ジョン・ル・カレのおすすめ作品5選!スパイ小説の巨匠に挑戦

更新:2017.3.2

スパイ小説といえば「007」シリーズなど派手はアクションがつきものですが、ジョン・ル・カレの作品はひと味違います。秘密兵器やアクションに頼らず、リアルな情報戦や罠などによる黒幕や犯人のあぶり出しなどが特徴的です。

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諜報機関の内部事情を知る作家、ジョン・ル・カレ

ジョン・ル・カレはイギリス出身のスパイ小説の大家です。多くの作品が映画化されています。同じくスパイ小説で有名なイアン・フレミングとは違い、創作の兵器には頼らずに実際の技術を用いたリアルな作風が特徴的です。

イギリスの名門オックスフォード大学で学んだジョン・ル・カレは、その後イートン校で2年間教師生活をしています。その後は外務および英連邦省で就職し、諜報機関であるMI6に所属しました。そのほとんどを西ドイツの大使館や領事館で従事しています。

ジョン・ル・カレは外交官として働きながら自身の経験をもとに小説を書きはじめました。1961年に『死者にかかってきた電話』で小説家としてデビューを果たします。その2年後の1963年に『寒い国から帰ってきたスパイ』でエドガー賞を受賞したことをきっかけに、世界で注目されるようになりました。

哀愁あふれるスパイ小説

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』は初老にさしかかったジョージ・スマイリーというスパイを主人公とした作品群の1つです。ジョン・ル・カレの本作は、2011年に映画化され『裏切りのサーカス』という邦題で2012年に公開されました。

英国諜報部サーカスの一員だったジョージ・スマイリーはかつて任務失敗したことにより、引退を余儀なくされていました。そんな彼のもとに非公式の依頼が飛び込んできます。それは現在のサーカスに潜んでいるソ連のスパイ、「もぐら」を探しだしてくれというものでした。

著者
ジョン・ル・カレ
出版日


本書に登場するスパイ活動はハイテクによる兵器や、派手なアクション、ボンドガールのようにセクシーな女性は登場しません。主人公が膨大な資料と記録、そして証言をひとつひとつ調べ上げていくのです。そういった緻密な調査の中に、犯人である「もぐら」の正体に近づいていく過程が現れていて、静かな緊張感にあふれています。諜報機関に務めていた経験のある著者だからこそ、実際の諜報テクニックや交渉のノウハウなどが登場し、リアルなスパイに触れることができるのです。

物悲しさが物語全体を覆っているのも魅力です。捜査に関わるスマイリーは調べを進めながら自分の過去に触れていきます。なぜならスマイリーを引退に追いやった作戦こそ、この「もぐら」をあぶりだす作戦だったのです。

スマイリーの過去を振り返りながらスパイとして生きる男の悲しみが垣間見えます。国のため仕事のために何かを捨て続けた結果、みな孤独になっていったのです。そして「もぐら」の容疑者はそんな孤独を分かち合ったかつての仲間たち。犯人に辿り着くことは、同時に深い悲しみに堕ちることを意味しています。男泣き必至のスパイ小説です。

陰謀渦巻く騙し合いをジョン・ル・カレが描く!

『寒い国から帰ってきたスパイ』はジョン・ル・カレの名を世に知らしめた出世作です。1963年に発表されたこの小説は、その2年後の1965年にマーティン・リット監督よって映画化されました。前述のジョン・スマイリーも登場します。

物語の主人公はイギリスの秘密情報部サーカスに所属するアレック・リーマスでした。舞台は冷戦時代。リーマスは敵地である東ベルリンで諜報部員たちのまとめ役をしていました。しかし、東ドイツ情報部の高官であるムントに仲間を次々に殺されると、失態を理由に本国イギリスに戻され、各地のスパイに送金するという単純な職務に左遷されてしまいます。

著者
ジョン・ル・カレ
出版日


酒に溺れたリーマスは横領に手を出し、ついには解雇されてしまいました。図書館の司書の職を手に入れ恋人まで手に入れたリーマスでしたが、口論となった男を殴ってしまい投獄されてしまいます。そして出所したリーマスを狙って東ドイツの工作員が接触してくるのでした。

物語の前半では失脚したリーマスの苦悩が描かれています。仲間を殺したムントに対する怒り、諜報員として誇りを持っているのに簡単な事務作業に従事しなければならない敗北感、落ちぶれた生活など、リーマスの苦しむ様子を読むことができるのです。ひとつの失態で使い捨てのように扱われるスパイの辛さがわかる物語となっています。

物語が進むと事態は進展します。リーマスの堕落した生活は、国を裏切りそうな元スパイとしての自分を仕立てあげるためでした。作戦は功を奏し、東ドイツからスパイが接触してきます。任務が成功するだろうと喜んだ矢先に、事態はまた一転し、自分もまた捨て駒のように扱われていたのだとリーマスは気づきます。過酷な情報作戦と個人を使い捨てにする諜報機関の非情さがリアルに伝わってくる、ジョン・ル・カレの傑作です。

ひとりの青年をめぐる各国の思惑

冷戦時代のスパイ活動について書き続けたきたジョン・ル・カレですが、『誰よりも狙われた男』ではいまだに記憶に新しい9・11にまつわる事件が描かれています。2014年にフィリップ・シーモア・ホフマン主演で映画化され、彼の遺作映画として話題になりました。

ドイツのハンブルクにイッサ・カルポフというイスラム系の青年が密入国してくることにより、彼の周りで起こる多くの人間たちの画策が展開されるストーリーです。女性弁護士のアナベルは銀行家のトミー・ブルーにこの青年を助けるように依頼してきます。イッサの父親は赤軍の大佐でブルーの銀行に多額の資産を預けていたのです。

ですがそれが汚い金だとわかりイッサは苦悩します。一方で、ドイツ連邦憲法擁護庁に務める外資買収課課長のギュンター・バッハマンはテロリストの容疑がかけられているイッサを追いはじめたのでした。

著者
ジョン・ル・カレ
出版日
2014-09-10


ジョン・ル・カレの本作ではイスラム系の青年をめぐる諜報機関の思惑がうごめいています。世間は9・11事件で騒然としており、イスラム系に対する偏見の目がめまぐるしい時代です。そんな中で、本国ドイツだけでなくアメリカのCIAやイギリスの諜報機関が圧力をかけながら自国の利益のために動きます。何も知らない無垢な青年が汚い思惑に振り回されるストーリーになっています。

イッサ・カルポフの物語と同時進行で、アメリカやイギリスよりも早くイッサと接触したいギュンター・バッハマンの苦労も書かれています。現在のドイツでは敗戦の歴史も相まって、他の諜報機関に比べて立場は微妙です。さらにネットに頼らない古い気質のバッハマンにとってやり憎い時代となっています。それでも多くのコネや知恵を使って目的に近づいていくバッハマンの姿が魅力的な作品です。

復讐心により転身したスパイ

ジョン・ル・カレの『ナイト・マネジャー』では、復讐に燃える男が諜報組織に巻きこまれる様子が描かれています。2016年にはイギリスでテレビドラマ化されました。

主人公はスイスの名門ホテルで夜間の最高責任者を任されているジョナサン・パインです。彼はホテルに迎え入れた客を見て愕然としました。愛した女性を死に追いやった武器商人のリチャード・ローパーだったからです。イギリスの国際執行機関はジョナサンの存在を知り、リチャード・ローパーと組織を打ち倒すべく、彼をリクルートするのでした。

著者
["ジョン ル・カレ", "John le Carré"]
出版日
2016-01-15


本作は因縁を持つ男がスパイとなって武器商人と対決する様子が書かれています。主人公のジョナサンはスパイとなってリチャードの組織に潜入するのですが、ボスの信頼を勝ち得たものの他の幹部に疑われたりと、緊迫した状況が続きます。エンターテイメント性の高い作品です。

内部での裏切りや騙し合いを描くことの多いジョン・ル・カレですが、諜報機関は主人公のジョナサンを全面的にサーポートしてくれます。また諜報機関が善として書かれおり、悪である武器密売組織との対決の構図は非常にわかりやすく、読みやすい内容に仕上がった作品となっています。

陰謀に妻を殺された男の無念

『ナイロビの蜂』は企業の陰謀を物語の主軸に置きながら性格の正反対な夫婦を映しだす物語です。2005年にはレイフ・ファインズ主演で映画化されています。

イギリス人外交官のジャスティン・クエイルは駐在先のナイロビで弁護士のテッサと暮らしていました。ある日、テッサが殺されてしまいます。死ぬ前にテッサが製薬会社スリービーズの不正を暴こうとしていたことを知ったレイフは妻の意思を引き継ごうとするのでした。

著者
ジョン ル・カレ
出版日


本書の主人公レイフはとても寡黙な性格で、唯一の趣味がガーデニングという男です。ことなかれ主義で、妻が何かをしようとしていると知っていても、何もしないでいました。そのせいでテッサを死に追いやったことを知ったレイフははじめて自分から動こうとします。自分の過ちによって取り返しのつかない事態を招いた男の後悔に道が物哀しいストーリーです。

妻のテッサは活発で、常に同じ男と行動していることで浮気の噂が持ち上がります。レイフは得意なことなかれ主義で、テッサの行動に口を出すことはありませんでした。しかし妻の死の真相を探っていくうちにある真実を知ります。それはテッサがレイフの外交官としての立場が悪くなることを危惧して、企業の悪事に関わる告発に巻きこまないように、活動の内容をあえて隠していたこと。そんな優しさを知ったときには手遅れになっているという現実を皮肉ったようなストーリーが読むものの心を揺さぶるジョン・ル・カレの作品です。


ジョン・ル・カレはスパイ小説の巨匠と言えるべき存在です。演出のための派手なアクションなどは出てきませんが、登場人物たちの内面という迷宮を映しだしてくれます。表舞台でなく、裏の世界で暗躍するスパイの姿を書き記すことに心血を注ぐ作家です。

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