戦後の日本において、唯一無二の歴史小説家であった池波正太郎。多数の人気時代小説を発表し続けた一方で、美食家や映画評論家としても高い知名度を誇っており、数多くのエッセイや評論なども発表していました。
池波正太郎は、現在小説家として非常に高い知名度を誇っていますが、当初は劇作家としてデビューしていました。1945年に執筆した『雪晴れ』が、読売新聞演劇文化賞で上位入選を果たし、当時の新協劇団で上演されたのです。
その後も区役所で働きながら、何作もの戯曲を書きあげていきます。 本格的に小説家となったのは、1955年以降のことでした。劇作家としての実績から、文筆業における自信もつき、これまでの職場をやめて独立します。大衆文学雑誌に小説を寄せ続け、やがて時代ものや歴史ものを多く手掛けるようになりました。1956年に発表した『恩田木工』は、直木賞の候補作にもなっています。
シリーズ作品を多数手がけたことで、人気はうなぎのぼりになっていきます。「鬼平犯科帳」シリーズや「剣客商売・仕掛人」シリーズは、現在でも多数のメディアミックスが続いていますよね。
晩年は紫綬褒章受章も受賞し、ペースは落としながらも、新作を多数発表し続けていました。1989年に没し、1998年には長野県上田市に「池波正太郎真田太平記館」が開かれています。
舞台は江戸中期。主人公は、無外の老剣客である秋山小兵衛。勝ち残り、生き残っていくためには、人の恨みを背負っていかなければならず、それこそが剣客の使命だと感じ、剣の腕を磨いています。
浅黒く力強い息子の大治郎とコンビを組み、小兵衛が江戸の悪事に斬りこんでいくストーリーです。一話完結の短編を7作品集めたスタイルを取っており、剣客親子の活躍劇に感動する仕上がりでしょう。小兵衛を囲む女性たちとの、めくるめくラブストーリーも堪能できる、本格時代小説の金字塔です。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
池波正太郎の代表作のひとつ、「剣客商売」シリーズの一作目です。コミック化やテレビドラマ化、舞台化などの数々のメディアミックスを成功させている、ベストセラーだと言えるでしょう。
白髪頭ながら、粋な姿が描かれている小兵衛と、巌のようにたくましい息子の大治郎のコンビも見所です。剣に命をかけ、覚悟を背負っていく男気は、男性にも女性にも、非常に魅力的なものとして映るはず。 後添いの少女や、才能あふれる女性剣客など、彼らを取り巻くキャラクターたちも是非チェックしてください。
主人公は、江戸の盗賊たちから、鬼の平蔵として恐れられている火付盗賊改方長官の長谷川平蔵です。江戸の特別警察である平蔵は、いつも笑顔で人当りも良い男性ですが、若いころは無頼者からも恐れられていたほどの人物でした。
「悪を知らぬものが悪を取り締まれるか」というスタンスで、平蔵は悪を退治していきます。本作では、全8作品を収録し、「唖の十蔵」や「本所・桜屋敷」「血頭の丹兵衛」など、その勧善懲悪の物語を展開しています。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 2016-12-31
「鬼平犯科帳」シリーズと言えば、誰もが耳にしたことがあるでしょう。それほど知名度が高く、日本を代表する歴史・時代小説のひとつとして、海外でも高い人気を誇っています。本作はその一作目であり、スタート時点から構築された世界観や、主人公の平蔵をはじめとした魅力的な登場人物の生き様を、しっかり感じることが出来るでしょう。
また、平蔵以外のキャラクター造形も、長らく愛されている理由のひとつです。火付盗賊改方のメンバーや、私邸を預かっている遊び好きの長男など、あなたのお気に入りの登場人物も、きっと見つかるのではないでしょうか。
物語の舞台は、天正10年。ストーリーは、戦国随一だった武田軍が倒されたあと、宿将・真田昌幸が孤立してしまい、まさしく試練に陥っているところからスタートします。昌幸は持前の武勇と知略を駆使し、真田の忍びたちに命令を下しながら奔走していきます。
本作の見所は、天下分け目の戦いを、家族内でそれぞれが別の立場に分かれて戦った信州・真田家の行く末です。波瀾万丈な戦いの日々の中、新しい時代の訪れに、どのように立ち向かっていくのかに注目してください。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 1987-09-30
全12巻に渡って展開された大河小説の一巻目です。信州で戦う真田一族の顛末を、丁寧かつリアルな描写で追いかけており、歴史もの・時代ものが好きな人はもちろん、大河作品のファンにもおすすめの雰囲気となっています。
動乱の時代では、今の当主が滅びたあと、誰に従えばよいのか、正しい判断を下す必要がありました。自分の家の命運を左右する決断でもあったのです。運命に翻弄されながらも、持ちえる力を駆使し、戦い抜いていく人々の力強さは圧巻です。
主人公は、新選組隊士のひとり、永倉新八です。松前藩位の息子で、剣術に夢中だった少年は、十八歳で本目録を受け取る腕前でした。元々は、息子を松前藩の能吏にしようと考えていた父もあきらめ、息子を元服させるほどです。
やがて、時代が劇的に変化した幕末期に差しかかります。自らを剣の道にしか生きられないと考えていた新八は、新選組の隊士となりました。様々な出会いにより、剣士としても、ひとりの男としても成長していきます。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 2004-01-10
永倉新八は、新選組の中でも特に剣の腕が立ち、その実力は局長・近藤勇をも超えると噂されていました。本作は、そんな新八の生涯を追った名作となっています。新選組が活躍した幕末期はもちろん、維新後に及ぶ七十七年のその一生を、隅々まで書き上げた長編です。
新選組ファンにとっては、その創成期から、最後の日までを追った作品としても楽しめるでしょう。永倉新八は、腕の立つ剣豪ではありましたが、その視点はごく庶民的です。まったく異なった時代の物語ではあるものの、どこか親近感を持って読める一冊かもしれません。
物語の舞台は江戸。主人公は、江戸の街に生きる女性・お歌です。菓子舗の若後家さんとして、活き活きと毎日を過ごしていましたが、ある雨の日に事件が起こります。雨宿りのひとときに、行きずりの浪人に手籠めにされてしまうのです。
初めは、そんなひどい仕打ちをした浪人を憎んでいたお歌でしたが、様々なきっかけが重なり、その憎しみはやがて愛しさに変わっていきます。二人の恋は、やがてかたき討ちの助太刀にまで発展していく、最後まで目が離せないロマンス溢れる作品です。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 2006-02-01
初めは憎くて仕方のなかった相手への想いが、やがて自分でも納得がいかないほど、甘く愛しいものに変わっていく様子が、胸に迫る一作となっています。江戸に生きるお歌の、勝気ながらも健気な姿は、思わず応援したくなってしまうかもしれません。
心があり得ない方向に変わっていく、不思議な女心や、やがて迎えることになる別れの朝など、恋愛を取り扱った時代ものとして、非常に完成度の高い作品でもあるでしょう。また、お歌の相手である馬杉源吾の、なんとも言えない不思議な魅力も、是非味わってください。
主人公は徳山五兵衛。妾の息子であるがために、父親から疎まれて育ちました。そんな五兵衛は、5歳の折に高田の馬場の決闘に出向き、堀部安兵衛の戦いを瞼に焼き付けたという経歴を持っています。14歳に成長してからは、赤穂浪士となった堀部安兵衛のかたき討ちに加わりました。
主人が本懐を遂げるさまを見届けた安兵衛は、いよいよ剣の修行に没頭していきます。父親との仲はますます悪化し、徳山家の嫡男がなくなったところから、二人の関係は更に複雑になっていくストーリーです。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
一介の剣士として生きるため、意を決して江戸を出る主人公。不遇や数奇な運命に、ただ振り回されることなく、自らの意思を持って戦う姿が、非常に魅力的に描かれている一冊です。
親子関係や主従関係など、当時ならではのトラブルや悩みも、本作で是非チェックしたいところでしょう。主人公の出奔を使って、廃嫡の根回しに尽力する父親をはじめとして、波乱の人生を細かく追っているのも特長です。決して順風満帆とは言えないものの、道すがら出会った女性や、奇妙な人々との関係により、主人公が成長していく様子も楽しめるはずです。
主人公は丸子笹之助。武田信玄に仕えた青年忍者でしたが、彼が本来頭領から与えられていた任務とは、主である信玄自体を暗殺することでした。
名高い剣士の推挙を得て、ようやく武田家に仕えることに成功したものの、万事がうまくいくわけではありません。信玄の侍女・久仁に恋をしてしまい、密命との間で、ひとり頭を抱えてしまうのです。しかし、時代は動乱の真っ最中。否応なしに迫りくる運命に、最後まで目が離せないこと間違いなしの作品です。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 2006-01-25
本作の大きな魅力のひとつは、登場人物それぞれの、愛すべき人柄だと言えるでしょう。たとえば、恋と密命に苦しむ主人公の姿は、切ないながらも、どこか親近感がわき、愛すべきキャラクターのひとりだと言えるかもしれません。暗殺のターゲットであり、その実力を恐れられた武田信玄もまた、自らの暗殺任務を知りながらも、許してくれる包容力の持ち主です。
久仁との恋愛や、背後に忍び寄る甲賀忍者との対決など、手に汗にぎる展開も満載です。歴史の裏側にスポットを当て、作品の世界に引き込むような仕上がりだと言えるでしょう。
小説家や劇作家としてはもちろん、エッセイジャンルでも活躍をしている池波正太郎の随筆傑作集です。エッセイはもちろん、絶筆になってしまった小説や、座談会の様子なども収録された、まさにファン待望の一冊だと言えるでしょう。
第一部は「味の歳時記」というタイトルで、一か月ごとにピックアップした食事を、一年に渡って綴っています。第二部は「江戸の味、東京の枠」として、池波正太郎と著名人の座談の様子を、第三部では「パリで見つけた江戸の味」として、パリの魅力的なグルメを紹介しました。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 2010-03-29
池波正太郎は、食事や旅行に対する熱意が、人一倍強い人物でした。第一部の「味の歳時記」では、春の刺身や、秋の秋刀魚など、四季折々の食の魅力と、それらにまつわる鮮やかな思い出が、繊細な筆致で描かれています。
第二部では、書き手と共に、江戸の様々なポイントをテーマにした座談会が収録されています。山口瞳や今村秀雄との、多彩で深みのあるトークは、文字になってもその魅力が色濃く残っており、保存の決定版かもしれません。その場にいるような臨場感が味わえます。
男性の粋について語られたエッセイ集です。1981年に出版されたものですが、時代を超え、現代にも受け継がれるべき男性のマナーや生き様について、池上正太郎ならではの視点で切り込んだ一冊となっているでしょう。
寿司屋での振る舞い方や、靴の磨き方、日記の使い方をはじめとして、ネクタイやプレゼント、お小遣いやお酒など、日常の様々なものとの付き合い方を教えてくれます。どこに出ても恥ずかしくなくなるような、理想の男性像がチェックできるでしょう。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 1984-11-27
豊富な人生経験を持つ池波正太郎が、自らの生き様を反映しながら、日々の振る舞いはもちろん、男の生き方を説いた作品となっています。ビールやうなぎ、寿司や天ぷらなど、格好良い男性であれば、スマートに頂きたい食事を、どのようにとるべきなのかなど、食をはじめ日々の様々なポイントに活かせる知識を与えてくれます。
もちろん、ただの実用書ではなく、書き手ならではの価値観を反映した、独自の展開も魅力でしょう。過剰なものは取り除き、必要なものだけで演出する美学を知ることができる一冊となっています。
下町生まれの池波正太郎が、その波瀾万丈の人生の中で出会ってきた、特に思い出深い魅力的な食についてを語ったエッセイ集です。タイトルの通り、東京に残っている江戸前の味や、それにまつわる暮らしについても、詳しく語っています。
天ぷら、小鍋たて、白魚の卵落とし、鯛茶漬け……通だけが知っている意外な食事から、心ゆくまで堪能したい旬の味わいまで、食について様々な視点から書き出しているのも魅力でしょう。通で粋な食事を知りたい人は、是非参考にしたい作品かもしれません。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 2017-03-17
洒脱で味わい深いテイストが、病みつきになってしまうかもしれない一冊です。歴史小説や時代小説のジャンルで、池波正太郎のファンの人は、そのルーツを知るのにもうってつけの一冊です。酒肴エッセイであると同時に、書き手の人生の思い出や、人生観を知るチャンスもありますよ。
また、本作は食事のひとつひとつの描写が、丁寧かつ深みがあるのもポイントです。簡潔ながらも、その食事の魅力をたっぷり伝えてくれるので、思わずお腹が空いてしまう一冊でもあるでしょう。
映画の試写を観終えた後、銀座で立ち寄った「資生堂パーラー」。そこで提供されたはじめての洋食の味や、ふと立ち寄った店の人情といった、ちょっとしたときに見つけた店の食を書き集めた一冊です。鮨や蕎麦、馬刺し、菓子など、美食を極めた彼だからこそ書けるこだわりのエッセイになっています。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 1981-10-27
エッセイは、昭和50年代に書かれています。さすがにこのころとまったく変わらないお店はないでしょうが、彼が食に込めた真摯さだけは、いつになっても色あせないことでしょう。食を入口に人を語り、町や暮らしを語る、大人のかっこよさが溢れる文章に、思わずお腹が減ってくるかもしれません。
本作は、いくつかある池波正太郎の食エッセイの中でも一番の代表作です。店で食べた食の紹介だけではなく、彼が幼いころに体験した食についての思い出なども一緒に書かれている点が興味深い一冊です。
たとえば、彼が子どものころに学校へ持っていっていた弁当について書かれているページがあります。決して裕福な家庭に育っていたわけではありませんが、食に関して、ひもじい思いをしたことはないと記されています。ノリベンやネギ入りの炒り卵、半ぺんのつけ焼など、池波の食卓が描かれます。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 1980-04-29
文章から、食以外の町や人々の様子まで浮かんでくるというのが池波食エッセイの魅力でしょう。本作にも、それが大きく表れています。食という身近で欠かせないテーマから、彼の人生観や世界観が伝わってくる点は見事です。
銀座を特集する雑誌『銀座百点』に掲載されていたエッセイを、まとめた本になります。美食に舌鼓を打ち、仕事をこなし、読書をし、試写会を見、銀座で買い物をするといった彼の日常が書かれています。「食べすぎ、飲みすぎ、映画の見すぎ」とまで川口松太郎氏に言われる日々を送っていた池波正太郎の晩年の姿が、鮮明に残されている一冊です。
- 著者
- 正太郎, 池波
- 出版日
なにを読んだ、なにを見た、帰りはこれを買った、なんてことがつらつらと、ですが軽快に書かれています。銀座という街で生きていた彼の日常は面白く、どんどん興味を惹かれます。食についても書き連なれており、特にカツレツなどを好んでいたようです。この連載を始めた当時、60歳を数えていたというのに元気だった日々がうかがえます。
人生の中で出会った「懐かしい味」を残しているお店を改めて訪ね、初めての思い出と、それを現代まで伝えた店の人の気遣いをたたえるエッセイです。思い出話の中の食も、今に残された食も、どちらも尊いものであることが伝わってきます。
- 著者
- 池波 正太郎
- 出版日
- 1988-11-30
ところで池波正太郎は、絵も上手いのです。とくにこの一冊では、表紙から挿絵まで彼自身が描いた絵が使われています。とてもいい雰囲気の絵ばかりです。文章と絵、双方から食の情景がありありと浮かんでくる、まさに美食にこだわりがある池波正太郎だからこそ、世に送り出せた一冊といえるでしょう。
いかがでしたか?池波正太郎の作品は、小説からエッセイまで、それぞれが非常に魅力的なものばかりです。気になった作品は、どのジャンルのものでも、是非手にとってみてください。