の願いだといい、鬼の末裔である九世は殲鬼師養成学校に潜入するのでした。
完結しており、ストーリーはあまり難しくない設定ですので、ぜひ手に取ってみてくださいね。
鬼退治をすることがメインストーリーでもある桃太郎。現代版の桃太郎は鬼退治をしないという絵本も発売されているのをご存知でしょうか。
以前、テレビでも放映され、話題になりました。
- 著者
- 柳川 茂
- 出版日
- 1998-02-01
現代版の桃太郎は、イヌ、サル、キジと主従関係ではありません。そしてきび団子につられて鬼退治にお供したのではなく自ら参加したという設定。
そのうえ、鬼ヶ島へ船で向かいますが、その船を漕ぐのは猿と犬が順番でローテーションを組むといった設定になっているのです。
そして鬼を退治した後、鬼たちが所持していた宝物は持ち主に返すというラストになっています。
現代社会を意識したような設定になっており、少し変わった方向から『桃太郎』を楽しめること間違いなしの絵本となっていますので1度手にとってみてはいかがでしょうか。
『桃太郎』教訓の1つとして挙げられるのは、それぞれの得意な分野を生かし、周りと助け合っていこうということでしょう。
イヌはその忠義心で主人を守るため、牙を活かしてかみついて攻撃します。 キジは飛べることを活かし、上空(違う角度)から攻撃をすることができました。サルは素早さと手先の器用さで、ひっかくことで攻撃しました。
このようにそれぞれ違った特性を持つ者達を仲間にすることで、鬼退治をすることができたのです。
これを現代の会社等で置きかえてみてはいかがでしょうか。
人それぞれ得意、不得意があります。自分が得意なことは進んでやり、不得意なことは助けてもらう。そんな持ちつ持たれつの関係で過ごすことができたらどんなにいいでしょうか。
古代にできたとされる『桃太郎』ですが、遠い昔から人々が考えることは変わらないのかもしれませんね。
諸説ある桃太郎でしたが、いかがでしょうか。意外な事実に驚かれた方も多いのではないでしょうか。現代に合わせて、桃太郎が新しくなったのも意外でしたが、メッセージは一つなのかもしれません。これからもきっと、様々な形で桃太郎が語り継がれるのではないでしょうか。